エアコア・ドリーム   作:甲乙

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いろんな人がいるルビコン

 

 レイヴンの周りには、いろんな人がいる。

 

「621、仕事だ」

「ビジター、宿代ぐらいは働いてもらおうか」

「やあ戦友、ベイラムの基地を追い出されたと聞いてね。よければこちらに来てみないか?」

「G13! 反省文は書いたか! 戻ってきたければさっさと書かんか馬鹿者ッ!」

「おい野良犬、この前グレネードを撃ってきたのはてめェか!?」

「駄犬にはドーザー共の寝床がお似合いです。せいぜい風邪をひかないようにしなさい」

「サプライズです、ご友人!」

 

 皆がレイヴンの事を好き勝手に呼ぶのは気に入らない反面、ただ「レイヴン」と呼ぶのが自分だけである事は悪い気がしないと、エアは思う。

 だが時々、不安にもなるのだ。

 だから……。

 

 

 

 ▼△▼△

 

 

 

『レイヴン、おはようエア!』

 

 ごぶへぁ、と人工呼吸器が外れそうになった。いつものコクピット内で休眠モードから復帰して早々のことである。急激なバイタル変化にウォルターまで警告が届きそうになり、621は慌てて警報をキャンセル。いま何か、聞き慣れた交信(こえ)で聞き慣れない言葉を聞いた気がする。

 

『今日はカーラからの依頼があるエアよ。でもその前に朝食をとるべきエア』

 

 味気ないレーションを啜る前に、まずこの人を何とかしなければ……。

 いきなり語尾にエアをつけ始めた隣人(エア)に動揺しつつ、621の脳裏には先に襲来した花火狂人(メリニット)の姿がありありと浮かんでいた。グレネードはもう懲り懲りなのである。

 どうしたものかと思案していると、当のエアのどこか恥じらうような声が脳に響いた。

 

『……すみません、私ですレイヴン』

 

 それは分かっている。脳内に話しかけてくる自称ルビコニアンがそう何人もいては堪らない。というか、恥ずかしがるぐらいなら最初からやらなければ良いのでは? そもそもこの人に恥じらいなんて感性があったのかと意外に思『は?』なんでもありません。

 溜め息をついたつもりで呼吸し、621はコクピット内でレーションを吸入した。

 

 

 

 今日のミッションは、ドーザー他派勢力の排除。コヨーテだかジャガーだか忘れたが、とにかくRaDの縄張り(シマ)に入ってきた連中を叩き出せと、大家(カーラ)からのお達しだ。敵はドーザー、内容も単純。それでもウォルターからの声はいつもと変わらず重苦しい。

 

「ミッション開始だ。621、相手がドーザーとはいえ気を抜くな、慎重に――」

『これより独立傭兵レイヴンとエアによる作戦行動を始めますっ! 突入しなさい役立たず!』

 

 また呼吸器からエラーが吐き出された。

 

「どうした621。気を抜くなとは言ったが、緊張する程の相手では――」

『レイヴン、ハンドラーとの交流に余念がないようですね! その時間の半分でも、私とお話してはどうですか! このチワワ!』

 

 チワワ!?

 ……チワワとは何だ? 物を知らない621ではあるが、まるで聞き覚えの無い単語を聞かされれば気にもなってくる。わらわらと寄ってくるMTを蹴飛ばしながら、ウォルターにメッセージを送った。

 

【ウォルター、チワワとは何だ】

「いきなり何だ621! 今は仕事中だぞ!」

 

 怒られてしまった。ミッションにはあまり関係の無い言葉だったのかもしれない。限界までチャージしたリニアライフルの弾丸がMTを貫通し、二機のMTを同時に仕留めることに成功した。弾代の節約である。

 

『弾薬費の事を気にするだなんて余裕ですね? いったいいつからそんな玄人になったのですか? 戦うなら全力を出すのです! 分かったら口からヘリアンサスを出す前と後に“エアいつもありがとう”と付けなさい! 分かりましたかミールワーム!』

 

 もはや何がなんだか!

 内心で混乱しながらも、パルスブレードで四脚MTを無脚MTに変えていく。ジャンカー・ジャッカル*1の構成員が駄々漏れの通信で何か喚いているが、脳内のエアがうるさ過ぎて何も耳に入ってこない。そうこうしている内に、グリッド内のMTは全て撃破していた。

 

「片付いたようだな。外に向かえ、まだ敵は残っている」

【了解ウォルターいつもありがとう!】

「今日はどうした621!? 礼を言うのは俺の方だ!」

 

「チワワの画像はいま集めている!」と頼もしいウォルターの言葉に従い、グリッドの外側へと機体を走らせる。飛来してくるミサイルを躱しつつ、返礼のミサイルを順に叩きこんでいった。

 

『レイヴン! なぜ私には話しかけないのですかっ!』

 

 それは変な演技の続きなのか、それとも素なのかはっきりしてほしい! どちらも嫌だが!

