輝く星になれたなら   作:ケジメファイア

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星空の誓い

 空を見上げる。

 シティートゥインクルの開催も終わった大井レース場は静寂と暗闇に包まれていた。

 

「遠くて、長い旅になるけれど」

 

 スピーディキック会長に呼び出されたマンちゃんを待っていると、先に出てきた書記のコールが口ずさんだ。

 

「マンちゃんなら、結果を残してくれる」

「そうね。わたくしも、南関三冠を」

「負けないから」

 

 私だって、輝いてみせる。

 レース場のスタンド学生階から望む夜景は綺麗で、クリスマスの時期には東京メガイルミという恋人たちの聖地にもなる。

 私たち、南関のウマ娘は輝く星々で、今はまだ何にもなれていないけれど、私たちは輝いて大きな星になってみせるんだ。

 

「失礼しました。ミック、会長が話ししたいって」

「えっ、私?」

 

 繋がりなんて、ない。

 目につけられることすら。

 コールは去年の地方ウマ娘協会、ジュニア最優秀ウマ娘に選ばれ、今や書記で次代の会長と呼ばれ、マンちゃんは南関の取り組みであるケンタッキーの学園との交換留学に選ばれた。

 2人とは釣り合わないと思って、いつも迷うぐらいなのに。

 

「失礼します」

「君が、ミックファイアかい」

「コールから、話はよく聞いているよ」

 

 スピーディキック会長、デビューから3年連続で地方ウマ娘協会のグランプリ表彰を受け続けている。

 

「今の南関を、今よりも持続的に、発展させるためには何が必要か。分かるかい」

 

 夜景の灯りで会長の背中が影になる。

 明かりを消して、やけに暗がりに身を置きたがっているのは、悔しい結果でフェブラリーSを終えた、会長の心境を表しているようにも思えた。

 

「スター、ですか」

「そう。ヒーロー、或いはヒロイン。指標よ」

「コールは、まだ足りない」

 

 そんなこと!そんなことあるわけがない!そう言おうとして、躊躇った。

 少しだけ窺えた、会長の横顔に潜む表情は、そんなことを言えるようなものでは無かった。

 寮の身内だから、とか、きっとあるだろうけど、会長は本気でコールが物足りないと考えている。

 

「我々は、燦然と輝く三つの星を求めている。待ち望んでいる」

「君は、憧れているんでしょ?」

 

 トーシンブリザードさんの4冠以来の戴冠、オリオンザサンクスさん以来の大井寮所属ウマ娘のジャパンダートダービーの優勝。

 私が目指すのは、そこで、その先もある。

 

「君が、なったとしたら。私も代替わりの時かな」

 

 え?

 

「セイカがね、生徒会の副会長を辞すんだ。寮長として頑張りたい、って」

「メテね……メテオポリス先輩がですか」

「ミックファイア。生徒会に入って」

 

 有無を言わせる気がない。元より、入れるつもりで、この場をセッティングしたんだ。

 なんで、私が。そもそも、まだ3回しかレースしてなくて、羽田盃も出れるか分からないのに。

 

「コースを観ていて、貴方の走りっぷりだけが、コールを超えられると思ったの」

 

 悔しいけれど、と会長は続けた。

 

「今年で南関東だけの三冠は終わる」

「近年のダートダービーの成績を見ても、三冠が蹂躙されるのは、目に見えている」

「この場所に憧れて、最初からここで輝いてくれる原石を増やしたいの」

 

 旗を持てるスターが欲しい。

 みんなを背中で引っ張るための、ヒーローが欲しい。

 誰しもが憧れる、華麗で強いヒロインの理想像が、欲しい。

 

「我々が求めるのは、三冠ウマ娘よ」

 

 振り返ったスピーディキックの青と赤の星のような煌めきを含んだオッドアイがこちらを睨み、一枚のビラが渡された。

 

「無論貴方にも、期待している」

 

 出走表、出走者に与えられる、勝者へのチケット。

 

「失礼しました」

 

 扉を閉める。

 

「なんの話だったー?」

「羽田盃、出れるみたい」

「おっ、コールとミックの直接対決だ!生で観たかったなー!」

 

 その頃には、マンちゃんはケンタッキーダービーに出ているか、観ているか。

 

「ボクもね、折角交換留学行って、サンタアニタダービーに出れるんだ。出れるなら、本番だって、勝ってみせる」

 

 ダートの本場、アメリカのダート三冠初戦ケンタッキーダービー。プレップレースと呼ばれる各種の予選を勝ち抜くことで出走が許される最高峰の門。

 マンちゃん、マンダリンヒーローは世界を目指す。

 

「コールは、羽田盃の前に叩き入れるの?」

「えぇ。伏竜ステークスを」

 

 伏竜ステークス?そんなレースあったっけ。

 

「中央のオープンレース。JDDに出てくる中央の子達と手合わせをしたいから」

 

 やっぱり、コールはすごい。

 でも、絶対に負けたくない。

 

「星空、綺麗だね」

「うん」「えぇ」

 

 マンちゃんが、ポツリと溢す。

 

「やっぱりね、あっちで活躍してる日本の人がトレーニングしてくれる、って分かってても」

「1人きりなんじゃないかって、思っちゃう」

 

 3人で肩を並べて帰るのも、次は当分先。

 きっと、この春と初夏が終わった頃には、私たちは変わっている。

 

「マンダリンさん、わたくしたちは、同じ星の下に居る」

「そうだよ、それにいつでもビデオ通話出来るしね」

「ミックさん台無し……」

 

 空を見上げる。陽が沈むのが遅くなって、空はまだ漆黒ではなく、ダークブルーだ。

 

「ミックさん。負けませんから」

「こっちこそ」

「ボクも!勝って戻ってくるから!」

「わたくしたち3人、生まれも育ちも違えど」

「輝きたい気持ちは変わらない」

「みんなで、輝いてみせようね!」

 

 星空の誓いは夜に溶け込んでいく。

 

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