ここは『キヴォトス』弱者に口なし 作:GAU-8
「両手を頭の後ろで組んで」
「ハイ!」
「回れ〜右〜」
「ハイ!」
「そのまま地面に寝て、うつ伏せになって」
「ハイ、ヨロコンデー!」
「……」
なにかこう、背筋が冷たくなるような視線を感じる気がする。言われた通りにしているというのにいったい何が不満なんだろう?
「はぁ。じゃあおじさん行くけど、そのまま大人しくしてるんだよ。いい?ドローンで上から見張ってるから逃げようとしても無駄だからね」
「ハイ!」
そう言い残してホシノが歩き始めたのを合図にビーチフラッグよろしく華麗にスタートダッシュを決め……!ようとして組んでいた腕を解いた、そのわずか0.1秒後には背中に銃弾を撃ち込まれて地面に叩き伏せられていた。
「いたぁい」
「あのねえ!動き出すの見えてたからね!」
「ダメかぁ」
「むしろなんでいけると思っちゃったの……」
それにしたって対処が早すぎる。いくらホシノでも最初から疑っていなければ出せない反応速度だ。猜疑心の塊め、人を信じることを知らないのか。
「今のは逃げようとしただけです!別に攻撃しようとしたんじゃないですからね!ついでに言えばこの前銃を拾ったのも攻撃しようとしたんじゃなくて、自分の所有物を持って帰ろうとしただけなんですけど!?」
「そ、そっか……いや、どっちにしろダメだよ。おじさんまだやることあるから行くけど、今度こそ大人しくしてるんだよ。わかった?」
「ハイ!」
「……返事だけはいいんだから」
そう言い残してホシノが歩き始めたのを合図にビーチフラッグよろしく華麗にスタートダッシュを決め……!ようとして組んでいた腕を解いた、そのわずか0.7秒後には背中を銃口でど突かれて地面に叩き伏せられていた。
「いたぁい」
「うへ、頭撃ちすぎちゃったのかな?」
極めてなにか私に対する侮辱を感じます。
「もお〜、まだお仕事残ってるんだからこんなところで遊んでられないんだよ〜。お願いだから大人しくしててよ〜」
「じゃあもう気絶するまで撃てばいいじゃないですか!この前みたいに!止めてって何回言っても全然聞いてくれなかったこの前みたいに!とっくに動けないのに気絶するまで撃ちまくったこ、の、ま、え、み、た、い、に!」
「だからそんなことしてる暇は……はぁ。まぁ、いいや。おじさんだってあの時はやり過ぎたかなって反省してるんだよ。ホントに。ごめんねぇ、大丈夫だった?傷になっちゃってない?」
……ホシノ。敵にそんな心配を?
「だからさ、もうあんなことやらせないで?おじさんだって心苦しいんだよ……弾だってもったいないし」
絶対後者の比重の方が重いじゃん!うわぁん!一瞬でも絆されかけた俺がバカでした!どうせ俺みたいなキヴォトスに掃いて捨てるほどいるチンピラなんて弾代以下の存在ですよーだ!バーカ!
『ホシノ先輩。こっち側の残敵掃討終わったよ』
「んあ?シロコちゃん。早かったね~、お疲れ様。みんな無事だよね?」
ホシノが持っている通信機からシロコの声が聞こえてくる。スマホ使ってる我々ワラワラよりいいもの使っている。ずるい。
『楽勝よ!こいつら全然たいしたことないんだから!』
『ノノミも無事で〜す』
続けて聞こえてくるのは、気が強そうなネコミミボイスに、ノノミを名乗る謎のゆるふわボイス。その通信機本当にいいもの、なのか?通信内容こっちに筒抜けだけど。
『裏門に回ろうとしていたヘルメット団も退却していきます。ただ集結しようとしているような動きもあって……』
戦況を分析しているのは黒髪エルフ耳チックなボイス。ホシノをこっちに差し向けたのもこやつに違いない。許さんぞ。
「そのまま帰ってくれればいいんだけどね〜。んじゃ、こっちも一回集合しよっか。あ、それと誰かロープ持ってきてくれる?」
俺の処分は保留。集合場所まで連行される運びとなった。
俺はとっ捕まりましたが、パイセンへの追撃がうやむやになったので何も問題ありません。も、もちろん初めからそれが狙いでしたし……俺の勝ちです。ホシノは足止めされたことに気づきもしなかったので完全勝利です。暴の面では劣っていても知略面でなら……
「あの3人は一旦見逃してあげるよ。また向かってくるようなら容赦しないけどね」
ヒェッ
アビドス高校正門前。焼け落ちて炭になった車両が道路に乱雑に放置されていて、ポストアポカリプスな雰囲気を醸し出している。あれはいい感じの遮蔽物になりそうだ。次に来る時は屋上にノノミニガンがいても前回程の惨状にはならないだろう。
ホシノ、シロコ、ノノミ、セリカ、アヤネ。全員集合したアビドス生徒達は、皆一様に浮かない顔をしている。どうしたんだろうね、さっきまで楽しそうにチンピラ共をしばき回してたのにね。うへ……うへへへ!
