五つ子ミルフィーユ   作:真樹

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51_番外・三馬鹿と五分の一馬鹿

 話は修学旅行二日目まで戻る。

 

「青春って感じじゃない!」

 

 土砂降りの雨の中、木の影に隠れていた松井達の横を、二乃そう言いながら駆け抜けていった。

 その二乃の後ろ、少し遅れて風太郎も続けて通り過ぎていく。

 その場に残されたのは、のっぴきならない雰囲気で風太郎を連れ去った二乃を慌てて追ってみたら、告白の現場を目の当たりにさせられた間の悪い三人組だった。

 誰の口からだろうか。それとも三人全員だろうか。どこからともなく「び」という一音だけが響き、少し間が空いた。

 

「っくりしたぁ~……!」

 

 木に背中を預けていた松井は、そのままズルズルと腰をずり落とした。

 へたり込んでからそのまましばらく、両手をマスクのようにして口元に当てるポーズで固まったまま何も言えなかった。

 指の間、細い隙間を呼吸の音が雨の音に交じってする。

 春の青々と葉を茂らせた木は三人をあまざらしにしなかった。けれどバケツをひっくり返したかのようなにわか雨の前では、ボタボタと葉の器で貯め込まれて大きくなった雨粒がしきりに落ちてき、濡れずにはいられなかった。

 それでもこの場を誰も動こうとはしなかった。できなかった。

 それくらい衝撃的だった。

 

「す、凄いものを見てしまったね」

 

 上ずった声で武田が呟いた。何か言わなければと無理やり出したかのような声だった。

 松井は元々一花から風太郎と中野少女達の恋愛事情を聞かされていた。それでもドラマでしか見たことがないようなやり取りは、松井の想像を超えるものだった。

 事情を知らない男子二人ならば、その衝撃は自分の比ではないだろう。

 だから松井が立ち直るまで、武田も言ったっきりだったし、前田など石造になったのではないかと疑うほどだった。

 ようやく落ち着いてきた松井は腰を上げると。

 

「私達も戻ろ」

 

 既に手遅れなほど濡れ、額にも張り付いている前髪をどかして言った。

 返事はなかった。

 返事はなかったが、無言のまま武田が松井の後に続いてきた。

 けれど、更にその後ろ、武田の後に続くはずの姿が無かった。

 

「前田君?」

「…………」

「前田? 早く行こうよ。風邪ひいちゃう」

「知らなかった……」

「え?」

「俺、上杉があんなに考えてたの、知らなかった……」

 

 前田は棒立ちのまま俯いていた。

 がっちり固めてられていたオールバックは、今では雨で崩れていた。落ちた前髪の隙間から覗かせる彼の顔は動揺に揺れていた。

 

「俺は一度も考えたことなかった。誰か一人と付き合っちまった後、他の奴らがどう思うかなんて一度も……!」

「前田……」

 

 名前を呼んだこちらの声など聞こえていないかのようだった。

 それほど彼は今、自分の世界に入り込んでいるのだろう。一人の人間のことを想って。

 前田の想いを松井は知っている。彼は一花を好きで、そんな彼を自分は好きになってしまった。

 だから彼が、自分以外の人のことを想っている姿を見るのには些か胸が締め付けられた。

 

(四葉さんもこんな気持ちだったのかな……)

 

 共感の念が湧きながら、ただ、好きだからこそ彼の自己批判が間違っているとも松井は思えた。

 一花ひとりと付き合ったら他の人格は前田のことをどう思うか。そのことに考えが至らなかったことを、彼は自分の思慮が浅いせいだと思っている。

 でもそれは違う。彼は良くも悪くもまっすぐなだけなのだ。

 確かに悪い言い方をすれば単細胞なのかもしれないが、それだけ一人の人間のことだけを強く想っていたことに他ならない。

 

(そんな男らしさに、私は……)

 

 それだけ一直線の彼に、自分も二乃のように幸せを手にするためには、付けこむ必要がある。

 松井にとって二乃と、そして一花も友人だ。友人の恋を応援したいという思いもある。

 だからこれは自分にとっても友人にとっても必要なことで、前田にとっても傷を深くしない対処療法なのだと自分へと言い聞かせた。

 

「前田」

 

 松井は武田の横を通り過ぎて戻って行った。戻ってから彼の名を呼んだ。

 まだ彼から反応はなかった。

 

