魔法少女?いえ、ただの吸血kあっあっあっ……   作:妄想の塊

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 突然の過去回。
 なぜ?ふと閃いたからだ(自供)ダガワタシハアヤマラナイ


吸血鬼の過去
疲れ知らずのレネ 1話


 

 新王国 フォルティス・ マーネ

 

 魔物、天道教、マナ帝国による世界規模の三つ巴の争いに巻き込まれた旧王国パックスの生き残った人々が復興させたのが新王国フォルティス・マーネである。

 

 その新王国には冒険者を生業にする者が多く集まっている。

 新王国の外に出て未開拓の地の探索や魔物の対処、または武器防具・薬・服・日用品などの材料調達などを行なう者たちの総称である。

 

 そして、冒険者組合『ギルド』の前を早朝からウロウロしているこの不審者もその1人だ。

 

「…まだ来ないのか?この時代時計がねえから正確な時間がわっかんねえし、あの野郎「日の光が街を照らす時に集合な!」って、何時何分だよ!?」

 

 白を基調に金の装飾が入ったフード付きローブを身に纏い、虹色の結晶で構築された棍棒のような物騒な杖を腰に携帯している彼女の名は──

 

「よっ、レネ(ねえ)

 

「おわっ!?おまっ、バカ!」

 

 背後からフードを引っぺはがされたレネと呼ばれた彼女は慌ててフードを深くかぶり直し、周囲に人が居ないのを確認してホッとすると背後の下手人を睨む。

 

「またフルスイングでぶっ飛ばされてねえのか!?カデーレ!」

 

 カデーレと呼ばれた茶髪の青年はイタズラっぽく笑う。

 

 

 カデーレ・クルメ

 

 全身に黒紫色と毒々しく動きやすい革鎧を身に纏い、頭には頭頂部と後頭部を守る鉄の頭防具。

 

 16歳と年若いが、この世界では大人として扱われる。

 腰に刺した直剣がメインで背中にある弓矢も十分に使いこなし、簡単ではあるが地魔法を扱える。

 

 

「そのふるすいんぐは、少し前にレネが岩蜥蜴をその七色の棍棒で殴り飛ばした時の技か?よっしゃあ、ぜひ伝授してくれ!」

 

「棍棒じゃなくて杖だ!つ・え!つうかあの時だって、前衛のお前らが仕事しねえからだろ!?なぁんで後衛のおre…私が前に出るんだよおかしいだろ!?」

 

「いやわりぃ。単に俺が力不足なのとレネが頼もしくてつい」

 

「そうだぞ、レネ嬢。やはりこれを機に棍棒使いになったらどうだ!」

 

「うるっせえ!俺は魔法使い、誰が何と言おうとが魔法使いだ!ってか酒くっせ!?また飲んだのかカエサクス!」

 

 早朝から酒瓶片手に顔が赤い大男、カエサクスがズンズンと大股で歩いて来た。

 

 

 カエサクス・コルメス・モースレス

 

 全身鎧ごしでも分かる程の筋骨隆々な大男。

 背中に両刃の大斧と腰に短剣一つ、そしてガントレットとつま先に隠し短剣があり大胆不敵な様子と裏腹に用心深い。

 

 40代と肉体的な全盛期はとう過ぎてあるが、騎士時代の経験や未だ尽きぬ冒険心に突き動かされては、いつの間にかカデーレのパーティーに加入していた不審者。

 

 

 そして、その後ろから困ったような表情の少女がひょっこり顔を出した。

 

 

 ティア・モルバル

 

 簡素なローブとその下にチェインメイル。

 バックパックのような皮袋の中には様々なポーションの材料と調合器具が入っており、即席でポーションを用意できる。

 また、無礼者に対しては容赦なく隠し持っている鎖鉄球を脳天に叩き込む。

 

 16歳とカデーレと同年代であり、同じ村に生まれた幼馴染。1人で冒険者になろうとしたカデーレを心配してついてきた。

 

 

 

「レネさん、口調。戻ってますよ」

 

「っ、コホン。すみません、ティア。みなさん体調に問題なさそうですね」

 

「はい、元気です!」

 

 ティアが花咲くような笑顔を見せる。

 唯一の癒しにレネの心が落ち着き……同時に喉が渇く。

 

「…ッ!で、では、早速依頼を確認しましょう」

 

