「パパ、あーん」
『あ、あーん』
俺の隣に陣取って、おかずを口許に差し出してくる奏。もちろん、拒否なんて出来ないのでおとなしく食べるが……
「しょうが焼きおいし~!」
「……」
対面の圧が……圧がすごい!!
「どう? 美味しい?」
『あ、ああ! とても美味しいよ』
「嬉しい……! ……ふふん」
「……ッ!!」
やめて、嬉しそうに笑ったあと、どや顔で天道さん見ないで……。ほら、なんかぎりぃ……って変な音が聞こえるから……!
俺はなぜか味がしないしょうが焼きを再度食べさせられながら、どうしてこうなったと頭を抱えたくなるのを必死に耐えていた。
ーー結局、奏の突撃によって二人の争いはうやむやになったので、改めて食事をしようと提案したところ、私が作ると奏が言い出したのでそれに甘えたのだが……。
料理ができ、配膳を手伝うとごく自然に俺の隣に座ろうとした天道さんと聡子さんを蹴散らし、奏が隣に座った。
もちろん、天道さんと聡子さんは抗議したが天道さんは元ストーカーなのと、一応お客様なので上座に座るべきと論破され、聡子さんはさっきまでパパとイチャイチャしてたから却下と言われてぐぬぬと悔しそうにしながらすごすごと天道さんの隣に座ることとなった。この二人を説き伏せるとは奏すげえ……。
なんて若干尊敬した目線で奏を見ていると、冒頭のあーんをされることになってしまったんだが……。
「……やれやれ、せっかく海くんの手作り料理を食べられると聞いて来たのだが……」
「私の手料理で満足して」
「……まあ、不味くはないが」
そういってしょうが焼きを箸で持ち上げ、しげしげと眺めたあとにぱくりと一息で食べる。
「奏ちゃんは家事全般得意だから助かるわ~」
「ほう? 百地の教育がよかったのか?」
もぐもぐと咀嚼しながら聞く天道さん。あ、奏ちゃんつぎはその千切りキャベツが食べたいー。
「ん~ん、奏ちゃんが努力の結晶だよ~」
「それは素晴らしいな」
関心したように奏を見る天道さんの視線を受けて、俺にキャベツを食べさせていた奏は少しだけ頬を赤く染め、誤魔化すように味噌汁に手をつけていた。うんうん、可愛いねえ……。
も……っとギスギスした雰囲気になるかと思ったが、天道さんの大人な対応と聡子さんの緩い雰囲気のおかげで、奏も先程よりも敵が少しだけ薄れているようだ。よかったよかった。やっぱり食事は楽しく食べないとな。
『ああ、これなら良いお嫁さんになれるな』
俺も味噌汁を一口啜り、ほっと一息つきながら同意する。……味は正直数字でしかわからないけど、味覚センサーは高水準の数値を叩き出しているから間違いなく美味しいのだろう。
「「「ッ!!」」」
『ん?』
なぜかぴしりと三人の動きが止まったけどなにかあったのかな?
「……それは、私をお嫁さんにしたい……ってこと?」
『どうしてそうなる?』
しょうが焼きと白米をもぐもぐしていると、横からそんな言葉が聞こえてきてついツッコんでしまう。
「むー……」
「そ、そうだな。海くんと奏の歳の差を考えるとそれはなかなか厳しいだろう」
「あら、今どき十歳差なんて普通よ~?」
『まあ、年の差婚は否定しないけどさ……』
「!?」
個人的には全然アリだとは思っている。……小さい頃から慕ってた相手と結ばれる……いいよね!
「なら!」
ガタッと立ち上がり、俺に詰め寄ってくる奏。こら、まだ食事中だろ?
『ちゃんと席についてごはん食べなさい』
「それよりも!!」
『奏』
「うっ……」
よしよし、ちゃんと座ったな。えらいぞー。
「それじゃ、パパは年の差なんて気にしないんだね~!」
まあ、気にはしないけど……。ちらりと隣の奏を見ると、なぜか聡子さんにサムズアップしていた。あー……期待させてしまったか?
『年の差は気にしないが未成年は論外だぞ? まだまだ視野が狭い子供や父性愛を恋愛と勘違いしている子供とはさすがにな……』
ここはしっかりと言っておかねば。……万が一、億が一もないとは思うが、俺と奏をくっつけようとしているなら全力で阻止しなければならん。
「……」
「あはは~……そ、そうなんだぁ~……」
やや冷めてきた生姜焼きを口に放り込んで今度は味を感じながら食べる。
……先程まで和気あいあいあと話をしていたリビングに沈黙が舞い降りる。……さすがに、食事の場でする話題じゃなかったか……。
「さすが海くんだな。実に素晴らしい回答だ」
若干以上に気まずい雰囲気が流れる中、天道さんは笑顔で頷いている。こら、睨むんじゃない奏。
「だが、裏を返すならば……
『ええ。それなら問題ありませんよ。むしろ大好きですそうゆうの』
「!!」
「だ、大好きなのか……」
やめて、引かないで! でもそういうのいいじゃん……長年の想いが報われるなんて素晴らしいと思うの……。
食事を終え、箸を置いた天道さんはやれやれと肩を竦めたあとちらりと奏を見る。
先程まで俯いていた奏は、嬉しいような恥ずかしいような複雑な表情を浮かべたあと、ぷいと顔を背けてしまった。
「あら? あらあら~?」
そんな二人を見比べて嬉しそうな声を聡子さんは出してるけど……これ、焚き付けてないか? それはいくら天道さんでも許されんぞ?
