エアコア・ドリーム   作:甲乙

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語尾にメリが付くマッド

 

 メリニットは星外企業のひとつであり、他企業の例に漏れずコーラル再湧出を機にルビコンへと進駐してきた企業勢力だ。だがコーラルそのものに関心は無いらしく、激化する争いの中での需要と利益を求めて来たという見方が一般的である。

 その製品はバズーカやグレネードといった武装を主とし、特にグレネードに関しては並々ならぬこだわりが見て取れる。なにせ炸薬の組成から自社で行うというのだから、「業界の花火職人」の名は伊達ではないのだろう。BAWS(ボーズ)と同じく顧客を選ばないことでも知られ、仮にメリニット製の武器を装備したAC同士での戦闘が起きた場合、辺り一面が焼野原になるというのは有名な話だ。

 独立傭兵たちは、こう語る。

 

「メリニットに特別な野心は無く、ただ自分たちの()()が売れればそれで良いんだろう」

「そして奴らは、ただその爆発が見たいだけの変態どもだ」

 

 

 

 ▼△▼△

 

 

 

「メーリメリメリメリ! 人が悪いメリね、ちゃぁんと持ってるじゃないメリか! グレネードを!」

 

 突如として現れた怪人物――メリニット社員は、ガレージの隅に置かれていたグレネードキャノンを撫で回しながら上機嫌であった。しかしその手付きが卑猥に過ぎる。

 

嗚呼(あぁ)、愛しのイヤーショット(EARSHOT)……いつ見ても美しいメリ、この太くて長い砲身……たまらんメリねぇ……!」

『様子のおかしい人です』

 

 621とウォルターのおそらく本音をエアが代弁した。

 もう売却するつもりのパーツではあるが、あまり手垢や涎は付けないでほしい。万が一にでも値段が下がると困るのだ。

 

「そろそろ用件を聞こう。専属契約なら断るぞ」

「安心するメリ。お宅の強化人間を攫おうだなんて思っていないメリよ」

 

 警戒心も露わにウォルターが口を開き、対してメリニットは直前の痴態が嘘のように冷静な声で答えた。強化人間という言葉に、ウォルターの鉄面皮がかすかに揺れる。情報収集に抜け目は無いか、ただの奇人ではないらしい。

 不敵に笑ったメリニットは、びしりと指をハウンド5へと突きつけた。

 

「単刀直入に言うメリ。――独立傭兵レイヴン、お前は我が社の広告塔に選ばれたメリ!」

『広告塔?』

 

 曰く、先のグリッド086爆破事件はメリニット社内で大好評だった。更にその最中にいたハウンド5の姿を見た社員たちは、尽くが泡を吹いて絶頂したのだと。なにせ全身グレネードのガチタンである。これはもう誘っているのだろう据え膳くわねば何とやら理論により、全社員一致で621を広告塔にする事が決定したとのことだった。

 メリニット社員の頭には、脳の代わりに炸薬が詰まっているのだろうか?

 

「待て、専属契約なら断ると……」

「断るのはこっちメリ! あんなけしからんワガママACを見せつけておいて誘い受けも大概にするメリよ! これは確定事項メリ! 幾千幾万のメリニット社員の総意だと知るメリぃ――ッ!」

 

 こんなのがあと何千人も何万人もいるとは……。ひどい話だ、頭の震えが止まらない。

 当のメリニットはといえば、叫び散らして多少は落ち着いたのか居住まいを正した。キリリと営業スマイルを浮かべながら、ハウンド5の前に端末をかざす。

 

「もちろんタダとは言わないメリよ。報酬はこんなものでどうメリ?」

 

 視線に同調したアイセンサーが端末にピントを合わせていく。(ゼロ)が、一、十、百、千、万……。

 よし受けようウォルター。

 

「621!?」

『レイヴン!?』

 