「はい!」

「おう、今日は何処までも行けるぜぇ!」

「ああ、行こうか」

 

 レネは渇きを誤魔化すためにさっさとギルドに入ると、すでに依頼を吟味している他の冒険者がちらほらといる。

 私が来たことに幾人かは気づくとジッと睨んでくる。

 

「おい、あいつ…」

「ちっ」

「………ふん」

 

 まあ、余りいい反応ではないが、1年前と比べればマシだ。別に悪い事した訳では無いが、どうにも()()に偏見があるらしい。

 

(ひぇ〜くわばらくわばらっと)

 

 改めてフードを深くかぶり受付嬢の前に立つ。

 俺に気づいた受付嬢がビジネススマイルで手を伸ばした。

 

Salve(サルヴェ)*1よき陽光ですね」

 

 俺はこっそり左手で杖を握り、右手に集めた魔力を火魔法の応用で温めて氷のように冷たい手から人肌の温度までに上げる。

 温度の上げすぎには要注意。*2

 

Salve(サルヴェ)。はい、良い一日になりそうです」

 

 温めた右手で受付嬢の手と握手して挨拶する。

 こういう細かい所を疎かにすると、吸血鬼バレに繋がるからね。おっかないこと。

 

「本日は例の件でよろしいでしょうか?」

 

「はい。ここから南、遠方にある崩落した洞窟、入口の開通とその先にあるミスリル鉱石の調達…ですね?」

 

「左様でございます。馬車は南口に待機しておりますので、これを。合言葉は『闇照らす』そして『勇み足』です」

 

 受付嬢がレネに魔石*3が付いた首飾りを手渡す。

 

「それと、道中に山がありますが近くでオークの群れが目撃されていますので、ご留意を」

 

「ありがとうございます。みなさん、今の内に確認しておきたいことはありますか?」

 

「はい!ありまぁす!」

 

 酒臭いカエサクスが勢いよく挙手。

 嫌な予感しかしないが、隣にずれるとカエサクスが受付嬢の前に立ち顔を近づける。

 

 受付嬢はビジネススマイルを崩さないが、口元がピクついてくる。

 

「おっほん!受付嬢さん…この任務が終わったら、俺と一緒に食z──グゴー」

 

 ドゴンッ!と机に派手に頭を打ちつけ眠る、いや気絶するカエサクス。

 予想通りと呆れながらレネはチラリと気絶してもなお手放さい酒瓶を見る。

 

 新王国に広く普及している果実酒。

 特別度数が高い訳ではなく、なんなら年若いカデーレがガブガブと飲めるほど飲みやすい酒。

 単にカエサクスが酒に弱いだけだ。

 

 一口で顔が赤、二口で調子に乗り出し、三口で呂律が怪しくなり、四口で騒ぐか静かに、五口で顔が青か気絶。

 

 レネは気絶した大男を軽々しく肩に担ぎ一歩下がる。

 

「それでは失礼します。最近、風が冷たいので体調にはお気をつけください」

 

「お気遣い感謝します。皆様の道が陽光に照らされんことを」

 

 荷物(カエサクス)を肩に担ぎ外に出て南口に向かう。

 道中仲間から「やはりレネはゴリラの加護を…」や「ミノタウロスと契約したのでは…」など失礼極まりない言葉は聞かなかったことにする。

 

 大人だからな、この程度で怒りはしない。

 

「でもミノタウロスと契約したなら胸はもっとお「は?」ごめん」

 

(っといかんいかん。体は女だからつい反応してしまう……あの馬車か?)

「すみません。『闇照らす』」

 

「んお?お、おお!『勇み足』じゃ!」

 

 寝ぼけていた御者に首飾りを見せ合言葉を言うと、向こうも同じ首飾りを出し合言葉を口にした。すると、お互い首飾りに付いている魔力石が発光した。

 

 この首飾りは冒険者が他の業者と連携する際に使われる魔力によるパスワードのようなもの。

 事前に決めた合言葉を言うと魔力石が発光。間違えると発光しない。

 

 無関係な人による悪質ななりすまし、勘違いで別の行き先の馬車に乗るなどを防ぐためだとか。

 

「…間違いないようですね。みなさん、早速乗りましょう」

 

「その前に、やることがあるだろ?な、ティア!」

 

「うふふ、はい!」

 

「やること?なんです?」

(はて?何か確認漏れでもあったか?)

