輝く星になれたなら   作:ケジメファイア

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その翼は雲を取る

 補習のノートを解き終わって、机に突っ伏した。

 英語を教えてくれていたのは、この後にレースを控えたマンちゃんと、コール。

 

「じゃ、先行ってるね。コール!ミックも観にきてよね〜!」

「うん、いってらっしゃい。頑張ってねマンちゃん」

 

 教室から元気よく飛び出すマンダリンヒーローの背中に手を振って、一つ、ため息をついた。

 私は怖い顔をしている親友に振り返る。

 

「コール、話って何」

「マンちゃんに聞かれちゃダメなことなの?」

 

 私たち3人に、隠し事は無しなはずなのに。

 

「ミックさん」

「まだ、走らないのかしら」

 

 ……。

 無言が静寂の教室に響き渡る。

 私だって、私だって……好きで走らないわけじゃない。爪が万全なら、今すぐにでも駆け出したい。って、思ってる。ってつもり。

 正直なところ、心は折れていた。

 コールに、何が分かる。

 小さな頃から、走りたくても走れなくて、周りから置いて行かれて。普通に走れることがどれほど恵まれたことだと思っている。

 私は。

 

「違いますわ」

「コールに何が分かんのさ!」

 

 思わず。

 

「あ……ごめん」

 

 怒鳴ってしまった。コールは悪くないのに、悪いのは、情けない私なのに。

 

「ミック、貴方は諦めている」

 

 項垂れている私に、ヒーローコールは冷徹な声で非情な言葉を掛ける。彼女なりの優しさだと、分かった。

 爪が弱いからって、何もしていないわけじゃない。これじゃ全く足りない。

 諦めている。それは、本当。

 こんなことが分かってしまうほど、今の私は腑抜けた態度でいる。

 机に向かって俯いていた私の隣に、椅子を動かして、コールは座った。触れそうな位置の肩が震えている。

 

「全日本ジュニア優駿」

「歯が、立たなかったわ。ホームなはずなのに、手が届かなくて、悔しかった」

 

 やっぱり、地方と中央では原石の大きさが違う。磨き続けなければ、輝きは勝てない。コールの輝きでも届かないのだとすれば、今の私なんかじゃ、あの星ほどに輝くことは出来ないはず。

 それでも、コールはそんなこと気にも留めていない。

 

「わたくしは、ヒーローコール。誰しもが」

「そう!誰しもが、わたくしのことをヒーローと呼び、この南関東トレセンの次期生徒会長として、最後の南関東三冠を戴くウマ娘……」

「諦めたりなんかしない」

 

 独りごちたコールは立ち上がる。

 

「そこで歯軋りでもして、わたくしの戴冠式を観ていなさい、哀れなミックファイア」

 

 何も、言い返せなかった。

 コールは、最後の南関東三冠ウマ娘に挑戦するに相応しい心の強さを持ち、輝きの原石を持ち、走ることを決して諦めない。

 彼女のような存在こそが3つの星を得るに相応しいのだ。

 そんな風に、納得してしまう自分が居た。居て、しまった。それが一層情けなく思えてきて、吐き気がする。

 私の憧れへの気持ちは、こんなものだったのか?

 憧れへの私の覚悟は、この程度だったのか?

 

「それではご機嫌よう」

 

 コールは立ち上がって、前を向いている。

 じゃあ、私は?

 私は今、どこを向いている?

 どこに立っている?

 このままでいいのか?未完の大器と呼ばれ、才能をドブに捨てたなぁなぁのままでいいのか?

 どれだけ寒い冬であったとしても、いつかは雪が溶け、花は芽吹く。私は、蕾にすらなれていないじゃないか!

 気づけば外は夕暮れに包まれている。

 私は椅子を蹴飛ばすように立ち上がって、レース場に駆け出した。

 人に押され、流れ、抜けて、走る。

 レース場の入場門を潜る。メインレースの発走時間も過ぎて、入場料はすでに無料、広い観客席を抜けて行って、人波の先のゴール前、広場を囲っているフェンスについた。

 大歓声、大歓声。

 4コーナーを出て、抜け出したヒーローコールをマンダリンヒーローが必死に追う。砂に塗れ、決死の覚悟詰まった鬼気迫るマンちゃんの追う姿。

 決して誰にも油断をしない、コールの駆け姿。

 観客の声援が、歓声が大井レース場を埋め尽くす。

 

「そっか」

「私は」

 

 コールが、マンちゃんを1人分置き去りにして、ゴールした。

 

「諦めたく、ない」

 

 勝ちたい。

 走りたい。

 この夢を。

 この憧れを。

 諦めたく、ない。

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