輝く星になれたなら   作:ケジメファイア

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22年大晦日

 暗がりの部屋。

 煌々と液晶の素子が光って美しい空の風景が映し出され、流れていく。

 耳に差したワイヤードイヤホンは耳を伝って、髪のクリップから服を経由してゲーム機に繋がっている。

 私たちウマ娘は、ワイヤレスイヤホンかスピーカーが良いけど、やっているゲーム的には向かない。前者は遅延が気になるし、後者は同室や隣、上下の部屋に迷惑を掛けるし。

 

「ヤン、チェックシックス」

 

 オンラインゲームのチームメイト、その背後に敵機がついた。機種はファイティングファルコン。厄介な機体だ。

 ゲームパッドのアナログスティックは左を周囲警戒に、右で大きく旋回。

 燕が、ハヤブサを狙う。

 相手にとって見えないところから、背後に。シュートキュー。

 

「ロックオン」

 

 トリガースイッチを軽く引く。

 

「スプラッシュ」

 

 モニターの画面を切り替えた。

 息を吐いて頭を逆さにして、いつの間にか明るくなっている部屋の入り口の方を振り返ると、イヤホンが飛んでいった。

 

「何事、メテ姉ぇ」

「な、に、ご、とって、ねぇ!」

 

 カンカンに肩を怒らせたのは、我らが大井寮、寮長。幼き頃からの姉貴分、セイカメテオポリス。

 

「今出来ること、何もないかもしれないけど、こんな堕落した冬休み、健全じゃないわ!」

 

 うぐっ。

 メテ姉ぇ、細かい。

 

「良いじゃん、年末年始ぐらーい」

 

 ゲームパッドをテーブルの上に置いてイヤホンを仕舞って、本棚から漫画本を取り出そうと背を向けた私に、メテ姉ぇは呆れた顔。

 仕方ないでしょ。爪は良くならないし、こればっかりは無理してトレーニングした方が悪化する。野球で言えばノースロー調整、私たちはノーラン調整というべきか。

 腐るわけじゃないけど、そんな最中で復帰も決まらないし、外は寒いし、それなら部屋の中でぬくぬくとゲームをしていてもいいじゃないか。

 世間では大晦日。

 シティートゥインクルは今日まであるから、寮のほとんどが残っているけど、同室は帰省しているし、明日は完全なるお休み。だらけたって。

 

「マンダリンもハニトーも、今落ち葉集めしてくれてるんだけど」

 

 耳が一気に後ろを振り返る。

 

「年越し蕎麦も全員分炊き出すから夜遅くなるのになー」

「今13時だから、落ち葉集めして火を入れたら……」

「美味しいだろうなぁ、農場のさつまいも」

 

 椅子を倒して、立ち上がった。

 

「メテ姉ぇ、それを先に教えて」

 

 焼き芋。落ち葉を集めて、燃やして、濡らした新聞紙に包んだサツマイモをホクホクに……。ヨダレが溢れそうになる。

 

「んじゃよろしくねー。マフラーと軍手、そこに置いとくから」

 

 いいように扱われてると、分かっても……好物には抗えない。

 

「で、ホイホイやってきたと」

 

 熊手を持って落ち葉を掻いていたマンちゃんが、まんまと釣られてきた私を白い目で眺めた。

 焼き芋目当ての現金なやつって、思われてるかも。

 

「……うん」

 

 寮の玄関を出た瞬間、木枯らしが肌に突き刺さった。マフラーを深く巻いて、息を吐くと漏れた呼気が湯気になっていく。

 

「いやー。やべぇ量っすよ姉御」

「そうだね、ハニトー」

「ボクとしては人手が3人しかいないの、納得いかないんだけど」

 

 ハニートースト、同郷出身で同じメーカーの用品を愛用している同級生。マンちゃんことマンダリンヒーローの同室で、何故か私のことを姉御と呼んでくる。

 3人で渋々なスタートを切った。誰もハナを取ろうとできないほどの勢いの落ち葉集め。それぐらいの量だ。

 これなら自分でサツマイモ買ってきて、共用キッチンのレンジで蒸した方が早い。

 

