五つ子ミルフィーユ   作:真樹

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68_1の5乗の花嫁(最終話)

 あれから一週間ほどが過ぎ去った。

 一花の女優をやめるという決断に対して異議を唱える人格はおらず、彼女の希望通り世間に搔い摘んだ真実の公表と共に、密やかに事務所を退所した。

 搔い摘んだ真実というのがどんな説明だったかといえば、要するにたまたま事故の現場に一花もいて、しかも加害者となる形で事故に関わってしまったが、事故そのものは避けようのないもので、仮にその場にいたのが一花ではなくても起きるものは起きていたし、誰であろうと加害者になりえたといったような言い方であった。

 無論これは嘘で、本当は一花が掴みかかったことが原因なのだが、そのことが報道されることは最後までなかった。

 怪我をした役者からも、事務所同士を通して正式に謝罪の連絡が届いたのだとか。曰く、骨折のことを話してしまったことは軽率だったとのことらしい。

 その話を社長から聞いた一花は当の役者の子と直接会えないからと、その場で社長に土下座をする勢いで『全ての非は私にある』と委縮しっぱなしだったのだとか、先日四葉がポロリと風太郎に漏らした。

 世間も具体的な事故の経緯の説明がないことについて懐疑的な意見も上がってはいたが、そもそも片や無名、片や最近ようやく認知度が上がってきた役者風情が起こしたいざこざということもあり、あまり面白味の無い事務所からの公表によって急速に興味も失せていったようであった。

 更に追い打ちをかけるように一花が女優をやめたものだから、むしろ世間は役者だって人間で、ただの女の子を責め過ぎたのではないかと自省を促すような風潮さえ見せ始めていた。

 そんな世の中の流れになってきた辺りで、風太郎もネットニュースを見るのをやめるようになった。

 一花と無関係の人間達の反省会にまるで興味が無かったからだ。

 そんなことよりも重要なのは、今日これから行われる五月の試験のことだった。

 

「緊張してるか、五月?」

「していないと言えば嘘になります。ですが、できることは全てやりました」

 

 夕方の教室。その日が学園祭後最初の五月の番の日だったということで、急遽平日の放課後に試験は行われることになっていた。

 現在、教室には風太郎と五月の二人しか残っていなかった。

 まもなく先生がテスト用紙を持って入ってくるだろう。

 

「いいか、落ち着いてやるんだぞ。お前は一問解くのに時間をかけすぎる癖があるからな。手間取ると思ったら残り時間と相談して、必要だったら飛ばすのも一つの手だ」

「そ、そんなの分かっています! 今になって色々言わないでください! き、緊張が戻ってきてしまいますから!」

「つーかもう滅茶苦茶緊張してるじゃねえか」

「だ、だってぇ……!」

 

 ガラにもなく崩した言葉遣いで悲鳴のような文句を垂れる五月。

 涙目でふるふると震えると、その微振動に合わせて頭の上の跳ねた髪も一緒に振動した。

 

「ぷっ……!」

「なぁ!? なんで笑うんですかぁ!?」

「いや、わりぃ。気にすんな」

「まったく、本当にあなたはデリカシーが無いです。ここで試験に落ちてしまえばあなたと一緒にいられなくなってしまうというのに」

 

 退学を掛けたテストなのだから、落ちれば転校しなければならないことを言っているのだろう。

 だが。

 

「何言ってやがる。転校になったところで、俺はお前が卒業するまでお前の家庭教師だ。これからも家まで勉強を教えに行ってやる」

「……約束を守れない、ダメな子でもですか?」

「約束?」

「これ、覚えていますか?」

 

 言うと、五月は筆箱から小さな筒を取り出した。

 縦8cmほどの大きさで、筒状に丸めた紙を朱色の糸で編み込まれた布で巻き付けており、布には金箔の文字で『京都 清水寺 学業成就御守』と書かれたそれには見覚えがあった。

 

