春と夏と秋と冬   作:フユキ 

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桜の咲く春に

「あっ、桜! こんなにたくさん桜が咲いてんの見ると日本の春だなって気すんね」

 

 留学を終えて初めての春を迎えたうるかと成幸が街を歩いていると、公園に咲く満開の桜が2人の目に飛び込んだ。

 桜を見ながらしみじみとした様子で語るうるかに、成幸は笑って相槌を打った。

 

「そうだな。日本に帰って来て最初の春だし久々の桜だろ」

「んー、こんだけ咲いてんの見るのは久々だけど、桜自体はそうでも。実はオーストラリアにも桜あんだよね」

「ああ、前写真送ってきた……名前忘れたけど、紫の桜って言ってたやつのことか?」

「ジャカランダね。オーストラリアの桜的なやつ。でもそーじゃなくって、ホントの桜も向こうにあるんだ」

「え?」

「ほら。咲くのは4月じゃなくって9月なんだけど」

 

 そう言ってうるかはスマートフォンの画面を成幸に見せた。画面には満開の桜と、桜に負けないくらいの満面の笑みを浮かべたうるか。それと明らかに日本ではない、大勢のオーストラリア人が集まっている光景が映っていた。

 

「うわ、ほんとだ!」

「へへ、驚いたっしょ。あたしも向こうの友達に言われたときはビックリしてさー」

 

 驚く成幸を見てうるかはクスクスと笑った。当時の自分の驚きを思い出して、成幸も同じように驚いてくれたことに胸をくすぐられるような喜びを感じていた。

 

「俺もビックリしたよ。向こうにも桜あるんだな」

「昔日本から輸入したやつらしいんだけどね。懐かしい気持ちになれるから毎年見に行ってたんだけど、でもこーやって見るとやっぱ日本で見る桜はいいよね」

「日本のが綺麗とか?」

「んーまあもちろんキレイなんだけどオーストラリアのも綺麗だったからそーいうんじゃなくて……。なんかこう、向こうと違って日本のはニチジョウの中に溶け込んでる感じっていうか」

「ああ、確かにこっちだと別に特別なものじゃないからなあ。この写真だとみんなイベント楽しんでるみたいだもんな」

 

 うるかが言葉を探すようにゆっくりと呟く。それを聞いた成幸がうるかの映った写真を見ながらうなずいて答えた。

 写真に写っている人たちは物珍しそうに桜を眺めたり、スマホで撮影したりしている。日本では花見のようなイベントでもなければこんなふうに桜を見ることはないだろう。非日常的な空間にではなく、日常の風景の中に桜がある。そんなふうに桜を見るのはオーストラリアでは出来ないことだった。

 

「そうそう、特別じゃなくて、自然に見られる感じがいいなって」

 

 成幸の言葉にうるかが笑って同意して、それから改めて桜に目を向ける。それを見た成幸はうるかの手を引いて、桜の咲く公園へと歩いていった。

 

「……ていうかオーストラリアの桜の写真、送ってくれればよかったじゃないか」

「へっへー、日本帰ったら驚かせようと思って! 大成功!」

 

 オーストラリアの桜を隠されていたことに気づいた成幸がボヤくと、うるかは待ってましたとばかりの笑顔と全力のピースサインで応えた。

 無邪気な様子に毒気を抜かれた成幸は、「お前なあ」と言ってうるかの頭をポンポンと軽く叩いた。うるかは満更でもなさそうにして、ゴメンゴメンと軽く言いながら成幸の方へと体を寄せた。

 

「でも日本でもオーストラリアでも、入学式の頃に桜咲くのってなんか面白くない?」

 

 成幸がうるかの頭から手を離すと、桜を見ながらうるかが成幸に話しかけた。どういうことかと成幸は首を捻ったが、すぐに得心してうなずいた。

 

「そっか、オーストラリアだと9月頃が春だから、そっちだとその頃に桜が咲くのか」

「そーそー。日本からめちゃくちゃ離れてるのに、あっちでも出会いの季節に桜が咲くってなんかいいなって」

 

 留学していた土地を思い返すようにうるかが遠い目をする。

 普段天真爛漫で、どちらかといえば子供っぽいうるかのたまに見せる大人びた一面に、成幸は胸をドキリとさせていた。昔と変わらないように見えても、やはり成長しているのだということを実感させられる。

 

「向こうで桜見たときとか、成幸も入学式のとき桜見たんだなーってなんかシミジミとしてたんだよね」

「……いや、いい話だとは思うけどだったら俺もうるかも見てたんだなって思いたかったぞ」

「あっ!? ご、ごめん! そーいえばそうだよね!?」

 

 成幸は速まった鼓動を落ち着かせるように応答しながら、一瞬でそんな一面を無くしたうるかを見て苦笑する。どんなうるかのことも好きだけど、やっぱり一番慣れているのはこういう姿だった。

 

「じゃあいつかオーストラリアに桜見に行こっか」

「……そうだな、いつかうるかが留学してたところ見せてくれ」

 

 いつか、なんて言葉を当然のように交わせることに想いが込み上げてきて、一拍置いてから成幸は返事をした。「そんときは案内すんね」なんて軽い調子で応えるうるかの左手に目を向ける。

 その薬指に輝く指輪を見ながら、そのときまでにはちゃんと彼女に見合う指輪を用意しようと、繋いだ手に少しだけ力を入れて決意した。

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