 

「ちなみにうちのMTは他の仕事中だよ、誰かさんが開けてくれた大穴のせいでね」

【エアいつもありがとう 了解 エアいつもありがとう!】

「……ウォルター、このビジターは本当に大丈夫なのかい」

「もういい休め! 帰るぞ621! 後の始末は俺に任せておけ!」

「あんたも今日はおかしいね!?」

 

「あとエアって誰だ!?」と混乱するカーラの声を聞きながら、アサルトアーマーでMTを纏めて吹き飛ばしておいた。生憎だが混乱しているのは621も同じである。

 

『ミッション完了! チワワの画像は私の方がたくさん集めてありますからね! 遠足はここまでですっ!』

 

 そうです、この人が変なエアさんです。

 

 

 

 ▼△▼△

 

 

 

『なんというかその……もしかして、私は印象が薄いのかなと』

 

 この人は何を言っているのだろうか。

 侵入してきたドーザーを叩き出し、なんとかミッションを終えた後のこと。いったい今日の奇行は何だったのか問い詰めたところ、エアが白状した内容がそれだった。

 この我が強くて破天荒で気が短くて圧もすごい『言いすぎです』……とても個性的な自称ルビコニアンの印象(キャラ)が薄いというならば、621などもはや存在しないも同然なのではないかと思う。

 

『なので、メリニットやミシガンの真似をしてみようかな、なんて……』

 

 真似する相手の癖が強すぎる。確かに621の周りは個性的な面々が揃ってはいるものの、だからといって彼らの真似をする必要は無いというのに。

 

『あ、じゃあV.Ⅳラスティなんてどうでしょう?

 ん、んっ! ……やあレイヴン、君の良き友人のエアだ。今日も共にミッションを――

 

――11点

 

『100点満点でですか!? いくら何でも低すぎます!』

 

 あまりにも気障(キザ)ったらし過ぎる。ラスティは確かにいつも気障な台詞ばかり言うが、アレは演技ではなく完全な素という訳でもない。そんな絶妙なバランスの元で成り立っている「彼らしさ」なのだと、621はそう考えている。そういう意味では、他人が真似できるものではないのかもしれない。ラスティだけでなく、メリニットにしてもミシガンにしてもそうだ。

 だからエアもエアのままで良いのでは? そんな風に考えていると、エアが苦笑したような声を発してきた。

 

『……V.Ⅳの事をよく見ているのですね。すこし、いえ非常に()いてしまいます』

 

 どこの何を焼くつもりなのか知らないが、放火はやめてほしい。グリッド086まで出禁にされては行く当ても無くなってしまう。

『私は私のまま、ですか』と、くすりと声を漏らしてエアは。

 

『ありのままの私が良いだなんて……。レイヴンは私のどのような所が好きですか? どうぞ言ってみてください、何個でも良いのですよ?』

 

 この人、「重い」って言われないだろうか? そう脳裏に過ってしまい、しまったと思う間もなく視界が紅く明滅した。

 

『誰が重いのですか誰が! 訂正してください許せません! 乙女心を何だと!』

 

 キンキン響く耳鳴りじみた交信に頭が揺れる。……そもそもエアは女性なのだろうか?

 

『――は?』

 

 凄まれて震えあがる思いだが、疑問であることに変わりはない。本人が言うようにエアがコーラル波形だというならば、はたして性別という概念があるのかどうか。

 621の疑問は彼女(?)にとってもそうだったのか、紅く染まっていた視界が徐々に落ち着いてくる。

 

『たしかに……私たちコーラルは自己増殖する生命ですから、生物学上の雌雄はありません。ただ性自認という意味では、私はずっと女のつもりでした……。何故なのでしょう?』

 

『すべての生物はまず雌体として発生するそうですし、だから……?』と一人で悩むような声がぼそぼそと聞こえてくる。落ち着いた彼女(自称)の声は思慮深そうで、人ともCOMとも異なる独特の響きだ。

 話す内容はともかく、そんなエアの声が621は決して嫌いではない。

 

『あ、でももしレイヴンが女性だったなら私は男になります! 女同士というのも興味がありますが、やっぱりここは王道で攻めたいところですね』

 

 ……内容はともかくとして。

 

*1
ジャッカルではなくコヨーテスだビジター。用件はそれだけだ、じゃあな

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