「それ、この前の修学旅行の……?」

「ぶぶー、外れです」

「……! ……なら」

「六年前、あなたと一緒にいた時に買ったお守りです」

 

 あの時は四葉でしたが、と抜け目なく補足を付け足す五月。

 

「私だけでなく、今も皆持っていますよ。これも、あなたとの約束を守ろうという気概も」

「その割には馬鹿ばかりだな」

「ど、努力はしているのですよ!?」

 

 とはいえ。

 仕切り直すようにわざとらしく咳をしてくる五月。

 

「あなたの言う通り残念ながら今の私達にはまだ結果が伴っていません。そんな私がここでも結果を出せなければ、あなたに合わせる顔など無いのではとどうしても思ってしまうのです」

「…………」

「な、何故黙るのでしょうか?」

 

 不安げに上目遣いでこちらを見てくる五月に、どうやら本当に覚えていないらしいと風太郎は呆れ顔をした。

 

「お前、約束のことは憶えてるくせに、こっちの話は忘れてやがるな?」

「何のことでしょう?」

「去年、再会して早々同じことを話した奴がいただろ」

「…………あ」

 

 去年の九月上旬、彼女達は転校してきた。

 あの時は多重人格なんて生まれて初めて見る相手に大変な思いをしたし、こいつらもそれを何とか受け入れようとしたり、受け入れないようにしたりとドタバタしていた最中に、一人だけ突拍子もなくあの当時から見て五年前の約束をした相手が誰だったのか、早すぎる答え合わせをしてきた奴がいた。

 

「四葉……」

「あの時のあいつもお前と同じことを言ってたな……その時に俺が何て言ったか覚えてるか?」

「……すみません、今の今まで失念していました」

 

”大切なのは今だろ”

 

「大切なのは今、でしたね」

「それはこれからも同じだ。たとえ今お前が試験に落ちたとして、これから先のお前が勉強をしたいというなら、家庭教師の俺にできることは一つだけ。全力でサポートする。それだけだ」

 

 その答えを、五月はゆっくり自分の中に染み込ませるように、たっぷり時間を使って瞼を閉じた。

 しばらく五月の反応を待っていれば、五月は閉じるときと同じくらい緩慢な動きで瞼を開けた。

 

「ずっと、この試験に受からなければ全て終わりだと、そんな風に思っていました」

「確かに転校となれば状況は変わるだろう。だが、どれだけ環境が変わろうとも俺たちの時間ってやつは続いていく」

「例えどんな結果になろうと、その行きつく先にあなたも傍にいてくれるというだけで、こんなに肩の荷が軽くなることだと思いませんでした」

 

 上杉君、と五月はこちらの名を呼んで顔を向けて来た。

 

「今なら、四葉の気持ちが分かる気がします」

「……そういや、あの時が最初だったな」

「あの子と同じことを、月明かりが綺麗だったあの日にあなたも私に言ってきましたね」

 

 風太郎が五月へ告白をした日。

 あの日にも二人は一つの約束を交わした。

 多重人格の少女と付き合うのならば、誰も傷つけないように、全員と向き合うこと。

 今では心から他の四人のことを想っているが、それでもきっと、五月と約束をしなければここまでこれなかっただろう。

 

「その返事を、あなたが私以外の四人とも向き合ってくれた暁にはすると、私も言いました」

「……こんな時に聞かせてくれるのか?」

「こんな時だからです……だからその、私にも、言っていただけませんか?」

 

 何をだろう、と内心で風太郎は五月が求めているものを探した。

 ”私にも”などという言い方をするということは、他の人格達と比べた何かなのだろうが。

 言葉の意図を読み取れずにいると、五月はこちらに向けていた目線を机の上に落とし、声を上擦らせて言う。

 

「で、ですから、わ、私にもあなたの気持ちをもう一度、聞かせていただきたく……!」

「……! お前には、言っただろ!?」

 

”月が綺麗だな、五月”

 