「前田!」

 

 今度は彼の裾を掴んで強く呼んだ。

 ようやく彼がこちらを向いた。

 

「……戻ろ。風邪ひいちゃうよ」

「ほっといてくれよ」

「ほっとけるわけないじゃん」

「なんで……俺は、ずっとあいつに絡みまくって空気最悪にしてきたんだぞ。お前だって俺のこと邪魔だと思ってんだろ」

「……態度、最悪の自覚、あったんだ」

「だからよ、俺のことはいいから」

「────もう!」

 

 なおも動こうとしない前田の手を、松井は掴み、引っ張った。

 前田は体勢を崩しかけるも、慌てて足を踏ん張った。けれどその後は松井に引っ張られるまま歩き続けていた。

 

「お、おい!」

「失敗したと思ったんなら、これから巻き返したらいいじゃん!」

 

 引っ張りながら、松井は後ろを見ないで言った。

 前田の方は急な松井の変化と、その語調の強さに困惑気な顔で向けている。

 松井は振り向かないまま言う。

 

「上杉君結構良い奴っぽいし、きっとちゃんと謝れば許してくれるよ! ……あんた根は良い奴なんだからさ」

 

 良い奴、と言われて前田はまんざらでもなさそうにした。

 手を引かれた前田は松井と一緒に武田の横を通り過ぎ、木の外へと出る。土砂降りの雨の下に全身が晒され、酷い雨音は通り過ぎた武田にも話し声など聞こえていないだろうと思えるほどだった。

 

「それに、男らしくないあんたなんて私も見たくないよ」

「見たくないって……お前がどうしてそんなこと言うんだよ」

 

 そんな雨の中で、松井は前田に振り返った。

 

「あんたのこと、悪くないと思ってるからだよ……だからアドバイス、ありがたく聞きなさいよ」

 

 そう、二乃の告白に当てられて勇気をもらった勢いで言ってしまった松井は、雨の水でも冷やし切れないほど顔を熱くしながら、そっぽを向いた。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 続けて、修学旅行三日目。

 映画村の入り口で、これまた三人組が揃って並んでいた。

 入り口の奥、貸衣装の店では帰ってきた風太郎と三玖の二人が元の服へ着替えるための手続きをしている。

 その二人の後ろ姿を、武田は見守っていた。

 気が付くと、前田が横に立っていた。

 

「あの二人、上手くやるってよ」

「そうかい」

「あのよ」

 

 まだ話があるのかと、ようやく武田は前田の方を横目で見た。前田はバツが悪そうに頭の後ろに手を当てていた。

 

「お前にも、悪かったな」

「何のことだい?」

「修学旅行、台無しにしちまった」

「ああ、そんなことかい」

 

 武田は嫌味ではなく、心の底から大したことがないと思っていた。

 確かに前田は昨日と一昨日の二日間、学級長として目に余るほどの素行の悪さを見せていた。正直、最終日の今日まで同じ調子でいるようなら流石に見過ごせないとも思っていた。

 けれども実際はそんなことにならなかった。

 昨晩の二乃の告白を見てからというもの、彼は驚くほど協力的になったのだ。

 

「気にしないでくれたまえ。僕はなんとも思ってないよ」

「本当かよ」

「本当さ」

 

 ただ、と付け加えて視線を戻した。

 カウンターに風太郎と三玖の姿はもうなかった。奥に着替えに行ったのだろう。

 

「上杉君にも同じことを言うべきだとは思うけどね」

「分かってる。昨日も松井に言われたしな……つーかお前一緒にいただろ」

「君が謝っているところをまだ見ていないからね。てっきり忘れているのかと」

 

 いわゆるリマインドというやつだ。

 

「タイミングを見てるだけだっつの!」

「早くしないと松井さんに嫌われてしまうよ?」

「てめっ、それを言うかよ」

「まさか一つの班の中で二組もカップルが出来上がるとは、僕の目をもってしても見抜けなかったよ」

「……昔の漫画で読んだけど、それ節穴のやつが言うセリフだぞ」

 

 ジト目を向けてくる前田。その様子は先ほどのガラにもない謙虚な雰囲気が消え、普段通りの彼の様子が戻ってきているようだった。

 一つ、前田は息を吐いた。

 

