春と夏と秋と冬   作:フユキ 

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昔からでもそのときからでも今でもずっと

 あの日あたしは初めてキスをした。

 無理やりかな。無理やりだったかもしれない。

 嫌だったかな。嫌だったかもしれない。

 キスされて嬉しいでしょ、なんて思えるほど、自分に自信なんてなかった。

 突然してしまったことに自分でもビックリして、キスなんて向こうじゃアイサツだからとにわか仕込の知識で誤魔化した。

 心臓が信じられないくらいドキドキしていて、何日も何日もそのことばかり考えちゃって。

 あれから何年も経つけれど、あのとき以上に自分のしたことに驚いたことはなかった。

 

「そんでどう? あんときって嬉しかった?」

「今さら聞くなよ……」

 

 秋らしい涼しさになった季節の昼下がり。食欲の秋ということでお昼に秋刀魚の塩焼きと栗の炊き込みご飯でお腹を満たし、午後は読書の秋ということで家の中でくつろいでいた。

 本を読んでゴロゴロしているのにも飽きてきたので、秋といえばということであの高3の日を思い出し、そのときの気持ちを思い出しながら訥々と語って、そんじゃ成幸はどうだったのかと聞いてみた。

 反応しなければよかったという様子で成幸は頭を振って、それでもあたしが黙って見ていると観念したように口を開いた。

 

「ああいうのは付き合ってない相手にやったらダメなんだからな」

「もうしないってばー。ほんとに気づいたらしてたんだって。海外じゃフツーのアイサツだと思ってたのもホントだし、成幸じゃなかったらしたくならないし」

「ならいいんだけどさ」

「そんで嬉しかった?」

「……」

 

 話を逸らされそうになったので改めて話を戻す。気まずそうに顔を逸らす成幸を改めてじーっと見つめる。

 いい加減素直に言えばいいのにと思うけど、なぜか成幸は口を割らない。

 嬉しかったとか言うのが恥ずかしいのだろうか。でも今更そんなことで恥ずかしがる関係ではないと思う。

 それならなんとも思わなかったのだろうか。だけどキスした後はしばらく避けられてたはずだから、そういうわけでもないと思う。

 ……もしかして、嫌だったのだろうか。

 いやいや。

 そんなそんな。

 まさかまさか。

 あのときは確かにホンキで嫌がられてないかなんて悩んでいたけど、それから半年もしないうちに好きだと言ってくれたんだから、キスしたときだって嫌われてなんかないはずだ。

 ……はず、だけど。よく考えれば嫌われてないからって突然キスされてどう思うかっていうのは別なわけで。

 今もまだうんうんと唸っている成幸の様子を見ると、本当にそうじゃないかと思えてきた。

 

「ゴメンナサイ……」

「なっ、何だよ急に!?」

「いやキスされたとき嫌だったって言いづらいんかなって思って……」

「は!? 嫌だったわけないだろ? そりゃ驚いたししばらく悩んだけどさ」

「あれ、そうなん? じゃあなんで黙ってんの?」

「……別に大したことじゃないんだけどさ」

 

 意を決して離したのに成幸にはあっさりと否定された。嫌じゃなかったのならじゃあなんなのか。

 もう考えてもわからないので直接聞いてみると、気まずそうにしながらもあっさりと成幸は口を開いた。

 

「された直後は嬉しいとかよりなんでって思ったり驚いたりしたほうが大きかったけど、後から振り返ったら嬉しかった……というかなんだろ。ドキドキしたっていうかしばらくうるかのことばっか考えてた」

「そっか。だったらよかった」

 

 よかったよかったと冷や汗を拭って、それじゃあなんでと首を傾げて成幸を見つめる。

 

「ただうるかにキスされた後、前よりうるかが可愛く見えてさ」

「……それなんか悪いん?」

「悪いことないだろうけど……うるかはずっと前から俺のこと好きでいてくれたのに、俺はキスされてそれで好きになったみたいでなんかカッコ悪いというか……」

「成幸って普段からマジメだけど、妙なところでもやっぱマジメだよね」

 

 成幸が言いづらそうにしていた理由がわかって思わず笑みがこぼれてしまった。キスで好きになるのがカッコ悪いとか、まあ分からなくもないけれど、付き合ってからもうしばらく経っているのだから気にしなくてもいいのに。

 けれどそういうのを気にするのが成幸らしいとも思うから、そのままでいてほしいとも思う心もあったりして。我ながら身勝手だなあと苦笑する。

 

「でも成幸があたしのこと好きになったのってそんときだったんだ」

「いや……どうだろ。印象の深さでいえば中学のときのこととか、高校のときでもキスされる前のほうが印象深い気がするし」

「じゃあきっかけの一つってことでいいんじゃない?」

 

 そもそも成幸に好きになってもらいたくて色々やっていたのだから、キスがきっかけだったとしても別に気にすることなんてない。

 だけどまあ成幸が気にするなら、そんなふうに考えてくれればいいと思う。

 あのことがなければ好きにならなかったっていうのでも、いつの間にか好きになってたっていうのでも。どっちだってあたしのしてきたことで好きになってくれたわけだから。

 

「……そうだな。あの後可愛く見えたのは事実なわけだし」

「うん、あんま深く考えてもしょーがないしね」

「うるかもそういうのあったのか?」

「そういうの? ……ああ、成幸がキスした後カッコよく見えたかってこと? あたしは別にそういうのはなかったけど」

 

 クスリと笑いながら返事をする。キスするずっと前から好きだって自覚していたし、ずっと前から誰よりカッコよく見えていた。だからキスしたからってカッコよく見えるなんてことはなかった。

 そんなことを続けようと思っていたけど、成幸がいつの間にか近くに寄ってきていて。

 

「……今更変わるわけないか」

 

 突然キスをしたかと思うと少しの間あたしのことを眺めて、それからそんな言葉を残して部屋から出ていった。

 キスなんてもう何度もしているのに、それでも突然されると頭が真っ白になってしまうんだなとか、唇に残った熱と感触が少しずつ嬉しさを実感させてくれるなとか、今更になってされる側の気持ちを理解した。

 

「……あたしだってあのとき逃げたりしなかったんだけど」

 

 呟いた言葉は成幸には届かない。耳まで赤くなっていたからきっと恥ずかしさに耐えられなくなったのだろうけど、それにしたってあんまりだ。

 とりあえず戻ってきたら仕返ししようと考えながら熱くなった顔をクッションに埋めて、世界で一番大好きな顔を思い浮かべた。

 

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