輝く星になれたなら   作:ケジメファイア

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衝撃の羽田盃

 嫌な予感はしていた。

 体重が、前走よりも大きく落ちている。ウマ娘はダイエットなんかよりもベスト体重を維持する必要があって、成長過程に伴って増えるもの。

 ジュニア級からクラシックへの春、そしてクラシックの夏。

 春を迎え。いよいよ体重は戻らなかった。

 大幅、減。控室の卓上鏡を見ると顔が少しやつれている。

 

「でも、走る」

 

 夢は、もうそこ。諦めたくない。

 爪は間に合った。トレーニングも積んできた。

 マンダリンヒーローはサンタアニタのダービーをハナ差2着の結果を持って、ダートの本場、アメリカで最も栄誉あるクラシック級レース、米ダート三冠の初戦ケンタッキーダービーにも出走した。

 結果は厳しかった。それでも、マンちゃんは地方のウマ娘が世界でも遜色なく走れることを証明してみせた。

 ヒーローコールは伏竜ステークス、中央のオープンで中央の強豪相手に堂々3着に入着した。

 1着は、まだ遠い。それでも、コールは地方のウマ娘が中央と遜色なく走れるとやってみせた。

 決して諦めずに走り続ければ輝ける。

 

「負けない、勝つ、勝って、私は輝く」

 

 今日は、羽田盃、当日。

 左は白、右は黒。膝丈のアシンメトリーソックスを履き、両手に白の手袋。

 赤と青に白の星を纏ったインナーの裾を伸ばして、茶地のハーフパンツに白の星が散らされたフリルスカートが揺れる。

 臍丈のジャンパージャケットを羽織って、髪を一つに高い位置で結う。

 卓上鏡を見て、少し焦りが見えている、入れ込んでいる表情の自分を確かめて、生徒会なんて柄じゃない、なんて。

 

「ミックさん、パドック」

「分かってるよ。今、行く」

 

 コールは平然とした顔をしている。重賞も、交流G1も出ている彼女は、こんな緊張、屁でもないんだろう。

 鏡をもう一度見た。

 ……勝つ。勝って、夢を叶えてみせる。

 私は、ミックファイア。

 他の誰でもなく、ミックファイアとして三つ星を輝かせてみせることに憧れて、この舞台に立つ。

 前を向いた。行こう。

 

「3枠6番、4番人気はこの子、ミックファイア」

 

 初めて1番人気を外した。気は、楽だと思い込む。

 重賞初挑戦、体重も落ちて見ただけでわかるほど具合は悪い。

 この人気に留まっているのは、有力なウマ娘に前走悠々逃げ切っているから。

 S1レース用のパドックステージを観客の正面まで歩き、マントを飛ばす。

 メンコと同じ茶に白の星が目立つ短い丈のジャンパーは、青と赤に白星が散りばめられたインナーを強調、星が散らされたフリルスカートがはためいた。

 壇上から離れる。

 

「4枠8番、1番人気はこの子です。ヒーローコール」

 

 白と青の格子柄を基調とした可憐な和衣装姿のコール。強気な表情が、今日はより一層自信あり気に見えた。

 

「気をつけ、礼」

 

 出走する16人のウマ娘が一列に並び、パドックに詰めかけた観客にお辞儀。

 顔を挙げた瞬間、ほんの一瞬向けた視線に気づいたのか、コールは微笑みを携えた。

 最後の南関東三冠、最初のレースが幕を開ける。始まり。終わりの始まり。

 私たちが輝き、南関東を照らすスタート。

 ブーツの靴紐を締め直して、バ道からゲート裏に向かって駆け出す。

 

「TCR、東京シティーレース、第11レース、羽田盃S1、大井1800、全16人です」

 

 準備運動を終え、ファンファーレが鳴る。生演奏、S1競走用の音楽だ。

 バ場は稍重、走りやすい。

 

「来年からは全国に開放されJpn.1競走となります」

「注目のウマ娘はやはり、前走中央のオープン競走で3着と好走した1番人気ヒーローコール」

「枠入り順調」

 

 ゲートの背後が閉ざされる。暗闇の中で、ナイターレースのスタンド照明だけがここまで届いた。

 出走を待つ観客のさざめき、緊張からか息が漏れるゲート内。

 

「上位5名には東京ダービーへの優先出走権も付与されます、クラシック級1つ目の冠、第68回羽田盃」

 

 ブザーが鳴る。前が開く。力を込めて一気に突っ込む。

 

「スタートが切られました」

 

 出は上々!周囲を見ても特別抜け出した子は居ない。押していく子を軽く交わし、テンのスピードに乗っていく。外から来るのは逃げが信条のポリゴンウェイヴ。

 1コーナーに差し掛かる。大井1800、道は長い。

 ずっと先頭を駆けるのは得策じゃないし、追走の目標にさせてもらおう。

 大井のキツイカーブを持ったままで追走。デビュー戦以来の勝負服はやけにヒラついて、事前の雰囲気と相まって落ち着かなかったのに、走り出した今はしっくり来る。

 コールは中団のど真ん中、バ群は大きく縦長、これは上手く運べばコールを追走でキツくさせて、直線の力を削ることも出来るだろう。

 

「先頭14番ポリゴンウェイヴ、2バ身ほどのリード。2番手はミックファイア。バ群がやや詰まってきたでしょうか」

 

 バックストレッチ、向正面の直線。バ群は横に広がり前後の長さを縮める。コールは外目を上がって進出した。

 

「ようやく上がり始めたヒーローコール、更に後ろからはサベージも上がってくる」

 

 コールも今更、位置が後ろ過ぎたことに気づいたらしい。

 3コーナーが近づく。軽く力を入れて、ギアを上げる。逃げていたポリゴンは既に厳しいのか、あるいは直線の余力に掛けるのペースダウン、楽な手応えで前を捉え交わす。

 最終コーナーまでの中間、先頭に立ったまま抜け出そうとすると、外を回していたコールが唸り声と共に一気に追い込んでくる。

 

「ダァァァァァっ!」

「サベージも追いついてきた!4コーナーから直線!ミックファイア抜け出した!ミックファイア先頭!追ってくるヒーローコール!内からはリベイクフルシティ!そして追い込んでくるのはサベージ!」

 

 残り200の標識、ハロン棒を越えた。残っていた末脚を発揮して突き放す。

 

「先頭は!6番のミックファイア!」

「振り切った!」

「突き放した!」

「独走に入った!」

 

 ゴール板が見えた。スタンドの方、左手で人差し指を立て伸ばす。咄嗟に出たサインだった。最初の冠。私は3つの冠を手に入れる。

 勝ったんだ。コールにも、ポリゴンにも、リベイクにもサベージにも。だったら、私がなるしかない。

 南関を、輝かせるために。

 私が、三冠ウマ娘になる。

 

「先頭ミックファイアゴールイン!」

「無敗の羽田盃ウマ娘誕生!」

 

 まず、一冠。

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