 

 レネが疑問に思っていると、カデーレは自身の分とティアの分の荷物を馬車に乗せて深呼吸して言った。

 

「決まってるだろ?レジオタイソウだ!」

 

 元気よ〜く宣言するやいなや早速ラジオ体操を始める2人。

 

「……ぁぁ」

(長距離移動や体動かす前に、と教えたんだったな…。最近、1人で依頼受けたり本を読み漁ったりで忘れてたわ)

 

 レネとカエサクスは何とも無かったが、経験の浅いカデーレとティアが馬車での移動の度に体を痛め、また何の運動もせずいきなり戦闘を始め怪我をしたりなどを見て提案したのが始まり。

 

「おや、なにやら珍妙でおもしろそうじゃの」

 

「ぁー、よろしければ一緒にやります?体を動かすと筋肉がほぐれて血流や魔力の流れもよくなりますよ」

 

「ほぉー!眠気覚ましになるのでは何でも歓迎じゃわい!」

 

「おーい!発案者のレネがやらなくてどうする?早くこっちでやろうぜ!」

 

「分かってます。荷物(カエサクス)を馬車に放ってすぐに行きますよ」

 

 片手で大男を馬車に放り込み、人の行き来の邪魔にならない位置でラジオ体操を始める。早朝といえど人はいるので奇異な目で見られ少々恥ずかしかったが、無事体が温まったようだ。

 

(まあ俺何の変化もありゃしないけど)

 

 そんな事を思いつつ全員馬車に乗り込み出発。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 馬車での移動は最初こそ初体験ということもあり興奮したが、それもすぐに冷めた。

 遅い、ガタガタ煩い、振動がダイレクトにケツにくる。現代にある車や電車を知っている分その落差に余計に苦痛を感じる。

 

 レネは毎度思う、この疲れない体で走る方がマシだと。

 

「なあ、レネレネ」

 

 衝動を抑えるために瞑想しているとカデーレが話しかけてきた。

 

「なんです?あと、名前は一回で呼んでください」

 

「ごめん。んで、カエサクスのおっさんの顔色がやばいからこの…」

 

 片目を薄く開けて見ると、ガラス瓶に入った液体『ポーション』を自慢げに取り出していた。

 妙に毒々しいのとよくよく観察すれば不気味に泡立ち、蓋の隙間から刺激臭が漏れ出ている。

 

「…それは?」

 

「ふっふっふっ、リーダーたるもの常に新しいことに挑戦し糧にしろ!って親父が言ってたのを思い出してさ、ティアにポーションの作り方教えてもらって作ってみたんだ」

 

 ティアの方を見るが早朝で眠かったのか船を漕いでいる。喉がかわ(略)

 

「名付けて『酔い覚めのポーション』。よくおっさん馬車降りたあと吐くだろ?だから予め酔いを覚ますんだ!」

 

「それは構いませんが……材料は?」

 

「『ケプラトの実』と『ポルポポロール草』、それと『フミュフリャルのトサカ』だぜ!」

 

「1人で集めたのですか?凄いな」

 

 目を見開き素直に褒めるレネ。

 余りレネに褒められることが無いのと、美人な年上の女性に褒められたのが嬉しくはにかむカデーレ。

 

 一夜漬けで勉強した努力が報われる物だ。

 

「お、おお!そうか?へへっ、頑張った甲斐があっ──

 

 

「でもその組み合わせ毒になんぞ」

 

 

 ─た……ええええええ!!!??!」

 

 レネによる無情な指摘。

 しかし既にポーションはカエサクスの口に付け、傾けていた。

 

 カエサクスの顔が……

 

 

 

 

 

 

 

 「オロロロロロ!!!!」

 

「ぎゃーーー!!!」

 

 至近距離に居たカデーレが汚染された。

 

「んうぅ、なにぃ?どうし…きゃーーー!!ウプ」

 

 ティアがもらい事故した。

 

「ほっほっほ!賑やかじゃの〜」

 

 御者は楽しそうに笑った。

 

「本当に申し訳ありません!!!」

 

 レネは後の処理に頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星空が煌めく真夜中。

 夜の山は危険なので、冒険者たちは山の手前で休息を取る。

 

「ガッハッハ!!な〜るほろ、そういうほろがあったのか」

 

「ほんとにすまねえ…」

 

