輝く星になれたなら   作:ケジメファイア

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煌めき三つ星
期待:背中おされて


「ふぁぁ~あ……」

 

 昨夜はナイター開催のメインレース、羽田盃の後、クールダウンをして表彰式やらインタビューやら挨拶回りやらで気づけば寮の門限を超過。

 トレーナーさんに車で送ってもらって、メテ姉ぇにも何も言われなくて。

 誰も居ない大浴場で少しだけ湯船に浸かって。

 鳴り止まないスマートフォンの通知をオフにして寝転がった。

 明日はいつも通りの授業。

 生徒会役員として初仕事の校門前制服指導まである。

 身に合わない、期待だと思っている。

 身に合わない、仕事だとも思っている。

 期待されたら、応えたい。期待されるように、応えたい。

 そうやって考えてるから、こう言う仕事が回ってくる、と思う。

 布団の中で目を瞑って、思考を巡らせれば瞼の奥にはナイター照明のカクテルに照らされた直線、砂の上をただ1人上がり最速で駆け抜ける喜びが今にも蘇る。

 唯一もたらされる情景が今も心に残っている。

 次は1月後、その次も、1月後。タイトなスケジュールは、マンちゃんが挑んだケンタッキー、その後の米三冠競走とそっくり。

 

「ずっと、思い描いていた」

 

 あんな大舞台に立って、1着で駆け抜けて。

 凄い歓声だった。

 直線に入って、皆を応援する声。自分をおしてくれて、みんなをおしてくれて。その声に背中押されて、私たちは直線を駆け抜けた。

 これが私の見たかった景色。これからも見続けたい景色。もっと、輝かせたい煌めき。

 表彰式を終えて、三冠を得たら次の生徒会長になれ、とスピーディ会長が言った。

 スピーディ会長はコールにも、次のダービー、そしてジャパンダートダービーこそ雪辱を期し次期会長になれ、と伝えた。

 コールは、決して諦めない。

 今回のコールの敗因は位置取り、ただそれに尽きる。ならば、世代トップを駆け抜けてきた彼女は絶対に巻き返してくる。

 東京ダービーも前目につける。理想は2番手から3コーナー一気に駆け上がる。上がり最速は無理でも、2番目以上の上がりを出せばコールをしのぎ切れる。

 出来ることならバ場はスピードの出る、足抜きのいい湿った方がいい。それなら、直線の上がりも上がる。

 

「次も、勝つ」

 

 勝って、私はなるんだ。

 無敗の3冠ウマ娘に。

 

「もう、朝だ」

 

 いつもと変わらない時間にアラームは鳴った。外はまだ暗い。南関東トレセン大井本寮は慌ただしく朝の喧騒を鳴らす。私にとっても、私以外にとっても、いつもと変わらない5月11日の朝が来た。

 

「姉御ー」

「なに、ハニトー」

 

 みんなが朝の家事を始めた騒ぎの中で、幼馴染のハニートーストが洗濯カゴを抱えて部屋をノックしていた。

 

「昨日遅かったし、疲れてるだろうから、洗濯したげるっす」

「それは流石に悪いよ……自分でやる」

「じゃ、じゃ!朝ごはん!作らせて!」

 

 そんな、何かやって欲しいわけじゃないけど、言って聞かせても変わるようなタイプじゃないだろうし。

 ハニトーとは地元が同じだ。同じトレーニングスクールで、彼女は期待されていた。みんなの中心だった。

 私と彼女はそれほど関わりのあるアレじゃなかった。学園に来て、地元が同じで、模擬レースをして負かした後、変な舎弟ムーブが始まった。

 こそばゆいし、昔は逆だったんだけど……もう諦めた。

 

「楽しみだなぁ、ハニトー謹製ハニートースト」

 

 寮の第3食堂、キッチンの中で腕を振るっているハニトーの姿をカウンター越しに肘をついて眺める。

 

「姉御、気負ってないっすか?」

「……何を気負うって言うのさ」

 

 気負うも何も、私は南関東最後の三冠を狙って、気負わざるを得ない。それと、自分自身のレースに向けた感情はまた別だ。

 

「ウチには、姉御がどんな気持ちでダービーに向かうのか、分かんない。でも、ウチがレースに行く時以上に怖いことはわかるっす」

 

 卵の中身をフライパンに割って入れたハニトーの背中に笑い声を掛ける。

 

「何バカ言ってんのさ。レースに以上も以下も無い。怖いのは一緒だよ」

 

 確かに東京ダービーまでは緊張する。怖い、震えもある。

 

「レースに出て、少なくとも誰かには応援されてさ」

 

 私は、そうされるのが好きだ。

 期待されるのが好きだ。

 憧れを求めて走ってきたからこそ、誰かの憧れになりたい。

 

「東京ダービー、絶対、勝つから」

 

 あの情景をもっと、もっと見たい。

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