 ウォルターがかつて見た事のないような表情を向けてくるが621の決意は揺るがない。エアの声も言わずもがな。何故なら報酬が良いのだ。ベイラムやアーキバスからの大型依頼にも匹敵する額である。独立傭兵まっしぐらである。

 

「待て621よく考えろ! お前がやる仕事だ、再検討して、普通の依頼を……!」

『駄目ですよ! あなたは企業のマスコットではありません、私のレイヴンです!』

 

 慌てふためく二人(?)に対し、メリニットは満面の勝者(ドヤ)顔である。高笑いもそこそこに、621とAC越しで契約を進めていく。

 

「メリメリメリ! 往生際が悪いメリよハンドラー・ウォルター。こういう場合(ケース)では傭兵本人の意思が優先されるのは常識メリ!」

「ぐ……ぬぅ……!」

『な、紙の契約書!? これでは私もハッキングできません!』

 

 今どき珍しい紙媒体を前にしては、どんな凄腕のハッカーも形無しのようだ。ウォルターには悪いが、この仕事は受けさせてもらう。報酬でウォルターにも何か美味しそうな物を買うので許してほしい。

 ハウンド5の作業用アームで契約書にサインしていると、万策尽きたらしいウォルターが力なく呟いた。

 

「621……俺があんなにソングバードを勧めても使わなかったのに、なぜ……」

 

 その時であった。

 ピクリと、メリニットの全身が固まった。

 

「――……いま、なんて言ったメリか?」

「なに?」

『あんなにソングバードを勧めたのに、と言っていましたね』

 

 別人のように低い声を出すメリニットと、困惑した顔を返すウォルター。エアが答えてくれるが、621にしか聞こえていないのだから意味が無いと思う。メリニットにはそれが聞こえていたのかいないのか、ぐるりと視線を回した先に、それがあった。

 小型連装グレネードキャノン――ソングバード(SONGBIRDS)

 

「このくそグレネードがブッ壊してやるメリいィ――――っ!」

『ええぇ――――っ!?』

 

 ガレージに響く大絶叫。621にしか響かないエアの絶叫。

 豹変したメリニットは背負っていた筒を展開し、床に膝をついて「発射」の構えをとる。その筒はどう見てもグレネードキャノンで、どう考えても文句なしの凶行であった。こんな場所でグレネードをグレネードで撃てばグレネードが全て炸裂してグレネードどころではない大爆発である。大惨事である。

 その引き金を止める手段は621もエアも持たず、そしてメリニットの目からは微塵の躊躇も感じられない。血走りきったその目に、621は狂気を見た。

 トリガーにかけられた指が躊躇いもなく弾かれようと、

 

「ふんッ!」

 

 皆の窮地を救ってくれたのは、やはりウォルターだった。刃鞭に変形させた仕込み杖を砲身に巻きつけ、射線を強引に逸らせる。更に機転を利かせたエアがハッチを緊急開放し、放たれたグレネードはヘリの外へと飛んでいった。

 なお、このグレネードは氷原より生還してきたG5イグアスと謎の女性に直撃したのだが、それはどうでも良い話である。

 

「よせ! 落ち着け! 自殺の予定でもあるのか貴様!?」

「デデデデデストロイ……ソングバーズ……ッ!」

「落ち着けと言っているッ!」

「メリっ!?」

 

 再び杖に戻った得物で脳天を叩かれると、ようやくメリニットは正気に戻ったようだった。

 

「痛いメリね! (メリ)は正気メリよ!」

「正気なら尚さら悪いだろう!」

「そこを退くメリ! そいつを撃てないメリぃ!」

『頭のおかしい人です』

 

 まともな人が621とウォルターしかいない。ここは地獄か……?