「戦車は回収されて、捕まえたのもこの子一人だけかぁ。うへぇ、今日は完全にしてやられたねぇ」
そう!全てはただの時間稼ぎ。主目的であった戦車は無事に気取られることなく逃げおおせ、さらにトラックと回収班が気絶した団員達を一人以外は全員収容して鮮やかに撤収したのだ。相手があのアビドス高校だということを考慮すれば完勝だったと言っても過言ではないだろう。
……俺が一人だけこんなところでロープでぐるぐる巻きの、羽が生えた芋虫にされていることを除けばね、うん。
「だからさっさと売り飛ばしちゃえばいいって言ったのに!」
「ひとのものをうったらどろぼうだよ、セリカちゃん」
「なら徹底的に破壊しておくべきだった」
「そうだねぇ。すぐ動かせる状態じゃなかったはずだけど、甘かったねぇ」
「ごめんなさい。私がちゃんと見張っていれば……」
「アヤネちゃんのせいじゃありません。みんな敵を倒すことばっかりに夢中になりすぎてたせいですよ~」
殺戮を楽しんでいるんだよ、貴様らは!
「ま、反省会はこのくらいにして……この子どうしよっか?」
「埋める?溶かす?」
シロコが怖いよお。もしかしてバレた?ヘイローも羽も見られてバレないわけないか。違うんだよお、騙すつもりなんてこれっぽっちもなかったんだよお。許して、殺さないで。
「え、ええっと……ヴァルキューレに引き渡すだけじゃダメなんでしょうか?」
さすがアヤネ。アビドス唯一の常識人……でもアヤネもアヤネで悪党退治とか言っちゃう御人なんだよなぁ。アビドスって、ホントにアビドス。
「キミたち、前に来たのと同じヘルメット団でしょ?なんでまた襲ってきたの、警察は?まだ一週間も経ってないよね?」
「反省文書かされただけです。たぶん、初犯だから?っていうか今日は戦車取りに来ただけですし〜。襲ってきたのはあなた達で、ヘルメット団は被害者なんですけど〜」
「はぁ!?しっかり撃ち返してきたクセに、何言ってんのよ!」
こちらを踏み潰さんばかりに食って掛かってくるセリカ。今なにかおかしなワードが聞こえたような?
「……撃ち返してきた?」
「……あ」
「ん、先手必勝」
やっぱり今日はこっちが被害者なのでは?団員達が一方的にボコボコにされただけでアビドス生にはかすり傷一つつけられていないんだし……嘆かわしい。
「ヴァルキューレに引き渡して様子見しかないかなぁ。な〜んか、また反省文で済まされそうな気もするけど……」
100枚でも200枚でも書いてやりますよ、そんなもの。なにせ、俺の心の中はアビドスへの逆恨み反省と責任転嫁自責の念で満ち満ちているからな。
「警察で罰してくれないなら、自分達で罰するしかない」
ゑ?
「ちょ!?シロコちゃん、私刑はダメだよ!?」
「死刑?そこまでしないよ。ホシノ先輩私のことなんだと思ってるの?」
なんて言いながらシロコは俺の足の方へ回り込んで右足に手をかける。
「ひぃっ!も、もがないでください!バッタじゃないんですよ!?し、死んじゃう!」
「だから、しないよそんなこと……えい」
シロコがとったのは膝から先……ではなく、靴と靴下。裸足になった足裏を細い指が這い回る。どんな恐ろしい拷問をされると思えば、銃撃戦の罰がくすぐり攻撃とは実に可愛らしいではないか。
「ふっ、残念でしたね。昔っからその手の攻撃は効か、ふへっ。へ……?」
アレ!?
「ん、ここだね」
「あ、あはっ!ははははは!あ、あれ!?な、なんで、ははは!ははははは!」
くすぐりには強いはずなのに笑いが止められない。
そうか!俺の言う昔の体と今の体は違うんだった。てか、体が違うってなに!?今更ながら異常事態すぎる!
「や、やめっ!あははは!」
「シロコちゃん……」
ホ、ホシノ!このままじゃ後輩が人殺しになっちゃうよ!助けて!
「左足はおじさんがやるね」
「い、息!息できな、あは!死んじゃうからぁははは!」
「なんだか楽しそうですね。ノノミ、いっきま〜す」
「……バッカみたい」
「あはは。ほ、ほどほどにしてくださいね」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
「……シテ……シテ……コロシテ」
「……前回もあなた方は捕まえたヘルメット団を虐待したとの情報があったのですが?」
「えぇ?そんなことは……あ。誰かなぁ、そんなデタラメ言ってるのは」
「ヒッ……ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ」
「……いくら相手が悪人だからといってなにをしてもいいというわけではありませんよ。今後は気をつけてくださいね」
「うへぇ、怒られちゃった」
「では彼女はこちらで引き取らせていただきます」
「は〜い。おつかれさま〜」
反省文は2枚に増えましたが、5分で書き上げてやりました。それだけ胸の底からマグマのように湧き上がる反省の気持ちが強かったということですね。
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本当になんとお礼を申し上げたらよいか……