「乾燥してるから燃やした方が」

「バカバカ、この風でそれやったらファイアストームになるでしょ……」

 

 最初にバテたハニトーの妄言を切り捨てて、地道に集めていく。彼女はボイラーの前で集まった落ち葉を掻き入れていく役割になり、私とマンちゃんが寮の周りを駆けては集める。

 人数集まらない理由、わかる。軍手越しでも手が悴むし、風は吹きつけて寒いし、落ち葉は強風で飛んでいくし、それで持って誰もやりたがらないから人手が減ってしんどい。

 

「終わったぁ……」

 

 最後の落ち葉たちがボイラーで燃え尽きたのを確認して、残していた落ち葉を集めた。

 ハニトーは疲れ切ってるけど、それもそうだ。昨日、レースで走ったばかりなんだから。

 

「焼き芋、やる?」

「やるーーー!!!!」

 

 パチパチと火が弾ける音が心地よい。

 夕焼けに染まる空は、もう暗い色が見え始めている。まだ、16時前なのに。

 

「ハニトー、お疲れ」

「いやー。勝てると思ったンすけどねぇ……」

「昨日?」

「うん。1番人気で、期待されて、6番手からでも行けるって……」

 

 ため息をつくハニトーが、木の枝で焼き芋を突く。

 

「コールのジュニア優駿も、姉御が出てたら」

「バカ言わないでよー。まだ、重賞も出てないんだよ。ましてや交流重賞なんて」

 

 遥かに遠い世界なんだ。

 コールは、来年の南関三冠路線の本命。私はその舞台に立てるかすら分からない。そんな差がある。

 あの真夏に吹いた吹雪のように、鮮烈に走る資格は、無いから。憧れのままに終わってしまうんじゃないかって、凄く怖い。

 せめて、オリオンザサンクスさんと同じレースを勝って、3つ目の星を輝かせたい。

 焚き火を眺めて、軍手を外して少し赤くなった手を翳していると、ポケットのスマホが震えた。

 

「あ、ごめん、ちょっとスマホみるね」

 

 スマホを取り出してロックを解除すると、左からハニトー、右からマンちゃんが覗き込んでくる。

 

「何事っスか、って全部漢字?」

「えっと、多分……」

 

 これって。

 

「普通語の簡体字」

「ぷーとんふぁのかんたいじ?」

 

 そうだった。マンちゃん、中国語詳しいんだったね。

 

「現代中国の標準語だよ」

「ほへ〜……なんで姉御のところに?スパム?」

 

 宛名を見てみる。メールの送り主は、さっきまで一緒に遊んでいたヤンという香港住まいのオンラインゲームのチームメイトから。

 

「マンちゃん内容分かる?」

「あのねー……ボクの専門はマンダリン、つまり中国の昔のお役人様が使う中国語なの!」

 

 そうだった。そもそもマンちゃん、マンダリンオレンジは偶々名前と近いからってだけで食べてる変人だった。柑橘ならなんでも好きみたいだし。

 

「読めないこともないと思うけど、そもそも香港の人なんでしょ?英語でもう一回って聞けば?」

「私の、英語、点数」

「……貸して」

 

 スマホを受け取ったマンちゃんが難しい顔をして読み解くのを待つ間、焼き芋はちょうど良い火加減になってきた。

 

「ミック、これね、あれだよ」

「なに?」

「もう食べてる……じゃなくてね、ゲーム、eスポーツってやつでしょ?」

 

 口いっぱいにサツマイモの甘みを感じながらうなづいていると、マンちゃんは画面を見せてきた。

 

「大会に招待されたんだって」

「じゃあ断りの言葉教えて!」

「え?行かないの?サウジだって書いてるけど」

「うん。行かないよ。行くとするなら」

 

 レースで、勝って勝って勝ちまくって、日本のレースを総なめにして、それから招待を受けて、レースで海外遠征だ。

 いくらゲームの腕前が良くても、私の本懐は、レースなんだから。

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