「あの時は心構えができていませんでした! それに四人にはす、好きだともっとハッキリ言っていたではありませんか!?」

「……お前、まさか……」

 

 語るに落ちるとはこのことで、風太郎の中で五月の心情に何となく察しが付いたと同時、最早自棄になった五月が叫んだ。

 

「ええそうです! 学園祭でのあなたと他の子達を見させられて嫉妬させられてしまいました! 私もあんな風に言ってもらいたいと思いました! どうやら私もあなたのことを好きになれたようです良かったですね! これで満足ですか!?」

「お、落ち着け……!」

 

 五月は叫びながら席を立ちあがると風太郎の目の前まで詰め寄ってきていた。

 その圧と、勢いで大事なことをさらりと言ってしまっている彼女に風太郎もたじろぎながらどうどうと両手を出した。

 その両手を五月が握ってきた。

 

(震えてる……?)

 

「今のあなたとのお話で大分緊張はほぐれました。ですが、怖いものは怖いのです。これから私の学力一つだけで、学校はあなたと別々になり、四葉が導き出してくれた進路も進みづらくなってしまうかもしれません……ですから────」

「わかった。なら今度はハッキリ言ってやる」

「────!」

「五月」

「……はい」

「俺だって結局、家庭教師一つこなすことさえお前らや大勢の助けを借りても、今日までお前らの赤点回避をさせてやることができなかった男だ。それでも、お前に言った通り、これからもお前たちと向き合い続けて、隣に隣に立てるような男になれるよう精進する。正しい道も、間違った道も一緒に歩いていこう」

 

 長い前口上を言いながら、頭の中では次の言葉を考え続けていた。

 即興で組み立てている言葉だが、思いつく限り最大限の言葉を贈ろうと、限界を超えた速度で脳を高速回転させた。

 

「だから、俺は、好きです……結婚してください」

「えっ」

 

 その精一杯で出た言葉に、五月のみならず風太郎までフリーズした。

 数秒の沈黙の後、先に動きだすは五月。

 

「なななな」

 

 壊れた機械のような音を繰り返し、直後。

 

「何を言っているのですかあなたは!?」

「す、すまん! 早まった!」

「散々私達にとって初めての体験というのは、他の人格達との兼ね合いを考えないといけないと言ってきたじゃないですか!? 私に初めてのプロポーズをしてどうするんですか!?」

「いや、プロポーズは普通一回だけだと思うが……」

「それに今はそこまで求めたわけでもありません!」

「じゃあ、今のは聞かなかったことに…………”今は”?」

 

 打って変わって、今度は弁明の言葉を高速回転する脳で探していた風太郎だったが、そのおかげか五月の言葉尻に一つの違和感を覚えた。

 五月の方を見ればひとしきり言いたいことを言い終えたのか、少し落ち着いているように見える。

 

「別に、言われて嫌というわけではありませんし……私達は、こんな体ですから次のチャンスなんてないでしょう」

 

 いえ、そうじゃありませんね。と、言ってから五月は一つ前の言葉を取り消した。

 

「私達五人全員の心を掴んだのですから、そのくらいの意気であってもらわなければ困ります」

「五月……」

「上杉君。あなたともう一つ約束をしてください。いつかきっと、責任、取ってくださいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五年後。

 その日の結婚式場では中野家、上杉家両家の挙式、及び披露宴が執り行われることとなっていた。

 式場の予約は流石に自由が効かず、空いている日を固定して予約をすることになるのだが、当然一つの問題があった。

 当日、五人格の内の誰が式に出るかという話である。

 コントロールできないのだから仕方ないという側面はあるものの、やはり自分が出たいという気持ちは五人全員の中にあった。

 まさか話し合いの末に決めた誰か一人に入れ替わるまで、結婚式当日に自分を痛めつけるわけにもいかない。

 

「融通の効く式場で良かったですね」

 

 ウェディングドレスの着付けを手伝ってくれながら、私の背中越しにお母さんが言ってきた。

 

「まさか神父さんに、あなた達全員の名前を読み上げていただけることになるとは」

 

