輝く星になれたなら   作:ケジメファイア

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希望:望めば未来は拓く

「おはよーございます」

「うん、おはよう」

 

 眠たい瞼を押し上げて、寮の誰よりも一足早く学園の通学門に到着。学園のコースで朝練した多くの学生と入れ替わり。

 

「会長、その、あの、今日も暖かいですね」

「うん、朝から過ごしやすくてランニングに行ってきた」

 

 ウマ娘の朝はとにかく早い。朝、3時だか4時だかには起きて5時から7時には自主練をする子やチーム練習のある子がほとんど。朝ごはんを食べて、身嗜みを整えて今度は通学門から校舎に入る。

 

「ランニングに行ってきたにしては、すごくサッパリされてるよーな」

 

 校門の脇ではんなりと立って、首を傾げてこちらを伺ったスピーディキック会長からは汗をかいた気配もなく、それどころかほんのりと石鹸の良い香りがする。もしかして、シャワーとか浴びたの?

 まだ朝の6時半なのに?

 ランニングに行った上で?

 スピーディ先輩は謎が多い。誰とも併走しないし、コース、浦和寮専用グラウンドで見かけたという話もない。

 

「あー、それはね。周りと一緒に居たくないから、っていうと言い方悪いか。マイペースに調整したいの。ただ、それだけ」

 

 みんなの数時間前に起きて、誰もいない深夜帯に特別に浦和寮グラウンドで走って、そのあとはランニングして、周囲が起きる前にはサッパリしたあと学園にいるという。

 かしわ記念。先週、G1で6着。フェブラリーSという中央のG1でも6着からの臨戦で、第一線で走っている。先輩は、周囲と壁を作りがちにも見えていた。

 何人かから挨拶をされて、会長は何事もなく返しているけれど、そこにはやはり距離が見える。

 

「そういえば昨日、いつもと違うインナー着てたね」

「あ、スピーディ会長と同じメーカーのやつです。昨日、いつものメーカー切らしてて」

 

 羽田盃、心機一転、三冠に歩もうとインナーの柄を変えた。

 赤と青に白の星。

 スピーディ会長は昔からそれを着ている。

 確か、島根の益田という町で興ったメーカーの高品質インナーだ。かつては益田にもレース場があったという。今はこっちで作ってるらしい。

 会長が南関トレセンのセーラーの裾を少し捲って、インナーを伸ばした。

 表情には少し茶目っ気を溢して、お揃いだね、なんてはにかむ。

 

「コールは、どう、ですか?」

 

 浦和寮、ライバル、それに親友。

 ヒーローコールは昨日、レースを終えた後に話しかける機会もなく先に帰っていた。

 もし話が出来たとしても、何を言えばいいのかも分からない。

 

「うん、いつも通りだよ。たかが一つのレース、無論三冠は掛かっていたけれど、コールの最終目標はそこじゃないからね」

 

 とはいえ人並みに悔しがってたよ、とスピーディ先輩は面白そうな顔をしている。

 

「彼女は、負けたって。諦めない。だからこそ、ここまで来てる。もっと強くなってもらわなくちゃね」

「はい。私も、そう思ってます」

 

 絶対に負けない。

 私たちは親友で、仲間だけどライバルで。

 競い合うからこそ、楽しくて、好きなんだ。

 こうやって煽ててやれば。

 

「あの、敗者を褒めちぎらないで頂けます?」

 

 街灯の影から恥ずかしそうにいつもの格子柄の帽子を深く被ってコールが出てきた。顔は真っ赤。

 

「コールおはよ」

「おはようございますミックさん。それに会長もご機嫌麗しゅう」

「うん」

 

 私と会長に挟まれ、カバンを足の間に置いたコールが通学門からの入り口の方向に立つ。

 そういえばいつもは、コールが1人だけ立っていて、私は遅刻しそうになったのをコールに怒られながら入っていた側だった。

 

「それと、会長。寮母様がいい加減洗濯物を出しなさいとカンカンでしたわ」

「あー、うん」

 

 そのうち出すよ、そう呟いたスピーディ先輩は持ちカバンを後ろ手に背負って空いた左手をフリフリ。

 

