輝く星になれたなら 作:ケジメファイア
「・・・ミック」
チームルームの扉を開けた、トレーナーの声が震えてる。
「ね、トレーナー。これ、なに?」
私の声は震えていたと思う。隠すことができなかった。
突きつけた書類はウマ娘の握りこぶしで起きる握力が破ってしまい、図らずしも滅却出来てしまう。
「ミックファイアは、このままじゃダメなんだ。できることは何でもする。それが俺たち教職の仕事だ」
「なんで!?私の実力が足りないから!?私が弱いから!?シニアになって勝つことすらままならなくなってるから!?」
それまでのフラストレーションが溜まっていたんだと思う。思ってることも、思ってないことも、全部、全部。あることも、無いことも、全部。ひとしきりわめききって、私は走り出した。
心の中の整理がついていない。
昨日、ノーレちゃんは負けた。泣きじゃくる彼女に何も伝えることができなかった。本当は私の勝利を、背中を見て、元気を出してほしかったのに。
フォーエバーヤングは本物だ。昨年怪物と呼ばれた私とは比べ物にならない。
彼女は、本物の怪物だ。
「私は、大井の、南関のミックファイアで居たいのに」
別に、移籍とかそういう話じゃないのは分かってる。
でも、ここまで大井のウマ娘として、南関のウマ娘のミックファイアとして上り詰めてきて。
伸びる方法が分からないからと、中央のトレーナーの講座を受けるのは納得がいかない。
私には私なりの考えがあって、私には私なりの調整方法がある。
例えば中央の坂路は、毎日使いつめればきっと力はつくけど、地方のウマ娘で体質が弱い子はそういったトレーニングが続けられず地方に流れてきた子がいる。中央は一人ひとりのウマ娘の才覚が優れているけど、そういう娘が毎年とんでもない数が入学する。ふるい落とされた子は、レースをあきらめる子もいれば、キングストン先輩たちのように地方に来るウマ娘もいっぱいいる。
地方は受け皿、なんて言われる。事実でもある。
だったら、その子たちも含めて中央に殴り返しに行く。それが体系的なダート体系の本質。
「燕になりたいな」
大井寮、いくつも棟が並ぶ中で自分の部屋があるコーポ・ワタナベの壁に背を預け、空を見上げる。秋空、突き抜けるような青空が終わって鱗雲の向こうに夕焼けが見えた。
私が私であるためには、どうすればいいんだろう。
「ねえ、あんちゃん」
「う゛ぇ」
「見つけに来てくれたのは嬉しいんだけどさ」
チームルームにおきっぱなしだったカバンやジャージを持ってきてくれたあんちゃんから荷物を分捕り、そっぽをむく。
「ここ、男人禁制だから」
「許可は取ってる。外で待ってるから、着替えてきな。外食しよ」
「そんな気分じゃ」
「ゆでもつ行くんだけど」
「・・・ッ」
「そばともつ、両方頼んでいいよ」
「グっ・・・いかない!」
「そろそろさつまいも天ぷらそば出てるよね」
「行かないったら行かない!」
「さつまいも天ぷら十枚」
「行きます・・・はっ!?」
釣られた・・・。
「それで釣られるミックもミックだと思うよ」
「・・・相変わらずですわね」
「ねぇ、あんちゃん。なんで二人もいるの」
「いやさぁ~ミックのトレーナーさんがお小遣いくれてさ~」
「寮の門限まで遊びに行きなさいと」
最近ずっと遊んでなかったでしょ?って笑うマンちゃんに。あきれ返りながら微笑むコール。
かつて南関三英傑と一緒に呼ばれていた二人の親友がお店の席で待っていて、そこには山盛りにさつまいも天ぷらが載せられたお皿が運ばれてきている。
「別に、息抜きはしてるし」
「トレーニング技法書を読むのが息抜きなの?」
「教室でも寝てばっかりでマンダリンさんが退屈だと」
「コールもずっとあそばばばばばば」
「滅相もないことはおっしゃらないで」
言われてみれば、生徒会に入って自分の勉強不足なことも相まって常に調べものと勉強の日々。部屋に戻ってもアメリカのウマ娘の伝記なんかをひたすらに読み込んでるし、私にできることを探そうと必死で。
「ね、ミック。今日はさ」
「大井寮筆頭副会長でもなく、大井の怪物でもなく。南関東最後の三冠ウマ娘でもなくて」
「わたくしたちの大親友の貴方と遊びたいですわ」
それからはもう、ご飯を食べて。遊んで、遊んで、遊び尽くした。
一時間ノンストップで三人の交代で歌を歌いまくって。
コールは十八番のけっぱれ輝きストレートを大熱唱。
私は大好きな曲の数々や、メテねぇとの祝勝として二人で歌った曲を三人で歌って。
マンちゃんはオタ芸やら英語のラップやらでひたすらに盛り上げてくれて。
気づいたら。
「コールも成長したな」
「すみません・・・会長」
「何も怒ってないわよ。私はもう会長でもないし」
私とマンちゃんがサヨノネイチヤ先輩に正座させられてる横で、コールはスピーディキック先輩に腕菱木十字固めされている。
「ミック。マンダリン。気になるのは判る、わかるけど!説教聞いて!」
なんだか、昔に戻ったみたいな気がした。