輝く星になれたなら   作:ケジメファイア

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私が私じゃないなんて

「しゃあーっ!」

「どうっしょー?見た?見たっしょ?」

 

 歓喜に溢れる、着順確定所。

 両手を挙げたガッツポーズで、喜びを大爆発させたライトウォーリア先輩に、川崎の生徒会役員たちが抱きついていく。

 

 凄かった。驚異の粘り腰で、交流G1を、G1川崎記念を勝ってしまった。

 

「ミックちゃん、来週も、負けないから」

 

 最後、生徒会長代理として迎え入れた私の耳元で、先輩が呟いた。

 来週、控える生徒会選挙。

 成績と直結しがちな人気による投票で、過去数年はスピーディキック会長の治世が長く続いていた。

 そんなスピーディキック会長は、私を後任に据えると半ば隠居のような形で自分のレースラストイヤーに備え。

 混迷を極める生徒会選挙は、頭を抱えたくなる。

 サヨノネイチヤ先輩やメテ姉、キングストン先輩と言った寮の重鎮は腰を動かさず、大井寮は後継者として据えられ、自分たちの寮の私を支持。船橋と浦和は候補を出しているものの、その実質的な狙いは川崎のライトウォーリア先輩。

 もはや引くに引けず、かと言って、やりたいわけでもなかった。

 

「で、どうすんの?」

「私が聞きたいよー……」

 

 中央から来て同じ部屋になり、現在療養中のゴライコウ。

 布団で倒れ、音楽を小音量で垂れ流す私に呆れ返るような視線を送る。

 

「やんなきゃいけないことは、色々、あるんだよ?特別区学園としての、予算の割り振り、広報の改善、レース環境、レース一つ一つの見直し、中央との交流だってそうだし」

「私自身の成績だって、納得いかない。足や爪の調子はずっと悪いし、トレーニングの改善だってしなきゃいけないし」

「でも、私はさ」

「走らなきゃ、いけないんだよ」

 

 私の独白にゴライコウは、目を丸くした。

 まるで、こんなことに、私が疲れ切ってるのか、なんて。

 

「ミックってさ」

「あんときみたいな、ギラギラ?キラキラ?無いよな」

 

 バカにしたわけでも、呆れたわけでも、失望したわけでもなく、単純な指摘。ゴライコウは、私をよく見ていた。

 

「あの小雨降る中、むんっとしたさ、イヤーな湿気。地方のナイター、って感じがして。それで一番人気がミックでさ」

 

 目を瞑る。あの情景が見えてくる。

 

「私は今でも思い出せるよ?」

「違うんだよ。ミック、お前は、あん時のミックファイアじゃない」

 

 なんだ、それ。

 

「ミックファイア、初めて知ったのはレース週刊誌のインタビューでさ、小さい頃は爪が弱くて、目立たなくて、大井に入る試験ですら、ケツから数えたほうが早いみたいな」

「そーだよ」

 

 試験の成績も、その会場で合格したのも不合格ギリギリだったんだ。

 

「でもさ、あん時のミック、全然そんな感じしなかったんだ」

「私はバケモンだ!大井の怪物だ!中央?そんなの知らないね!みたいな。アタシが最強!って感じ?」

 

 流れていたナンバーに、ふと、ゴライコウの言葉が重なった。

 人々のカメラやスマホの液晶が、ペンライトのように。それがまるで踊り子のように流れるスタンド。

 

「あん時のミック、今のミックを見たら」

「プロレス技掛けてくるかもね」

 

 そんなに?

 

「それじゃ、療養中の身には夜更かしは厳しいので!寝るぞい!」

「あ、うん、おやすみ。ゴライコウ」

 

 電気を消す。夜の月明かりが部屋を刺す。

 スマホに挿したイヤホン。

 流れてくるのは、ケンタッキーダービー。

 今年のケンタッキーダービーは、フォーエバーヤング。フィアースネス。シエラレオーネ。3強の一角に日本のウマ娘が据えられた。

 そしてその夜。フォーエバーヤングは僅差の、僅差の3着になった。それは日本のウマ娘の歴史を大きく塗り替え。

 

「怪物……、いや、英雄。ヒーロー、か」

 

 世界のメインシーンであるダートレース、その本場アメリカに通用するトップランナーが誕生した瞬間でもあった。

 秋、この怪物が来る。大井に、来る。

 この春、次は東京ダービー。

 中央に解放したこのレースで、地方のウマ娘はマトモに抗えない。

 

「どうしたら、いいんだろう」

 

 少しだけ持ち直して、前を向こうとして。

 それでも、心は折れたままだった。

 

 

 

 

 そうして。生徒会長代理から、副会長筆頭に戻り、かしわ記念も見せ場なしの最後に駆け上がるだけに終わったまま。

 夏が過ぎ。

 

 そして、秋が来た。本当なら、結果を出さなければいけない。デッドラインだった。

 マイルチャンピオンシップ南部杯を控えたある日、トレーナーの部屋を訪れた私が見たのは。

 

「中央トレーナー短期教育……」

 

 そこから導き出されるのは。

 

「こんな、こんな成績で、こんなザマで、中央に行けって?」




ミック、ずっと低迷していますが、それでもあの日、あの時見たあの走りは、今でも、ずっと心に残っています。


そして、これが関係者に認知されてますし、そもそも変なこと言う気もありませんが、本当に復活してほしいし、そもそも地方の雄として、少しでも未来につなぐ仕事があると思うので、いつまでも応援しています。

と、言うわけでこの小説ももうちっとだけ巻きで続くんじゃ。一応、今の予定では4歳シーズン明け、コールの雄たけび勝ちと、ミックの成長を書きたいので、そこまではお付き合いを。
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