輝く星になれたなら   作:ケジメファイア

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空に輝くべきは

「よしっ!」

 

 あんちゃんがオーダーしてくれた白に金色の刺繍が入ったトレーニングジャケットの上に、中央から支給されたゼッケンを付ける。

 心機一転の新しいメーカーのインナーを隠した体操服に、真っ白に金で名前をロゴにしたジャケットは、白砂になった大井のダートコースでも派手に目立つ。

 コースを一度駆ける。

 正直に言えば、本調子ではない。

 移動も嫌いだ。

 明日は、中央、東京レース場メインレースG1フェブラリーS。砂の王者を決める、中央開催では1年に2回しかないG1。

 去年の王者にして、私が出なかったチャンピオンズCでも距離延長がなんのそのだったレモンポップさんはいない。

 本命は、不在。

 それが、悔しかった。

 

「綺麗、だな」

 

 あんちゃんが呟く。その視線の先、私。

 …の奥に、ようやく寒い冬の朝に太陽が来た。陽が昇り始めると、それまで冷え切った空気だけが残り、夜の静けさが綺麗な色味のまま朝日の明かりに照らされ、すり抜け、綺麗な光の放射がコースに届く。

 

「あんちゃん」

「うん?」

「メテ姉の前でも、コタツの前でも、そんなセリフ言わないでよね。訴えられるよ」

 

 首を傾げまくる昔馴染み、幼い頃からの憧れがポンコツかましてるのを眺めてため息をついた。

 明日、私はあの敗北を乗り越える。

 何もできず、足が進まない感触。今でも、目を閉じた瞬間によぎって足が竦む。

 私は、ミックファイア。

 南関東三冠ウマ娘。

 中央の輝きを、飲み込んでやる。

 

 

 真隣を追込が至上のスピーディ会長がいる。

 先頭が、駆け抜けるタイム、ざっと数えて34秒。ダートで?!

 つまり、これは何も異常じゃない。会長はいつも通り追走をしているだけで、隣に私がいることに少し驚いているような雰囲気さえある。

 芝スタートとはいえ、尋常じゃない速さ。芝が慣れずに踏み出しが遅れて、あっという間に後方集団。

 前の方には、慣れたようにイグナイターさんが先団を追走している。それ以上に、ウィルソンさんの手応えがいい。

 これは、手応えがいい?違う。

 中央では、これが当たり前なんだ。これを追走するのが、当たり前。

 全く追いつかない。

 追いつけない

 楽な手応えで、先頭集団は直線に突っ込む。ここから、ここからが東京レース場の地獄。長い直線と坂、それは地方にはない究極の力比べ、根性と実力をただ追い求められる。

 イグナイターさんは、距離が危うい。だから、腹を括っている。

 直線、4コーナーから最インに拘って、前が開いた瞬間、一気にスパートを掛けているのが見えた。

 私は、ギアが…かからない。

 距離は、これがベストなはずなのに。

 良い時に感じた周囲の息遣い、足遣いを何も感じられない。それは、私が走る意識がないみたいで。上の空で、気を失ったまま、眠りながら夢を見ているようで、ただ、漠然と、漫然と、この、神聖な場所を汚す走りをしているようで。

 ダメだ、ダメなんだ。

 自らの頭を振る。足を踏み込む。

 

「っあぁー!!!!」

 

 頭が動かないなら、真っ白のまま走れ。走らないことのほうが、全てを汚している、私は走るのが好きだ、好きなんだ。頭が動かないなら、動かないなりに走る。

 

「…ミク公?!」

 

 イグナイターさんを追い抜かす。ただ、それまでだった。

 

「ミックファイアは、地方最先着の7着!」

 

 ゴールを駆け抜け、スタンドの下に歩みゆく。隣に、無言のイグナイターさんが居た。

 

「ミックファイア、よく見とけ」

「お前は、ここを沸かさなきゃいけない」

「熱い火を、灯を、陽を、お前は、照らさなきゃいけない」

 

 勝利したペプチドナイルさんが、ウイニングランを走る。ファンの皆さんが、大歓声をあげて、それに応える一人の姿は、果てしなく星のように、太陽のように輝いていた。

 あぁ、これか。

 そうだ。

 ジャパンダートダービーの時、とても嬉しかった。

 そして、私はそれ以上が欲しくなった。

 大好きな走るということで、この景色をもう一度見たい。私は、もう一度、見たいんだ。

 多くの星々を他の銀河に届くくらいに明るく照らせる恒星になりたいんだ。

 

「…でも、どうすれば」

 

 私には、地方最先着よりも7着という言葉の方が天秤で重い。

 あと、6人。

 中央には、それ以上強い人もいる。何度も戦えばそれ以上のウマ娘が私よりも前にいるかもしれない。

 ただ今のまま漠然と努力をするのは、努力とは言えない。何か、新しい風を取り込まなければいけないとも、感じ始める。

 外部のトレーニング施設、使うことには抵抗感がある。

 私は、地方のウマ娘で、地方では外部を使うことは滅多にない。そして、それが故に弱いとも、実力や質が足りてないとも、思ってはいるが改善は出来るはずだと信じている。

 三冠ウマ娘として、その改革を始める。

 それが、生徒会長の候補として挙げられている私の仕事。

 空に輝くべきは、すべての星。

 




えぇ。まさか、幻覚を厩務員さんに観測されるどころが読まれてTwitterに感想載せられるとは…しかも、普通に内容把握されてるし。
とても焦りました。

幻覚はこっそりやるものなので、検索避けしてなかった自分が一番悪いんですが…
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