 挙式をあげるということは、洋式でやることにしているので神父様に誓いの祝詞を唱えてもらうことになる。

 ブライダルスタッフと事前に打ち合わせをした時、私は自分の体質のことを説明したところ、では誰が表に出ていたとしても五人全員の名前を呼んでくれるということにしてくれた。

 全体未聞だと、話ながら笑っていたスタッフの笑顔には今でも救われた気分になる。

 

「だね、風太郎も聞いたことないって呆れてた」

「ですがそんな面倒な娘を引き取ったのも彼なのでしょう?」

「あ、酷い。お母さん自分の娘のことを面倒くさいなんて言うんだ」

「その年になって拗ねたって可愛くありませんよ」

 

 ぶぅ、とそれでもわざと頬を膨らませて見せる私。

 だけどすぐにお母さんに振り返ると。

 

「本当に今日の私、可愛くない?」

「……自信をもってください。今のあなたは可愛いなんてもんじゃありません。とても綺麗です」

「…………風太郎、誰を選ぶかな」

「本当にやるつもりなのですか?」

 

 今日、これから風太郎には実のところ、一つのゲームを持ち掛けようと考えている。

 それはお母さんとお父さんにも伝えてあり、彼に答えを教えないように釘も差してある。

 念には念を入れて、実は昨日から実家に戻っていて昨日と今日は風太郎と顔を合わせないようにするほどの徹底ぶりだ。

 

「こんなことをすれば、あなた達の中でまたいらぬ諍いが起こるかもしれないというのに……」

「でも、思いついちゃったから」

 

 風太郎が私達のことを見分けられることはもう知っている。

 その上でやろうとしているこのゲームは、単なる自己満足と、サイコロの神様へのちょっとした復讐なのだ。

 

「大丈夫、どんな結果でも受け入れられるから」

「……わかりました。もうあなたも大人です。私は口を出しません。できましたよ」

 

 最後にキュッ、とドレスの一部を閉められる音がした。

 その音を最後にお母さんは少し離れると、誇らしげに、そして心底愛おしそうに私を眺めた。

 

「本当に綺麗ですよ」

「……ありがとう。ねえ、風太郎を呼んできてくれないかな。式の前には済ましておきたいから」

「わかりました」

 

 私に頼まれたお母さんは、一つ頷くと、新婦の控室から出て行った。

 

 

 

 数分ほど部屋の中で待っていると、ノックの音がした。

 続けてすぐに扉が開く音がする。

 今、私がいる新婦の着替える場所にはカーテンがしかれていて、その薄い布一枚の向こう側まで足音が近づいて来た。

 風太郎の声が向こうからする。

 

「来たぞ……ったく、一昨日から顔見せやがらねえで何考えてんだ。式の直前まで一緒にいない夫婦なんて聞いたことねえぞ」

「ねえ」

「ん?」

「今から開けるんだけどさ、ちょっとの間でいいから何も言わないでくれるかな?」

「何だよ急に」

「いいから」

「何企んでやがんだか……わかったよ」

「じゃあ、開けるね」

 

 そう宣言をしてから、私はカーテンを開けた。

 開けた先、純白のスーツを身に纏っている彼の姿に一瞬、目を奪われた。

 それは向こうもお馴染みたいで、お願いなんてしなくても呆けるようにこちらを凝視していた。

 そんな彼に向って、私は口を開く。

 

「ねえ、風太郎。一つ、ゲームをしよ」

「……」

 

 私のお願いした通り、律儀に返事さえ返してこない彼。

 その彼に、私は一つの質問を投げかけた。

 

 

 

「私はだーれだ?」

 

 

 

「は?」

 

 思わずマヌケな声を出す風太郎。

 その顔はなんともおかしくて、思わず少し吹いてしまった。

 何でそんな、今更なことをするのか聞きたいと、ありありと書いてあったから。

 風太郎は私達のことなんて、とっくの昔に見分けられるはずなのだから。

 

