今朝のHRが始まる前、珍しく五月の方から風太郎へと話しかけてくることがあった。
「今日の放課後、ご用はありますか?」
「いや……特には」
臨時授業の誘いかと身構えた。
風太郎とて自らも学び、精進しなければならない身である。家庭教師という仕事と自身の勉強を両立させるためにも、ある程度の自習計画というものは立てていた。
生徒の方から自ら勉強を申し出てくるのは望ましいことなのだが、風太郎側の都合で手放しには喜べなかった。
「父があなたと会って話をしたいそうです」
「なんでだよ?」
「さあ、詳しい要件は私も知りません。確かにお伝えしましたので、あなたの返事も父へ伝えておきます。それでは」
そう言い終えるなり五月は自席へと戻っていった。
この時の五月の様子は端から見れば明らかに普段とは異なっており、良く言っても事務的、悪く言えば冷淡であった。そんな五月の普段との様子の違いを残念ながらこの時、風太郎は気づかないままであった。
五月が席から離れていった後も、風太郎は五月の父親が自分に一体何の用かということで頭が一杯であったからだった。
風太郎の新たな思案は放課後まで続いていた。
一応、風太郎と五月の父親、マルオは実際に顔を合わせたことが実は一度もなかったため、五月が顔つなぎとして仲介をしてくれることになっていた。
下駄箱で靴へと履き替えて外へ出ると、学校を出てすぐにある小階段を下りた先の道路沿いに見覚えのある高級車が停車していた。
運転席前の場所では、林間学校の帰りの時にもお世話になった運転手の江端が控えていた。
江端は風太郎達に気が付くと、恭しく一礼をした。
「お疲れ様でございます。お嬢様、上杉様」
「お出迎えありがとうございます、江端さん。お父さんは車の中ですか?」
「左様でございます」
江端の返事に従い、後部座席の前に立つ五月。それに応じて窓ガラスが開かれた。
外側からの透過の割合を下げる加工がされている窓ガラスが開いた先に、中央で分けられた整った頭髪と細目をしたスーツ姿の男性が控えていた。
五月はその男性を見知った風にして口を開く。
「お父さん、上杉君を連れてきました」
「ご苦労だったね五月君。君が上杉君だね? こうして会うのは初めてだね」
「どうも」
外見を一目見た時の、風太郎から五月の父親(以後、マルオと呼称)の印象は近寄りがたいものを感じたが、実際に言葉を交わしてみると大分物腰の柔らかさを感じ、意外であった。
風太郎とマルオ、互いに目的の相手と引き合えたことを確認すると、五月は口早に言った。
「では、私の頼まれごとは果たしましたので、これで失礼します」
「待ちなさい。五月君に彼を連れてくるよう頼んだのは、君にもこのまま一緒に来てほしいからだ」
「家でお母さんが待っていますので」
「零奈さんには話をつけてあるよ」
「…………」
僅かに押し黙った後、五月は車を時計回りに回り込むと助手席側へと入り込んだ。
風太郎も続けて、江端が後部座席の扉を開けてくれたこともあり、乗り込んだ。マルオと肩を並べて座る形となる。
乗り込んだ車は高級車ということもあって、車内は普通の乗用車よりは幅広な空間であったが、それにしても初対面の人間の隣に座るとなると妙な密閉間を風太郎は感じざるをえなかった。
そんな風太郎の耳元に、マルオが口を寄せてきた。前に座る五月には聞き取れないぐらいの小声で話しかけてくる。
「五月君と喧嘩でもしているのかい?」
「……知りませんよ」
「そうかい」
「二人でコソコソ何を話しているのですか?」
最後の呼びかけは五月のものであった。
かなり声量は抑えて話したつもりだが、やはり車内で内緒話は無理だったらしい。
幸い話の内容までは聞き取れなかったようで、心臓を跳ねあがらせた風太郎とは対照的に無表情のまま、風太郎から離れたマルオは至って冷静に答えた。
「大したことじゃないよ」
「……そうですか」
納得はしていないが、マルオが答えるつもりがないことも察知したらしい五月。それ以上の追求はなかった。
最後に江端が乗り込んでくると、話をする前に場所を移動しようと車は発進した。
走り出してすぐに、マルオは今度は社内全員に聞こえる普通の声量で風太郎へと話しかけた。
「上杉君」
「はい」
「好きな食べ物はあるかい?」
一瞬、五月の肩が跳ねた気がした。
五月を無視して風太郎は答える。
「藪から棒に何ですか」
「今日は夕食をご馳走しようと思ってね」
「家で家族が作ってくれているので、無駄にはできません」
「君の父親には話をつけているよ」
「…………」
先ほど、五月と同じ手で黙らされる風太郎。何というか、地味にムカついた。
もしかしたら五月が不機嫌になったのはこの人が原因なのではという可能性も一瞬過ったものの、証拠がないため口には出さなかった。
自身の中にある溜飲を無理やり飲み下すと、改めて訊かれたことへの回答を考えた。
が、すぐに答えは出た。
「好きな食べ物とかは特には……」
「…………」
(やば……!)