「なに、気にすんな。こんくれぇ騎士やってた時にくられりゃ屁でもにゃい」

 

「まだ呂律が怪しいですね、追加で薬を作りましょうか?」

 

「薬と一緒に酒も飲みやがったから酔ってるだけだろ。ほっとけ」

 

 篝火を中心に四人が座り、御者は少し後ろで温かそうな布に包まれ寝ている。周囲には魔物避けの結界を張っているので、一晩なら問題ないだろう。

 

「もー!薬を作る時は私も呼んでって、あれだけ言ったのに!カデーレお馬鹿!!」

 

「ごめんなさい!!いつもティアがパパっと作るから俺もできると調子に乗ってましたァ!」

 

「この任務が終わったら、みっちりキッチリ薬の勉強するからね!?絶ったいに逃げないでよね?ね?」

 

「わ、分かったから!逃げないから!?頼むからその鎖鉄球(おっかない)の置いてくれ!?ひぃーーー!!」

 

「ハハッ!こりゃあ将来あの大っきな(ケツ)に敷かれるのが見えるな〜」

 

「カエサクスさん!お酒全部割りますよ!?」

 

「いっけね、レネ嬢!助けてくれ!」

 

「てめっ馬鹿!まだゲロ臭えんだよ!?近寄んな散れ散れ!!」

 

 

 四人が篝火を中心にぐるぐると走り回っていると、レネがふと足を止め森を見る。突然止まったレネにカエサクスが思いっきりぶつかったが、レネは微動だにせず、逆に全身鎧で筋肉モリモリマッチョマン変態大男の方がぶっ飛ばされるというこの世の不条理を味わった。

 

 ついでにティアとカデーレはぺちゃんこになった。

 

「おもい〜」

「い、息が……」

「いってて…どうしたんだレネじょ──」

 

「しっ─!」

 

 口元に指立て黙らせる。

 

(草木をかき分ける音、だんだん濃くなる血の匂い。荒い呼吸から察するに手負いで、足音は重いな。それに二足歩行、人間?違う魔物だな、この魔力は)

「オークか!」

 

「なにっ!?」

「ウキュー…」

「ヴッ」

 

「プギィッ!!プギィー!」

 

 森の奥から豚の悲鳴が響く。

 レネは冷静に杖を胸の辺りまで上げ水平に構えると先端を森に向けると同時にレネは息を吸い集中する。

 

「『魔弾構築(セット)』」

 

 杖の先端、大小様々な幾何学的な四角形が組み合わさったような結晶杖の内部が淡く光る。

 

「『消音(サイレンス)』」

 

 足音が大きくなる。

 

 森から飛び出してきたのは…

 

「ぬおっ!鹿か!?」

 

 オークを恐れた野生動物たちが次々に森から飛び出してはレネたちに目もくれず駆けていく。

 かなりの数が結界のすぐ近くを疾走していくが、レネは気に留めず集中を切らさず森を睨み、やがて呼吸を止めた。

 

 刹那

 

 

「ブギイイイイ「『魔弾炸裂(ファイヤ)』」ィ、ィ──」

 

 

 森から勢いよく出てきた豚顔の巨漢の魔物、オークは小さな破裂音と共にその勢いのまま地面に転がり、二度と起き上がらなかった。

 

 レネは足元まで転がったオークの頭部に結晶杖を振り上げ、躊躇無く無慈悲に振り下ろした。

 

「うげっ、徹底してるなぁ。レネ嬢は」

 

「前に頭を狙撃しても生きてる個体がいたので、やはり可能であれば頭は潰すに限ります。放置してもゾンビになる心配もありませんから」

 

「だな。ただでさえ無駄にしぶといオークが、ゾンビになって更に…なんて考えたくもねえ」

 

「他に森から来る気配もありませんし、ひとまずコレを処分しておきます。あと、そろそろ退かないと下の2人潰れますよ?」

 

「おっといけねえ!大丈夫か若造ども?」

 

「ぷはぁ!?はー、はー、死ぬかと思った…」

 

「カエサクスさん…前より重くなってますよね?やっぱり酒瓶全部…割ります!!」

 

「か、勘弁してくれえ!」

 

 

 レネは結界を抜け、1人で暗闇の草原を歩き続ける。

 

 暗闇の草原では虫の鳴き声、風で草が揺れる音、地面を踏み小石を蹴飛ばす己の足音……そして背後からも同様に複数の足音が耳に入る。

 