「午後は生徒会の会議あるから。今日はNURの偉い人たち来るからね」

「はぁ……全くもう」

「大変そーだねコール」

「ミックさん、これからは貴方もこっち側ですのよ」

 

 うっ。やだなー。メテ姉ぇの跡を継ぐ以上しっかりやりたいけど、それはそれとして面倒ごとは嫌い。報酬はメテ姉ぇ達が紅はるかを買ってくれるっていうからやるって言った手前、頑張るしかない。

 

「NURの偉い人って何しに来るの?」

 

 NUR。地方ウマ娘レース協会。北はばんえい、ホッカイドウ、岩手、南関、名古屋、笠松、金沢、兵庫、高知、佐賀の各地方トレセン学園の総代。

 ばんえいは、私たちよりも体格のすごく大きなウマ娘がオモリを乗せたソリを引く直線の障害レース。

 ホッカイドウは地方ウマ娘の多くが一度は通る、春季夏季中心のトレーニング学園。

 岩手は盛岡と水沢、地方所属のまま中央のG1、フェブラリーSを勝利したメイセイオペラさんの母校、と言えば早いだろうか。

 南関は大井、船橋、浦和、川崎の4場を開催する一つの巨大な学園。それぞれのレース場の名前を冠した寮に所属して、それぞれの寮を基準に生活する。トレーニングの先生も、トレーナーも別々だったり。

 名古屋は最近校舎が移転して、前はトレーニンググラウンドだったところがレース場になった。笠松はあのオグリキャップさんやラブミーチャンさんを育んだ名ウマ娘の里。金沢は冬季は名古屋や笠松に生徒ごと移動して過ごす。名古屋、笠松、金沢は一つの区域、みたいになってる。

 兵庫はメイン開催の園田とレジャーな時期の姫路レース場で開催される。私たちはたいてい、園田の人たちと呼ぶ。去年、地方の年度代表ウマ娘に選ばれたイグナイターさんは兵庫の分寮所属。

 高知はかつて、ハルウララさんが在籍していたけれど、それまでは財政もかなり傾いていた。これはどこの地方トレセン学園も同じだけど、特に危うかったのがここ。今はスターが現れるようになったし、地元密着の空気が育まれている。

 佐賀はコース形態や学園の構造が独特だけど、そのコースに価値を見出して中央から実績のあるウマ娘が転籍してきたりする。

 兵庫、高知、佐賀は西日本地域で協力しあってる。

 そんな多士済々の地方トレセン学園達。そんな学校同士で協力する機会があるのが。

 

「JDDとダービーグランプリ、最後になるから。そこの調整と聴きましたわ」

 

 ジャパンダートダービーとダービーグランプリ。

 各所のダービーで栄冠に輝いた地方ウマ娘が集結するお祭り。とはいえ近年はその盛り上がりにイマイチ欠けているところはある。

 

「今年は色々とモノが違うらしいですから」

 

 九州ダービー栄城賞も骨のあるメンバーで構成された。

 東海ダービーに向けてはティアラ路線をステップに挑むセブンカラーズさんが圧勝。

 高知では黒潮皐月賞を勝った、追込まくり戦法を中心に走る傑物ユメノホノオさんが居る。

 岩手水沢の東北ダービーはホッカイドウから南関を経由して移籍したロッソナブアちゃんに対して、重賞4連勝中の地元勢ミニアチュールさんの体勢。

 兵庫ダービーはスマイルミーシャさん、ホッカイドウの北海優駿は前哨戦を勝ったベルピットさんが本命になるであろう。

 金沢の石川ダービーは9連勝中、その名前からも話題を集めているショウガタップリさんが人気を集めるに違いない。

 

「って感じですわ」

「コールって、もしかしてめちゃくちゃレースオタク?」

 

 スラスラと情勢を唱えた親友に白い目を向ける。よくもまぁそんな8つの他所のダービーの展望を確認してるな。全然知らなかった。

 

「ちなみに、我らが南関の東京ダービーは」

「本命は大井の怪物ミックファイア、1800条件におけるレコード勝ち」

「そして、その大本命を叩きのめすのがわたくし!ヒーローコールですわ!」

 

 良かった。コールは諦めてなんかいない。真剣に勝負してくれる。だからこそ。

 

「負けないからね」

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