「風太郎、答えてよ」

「そんなの────」

「ただし」

 

 風太郎の言葉を即座に遮る私。

 答えてもらう前に、一つ補足をする必要があるから。

 このゲームはただ当てるだけのゲームじゃない。

 一つのルールがある。

 

「誰だと答えても、正解だからね」

「────!」

 

 流石は五人全員を好きにさせた彼というべきか、意図を汲み取ってくれたみたいだ。

 これから始まる人生で初めての、そして人生でたった一度きりの結婚式に私も含めて五人全員が神父様から名前を呼ばれることになっている。

 だけど壇上に立って、風太郎と誓いのキスをできるのは五人の中の一人だけ。

 泣いても笑っても、一人だけ。

 裏で体験できるからなんて逃げも、自分自身が許さない。

 それを運任せにしたくなかった。

 だから一つの屁理屈を行動にすることを私達は相談して決めた。

 

 今日、私は風太郎に選んでもらった人になる。

 

 困らせることを言っているのは分かっている。

 だけど彼に選んでもらった方が、全てを運任せにするよりマシだった。

 詭弁なのは分かってる。

 彼が私以外の名前を挙げても、結局私が風太郎とキスをすることに変わりはないし、運よく今日という日を自分の番で迎えられた私さえ、別の人格の子のフリをすることになる。

 それは誰にとっても幸せにならないのではないかと、そんな風に思う人もいるかもしれないが、むしろそれで良かった。

 痛みも五等分。その方が納得がいく。

 だから私は風太郎に入れ替わりのサイクルが分からないよう昨日と今日会わなかったし、まだ一度も名前を呼ばせていない。

 それにこのやり方には実は一つだけメリットもある。

 今日の私は朝起きてからずっと、五人の誰でもあり、誰でもないような素振りをしている。そうするとあら不思議、裏にいる人格達は”自分じゃなかった”ということしか分からなくて、”誰が表にいるのか”が分からなくなるのだ。

 そのために鏡も極力見ないようにしているし、着替えもお母さんに手伝ってもらった。

 だから今、ここにいるのが誰か分かっているのは私とお父さんとお母さんと、そして風太郎の四人だけ。そこには他の人格達さえ含まれない。

 すると嫉妬のあて先は一人に集中せず五等分……には残念ながらできないけど、四分割にできる。

 そうやって様々な予防線を張った上で、彼に答えて欲しかった。

 彼を追い詰めるとわかっているけど、私は言う

 

「愛があれば、見分けられるよね」

「ったく、そういうことか、馬鹿野郎が……………………」

 

 頭に手を当てた風太郎は、頭痛を押さえるようにしばらくそうしていた。

 式までまだ時間はある。いつまでだって待ってやろうと辛抱強くいると、風太郎が顔を上げてこちらを見て来た。

 ああ、ようやく選んでくれたんだと思った。

 そう思うと、怖くなるくらい身が固くなった。

 風太郎の口が開く。

 

「だめだわからん。お手上げだ」

「……………………え?」

 

 口だけじゃない。両手までその場で上げていた。

 今、風太郎は何て? 

 わからないって、そんなわけないでしょ。

 付き合い始めてからの五年間だって、五人全員ちゃんと見分けてもらったことがあった。

 というかそもそも、誰だと答えても正解だって言ったのに。

 

「これはあれだな。ルールで言うなら、俺は誰も選ばないってことになるな」

「そ、そんなの許されるわけ────」

「しかしそうなるとゲームとしてはどうなるんだろうな。俺が見分けられない以上、この場にいるお前は誰ということになるやら」

「────」

 

 話を聞いている途中、一瞬カッとなった頭は徐々に冷めてきて、風太郎があまりにも白々しい物言いの仕方をしていることに気が付いた。

 いや、見分けられないわけがないということは初めから分かっているが、それだけじゃなく、風太郎なのにガラにもなく遠まわしで何かをこちらに伝えようとしているかのように見える。