「……」

 

 少し前まで無かった獣臭さ、後頭部に掛かる生暖かい風、背後から感じる視線と「ハァ…ハァ…」という音、いずれもレネは意に介さず足を進めてカデーレ達に()()()()()()気付かれない位置まで移動してようやく足を止めた。

 相変わらず背後から凄まじく視線を感じるが、振り返っても誰もいない。しかし今もなお顔に生暖かい風…吐息を吹きかけられている。

 

 その吐息から濃密な血液の香りが鼻腔をくすぐり、自然と笑顔になるのを自覚し、思わず笑ってしまう。

 

「いい血の匂いじゃないか、相当狩ってきたろ?久しぶりだな、眷属(クロノリ)

 

「ウォン!」

 

「声怖ッ!」

 

 ゆっくりと虚空に手を伸ばすと何かモフッとした感触が手に伝わる。

 

「今じゃお前の姿を見ることができんのが悲しいが、偶にこうして顔見せ……見えねえなあ?まあいいや、会いに来てくれるのは嬉しい」

 

「ウォウォン!ヘッヘッヘッ!」

 

「声怖ッ…じゃなくて、会いに来てくれるのは嬉しいが、できれば俺一人の時に来てくれ。今は連れがいるからな。……念ために言うが食べるなよ?」

 

「ウォン!!」

 

「いい子だ。そら、取ってこい!」

 

 引き摺っていたオークの死体を上空に投げる。

 オークは空を舞っていたが、突如軌道が変わり地面にぶつかる手前の空中で止まり、肉を裂き骨を砕く咀嚼音と共に虚空に飲み込まれ消えた。

 

 かと思いきや右腕だけを吐き出した。

 

「ん?なんか不味いもんでも持ってたか?」

 

 オークの右腕が宙に浮いたまま、恐らく口に咥えたままレネに近寄り目の前で止まる。

 

「くれるのか?」

 

 返事の代わりにズイッと前に突き出す。

 

「っはは!お前はほんとにいい子だな。ありがと」

 

 レネはオークの右腕を受け取り、頭上に持ち上げて口を大きく開ける。口から飛び出す鋭い2本の牙で突き刺して啜る……ではなく、持ち上げたまま両手に力を入れる。

 

 ミチミチミチッ ブシャッッッ!!!

 

 雑巾絞りの要領でオークの右腕を捻り潰し断面から出た多量の血液を顔に浴びながら喉を動かして飲み込む。

 十秒も経たずにオークの右腕が干からび、それどころか原形も無くなり用済みとなったそれをレネは投げ捨て、地に落ちるよりも先に再び咀嚼音と共に虚空に消えた。

 

「うん、味は悪くないが…やっぱ人間が一番か。あと、そんな皮しかないもの食って美味いのか?それとも食い意地張ってんのやら」

 

「ウォン、ウォンウォン!」

 

「はっ!誰に似たのやら」

 

 血塗れの笑顔なレネが虚空に手を伸ばして撫でる。

 ブンブンと風を切る音と10m先にある草が激しく揺れる様子から尻尾を振っているのだろう。

 

「一度でいいから、成長した姿を見てみたいものだが……まあ、まだその時じゃない。お互い長生きしようぜ………じゃあな」

 

 名残惜しくもあるが、これ以上待たせる訳には行かない。レネは足早に来た道を引き返す。

 

「ウォーーーン!」

 

 勇ましい遠吠え。

 レネは足を止めず片手を上げ、親指を立てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃー!?血、血!!」

 

「どうしたんだレネ姉!?敵襲か!!」

 

「野郎ッ何処のどいつだ!?うちのレネ嬢を傷物にしたのわ!!!」

 

「アッ、スゥーーー」

(しまっっったぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!!血を洗い落とすの忘れてたァァァ………)

 

 

 

 その後、レネが発する言葉一つ一つに過剰反応して暴走する仲間を落ち着かせるのに非常に苦労した。*4

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 およそ3日半かけて無事に目的地に到着。

 道中に懸念していたオークの群れは確かに()()

 

 その数はなんと三匹。

 

 

 ………少ない、少なくない?