 

 

 

 ▼△▼△

 

 

 

 その後、メリニットとウォルターが杖と砲身で激しい近接戦を繰り広げ、医療ドローンをハックしたエアまで参戦し、最後は621がハウンド5の手でメリニットを叩き潰そうとした辺りでようやく、事態は一応の収束を見せた。

 荒れに荒れたガレージ内を片付け、少しでも落ち着かせようとウォルターが用意したフィーカを啜りながらメリニットはぽつぽつと語り始める。

 

「ソングバードは……我が社の忌み子メリ」

 

 曰く、メリニットの製品は社員にとって我が子のような存在。バズーカには一切の無駄を削ぎ落した機能美を、そしてグレネードにはどこまでも高みを目指す浪漫(ロマン)を。一見すると相反し、だがどちらにも共通するのは作り手たちの「愛」その物なのだと。

 

 だがそれには、一つだけ例外が存在した。

 

 ACの高性能化は戦闘の高速化を生み、更に先鋭化したコア理論は戦闘距離の近距離化を促した。そうなれば必然、ユーザーからの要望も変化してくる。

 より軽く、より小型に。威力よりも取り回しを。奇しくも経営が低迷期にあったメリニットは、社員たちの生活を守るため断腸の思いでその要望に応えたのだ。

 そして生み出されたのがソングバード(SONGBIRDS)。金の為だけに作られた、愛なき子。自嘲と自戒を込めて「囀り」などと名付けられた落胤(おとしご)は、世に解き放たれると同時に更なる災いの種を撒いた。

 

「見るメリ、このユーザー達からの喜びの声を! (メリ)たちはいったいどんな顔をすれば良いメリか!?」

 

――「非常に扱いやすくて二つも買ってしまった。帥父もお喜びだ」

――「やるじゃねぇか。イロモノばかりの変態企業でもねぇらしいな」

――「気に入った! 役立たず共の標準装備に推薦される権利をやろうッ!」

――「これのおかげで私のレイヴンがもっと羽ばたけるようになりました。そう、誰よりも自由に……」

――「軽グレは良武器に決まっている。俺には特別な知恵があるから分かるんだ」

――「愛してるんだぁ! 軽グレをー!」

――「重ショ重ショ車イス歌鳥歌鳥ケー、レディ、ケー」

――「あぁ、ずっと傍にいてくれたのか。我が師、導きのソングバードよ……」

 

 そう、この忌み子は「売れた」のだ。メリニットの愛し子たちの(だれ)よりも、ずっと。この悍ましい皮肉を前にして、いったいどれだけの血と涙が流されたのか、621には想像することしか出来ない。

 痛憤やるせなしと鉄の床に膝をついたメリニットは、何かに懺悔するように(こうべ)を垂れる。

 

「この話には教訓があるメリ……大地に撒かれた敵意の種は、必ず我が身に返ってくるメリと」

「……あぁ、一度生まれたものは、そう簡単には死なない。本当に、その通りだな……」

 

 さめざめと泣くメリニットの肩に手を置くウォルターもまた、何かを堪えるかのように沈痛そうだった。何故だか彼にも友人ができそうで、621としても嬉しい限りである。

 

 

 

「取り乱して申し訳ないメリ。お詫びに報酬を上乗せさせてもらうメリよ」

「そこまでする事は……いや、受け取ろう」

 

 今度こそ落ち着いたらしいメリニットは深々を頭を下げ、誠意まで示してくれた。メリニットは良い企業だ。お金をくれるから。

 どこか憑き物も落ちたように、メリニットは笑った。

 

「過ちは繰り返さないメリ。その為にも、メリニットの真のグレネードが何たるかを世に知らしめる事こそが(メリ)達の使命なんだメリ」

「そうか……お前達の使命が果たされることを祈る」

 

 信じがたいことに、ウォルターの鉄のような顔には微かな笑みが浮かんでいた。この滅茶苦茶なやり取りの中で、いったいメリニットの何が彼の琴線に触れてしまったというのか。嬉しいような悔しいような、複雑な感情を持て余す621の内心も知らず、メリニットは元の調子へと戻っていた。

 

