「は~い、歩ちゃん! 海君迎えに来ましたよ~」
「……」
朝、未だぐずる天道さんを宥めすかして準備をしてもらった。百地さんの要望は次世代機のボディでないと叶えられない為、人目に触れないようにしなければならない。そのため……
『……』
「えっと~……
「……ああ。まだこのボディは世に出してないからこうするしかない。……わかっていると思うが、外に出すなよ?」
俺は段ボールの中に詰め込まれた上に台車に乗せられた。わあ、世界が緩衝材だけだぁ……。
万が一のためということで電源が入ったままで運ばれるそうだが、正直電源落としてもよかったんじゃないかな?
「わかってま~す♪ さ、海君……いえ、パパ♡ 我が家に帰りましょうね~♡」
「ぐぬぬ……」
え、なんか言った? どうも緩衝材のせいか外の声が上手く聞こえない。
どうやらようやく動き始めたらしい。ゴトゴトというBGMを聞きながら俺は目の前にある緩衝材の粒を数え始めた。
「よいしょ~! カッターカッタ~♪」
17765……17766……17767…17766……17768……お? 音が止まった。着いたのか?
「あったあった~! さ~、パパ~♡ お家ですよ~」
ぴーっとテープを切る音が聞こえた。どうやらようやく解放されるらしい。顔をあげ、真っ黒な世界に天上から一筋も光が……差さない。顔を上げてもみても世界は変わらず緩衝材で溢れたままである。知らなかった、世界はこんなにも柔らかいだなんて……。
『えーと、百地さん? 立ち上がっても大丈夫ですかー?』
アホな事考えるのをやめて百地さんに声をかける。このまま立ち上がれば緩衝材を家に撒き散らしてしまうだろう。
「はい~! ちゃんとシーツ敷いたので大丈夫ですよ~」
『では立ち上がりますね……よいしょ』
ゆっくりと、できるだけ慎重に立ち上がる。いくらシーツが敷いてあるとはいえ、人様の家を無駄に散らかすわけにはいかない。
「窮屈でしたよね~。ごめんなさい、こんな方法しかなくて……」
『いえいえ、仕方ないですよ。俺、機密情報の塊ですし……』
よいしょっとと段ボールから出る。くそ、やっぱり多少はこぼれちゃうな……。
俺は散らばった緩衝材を広い集めて段ボールに戻す。さらば段ボール、さらば緩衝材……お前たちのカサカサな柔らかさは忘れないよ……。
「わあ、すいません掃除させてしまって~」
『いえいえ、気にしないでください。……あれ、ここって車庫ですか?』
改めて周りを見渡すと、コンクリート打ちっぱなしの壁に三方囲まれおりシャッターが閉まっている。
「そうよ~。ここなら人目を気にしなくていいし、あのドアから自宅まで繋がってるとっても便利~」
なるほどーだからここなのか。……しかし、車三台くらい楽におけそうだし、自宅まで繋がってるとかめっちゃ金持ちっぽい家だぁ……。
おっといかん、呆けてる場合じゃなかった。俺は気を取り直し咳払いをして百地さんに声を掛ける。
『あの、ある程度は天道さんから聞いていて……えっと、二週間家族として過ごしたいとのことですが……』
「そうですね~実は娘のために父親を演じてほしくて~」
『ああ、娘さんの為だったんですね! てっきりそういうプレイかなにかと……』
よかった……だめ、あの子が起きちゃう……プレイはなかったんや。……ちょっとだけ残念、ちょっとだけ。
「もう~そんなわけないですよ~」
ぷんぷんと頬を膨らませて怒る百地さんに慌てて謝る。いかん、某ヘブンロードさんに毒され過ぎた。
『ほんとすいません……あの、でもですね、天道さんにも聞いてはいると思うんですが……』
「ふふふ~前の世界では童貞だったのよね~?」
『ヴッ』
い、今は違うし! 経験人数ふた……一人だから童貞じゃないし!
「大丈夫大丈夫~きっとなんとかなるわ~……ただ、娘はちょっと人見知りするから出来るだけゆっくり歩み寄ってくれると嬉しいかな?」
『うう……善処します……。ちなみに娘さんは何歳なんです?』
それから娘さんの事を詳しく聞く。なになに……
・名前は百地
・人見知りするタイプで口数が少ない
・容姿は聡子さん似。コンプレックスに感じている
・今現在は引きこもり気味
……なるほど。
『……百地さん』
「は~い?」
『お世話になりました。どうぞ着払いで結構ですので研究所に送ってください』
「ええー!?」
段ボールの中に片足を突っ込み、座り込もうとする俺の手を引っ張って阻止しようとする百地さん。離して! かさかさで柔らかい世界に帰るんだい俺は!!