 

「俺が見分けられない以上、ここには一花も、二乃も、三玖も、四葉も、五月も、誰がいる可能性だって消えないってわけだ」

「…………!」

 

 今度はこちらがようやく風太郎の答えの意味を理解した。

 やっぱり風太郎は分かってないわけじゃない。

 本当は分かっているけど、誰を選んだところで残る四人が傷つくことを理解しているからこその、この答えなのだ。

 愛があるからこそ、見分けない。

 普通の恋愛だったらできない答え。私達多重人格者だからこそできる答えを風太郎は出してきたのだ。

 ここにいる私が誰なのか、それを風太郎に委ねるなら、風太郎は私達を見分けない。

 たったそれだけで私達は五人全員が、いっぺんに彼と式を挙げることになる。

 一人の男性を五人の女性が囲むんじゃない。

 一対一を五回、まるでパラレルワールドのように同時に済ませる。

 一人の体で、五人分の幸せを享受するのだ。

 

「こんな答えじゃ外れか?」

 

 名前を呼んでくれない、見分けることもしない彼のその嘘が、信じれないほど暖かった。

 本当はもっとシンプルで、だけど皆で少しずつ傷つくあらすじを考えてた。

 でも、私達が考えていたあらすじなんかよりも、よっぽど風太郎がくれた答えの方が優しかった。

 ダメだなんて言えるわけがなかった。

 外れなわけない。

 だから私は、答え合わせをしてあげた。

 

「当たり…………!」

 




 あとがき

 五等分の花嫁でハーレムエンドを書いてみたい。そんな思いで書き始めた作品でした。
 二次創作では複数の姉妹と結ばれる展開などもよく見かけるので、参考にすべき先輩方は沢山いるのですが、自分の場合はどうしても一つの五つ子に対する解釈が邪魔をして、中々書けませんでした。
 その解釈というのが、五つ子は全員嫉妬深いということでした。
 原作で嫉妬心の有無をちゃんと書かれていないのは、強いていえば風太郎に恋愛感情のなかった五月ぐらいでしょうか。
 まあ、自分の五つ子に対する解釈をここに書いたところで解釈違いを読者の方々と起こしてしまうのでこれ以上はよしておくのですが、ともかく、だったら嫉妬心有の五つ子と徹底口論するつもりでハーレムエンドにしてやんよと書き始めたのが、この作品でした。

 いざ書き始めてみると、投稿始めて二話目ぐらいの頃に速攻で『これは本当に五等分の花嫁の二次創作なのだろうか?』と自分自身に対して懐疑的な目を向けるようになりました。
 だってごとよめの最たる要素である五つ子を取り払い、そのせいで生き方も違うし、ストーリーも原作沿いだけど大きく変えているし、最早別物なんじゃないかと自分でも分かっていて書いていました。

 さらに言えば、本作は前作の二乃の周回物作品とは違い結末を決めずに始めたので、本当にどうやって着地したらいいのか冗談のように頭を悩ませることになりました。
 福祉の進路なんて、五つ子の本来の進路捨てさせざるを得なくさせたんだから、下手なやつは選べないと必死に五つ子の進路の要素全部持ってる職業を探したりしました。本当に進路選択してる気分でしたね。(笑)
 何より通常の職種だと彼女の体質の問題もあるので、そこで門が狭まっているというのもありました。

 ハーレムエンドを成立させるために、五つ子の心に踏ん切りをつけさせることの他にもう一つハードルがありました。
 なんと日本は多重婚が認められていないのです……!(真剣)
 これには冗談抜きで結構マジに悩んだもので、アマチュア小説なんだからそこはご都合主義でいこうよとなるかもなのですが、ごとよめは原作タイトルの通り”花嫁”になってもらう必要があるので、結婚もどうしても必要でした。
 そこで出て来た案が多重人格設定だったのです。