「つーか松井とだって付き合ってねえよ。別に昨日のだって告白されたってわけでもねえし」

「そうなのかい?」

「もう少し俺自身、一花さんへの気持ちに整理してからもう一度話してみるよ」

「一花さん?」

 

 はて。

 

「ここでどうして彼女の名前が出るんだい?」

「……お前まさか、マジで何も知らないでこの修学旅行にきたのか?」

「僕が知ってたのはせいぜい、二乃さんの気持ちぐらいだよ」

「逆にそっちを知ってる方が驚きだよ!? 何で知ってんだよ!?」

「色々あったのさ」

 

 修学旅行前の、買い出しの頃の話だ。

 たまたま居合わせた二乃に風太郎の勉強の邪魔をするなと釘を刺したところ、逆に風太郎の人間性を舐めるなと怒られてしまった。

 だから自分が風太郎と一緒の班になったのも、自分の目で確かめるためだった。

 

「彼女の言う通りだった。僕は少し、上杉君のことを読み違えていたらしい」

「……よくわかんねえけどよ、なら俺と同じだな」

 

 言うと、深く聞くことはしてこなかった前田はその代わりというように、肩に腕を置いて来た。

 彼のこちらを見る目は、仲間を見る目だった。

 同意を求めるように薄く笑う前田に対して、武田。

 

「いや、僕は一花さんのことは別に何とも思っていないよ」

「そっちの話じゃねえ!」

「僕に好きな人はいないさ、残念ながらね」

「それも聞いてねえって!?」

「僕がこれまでずっと見ていたのは、上杉君だけさ」

「やっぱ聞いといてよかったわ! 聞いてなかったら危うく変な勘違いしてたぞ!?」

 

 怒涛の叫びに、前田は息を切らし、肩を落とした。

 

「つーか、お前は居心地悪くねえのかよ」

「何がだい?」

「自分には関係ないこういった話ばかり出てくる班なんて、俺だったら途中で面倒くさくなってただろうからよ」

「いや全く」

「心臓に毛でも生えてんのかお前」

「僕は上杉君さえ見えていれば────」

「それはもういい。二度も聞くとマジで勘違いするから」

 

 ピシャリと、前田は武田の言葉をシャットアウトした。

 武田的には本当に今回の修学旅行の目的は、風太郎の人間性を見ることが一番に置かれていたから嘘は言っていないのだが、もし他に理由を上げるとするならば。

 

「まあ後は、僕はそういったことにかまけてる場合ではないというだけさ」

「はぁ?」

「僕には夢があるからね!」

 

 武田祐輔には夢がある。

 敷かれたレールの上だけを歩く縛られた人生。そこから脱却するための、自由への渇望。

 宇宙。空気さえ存在しない何もない空間だからこそ、全て自らの選択によって結果が決められる全てがある世界。

 そこに行くためによそ見などしている場合ではないのだ。

 それを前田に力説し、武田は高々と宣言をし終えた後、前田の方を見ると。

 

「ああ、そう……」

 

 前田は引いていた。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

「上杉」

 

 帰りのバス乗り場。

 京都駅まで向かう予定の観光バスが複数台停車しているが諸々の手続きがまだ終わっていないらしく駐車場内で沢山の生徒達が集まる中、前田は風太郎を呼び止めた。

 呼びかけに、風太郎は少しだけ眉間にしわを寄せて警戒しているような面持ちで振り返った。

 訝し気な声色で「なんだ」と返事をしようと声がでかかった時、それよりも早く。

 

「わりぃ!」

 

 前田の方が頭を下げた。

 風太郎は少しだけ目を大きく開けるとその場で固まった。

 この数日、こいつとも一緒に行動してきたから、その反応が風太郎が驚いている時の反応だというのは知ったことの一つだった。

 

「俺、ずっとお前のこと勘違いしちまってた! それでお前にひでぇ態度ずっと取っちまってて……マジですまなかった!」

「勘違いって……何の話だよ。そりゃずっとお前の態度はわけが分からねえと思ってたが──」

「フータロー」

 

 二人の間に三玖が割って入って来た。

 前田の声は大きく、周囲では他にも何人かの生徒の視線を集めていた。

 三玖がここに来たのも、前田の声に気づいたからだろう。

 三玖は風太郎の前に手のひらで待ったをするように軽く差し出すと、代わりに前田の視線を自分に向けるようにした。

 