何も言わないマルオだったが、目尻の側の眉がほんの数ミリだけ下がった気がした。
普段の風太郎であれば、そんな他人の機微など絶対に気が付かないはずなのだが、この時はなにぶん初対面の相手で、かつ五月達の父親──言い方を変えれば自分の雇用主が相手であったために流石の風太郎であっても気を回しており、気が付くことができた。
冷静に考えて、奢ると言った相手から食べたい物は特にないなどと言われてしまえばそれは『あなたに奢られたくないです』と同義の意味として受け取られてもおかしくはないし、強いてはマルオのメンツを潰してしまった可能性さえあると危惧した。
風太郎は、男なのだから肉が好きとか適当な方便を言えばよかったと、馬鹿正直に答えてしまった数秒前の自分を呪ったのであった。
実際のところ、風太郎は食べられるものなら大体は好きだし、強いて言えば生魚が苦手なぐらいだった。
「でしたら、私の行きたいところでもいいですか?」
口を挟んできたのは五月だった。
マルオはそれに返事をする前に、視線だけを動かして風太郎の様子を伺ってきた。
どうすべきか、今からでも何か無理やり食べたいものを捻りだすかと考えていた風太郎にとってもその提案は渡りに船であり、一も二もなく頷いた。
五月の提案によって向かった先はケーキショップだった。
初めの五月の提案は焼肉だったのだが、この後仕事場へと戻る予定だったマルオが自分のスーツに匂いが付くからと流石に嫌がり代替案として選ばれた場所だった。
何をどう考えを切り替えれば焼肉からケーキへと胃袋の気分が変わるのかは五月以外に共感し得る者はいなかったのだが、同時に異論を唱える者もいなかった。
江端を車内に待たせて三人で店内へと入ると、厨房の方から腰巻のエプロンと洋風の割烹着を身に着けた若い男性の店員が出てきた。
目の下の隈が特徴的で初対面ながら体調を心配しそうになるその店員は、こちらを一瞥すると指を三本立てた。
「いらっしゃいませ、三名様でしょうか?」
「ああ」
「ご案内いたします」
店員は片手を軽く上げながら、案内先の席へと風太郎立ちを誘導した。
席に着いた風太郎達の席は詰めれば片側だけで三人は座れそうな広めのテーブル席であった。
風太郎は一人で、対面にマルオと五月が並んで座ってから、案内をした店員がいつの間にか用意していた水とお絞り、それとメニューを開いてからテーブルの上に置いた。
今日のオススメは期間限定メニューの季節のフルーツを散りばめたタルトらしい。
マルオはメニューに手を付けると後ろ側からページを開き直した。
ソフトドリンクのメニューが記載されている箇所で手を止めると、メニューの中の一か所を指さした。
「アイスコーヒーを一つ。君たちも、先に話を済ませてしまいたいから必要なら飲み物を頼むといい」
「では、私もアイスコーヒーを」
「……オレンジジュース」
苦いものは苦手だから仕方ないのだが、自分ひとりだけジュースを頼んでいるのに妙な恥ずかしさを感じる風太郎であった。
マルオはそんな風太郎の羞恥など気づくことすらなく、店員へと向く。
「ではそれを。食べ物はまた後で注文します」
「かしこまりました。追加の注文の際は卓上のベルでお呼びください」
店員は最後に軽く会釈をした後、下がっていった。
店員が十分に離れたころになってから、マルオは一口水を口を含み、口内を湿らせてから飲み下すと風太郎を見据えた。
「急に呼び出してすまないね。これから君も五月君達もテストで忙しくなるだろうから、今のうちに話をしておきたかったんだ」
「はぁ……」
この時になるまで、ずっと何の用かと勘繰っていた風太郎であったが”テスト”という単語を聞いた瞬間には流石に背筋が伸びた。