 三匹の大豚は終始怯えながらうわ言のように「仲間が消えた」や「空に喰われた」やらと要領得ない。

 無論、魔物を放置はできんのでその場で始末した。

 

(まあ十中八九眷属(クロノリ)がやったんだろな。やっぱ常時透明はチートだろ、いいなぁ〜)

 

 などとぼんやり考えていたが洞窟の前に立つと異変に気づく。

 

「みなさん、一つ残念なお知らせが。魔窟(ダンジョン)になりかけてます、この洞窟」

 

「げっ、よりによってここかよ…」

 

「ミスリルと他に有用な鉱石があるからこそ、魔物にとっても魔窟(ダンジョン)化するには狙い目でしょう」

 

「くそったれが。そんなに故郷が恋しければ一生引きこもりやがれってんだ!」

 

「な、なあ、そのだんしょんってなんだ?」

 

「しょんではなくジョン、魔窟(ダンジョン)。そういえばカデーレはまだ魔窟(ダンジョン)に挑んだことが無いのでしたか?」

 

「無いな」

 

「ティアも?」

 

「私もありません…そういえば、お父さんからは絶対に近寄るなと言いつけられてました」

 

「ティアの親父さんはいい親だな。実際、魔窟(ダンジョン)に入るのは自殺行為だ」

 

 

 魔窟(ダンジョン)

 

 熟練の冒険者でも生還率は2割以下。

 人間には過酷な環境で一歩踏み出す度に極寒から灼熱に更には洞窟内にもかからわず雷雨にと変化が激しく予想が難しい、その隙を縫うように迫る悪辣な罠、そして何よりも魔物が強すぎる。

 

 そんな危険な場所、わざわざ近づかなければ良いではないかと思われるが、放置すると魔窟(ダンジョン)から魔物が溢れて災害に繋がる。

 それと、魔窟(ダンジョン)にしか存在しない希少な物もあるため、それを求めて入る者もいる。

 

 

「じゃあ、その魔窟(ダンジョン)はどうするのが一番なんだ?」

 

「普通なら偉そうな神官のジジイどもを呼んで入口を塞いじまうのが一番なんだが…」

 

 カエサクスがチラリとレネを見る。

 

「レネ嬢、まだ()()()()…なんだよな?」

 

「幸いなことに、ですが時間の問題かと」

 

「よし。なりかけなら俺様でも余裕だな!」

 

「なら、俺たち全員で──」

 

 そこまで言いかけた所で地面から唸るよう音と揺れが、尋常じゃない地響きが起こる。

 同時に、洞窟を塞いでいた岩が吹き飛ばし中から牛頭の魔物、ミノタウロスが現れた。

 

「ブモオオ─

 

 

「邪ッ魔ァ!」

 

 レネの跳び蹴りが牛頭の頭蓋骨を砕く。

 

 

「引っ込んでろこのダボ!」

 

 続いてカエサクスの拳が胸を貫く。

 

 

 ォ、ォ゙──」

 

 

 派手な登場から僅か3秒で退場。南無三!

 

「っえ〜〜〜、な、なあティア。ミノタウロスってさ」

 

「う、うん。鋼の剣も弾く強靭な肉体って、本に書いてたね…」

 

「はっ!こんなの俺様みたいに鍛えりゃ誰でもできる。んな俺様よりレネ嬢の方が凄えと思うが」

 

「お…私は単に魔力で身体強化だけですよ。基礎中の基礎、誰でもできますよ」

 

「「えーー……」」

 

 二人の若者はドン引きしている。

 

 普通人間が鍛えた所で鋼を弾く肉体を貫けない。

 基礎中の基礎と云われる魔力による身体強化も肉体よりも硬い頭蓋を砕くほど劇的な効果がある訳でもない。

 

 しかし2人はなんてことなく成し遂げた。

 

 ハッキリ言ってへんた─

 

「なに失礼なこと考えてんだカデーレ」

 

「うえっ!?ぃ、いやいや何も考えてねえーぞ?」

 

「そうか。お前とは一年の付き合いだが嘘つく時に眉がピクピク動く知ってるからな」

 

「ゔっ」

 

 レネは溜息をつき、すぐに真剣な顔になる。

 

「しかし思ったより時間が無い様子。さっさと突撃してコアを潰さねば」

 

「『こあ』っつーと奥にある干物か」

 

「干物って、何の事だレネ姉?」

 