「修学旅行の前に話をしたのは私じゃなくて一花だったけど、裏で見てて事情は私も知ってるから」

「……」

「フータローのこと、分かってくれたんだね」

「……はい。上杉にとって今までの時間は、必要だったからってことなんすよね」

「うん」

 

 四葉の一番初めの告白から現在まで、一年近い時間が経とうとしている。

 前田は自分自身の、一花との関係を発展させるために、ずるずると保留状態の二人の関係にどんな形であれ進展を迎えさせたかった。

 保留状態なのは風太郎がいつまでも思考停止をして、結論を先延ばしにしているのだと思っていた。

 けれども思考停止しているのは自分の方だということを昨日、ようやく知った。

 

「一つ聞いてもいいですか?」

「何?」

「例の上杉と三玖さん達の約束……あれって一花さんも納得してるんですか?」

「おまっ!?」

 

 横で聞いていた風太郎が顔を赤くした。

 例の五人全員と付き合う約束とやらが自分に知られていることが恥ずかしいのだろう。

 

「うん、してる」

 

 風太郎のあわてふためきをよそに三玖は答えた。

 その答えは分かってはいたが、それでも前田は少しだけ顔を落とした。

 質問には言葉通りの意味だけではなく、一花の気持ちを確認したいという意図を含んでいた。

 三玖の少しだけ表情が優しくなった顔で、前田も自分が含めた言外の意味まで汲み取ってもらえたことを理解した。

 それはつまり、一花の好きな人は。

 

「そっすか……」

「あの、前田君。一花は────」

「それ以上は言わないでくれて大丈夫です。後のことは、一花さんの番の時にケジメをつけます」

 

 結果は分かっていても、本人の口からきちんとフラれておきたかった。

 

「そうしてあげて。私も……一花の真似はしたくないから」

「はい」

 

 続けて風太郎へと視線を戻した。

 話が途中になってしまったから、改めて謝罪の言葉を口にしようと思ったが。

 

「もういい。分かったから……!」

 

 依然として恥ずかしそうな風太郎の方から手を振ると、逃げるようにバスに乗り込んでいった。

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

「おい、起きろ」

「ん……」

 

 京都駅に向かっていたバスは無事に到着した。

 乗車していたクラスの生徒達もほとんど降り終えた頃、席でうな垂れて静かに眠っている彼女の肩を風太郎は揺すった。

 目を覚ましたらしい彼女はゆっくりと瞼を開けると、手の甲で目をこする。

 寝起きというからには三玖から入れ替わっているのであろう彼女の、その仕草は。

 

「五月だな」

「あれ、上杉君……?」

「バス、とっくに着いてるぞ」

「起こしてくれたのですね……ありがとうございます」

「ったく、よくそれだけバスの中で熟睡できるな」

「疲れていたんですよ。この三日間は大変でしたから……」

「お前は何もしてないだろ」

「何てことを言うんですか。何もできなかったからこそ、持たざるを得なかった心配事だってあるんですよ」

 

 話しながらも、五月はのそのそとシートから立ち上がると手荷物を持って車内の通路へと出た。

 一度話を切った二人は途中、運転手に会釈をしてから外へ出ると、バスの後ろ側へ回ると大荷物を受け取った。

 風太郎はドラムバッグを肩にかけ、五月はキャリーケースを転がして少し遠くに見えるクラスメイト達の集団に向けて歩き出した。

 

「ですが、結果的に言えば解決できたようですから本当によかったです。あなたにもお礼を言わせてください」

「俺だって礼を言われるようなことは何も……」

「そんなことはありません。三玖が悩んでいたことなんて、私はちっとも知りませんでしたから」

 

 それに、と五月は胸に手を当てる。

 

「四葉のことも、私は気づいてあげられませんでした。私が一番気づくべきだったのに」

「どういうことだ?」

「今では他の子達にも知られてしまった私とあなたとの約束、それを踏まえた上で四葉の変化に気が付いてあげられなかったのは私の落ち度です」

「お前らだって相手が何を考えてるのかわかるわけじゃねえんだ。四葉が普段通りにしていたのなら、お前が気付けなかったのだっておかしくはない」

「……ヒントは、あったんです」

 

 胸に当てた手を五月はギュッ、と握りしめた。

 

「修学旅行の日が近づいてきた頃、おかしな夢を見たのです。細かい内容までは憶えていませんが、そこでは四葉だけが何か違っていたような気がしたのです」

「夢の話を出されてもな……」

 