『むりむり!! 荷が重すぎますって!! 思春期真っ只中で訳有りな子の父親になるなんて!!』
「二週間だけだから大丈夫、大丈夫よきっと~! ほら、最初はキツくても先っぽさえ
『いやぁぁぁぁぁぁぁずっぽり
その後、10分くらい揉めに揉めたが押し切られてしまい、とりあえず百地さんの自宅に
「じゃあ、打ち合わせ通りに~」
『ええと……俺は去年百地さんの入社した新社会人で、百地さんが俺に一目惚れ。猛アピールの末、口説き落とされた俺は一年の交際期間を経て、今日から結婚に向けた同棲開始……ですよね』
何時聞いても酷い……色々設定ががばがばすぎると抗議したのだが大丈夫の一点張りで押し通されてしまった。
「良くできました~! あ、だから敬語は禁止ね~」
『……ああ、わかった。これでいいか?』
「おっけ~! じゃ、我が家にご招待~!」
指紋認証と網膜認証をし、テンキーで数字を打ち込むと裏口がちゃりと開いた。……いくら嘆いても仕方ない。引き受けたからには愛ちゃんの為にも全力でパパに成りきるのみ!!
「ただいま~! 奏~お客様連れてきたわよ~」
『……お邪魔します』
玄関で靴を脱ぎ、百地さん……いや、聡子さんについて中に入る。
「あの子ったらまだ寝てるのかしら……ちょっと呼んでくるからリビングで寛いでて~」
『わ、わかった』
聡子さんは奏~? と声をあげながら二階に上がって行ってしまった。手持ち無沙汰になった俺はキョロキョロと辺りを見渡す事しかできない。
案内されたリビングはちょっとしたパーティくらいなら問題なくできるくらい広く、暖色で統一された家具は暖かな雰囲気を演出している。……何が言いたいかというと、俺の場違い感がすごいということだ……おうち帰りたい……。
とりあえずソファーに座って待っていると、聡子さんが女の子の手を引いて現れた。
挨拶しようと立ち上がろうとした瞬間に、視線がぶつかる。ーー俺にまるで興味がないのか、その子は酷くつまらなそうな目をしていた。
こんな幼い子がこんな目をするのか……? 動揺して固まってしまった俺に気付いていないのか、聡子さんが話を切り出す。
「お待たせしてごめんなさいね~。ほら、この人が今お付き合いしてる海さんよ。ご挨拶して~?」
「……」
俺が硬直している間に、奏ちゃんはさっと聡子さんの背に隠れてしまった。い、いかん。ぼーっとしている場合じゃない!
まずはこちらから歩み寄るべき! もし拒否されたら聡子さんには悪いが、一旦出直すほかはない。
『はじめまして、俺は山上 海です。もし嫌じゃないなら少しだけでもいいからお話しませんか?』
近寄って目線が合うように身を屈ませたあと、出来るだけ優しい声色を意識して出す。
俺が祈るように待ち続ける。しかし、奏ちゃんからのリアクションはない。……くっ、やっぱりいきなり見ず知らずの異性の大人に会うなんて、思春期の子にはハードル高すぎるんだ……人見知りならなおさらだ。
これはもう無理だと判断し、俺は聡子さんに声をかけようと顔をあげると、小さな、小さな声が聞こえてきた。
「……奏……です……」
おお! 返事をしてくれた!! 俺は嬉しくなって笑みを浮かながらさらに声をかけようとするがーーそこには奏ちゃんの姿はなく、なぜか嬉しそうに笑う聡子さんしかいなかった。
『……あれ、奏ちゃんは……?』
「全力ダッシュして部屋に帰っていったわよ~」
『ええ!?……やっぱり無理だったんだってー……ぜったい怯えられてる……』
「むしろ大成功よ~! いつもなら相手の姿を見ただけで逃げるのに、あの子、自己紹介したんですもの~!」
『まじで……?』
うーん、わからん……とりあえず、焦らずゆっくり仲良くなることを意識するか……。
俺は思春期の女の子にどう接するべきなのかわからず、胃と頭を痛めるのであった……あ、胃も頭もなかったわ。
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タイトル [【速報】ちょwww母親が男連れて帰ってきたんだがwww]
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まったく男気ない母親が男連れて帰ってきたwww
しかも今日から二週間一緒に住むとかwww
……どうしようどうしよう、めっちゃ優しく声掛けられたのに、ろくに返事できなかったんだが……おまいらたすけて
「……書き込み……と」
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