「まず手始めとして、我が社のバズーカとグレネードの品質向上(アップデート)を行ったメリ! もちろん値段はそのままメリよ、出血多量(ダイ)サービスと知るメリ!」

『そんな無茶な……』

 

 621は経営の事など碌に知らないが、製品の品質のみを上げて値段は据え置くという行為が無謀であることは分かる。恐るべきはその狂気じみた職人魂か。花火職人……その称号は、メリニットにこそ相応しい。

 

「あとついでに、憎っくきソングバードは性能を劣化(ナーフ)してやったメリ! 値段もそのままメリ!」

『いきなり小物くさくなりましたね!?』

 

 いま、聞き捨てならない事を言った。

 

「ん? どうした、621」

 

 ウォルターの端末から電子音が鳴り、視線がハウンド5の方に向けられた。621が送ったメッセージが届いたのだ。内容を流し読んだウォルターは、端末をメリニットへと差し出す。

 

「レイヴンからメリか? 依頼の件で何か質問でもあるメリ?」

【ソングバードの威力を下げたのか?】

「そうメリ! もう思い切ってがばーっと下げてやったメリ!」

【炸薬の量を減らしたと?】

「あんな囀り野郎には充分メリ! あれでも多いぐらいメリよ!」

【値段はそのままで?】

「当然メリ!」

【】

 

 

 

《メインシステム 戦闘モード起動》

 

 

 

 このくそ企業が、ブッ潰してやる――――っ!

 

「621 !?」

『レイヴン!?』

「メリ!?」

 

 機体を固定していたハンガーを力づくで破壊し、ガレージの床を逃げ回るメリニットを追い回す。この手で叩き潰し、この足で踏みつぶす為に。

 値段はそのままでレーションの量を減らすベイラムも、値下げはしてもそれ以上に量を減らすアーキバスも、そしてこのメリニットも、どいつもこいつも私を苛立たせる! 指導だ指導! その命で!

 

「まて落ち着け621! 何が気に入らない!? やはり広告塔(マスコット)は嫌だったのか!?」

『いけませんレイヴン! 家の中で暴れるのはDVですよ、ドメスティックバイオレンスですよ! でも私はあなたにならいくら叩かれても平気です! むしろやってほしいです!』

「まさかレイヴン、お前もソングバード派メリか!?

 ならお前は我々の敵メリ! このルビコンから消え去るべき敵メリぃ――!」

 

 

 

 ▼△▼△

 

 

 

 その後、騒ぎを聞きつけて来たG1ミシガンに全員まとめて制圧(クリア)され、だがそのミシガンもソングバードユーザーだった為さらに一悶着あり、結果として独立傭兵レイヴン一行はしばらくの間ベイラム基地を出禁となった。

 とはいえ極寒の地である中央氷原で拠点も無しに過ごせる訳もなく、向かった先は……。

 

「そういう訳で世話になる、カーラ」

「氷原まで何しに行ったんだい、あんた達は……」

 

 さっそく戻ってきたグリッド086は未だに大穴が開いており、RaDと惑星封鎖機構が頑張って復興中であった。なんだか周りの視線が痛いが、アレは621のせいではない。あのケート・マインドだかケールマインドとかいう女傭兵が悪いのである。

 眼鏡を外して眉間を揉みながら、頭目のシンダー・カーラは深く息を吐いた。

 

「まあ……知己のよしみだ、(ひさし)ぐらいは貸してやるよ。無料(タダ)とは言わないがね」

「助かる」

『ドーザーの根城に住むだなんて……身の危険を感じます。ちゃんと私を守ってくださいねレイヴン?』

 

 何をどう守れば良いのか分からないが、とりあえずカーラは良い人だと思う。花火にされた事は忘れても良い。あとグレネードはもう懲り懲りだと、621は心に深く刻み込んだ。

 

 

 

「ソングバードに、運命の死を――メリ」

「そいつは元の場所に返してきな」

 

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