何処かで設定少し変えて出そうとちょこっと書いておきたくなった。
【1 誰かの為に】
薄暗い部屋の中で目を閉じる。
夢を見るのは嫌いだ。嫌なことばかり思い出す。
それはきっと、妬みと言う感情でしかないのだろう。
俺は、
しかし物心がついたころには既に、その人並みの愛情すら感じられなくなってしまった。
兄である
俺は兄とは違う。
生き方も、性格も、感性も、何もかも違うというのに比べられた。
そんな環境が俺と言う存在を歪ませ、卑屈にさせた。
誰かに認めてほしかったのだろうと思う。
「臥龍、仕事だよ。それも久我峰さんから直々にね」
彼女は俺の先輩で、パートナーになった人。
俺と同じで本当の居場所を失ってしまった人。
「君が眠ってるなんて珍しいね、夢を見るのは嫌いなんだろう?」
「嫌でも眠らないと体力が持たないっスから。それで今回の仕事の説明とか聞けたらありがたいんっすけど」
そう言うと姐さんは丸っこい文字で書かれた手書きの資料を手渡してくれる。
「まあ、見て貰えばわかると思うけど―――」
「相変わらず可愛い文字っすよね姐さんって」
「そ、そっちじゃないわい!」
こんな風に慌てたときに出るのが彼女の素の表情なのだと知っているからこそ少しだけからかいたくなってしまう。
「こ、コホン。すまない、取り乱した」
「姐さんは絶対さっきみたいに素で喋る方が良いと思うんっすけどねぇ」
「し、仕方ないだろ。私だって好きでこんな風になったんじゃない」
「まぁ、そうでしょうね」
「からかわないでくれよ臥龍」
手渡された資料をぱらぱらとめくりながら内容だけを頭に叩き込む。
「大丈夫っすよ、こうやってからかう相手なんて姐さんだけっすから」
だって、姐さんは俺のことを使ってくれるから。
誰かの為に、誰かの役に立てるから。
「正直な話、君には好かれているのか嫌われているのか私にはわからないよ」
困った顔で、それでも嫌そうな表情なんて見せない。
そう言うところっすよ、俺が姐さんだけっていうのは。
「嫌いだったらパートナーなんてやってないっス。本気でそう言ってるならちょっと傷つくっスけどね」
「ほ、本気でなんか言ってないわよ! 臥龍の事は信頼してるし……」
知ってる、そんなことは。
本当はこんな仕事なんかしないで普通の女の子である方が似合ってるのに、それを必死で悟らせないようにしていることなんか。
だからこそ、俺は姐さんに少しだけでいいから日常を楽しんで欲しい。
こんな掃き溜めのような世界でも、笑っていてもらえるように。
「やっぱり姐さんはそういう感じが良いっスよ。可愛いし、面白いっスからね」
「むぅ。いいから内容を―――」
「あ、もう内容把握してるっスよ。いつでも行けるっス」
「はぇ?」
兄が天才なら秀才でしかない俺だが、これくらいなら一度読めば内容なんて全て覚えられる。
標的は
抹殺理由は
たったそれだけのことだ。
「それじゃ、俺が紐をつけるまで姐さんは待機っスね」
いつものように赤いジャケットの袖に腕を通しながら立ち上がる。
「そっか、じゃあ、気をつけてな臥龍」
「俺がいないからって寂しがらないでくださいよ姐さん」
「さ、寂しがらないし! ほら、さっさと行って、ほーら!」
背中をぐいぐいと押されて部屋を出る。
さて、今回もちゃんと帰ってこれるように頑張るとしますか。
「それじゃ、行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい」
世界のためなんて言わない。
俺は姐さんの幸せな時間をほんの少しでも引き延ばす為に生きよう。
自分自身の復讐なんて後回しでいい、だから―――
もう少しだけ俺も遊んでいたっていいよな神様。
【2 狙撃者と観測者】
壁に背中を当て、穏やかな日差しに包まれるとついついうとうとしてしまう。
ほんの少しだけならいいかとその睡魔に身を差し出し、瞼を閉じる。
いつも夢のような記憶を思い出す。
平和な日常の夢を。
家族と過ごす、そんな普通の毎日を。
「姐さん、姐さん! ダメっすよ、仕事中に居眠りなんて。眠るにせよちゃんと部屋に戻ってからにしましょうよ」
聴きなれた声が私を揺り起こす。
「寝てなんかいない、ちょっと気を抜いてただけだ」
「いや、どこからどう見ても寝てたっスよ? まあ、確かに最近は忙しかったっスから気持ちはわからなくもないっスけど」
生意気だなぁと思う。
しかし不思議と嫌でもない。
「で、
「勿論っスよ。姐さんの負担を少しでも減らすために日々頑張ってるんっスから!」
こんな状況でもへらへらとしているコイツのおかげなのか、私の感傷に浸ってしまいそうな気分も幾分か
「それで、
「桜ヶ咲グランドホテルの13階。ここから十分狙えるっスよ」
M200インターベーションのスコープ越しに標的の姿を探す。
普通の人間を殺すには過剰すぎるほどだが、これでも一撃で死んでくれないような相手ばかりだから嫌になる。
「臥龍、気象情報とだいたいの距離」
「ほぼ無風、いい天気っスねぇ。距離は約1800っス。標的もいい具合に止まってるんで撃つなら今っすよ」
角度OK、風による微調整OK、標的の行動予測OK。
私は躊躇いなく引き金を引く。
その一瞬で凶弾は寸分の狂いもなく標的の脳天めがけて吸い込まれていく。
スコープ越しでも鮮明に見える赤い体液とピンク色の物体がぶちまけられる。
「標的の反応は?」
「無しっス。姐さんナイスショットっス」
その言葉を聞いて私はメモ帳を取り出す。
「えーっと―――」
「峰守竜司っス」
言われた名前をメモ帳に記入する。
「ねぇ、姐さん。姐さんはただ位置を合わせて引き金を引いてるだけなんっスよ?」
「違うよ、私が私の意志で撃った。これは譲らないよ臥龍」
私の行いを正当化するつもりなんてない。
私は人殺しだ。
例えどんな理想の下にあったとしても、人が人を殺めることは正当化してはいけない。
罰せられるべき罪なのだ。
「いや、別にいいっスよ。譲って貰うつもりなんて無いっスから。ただ俺が言いてぇ事ってそういう事じゃねぇんっスよ」
苦虫を噛みつぶしたような顔で臥龍は私から顔をそらす。
わかるよ。わかってるよ臥龍。君は優しいから、誰よりも人の痛みを知ってるから、そんな君だからこそ私はこうして振舞って居られるんだ。
「さて、臥龍の変顔を見るのも飽きてきたし帰ろうか。君にも眠るならちゃんと部屋で寝なさいと言われたばかりだし」
「ちょ、姐さん!? 変顔とか普通に傷つくっスよ!?」
「はっはっは、褒めてるんだよ? それに普段の仕返しもあるけどね」
クスリと微笑む。
案外コイツと一緒に居ることが楽しくて、ついつい意地悪をしてしまう。
いつ終わってしまうかわからない日常を、取り戻せるはずのないはずの日常と重ね合わせて。
だから、私よりも先に逝かないでくれよ臥龍。