思い返せば風太郎が家庭教師という仕事を始めてから、今まで一度として”報告”ということをしてこなかった。
理由としては家庭教師の仕事の成果といえば生徒の成績やテストの点数になるのだが、そんなものはせずとも家族間でしていると思っていたし、現に零奈とは時折顔を合わせる際にキチンと伝わっていることも確認しているからであった。
そのため風太郎からすれば仕事を遂行するにあたっての義務を怠っていたつもりはないものの、一度目のテストを終えて期間も経ち、二度目のテストを間もなく迎えようとしている今になって、ようやくマルオと初顔合わせを行っている現状に若干の後ろめたさは感じていた。
そんな風太郎の緊張を、マルオの観察眼は見逃さなかったらしい。
「あまり固くならないでくれたまえ。ここへ君を連れてきたことのはただのお礼なのだから」
「礼……?」
「崖から落ちかけた一花君を助けてくれたそうだね」
「……あー」
確かにそんなこともあった。
忘れていたわけではないが、あの状況になったのは元を正せば風太郎と一花の口論によって本来の肝試しのルートから逸れてしまったのが原因のため、どちらかといえば親御さんであるマルオには謝らなければいけないことだと思っていた。
「君は無堂先生の事故ことも知っているらしいね。それを踏まえて話をするが、君たち二人が無事に戻ってきてくれたことは、まさしく不幸中の幸いだったと言えるだろう」
「同じ悲劇を繰り返さなくて良かったってことですか?」
「そうだね」
答えたマルオの瞳の奥には、別の思惑もはらんでいるような気がした風太郎だったが、その正体がなんであるかまでは知りえなかった。
「だからこの場は娘を助けてくれたことへのお礼だよ。この後頼む物は、値段を気にせず好きなものを選んでもらいたい」
「あの……私は……」
「五月君も好きなものを食べなさい。ただし、後で他の子と揉めないようにね」
「……! はい!」
五月は顔を輝かせて早速メニューへと齧りついた。マルオもそれを止める気配は特になかった。
対して風太郎。そんな五月の様子にやや呆れつつも、気になったことがあったのでマルオへと向いた。
「あの、他の奴らと揉めるっていうのは……」
「普通の話さ。五月君が食べ過ぎれば、その分他の子達から顰蹙を買うというだけ────」
「おおお父さん! そんなこと説明しなくてもいいではありませんか!?」
「すまないね」
「上杉君も、私達とはもう知り合って長いのですから察してください!」
「無茶言うな」
「どうして私の身の回りの男性はみんなデリカシーがないのでしょうか……!」
マルオの話は途中で遮られてしまったが、概ね理解はできた。
要するに五月達は体の支配権を五等分にしている関係上、食事を選ぶ機会も五分の一になってしまっている。
しかし体は誰が選んだものを食べても一律同様にカロリーが蓄積されていき、下手すれば他の人格が勝手に選んで勝手に食べたもので太ることだってあり得るわけである。
女子なのだからそういった部分には気を付けているだろうが、五月という存在はこと食事に関しては他四人からすれば理不尽なバグのようなものなのだろう。
マルオが一つ咳払いをして、逸れた話の空気を戻そうとした時、ちょうどよく注文していた飲み物が届いた。
それぞれの前に飲み物が置かれ、風太郎の前にも置かれたオレンジジュースに口を付けながらマルオの様子を伺った。
「そういえば、これは入院中の三玖君から聞いた話なのだが」
と、マルオもアイスコーヒーを一口付けてからおもむろに話を切り出した。
「君は常々、五月君達に授業を教える際には隣人の騒音に悩まされているらしいね」
「騒音ですか」
オウム返しをする風太郎。
