ここは『キヴォトス』弱者に口なし   作:GAU-8

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力こそパワー

 息つく暇もない怒涛の日々を過ごしてきたが、考えてみればまだこっちへ来てから半月も経っていなかった。もう一年くらいはここで暮らしてきたような感覚でいたけど、まあそれだけこの世界に順応できたということだろう。

 このウェイストランドで得られた教訓がある、人は過ちを繰り返す……間違えた。ロスサントス、違った。ナイトシティ、違うな。そう、このキヴォトスで生きる中で学んだこと、それはここで最も重要となるステータスは“力”なのだということ。

 わかってはいたことだが、まともなのは僕だけか、と叫びたくなるくらいには、この街の辞書に民度という言葉がなく、治安が透き通っている。

 ここにあるのはたった一つのシンプルなルールだけ。

 ここはキヴォトス。死人に口なしThis is the『Kivotos』.Dead men's words hold no meaning.

 倫理、論理、大義、正義、法律。どんな言葉を並べ立てようがその意味を保証するのは強さであり力である。弱いやつが発する言葉など何一つ意味をなさない。

 銃を向けられて押し黙る程度の力しかないから適当にあしらわれて追い払われる。力がないから四の五の言わずに目の前の仕事に飛びつくしかない。力がないから制止も聞き入れられずに無駄に気絶させられたり、警察が到着するまでの暇潰し感覚で恐ろしい拷問をされたりする。

 要するにそれが嫌なら……殺せばいいんだッピ。

 

 

 

 ヴァルキューレから釈放されると我が家に直帰して朝までふて寝した。次の日アジトに顔を出すと、リーダーから呼び出しがあり、部屋まで出頭するようにとの伝言があった。パイセンが俺の功績をリーダーに報告しといてくれたらしい。それでこそ体を張った甲斐があるというものよ。

 リーダーの部屋に入ると労いの言葉をもって迎え入れられた。リーダーは相も変わらず身の丈に合わない椅子に座って存在感をくわれている。椅子と喋ってる気分になる。やめたら、その椅子座るの。

 

「ミユキに聞いたわよ。あんたあのクソチビピンクと互角に渡り合って時間を稼いだんですってね?すごいじゃない」

 

「え!?えぇっと……それは、その」

 

 散弾を片手で足りないくらいぶち込まれることと、ハンドガンを撃つでもなく投げつける行為が等価だと仮定するのであれば、互角と言えないこともない、か?いや、無理がある。話盛りやがったのかパイセン?あなたそもそも速攻逃げて何も見てないじゃん。

 

「誤解です。まったく手も足も出ませんでした」

 

 後が怖いので話に乗っかって報酬を引き出すよりも、事実を正直に伝えることにした。

 

「……でしょうね。ミユキは後でおしおきね」

 

 っぶねー!巻き込まれるとこだった。ご愁傷様、ありがた迷惑なパイセン。せっかく助けたのに残念だ、安らかに眠れ。

 

「どこまで嘘でどこまで本当なのやら……まず時間を稼いだってところは本当?」

 

「えぇ、まあ一応」

 

「どうやって?」

 

「その、ちょっとした搦め手で──」

 

「搦め手ぇ?あんたが?」

 

 なんだその信じ難いと言いたげなリアクションは?俺が搦め手使ったら変か、おい。そこは別に疑うところないだろ。

 

「リーダーが知らないだけで知略派なんですけど。けんぼーじゅっちゅー?お手のもの、なんですけど」

 

「そ、そう。あんなとち狂った獣みたいな戦い方する奴が、意外ね……ん、ぐふっ」

 

 なにも面白いこと言ってないが?なに笑ってんだ、ぶっ飛ばすぞ。

 

「ん、んっ!まぁ、ミユキ達は無事に逃げ切れたわけだし。そこは信じてあげるわ。あんたに知性……ふふっ!そんなものがあるのかどうかはとりあえず置いといて」

 

 あるに決まってんだろぶち殺すぞ。

 

「あいつに散々撃たれても全く効いてなかったらしいけど、そっちは?」

 

「そんなわけないじゃないですか。1撃で気絶した方が楽に思えるくらい痛いし、バッチリダメージ食らってますよ」

 