 年頃の女子というのは夢とか、占いとか、そういったスピリチュアルなことに感化されやすい。

 話半分に聞き流そうかと思ったところへ、五月は風太郎が話に興味を失い始めたことを察知してか少し口調を強めた。

 

「ちゃんと聞いてください。私だってただの夢であれば真面目に捉えたりなんてしません。ですが相手が他の人格の子ともなれば、むしろ少しは取り合うべきだったんです」

「つまり、お前が見た夢の中の四葉は現実の四葉の変化が反映されたものってことか?」

 

 自分で言っておきながら、そんなことがあるのだろうかと考えようとした。しかし、判断するにはあまりにも情報が足りなかった。

 何しろ多重人格自体が未解明なことだらけなのだから、当事者の言うことをむしろ信じるべきなのかもしれない。

 

「元は私も四葉も一花から派生して生まれた存在です。ならば今でも、根っこの部分では繋がっていると考えてもおかしくはないでしょう?」

「それは……」

 

 確かに理解できなくもない理屈だ。

 

「だから私はあの時点で四葉を警戒し、一花と何か連携を取るべきだったのです。流石は私達の主人格というべきか、一花だけは四葉の変化に気づいていたようですからね」

「連携っつったってどうやるんだよ」

「それは……今、突然考えても思いつきませんが……」

「だろうな。一花に伝えられる手段ってことは、裏を返せば四葉にも伝わっちまう手段でもあるってことだ。どうにもならなかったんじゃねえか?」

「そうかもしれませんけど……!」

 

 五月は悔しそうに風太郎を見つめ、続く言葉はなかった。

 事実として、風太郎に反論できる言葉が何も思いつかなかったのだろう。

 

「きっと今回、この結末にはなるべくしてなったんだ。失敗に終わったってわけでもねえんだから、今は素直に安心しようぜ」

「上杉君……」

 

 五月が風太郎を見る目が、少し変わった。

 張りつめていた空気が緩和するように、少し気の抜けたものへと変化した。

 それから。

 

「まあ、そもそもあなたが私との約束を気取られるようなミスをしなければ、今回の騒動は無かったのですから少しは反省をしてもらいたいのですけどね」

 

 一転して突き刺すようなジト目を向けて来た。

 

「ぐっ……!」

「四葉のことは見分けてあげられませんでしたし」

「それは……」

「あなたお母さんから見分ける方法聞いていましたよね?」

 

 愛があれば何とやら。

 

「つまり四葉を見分けてあげられなかったということは────」

「これから! これから精進していくつもりだから!」

 

 ふーん、と訝し気な目をなおも五月は送ってきた。

 風太郎的にも、いよいよ五月以外の四人を本格的に意識しようとしないければいけない中での鋭い指摘に、冷や汗をかきながら次の反応を待った。

 それに対して五月。

 

「では期待しています。私の返事も早くお返ししたいところですから」

「それって……」

 

 忘れたわけではない。

 風太郎は五月へと告白し、未だに返事をもらっていないの。五月から返事をもらうのは、他の四人との関係にも答えが出てからということになっている。

 五月が風太郎のことを好きかどうか、それさえも曖昧な言われ方でしか聞いていない。

 そんな五月からの返事を早く返したいということは、既に彼女の中で答えが決まっているということだろうか。

 この流れで、まさかごめんなさいはないと考えると。

 

「まさかお前、俺のことを────」

「つい先ほど三玖から自意識過剰君と馬鹿にされたばかりではありませんか。あなた勉強以外の記憶領域どうなってるんですか?」

「……その言葉、勉強のための記憶域どうなってるのかお前にも聞き返してやりたいんだが?」

「そ、そろそろ新幹線が来る頃ですね! 早く合流しましょう!」

「おい逃げんな!?」

 

 風太郎を抜かして駆け出した五月。その後を風太郎も追った。

 ただ、駆け出してすぐ京都駅の入り口の前に来たところで一度だけ五月は立ち止まった。

 

「本当にあなたには期待しています。勉強も、私達のことも」

「……任せとけ」

「幸い、近いうちにあなたとは長い時間も取れそうですしね」

「何かあったか?」

「あるじゃないですか。夏休み、ですよ」

 

 五月は空を仰いだ。

 

「今年の夏は、楽しくなりそうです」

 

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