横目で一瞬、五月が気まずそうに目線を逸らした気がした。
授業の頃を思い出す。確かに言われてみればだが、時々隣の部屋からは若い男性の声と思われる話声が聞こえることがあった。
発声の感じからしてわざと大声を出しているというわけでもなさそうだったし、住人である五月達はそれほど気にしてなさそうということもあって、風太郎も気にしないでいた。
風太郎がそんな隣人の騒音に気が付いていることを三玖へと話した覚えは無いのだが、とにかく風太郎は話の続きを聞くことにした。
「まあ、言われてみれば……」
「そうかい。実はそれが理由というわけではないが、近々五月君達には今の学校に通い続けられる範囲内で引っ越しをしてもらおうかと考えていてね」
「えっ」
驚きの声を挙げたのは五月だった。
引っ越しの話に関しては初耳という顔をしている。
「五月君にも話すのは初めてだったね。つい最近、零奈さんと話したばかりのことなんだ」
「……そうなのですか」
「それで、引っ越しの話なんかどうして俺にするんです。家庭教師とはいえ部外者だし、引っ越し先が決まったら場所を教えるくらいでいいのでは?」
「そうだね。君が関係してくるのはここからだ」
そう言うとマルオは、車を降りた時からずっと持っていた仕事用の鞄の中から数枚のチラシを取り出した。
机の上に広げられたそれを見ると、物件情報が書かれた紙のようだった。
自分で物件を探したことも無ければ、六畳一間の空間で生活することが当たり前になっていた風太郎にとっては現実味がないような物件ばかりであった。
何よりいずれも借家ではなく購入を視野に入れたチラシであり、その販売価格など目が飛び出るほどの額ばかりであった。
チラシに目が釘付けになっている風太郎をそのままに、マルオが話を続ける。
「実はまだ物件を探している途中でね。そこで、君の要望も取り入れてみようかと僕は考えているんだ」
「俺の意見なんて、何で……」
「君は娘の命の恩人であり、それに家庭教師だ。授業をもっとし易い環境にするためなら、ちょっとした意見くらいならと思ってね」
「それにしたって……」
つくづく、金持ちは貧乏の考えることなど理解できないのだなと、マルオに対して嫌味ったらしく風太郎は思ってしまった。
先ほどの物件情報のチラシは、単なる現在の候補を提示しただけなのだろう。
しかし、貧乏人の風太郎からすれば目に入った金額達にしか意識が行かなかったし、それらの物件の選定基準に自分の意見が取り入れられようとしているなどと言われれば尻込みするしかなかった。
ただ一応、話の理屈は理解できた。筋も通っていると思う。
けれども家庭教師がしやすくなる物件選びの条件など、せいぜい上杉家から中野家まで通いやすいかとかその程度だろうと、風太郎は自宅の劣悪な環境を鑑みても思った。
紙とペンと参考書があれば、勉強などどこでもできる。
それにマルオは風太郎のことを恩人だと思っているが、風太郎本人にはそんな自覚などまるでないし、せいぜいこれからご馳走になるケーキで十分釣り合いは取れていた。
辞退しよう。それが風太郎の決断だった。
「あの……──」
「あの!」
全く同時に、荒げた声で五月が被せてきた。
見れば随分と険しい顔をしていた。
「さっきから勝手ではないですか? 引っ越しの話自体、私は今初めて聞きました。それに加えて私達がこれから暮らす場所の基準に上杉君の意見を取り入れる? 正気ですか? 他人ですよ?」
ずいぶんとハッキリと言ってくれるが、ぐうの音もでないほど正論だった。
詰め寄るような五月に、表情を崩さないままマルオは応える。
「だが事実、五月君は前回のテストで赤点を取っているね?」
「それは……!」