 五つ子達を多重人格設定にするに辺り、触れるべきか最初の頃はかなり悩んだところとして彼女達を障がい者として扱うべきかというところがありました。
 商業作品の場合、ものによっては別の表現へ読み替えている場合などもあるほど、センシティブなテーマであることは承知しておりました。
 結果は読んでいただいた通り、むしろ話の中核をなすくらい重いテーマとして取り扱わせていただいたので、このことに関して不快にさせてしまった方は少なからずいらっしゃると思います。この場をもってお詫びさせていただきます。
 もっと軽く、入れ替わりのギミックだけをドラマチックに活用することも考えましたが、作者がいかんせん現実のあれこれな要素を無視できないタチなのがいけませんでした。
 五等分の花嫁の他に多重人格の作品を参考にしたりもしたのですが、すると意外だったのが結構な割合で人格の統合を図り、健常者に戻す展開としている場合も多いことでした。
 本作は二次創作という性質上、そんなことをすれば二乃以降の妹達が全員消えることになるのでそれは絶対NGだったのも、取材をした時の衝撃だったと記憶しています。

 そういった多重人格設定にしたことによって生まれた原作との差異といった部分を一手に一花に引き受けてもらったのですが、そうしてみたら驚くほど彼女のおかげで物語はアグレッシブになってくれたのは驚きでした。
 本作の総合的なまとめをすると、一花は話のベースラインを作り、二乃はいつも風太郎のお尻を蹴っ飛ばして話を転がし、三玖は詰まった問題に答えをだし、四葉は書きたかった嫉妬心についての話の象徴になり、五月は五月となりました。
 個人的に好みな話に仕上げられたなと思う反面、原作沿いをやってみたのでそしたら五つ子全員に均等に出番を与えることが難しく、多少偏ったなとなってしまったのが唯一悔やまれるところです。
 というか多重人格設定のせいで姉妹同士での会話をできなくさせたのが個人的に一番苦しかったかもしれません。

 何だか長々となってきたしまとまりもなくなってきたので、ここらで終わりとしますが、最後に。
 九ヶ月強と自分でも想像以上に長い間連載することになり恐縮ながら、ここまでお付き合いいただき、最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。

 さて、あとがきは終わりにして次回作のことについて少しと、宣伝をして終わりたいと思います。
 現状、書きたい連載物が三本程あるので順番に書いていこうと思います。
 本作ほど長くなる作品はもうないでしょうし、原作沿いもしばらくやらないと思います。(少なくとも予定している三本とも違います)
 二次小説の執筆も初めて一年ちょっと経ち、最近執筆筋的な部分に成長痛を感じることがまちまちあり、拙い文章になることが多いのですが、自分の満足いく内容になればどんどん書いていこうと思います。
 多分新作の一話とかはすぐ直近で出るかもです。
 その時が来ましたら、またお付き合いいただけると嬉しいです。

 本当に最後に宣伝です! どれも自信作なので読んで、楽しんで、気が向いたら感想いただけるととっても励みになります。

・二乃の人生二周目フー君略奪大作戦
説明不要なくらいタイトル通りの作品です。
四葉に負けた二乃が、二周目世界できっちり四葉とケリもつけながら風太郎と結ばれる完結作です。
https://syosetu.org/novel/327002/

・中野家if ~アナザーエイジストーリー~
短編シリーズのまとめですが、その中の『中野家は幸せになりたい』をオススメしています。
アラサー彼氏無しの四葉以外の五つ子が、四葉と風太郎も時々巻き込みながら酒飲んで愚痴ってをしてばっかのエンドレス日常系作品です。
https://syosetu.org/novel/324827/

・五つ子旅館殺人事件
完結済みの短編。五等分の花嫁と名探偵コナンのクロスオーバーです。
コナンが結婚翌年の五つ子と風太郎が宿泊するスクランブルエッグの温泉旅館に訪れるものの、そこで殺人事件が起きたらという話です。
単行本一冊の半分以下の量でパッと読める完結作です。
https://syosetu.org/novel/323355/
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