俺の不服そうな視線を受けるも、どこ吹く風といった雰囲気を出しながらお茶を啜っていた。
「さて、そろそろお暇するとしようか。休憩時間を大分オーバーしてしまったし」
「え~このままここで会議しようよ~」
椅子から立ち上がり、軽く身支度を整える天道さんを見ながらテーブルに突っ伏していた聡子さんが抗議の声をあげる。
時計を見ると時刻は十三時三十分を越えたところ……勤務体系がどんなものかわからないが、ここに来て一時間は経っているので天道さんの言う通りゆっくりしすぎだろう。
「社外秘の話もあるんだ。資料も社内だし……ほら、行くぞ」
「あ~ん。それじゃ行ってくるね~奏ちゃん、パパ~」
『あ、玄関まで行きますよ~』
食器を拭いて棚に戻している手を止めて、玄関へ向かう二人を追いかける。
『えーと……』
「ん? どうした海くん」
廊下を歩きながらちらり背後を確認する。よし、奏ちゃんは来てないな。
『……今日は会えて嬉しかったですよ、天道さん』
「……ッ」
念のために声量を抑えて天道さんに想いを伝える。タイミングはかなり悪かったが、これは紛れもない俺の本心だ。
「……ふ、まだ私の元から離れて一日しか経ってないぞ? ずいぶん寂しがり屋じゃあないか」
『ぐ……意地悪言わないでくださいよ……』
「うわ~二人だけの世界~」
聡子さんステイ! 帰ってきたらいっぱい構ってあげるから!
俺の思いが通じたのか、聡子さんはブー垂れながらも茶化さなくなった。
「ふふ、すまんすまん。……実を言うとな、私も寂しかった。だから百地に頼んでここに来たんだ」
『え、そうだったんですか?』
気を使わせてすいませんと軽く頭を下げると、聡子さんは気にしないでと笑いながら手をひらひらさせた。
「……少しだけ、抱き締めていいかい?」
『えっと……』
……本音を言うと、すぐ抱きたいすごく抱き締めたい。けれども、ここで抱き締めたら奏に見られるリスクがある。どうしよう、どうすればいい?
「はいど~ん!」
「きゃっ!」
『わっ!?』
なんて考えていると、いつのまにか天道さんの背後に回った聡子さんが背中を押して、天道さんが俺の胸の中に飛び込んできた。
「ごめんなさ~い、躓いちゃって~」
『そ、それならしかたないな!』
「……」
俺は優しく天道さんの背中に手を回すと、天道さんも抱き返してくれた。……ああ、天道さんの頭から良い匂いがするぅ……。
俺は蕩けそうになる頬を必死に引き締めていると、天道さんが俺の胸を押して離れてしまった。え、もう!?
時間にして数秒といったところだろうか、あまりに短い抱擁に俺は呆然をしていると天道さんは少しだけ困ったような顔で笑いかけてきた。
「これ以上は我慢できなくなってしまう」
『押し倒していいですか?』
「話を聞いてたかい!?」
「ここでおっぱじめるの!?」
だって天道さんがそんなズルいこと言うんだもん……!! くっそ、むらむらすんなおい!!
……まあ、さすがにそんな事できないから大人しく玄関まで送るけどさ。
「ああ、目的を忘れるところだった」
「あ、ほんとね~」
『……?』
靴を履き、今まさに玄関の扉を開けて出ようとしていた天道さんがごそごそとポケットをまさぐった後、
『スマホ?』
前の世界と形はそう変わらない物を受けとる。……いや、今さらどうした?
「今の時代、大の大人がスマホ持ってないのは不自然だからな」
『ああ、たしかに』
今のところ必要性は感じないが、たしかに人間のふりをするなら必須だろう。
「……まあ、それに、だ」
『?』
「これなら、いつでも気楽に連絡がとれるだろう?」
中には私の連絡先が入っていると、ぼそりと呟く天道さんを押し倒さなかった俺を誰か誉めてくれ。
『ッ!! はい、すぐします!!』
「ちなみに私のも入ってるからね~」
『おお、なにかあったらすぐ連絡するな?』
「……ひいん、歩ちゃんとの反応の差に泣きそうだよ~」
おっと、露骨に態度に出しすぎたかな? 申し訳ない。
「じゃあ、行ってくる」
「行ってきま~す!」
『行ってらっしゃい、二人とも!』
俺は二人に対して手を振って見送る。頑張ってお仕事してくるんだぞ~!!
「パパ」
『お、どうした?』
「パパの身体から天道さんの匂いがする」
『ヒン』
「パパ、正座」
『な、なにもやましいことは「せ い ざ」……はい』
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