「自身を生贄に魔窟(ダンジョン)を生み出した魔物の事だ。そいつを潰せば魔窟(ダンジョン)も消え元通りの洞窟になる。子供でも突っつけば崩れるほど脆い」

 

「ただ大抵それを守る番人がいるんだよな。けっ、邪魔臭えったらありゃしねえ」

 

「………カデーレ」

 

「な、なんだ?」

 

「私、いや、俺は今か「ついて行くに決まってるだろ!?」─即答か「私も行きます!水臭いですよ!?」─分かったからしゃ「おいおいレネ嬢、一年経ったのにまだ一匹魔狼気分なのか?俺様も行くぜ!」──オーケーオーケーもういい突っ走るぞ」

 

 

 聞いた俺が馬鹿だった、とブツブツ言いながら何故かカデーレを小脇に抱える。

 それを見たカエサクスもティアをお姫様抱っこする。

 

「えっ?」

 

「えっとぉ、カエサクスさん?何を…」

 

「カエサクス!道は作る。遅れんなよ!」

 

「よ〜し正直何するか分からんが、舌噛むなよ若造どもおおお!!!」

 

 レネは杖先を4回地面に叩くと虹色から緑色へと変化した。左手にカデーレを抱えたまま右手で結晶杖をバットのように構えると周囲の風が結晶杖に集まる。

 

「『嵐の先導者(スリップストーム)』!」

 

 洞窟に向けて振り抜いた。

 

「走れッ!!!」

「おうさァ!!!」

 

 

 魔窟(ダンジョン)に変わりつつある洞窟。

 その先の光景を、カデーレは生涯忘れないだろう。

 

 

*1
こんにちは

*2
最初は加減知らずで師匠を燃え燃えキュン(昇天)してしまった…

*3
魔力が結晶化した物

*4
なお最終的に全員絞め落とした模様




 
 レネ

年齢:自称27歳

身長:172cm

体重:平均よりやや下

特長:背中まであるグレーかかった黒のロングヘア・ツリ目の薄赤色の瞳・色白の肌・肩幅が広く筋肉質

性格:探究心が強く当たって砕けろの精神・常識がないのか騙されやすくお人好し(騙した奴は血祭りにした)

能力:500kgの熊を片手で投擲する怪力・特殊な結晶杖を使った複合魔法や複数の属性魔法・結晶杖(棍棒)による打撃


 カデーレ・クルメ

年齢:16歳

身長:165cm

体重:平均的

特長:茶色の短髪・丸目の茶色の瞳・全身に生傷・日焼けした褐色肌

性格:明るく活発的・偏見無く誰に対しても率先して話しかけるフットワークの軽さ(偶に失言して殴られる)

能力:未熟ながらも重みのある剣撃・簡易の地魔法・弓矢による遠距離攻撃


 ティア・モルバル

年齢:16歳

身長:166cm

体重:重い

特長:薄緑色のルーズサイドテール・タレ目で薄緑色の瞳・下半身が太ましい・日焼けした褐色肌

性格:献身的であり勤勉・幼少から怪我が多いカデーレのために常に自己研鑽を怠らない

能力:回復魔法・薬草の知識・結界魔法・鎖鉄球


 カエサクス・コルメス・モースレス
 
年齢:43歳

身長:196cm

体重:酒太りや筋肉でかなり重い

特長:髪のない頭部に目立つ切り傷・茶色の太眉・茶色の三白眼・筋骨隆々・酒好きだが酒に弱い

性格:大胆不敵ながら知的・普段は酒瓶片手に気絶したり豪快に笑っていたりと煩いが、こと戦闘に置いては頭の回転が速く見た目の割にスマートに立ち回る

能力:元騎士の戦闘経験・魔力による身体強化・大斧による特大の一撃と隙をカバーする隠し短剣


 ある時、全員で模擬戦した結果↓

 強さ順

 レネ(超えられない壁)〉〉〉カエサクス 〉〉〉〉ティア 〉カデーレ

 というのが分かった。


「…えっと、みなさん生きてます?」

「おれぇ…酔ってんのか?斧片手で受け止められた気がするんだが……???」

「辛う、じてハァ…!生き…ハァ…ハァ!…ますッ……!」

「……」(初手、顔をビンタされ首捻挫)


 これ以降、模擬戦はレネ抜きになった。
 レネはというと端の方で体育座りで寂しそうにしてるか、ふて寝か、客観的な視点からアドバイスなどしている。

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