輝く星になれたなら   作:ケジメファイア

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ウイニングライブ:連れてくよ、あの景色に

「えっと、だな」

 

 ジャパンダートダービーに勝利して、息を整えて。メイクを施してもらって勝利インタビュー。初めての体験で、勝利の感情に浮き足立ちながらもメイクルームに向かった私に、南関の渉外担当、アジュディミツオーさんから言い渡されたのは。

 

「中央が、ウイニングライブやるつもりで準備してあった……時間が、余ってるんだ」

 

 ウイニングライブ。

 中央。トゥインクルレースのG1ではお馴染みの勝者をセンターに置いた、ファンへの感謝を伝えるライブ。

 今回もダート競走用の曲を用意して、舞台もセッティングしてあった。

 ライブというものは事前から準備しておくものだし、ここ数年地方が勝つことなんて無かったから南関の人たちも流れ作業のように中央のライブの舞台を準備していた。

 

「もしかして、私、歌うんですか」

 

 南関の飛躍を陰ながら求め、何時も強気なアジュディミツオーさんらしくなく、無言の肯定が返ってくる。

 ライブにはPAや照明と言った、多くのスタッフを雇って、レースが終わった後も留まっているファンの皆様も心待ちにしている。

 今更スッポ抜かすにも、敗者たる中央の子たちにさせるわけにもいかない。

 

「……無理にとは、言えないよ」

 

 地方が中央を倒すなんて、1番人気にしていてもファンすら信じることは難しかったのだろう。

 それが、図らずしも固定概念になっていた事務の人たちを責めるわけにはいかない。

 不甲斐ない、私たち南関や地方のウマ娘だって悪いんだ。

 

「でもさー」

「しっ!マンダリンさん!この空気で!」

 

 生徒会の面子のグループの遠くの方からパイプ椅子を逆向きに座っていたマンちゃんの声がして、静寂は止まる。主に、コールの叱責のせいで。

 お陰で、場の空気は少し緩んだ。

 

「コールのタルマエさんモノマネほどじゃないけど、ミックの歌、上手いじゃん」

「……え、えぇ、ミックさんの歌は、かなり上手だと思いますわ!」

 

 しょっちゅうカラオケに遊びに行く二人からの意見と共に、周囲は私をソロで歌わせる方向に進み始める。

 私だって、歌うことは好きだ。中央のウイニングライブに憧れがなかったか、と聞かれると。それは流石に嘘をつくわけにはいかなくなる。

 私は勝者。

 

「とりあえず、お化粧直ししましょうか」

 

 この騒動を聴いて降りてきたアブクマポーロ理事長が場の空気を取り直して。

 スタッフはライブの準備を再開、コールとマンちゃんは曲や演出を急場凌ぎながらPAさんたちと話し始めた。

 

「ミック」

「会長?」

 

 鏡の前の椅子に座って、メイクさんにナチュラルメイクと衣装直しをしてもらっている私に、それまでは静かに聴いていただけだったスピーディ会長が肩をポンと叩いてくる。

 あぁ、そうか。

 前、私が3冠を叶えたら生徒会長を譲る、なんて話をされたっけ。

 まだ時期尚早だと思う。私は前を立てるようなウマ娘になれたなんて、思わない。

 

「これから、忙しくなる。しんどくなる」

 

 勝者の特権。勝者にしか悩めない悩み。周囲からの重たい期待を一身に背負って、その重みを肩から抜かないまま前を向き続けて山を登らないといけない茨の道。

 

「貴方なら、きっと、みんなが支えてくれる」

 

 スピーディ会長、スピーディキック先輩は人と接することが得意じゃない。勝手に期待して、失望する人が苦手なのかもしれない。単純に、周りの騒がしさが得意じゃないのかもしれない。

 それでも、立場に就かざるを得なかった。

 立場を守り続けた。

 

「君は、これから南関を背負って立つの」

「これで、私も思う存分、自分の走りに集中できる」

 

 あ、これ単純に会長が自由に走りたいだけ。

 

「ミックー?」

「ミックさん、曲はいつもの十八番にしましたわ」

「あ、うん。会長、私がんば……会長どこ」

 

 勝手に話すだけ話してどこかに消えた会長と入れ替わるようにして、生徒会の集まりに居たヒーローコールとマンダリンヒーローのヒーローツインズが駆けつけてくる。

 

「次は黒潮盃、楽しみにしてるからね」

「うん。ボクは、その次ダービーグランプリ。待っててね」

「わたくしは、シニア級の先輩たちの胸を借りてきますわ」

 

 衣装の決まりを直す。左右非対称の色使いのソックスを履き直して、シューズに足を包む。

 

「はい、マイク」

「音程飛ばしちゃダメですのよ」

「うん。行ってくる」

 

 二人に背中を押されて、大井レース場のコースに特設されたステージの裏手についた。

 多くの人が待ち侘びている。

 一歩ずつ、ステージの真ん中に暗闇の中を突き進む。半年前、私は絶望の暗闇に居た。

 トレーナーさんや先生たちは、君の才能があれば今やっているレースで勝てたであろう、なんて言ってくれたけど。

 前が見えないくらい、爪は酷く割れていた。羽田盃だって、本調子で調整できたわけじゃない。

 東京ダービーは、想いを背負って。もしかしたら一番気楽に走れたレースかもしれない。勝った後、初めてダービーを勝ったトレーナーさんが感極まっていたのを見て、笑ってしまったのも、いい思い出だ。

 

「ミックファイアです!」

 

 ジャパンダートダービーは、一生の思い出になった。これはスタート。

 喧騒が止んだ。

 あんなに騒がしかったメインスタンドは、ペンライトの光だけの暗闇と静寂に包まれて。

 

「今日は、ご声援ありがとうございました」

「ウイニングライブの準備してなかったんです」

 

 次は。

 

「今度は年末の大井か、冬の中京か、春の東京か。何処かにしろ、私が、私たちが。地方のウマ娘が、ウイニングライブを当たり前に出来るようにしたいです」

「これからも応援、お願いします!」

 

 息を整える。

 

「聴いてください、Starry Jet。」

 

 イントロ。暗転。

 

「止んだクラクション」

「さっきまでのヒステリックな街が」

「喧騒をぬいで」

 

 照明がスポットから、ビームに変わって。

 

「キラメキ取り戻す」

 

 大井名物のライトアップが華やかにステージを輝かせる。

 

「Hey join us?We are」

「「「Starry starry Jet!」」」

「夜空を駆けるストリーム!」

 

 きっと、今一体になれている。

 ファンのみんなと。

 この流れに乗り遅れないで、流れを作り続ける。それが、今の私に出来ること。

 輝きを集め続けて、輝きを煌めかせて。飛び立とう。彗星になろう。手を取って。パーティーは始まったばかり。

 

「Take you higher連れてくよ」

 

 私が、みんなを連れていく。

 見たことのない景色。見たかった景色。これから、全部見れるように。

 

「さぁ、一緒に、flight!」

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