「零奈さんからは一花君のことがあったにせよ、君は上杉君からもキチンと授業を受けて勉強に取り組んでいたと聞いているよ」
「…………」
「上杉君の家庭教師としての実力不足の可能性もあり得るが、家庭教師をしているのは彼だけじゃない。零奈さんや下田も同様だ」
「だ、だったらなんだと……」
「そうなれば、教師以外に問題があると可能性も考えた方が合理的だと、僕は思うのだけどね」
それで勉強の環境を整えようという話かと、横で聞いていた風太郎も合点が言った。
繰り返すが、風太郎自身はどこだろうが勉強はできると思っている。
とはいえそれが自分以外にも適用される理屈かどうかはわからなかったし、五月が勉強しているところを学校と中野家、後は中野家とどっこいどっこいか或いはより劣悪なボロ屋である上杉家ぐらいでしか見たことがなかったために判断がつかなかった。
マルオの言い分に対しても確証があってしている話ではないということは理解していた。引っ越したからといって、それで絶対にテストの点数が上がるとは風太郎含め五月に勉強を教えているどの人物も確約はできないだろう。
ただ、元々マルオが零奈と五月に引っ越しをするよう提言をしていたという話は、花火大会の前頃に他でもない五月本人から身の上話として聞かされていた。
マルオの引っ越しの提案が実現しないのは、零奈がマルオにばかり出費をさせるのが忍びないという、夫婦らしからぬ理由から拒否しているとのことだった。
そこへ、環境が悪く娘の勉強にも支障が出ているという風太郎から出てきた話(風太郎本人はした記憶がないが)は、マルオにとって棚からぼた餅であっただろう。
この場へ話を持ってきているということは、零奈も承諾していると思われる。
つまり風太郎はマルオに”ダシ”にされているわけである。
(めんどくせえ話に巻き込まれたな……)
いい加減、話の腰を折ってでも割り込んで辞退したいという話をすべきかと悩んでいると、五月が自分を落ち着かさせるように一息ついてから静かに語りだした。
「つまりお父さんは、今の家でも成果をだせることを証明すれば、引っ越しは考え直してくれるということですね?」
「そうなるね」
「ではこうしましょう。次のテストで私は赤点を回避します。それができたら成果を出せたと認めて貰えませんか?」
「……いいだろう。君の言う通りになれば、僕が零奈さんを納得させた理由もなくなってしまうわけだからね。今のままということになる」
マルオは風太郎へと向いた。
「上杉君」
「はい!」
おかしな方向に話が進み始めてきたと、他人事として眺めるモードに入っていた風太郎は背筋を伸ばした。
「君にも意見を聞いておこう。今の話で構わないかね?」
「……元々、俺が口を出すことじゃないです。本当に授業に支障が出るほどだったら相談してますし……今の環境で結果を出せるなら、今の話の通り無理に引っ越す理由もなくなるかと」
「そうかい。では上杉君は通常通り家庭教師に励んでくれたまえ」
「そのつもりです」
「よろしく頼むよ」
言い終えると、マルオはドリンクが運ばれてきた時に片づけていたメニューと取り出した。
他二人にも見えるように机の上に置くと、フードメニューのページを開く。
「話しも終わったことだし、約束通り夕食としようか。こういう店だが意外と普通の料理もあるみたいだね」
そう言って平然とメニューを眺め始めるマルオをよそに、風太郎はと言えば。
(この流れで食えるか!)
と内心で悶えていた。
その後、運ばれてきた注文を食している間も五月の不機嫌は収まりきらず、それを飄々と受け流しているマルオの間に挟まれていたたまれない風太郎は、食事の味など一切感じなかった。