輝く星になれたなら 作:ケジメファイア
11月最初の日。2度目のレース。
メイクデビューと同じように押し出されて出足のままハナ、逃げ切り。
12月7日、3度目のレース。それまでよりグッとメンバーが強くなる。ナイター開催のメイン一つ前、特別競走。
ひばり特別。
同じクラスのサベージさんが追い込んでくるのを尻目に悠々逃げ切ることが出来た。
「ミックおめでと!」
背後からの声に茶地に白のストライプが入った耳カバーが揺れる。
「ありがとう、マンちゃん」
ナイターの帰り道、レース場で待ってくれていたのは同じ大井寮のマンダリンヒーロー。
青鹿毛のサイドテール、白に青の2本線が入った耳カバー。なんだか良い匂いがするのは、おそらく待ち時間に食べていたマンダリンオレンジの香り。
黄色に青のタスキ柄、汗ばんだインナーを折り畳んで、待ってくれた2人に追いつく。
「お疲れ様です、ミックさん。次は重賞?」
右隣のマンダリンの反対に、青鹿毛のショートボブに白と青の格子柄の帽子、ヒーローコールが立っている。
「あー、と、多分、かな」
言えない。2人には決して言えない。
歩行者信号に止まり、思わず顔を顰めてしまう間にも、2人の談笑は止まらない。バレていない。それならいい。この状態ならバレるのは時間の問題で、誤魔化しようがない。
「あのね、2人とも」
だから、言ってしまおう。
「今日、出てくるの、遅くなってごめんね」
「全然、問題ないよ!」
「わたくしはスピーディ会長に呼ばれていましたから」
既に重賞を勝った2人とは違う。
2人はコンスタントにレースを使うことが出来ている。
中央では、1月開くのが普通かもしれないけど、地方では1週明けが普通。私は丸々1月はスパンが開いていた。
3戦しかキャリアがないのは珍しく、重賞に出るためのレーティングが稼げない状態に陥っている。
川崎レース場の重賞、鎌倉記念を勝って同舞台のG1全日本ジュニア優駿を目指すコールや、大井の英雄ハイセイコーさんの名を冠した記念競走を勝ったマンちゃんのような活躍をする段階にすら至っていない。
だって。
「爪、限界みたい」
ポンと呟いた言葉に、冬の空気はより静けさを増して肌を刺した。重たすぎる話題だったかもしれない。
「治るまでお休み」
「あ、でも、トレーナーさんは羽田盃に登録してくれるんだって!」
「キャンセル待ちは二桁みたいだけど」
羽田盃、南関三冠の一冠目。
もし行くとすれば、そこにぶっつけ本番。実に5ヶ月も開く計算となるほどに、私の爪と脚は限界を迎えていた。
ウマ娘の爪は、走るための根幹と言っていいほど重要な場所。
元々割れやすい体質だったとは言え、レース間隔を十分に開けていたのは、爪を慮ってのこと。それでも、ダメだった。
さらにはソエ、脚の不調も持病として抱えている。
万全に走ることが難しい、爪は常に弱い。冬場ともなれば。
「ま、ボクも雲取賞までお休みだし、トレーニング付き合うよ。お互いがんばろ、ミック」
「ありがと、マンちゃん」
カバンの中からマンダリンオレンジを2つ出したマンちゃんは1つをこちらに投げる。
「……ミック。わたくしは、G1を取ってきて、王者として貴方の挑戦を受けますわ」
「うん、来週頑張ってね、コール」
「えぇ、生徒会長直々に、激励を頂いたので負けるわけには」
浦和寮の意地にかけて、とコールは夜空に向かって強く決心している。
生徒会長、スピーディキックさんは南関東を牽引するウマ娘。今年は全ての出走レースが重賞で、3着だった関東オークス以外は優勝という離れ業を決めている。
年末の東京シンデレラマイルの後は、中央のフェブラリーステークスを目指す彼女は、浦和寮だけでなく、南関東トレセン学園の旗を背負っている。
「ハニトーとか何言い出すか分かんないよね」
「えぇ……ハニートーストさん、ミックさんに執着してますからね」
「それはもう、自分で言うよ……」
冬の夜空、冷たく澄んだ空気の上には数多ものお星様が連なっている。
いつか私も、あんなお星様みたいに煌めきたい。その時には、2人も、ハニートーストも、メテ姉ぇも、一緒に輝いてくれる。
全てを明かす前から、レース場を出た時から、わざわざ歩調を遅くしてくれてるのは気のせいじゃないから。