「何発撃たれたの?」

 

「さぁ?いちいち数えてないですけど片手じゃ足りないくらいには」

 

「本当に?よくあんな重い銃撃を5発も耐えられるわね。私は1発でもう意識が飛ぶ寸前だったってのに……」

 

 銃撃に重いも軽いもないだろう。赤ん坊が撃とうが筋肉モリモリの成人男性が撃とうが銃の威力は同じ……はずなのだが、思い返してみれば確かにヘルメット団に撃たれたときよりもホシノに撃たれた時の方が体に響く。神秘ってやつの影響だろうか?

 

「ふ〜ん……」

 

「な、なんですか?」

 

 リーダーは頬杖をついて人を値踏みするような視線で頭の天辺からつま先まで眺めてくる。

 

「決めたわ。あんたがあのピンクを倒しなさい」

 

 ピンク?ああ、黒崎コユキね。任せろ。髪の毛一本残さずこの世から消し去ってやる……え?違う?小鳥遊ホシノ?キヴォトス最強議論で必ず名前がでるあの暁のホルスさんを?俺が?

 

「むむむ、無理です絶対!リーダーが大好きな筋トレで鍛えて自分で倒せばいいじゃないですか!?」

 

「無理よ。耐久力ってのは一種の才能だから、後から鍛えて身につくもんじゃないの。あんたを鍛えた方が間違いなく可能性はあるわ」

 

「むむむむむむむ」

 

「なにも今すぐ倒せるなんて思ってないわ。最終的にあいつを超えてくれればいいのよ」

 

 そんなことできたらキヴォトス最強じゃんね。リーダーは強いことは認識していても、ホシノの実力を正確に把握できていないらしい。

 

「……しつこく絡んで釘付けにするくらいなら、まあ、そのうち、頑張って、できるようになったらいいなとは思ってますけど」

 

「ダメ!倒して!」

 

「なんで!?」

 

 この前やられたこと根に持ってるの?復讐はなにも生まないよ?

 

「それだけ才能があるのに幼稚園児並の戦闘力しかないなんてもったいないでしょ!?あんたにはクソチビピンクのさらにその先までいってもらいたいのよ!」

 

「……なんでそこまで?」

 

「倒してほしい相手がいるの……」

 

 ホシノより上だと思われてるってどんなバケモンだよそいつ。アバンギャルドくん?

 

「そんなこと言われましても……」

 

「そうね、とにかくまずはあのピンクを倒してからの話よ……じゃあこうしましょう。あいつに食らいついていけたらその分だけボーナス──」

 

「やります!」

 

「そう言ってくれると思った。しばらくは武器の調達に専念するから、出撃はないわ。その間にしっかり鍛えておいてね」

 

「ワン!」

 

 これは……えーと、ち、違う!これは金に釣られたとかそんな浅ましい話では決してない!どの道キヴォトスで生きていくために強くならなければならないのだから、やることは何も変わらない。スポンサーがついて、5000兆光年先のゴールにホシノをくすぐり殺……倒すという目標を仮置きしたというだけの話。それだけ、イイネ。

 

 

 

 といってもやることといえば地道にトレーニングを続けること。楽しい楽しい200km遠足の再開である。

 

「やってやる、やってやる、やってやるぜ。嫌な彼奴をボコボコに。喧嘩は売るもの堂々と、肩で風切り啖呵切る♪」

 

「……おはよう。ご機嫌だね」

 

「おはよーございまーす」

 

 その声は我が敵シロコ氏ではないか?今日もいい声してるね……ん?

 

「ほぎゃああああ!?」

 

「そんなに驚かなくても……」

 

 いつの間に背後をとられたのか、声の大きさからしても手が届くくらいの距離に間違いなく居る。ど、どうすれば!そうだまずは挨拶しないと、キヴォトス流で!

 

「う、撃たないでください!」

 

「撃たないよ?」

 

 振り向きながら流れるように土下座。撃たれて床ペロさせられる前に自ら平伏して床ペロすることで痛い目にあうのを避けることができる。キヴォトスでは自分より強い相手にはこうやってアイサツする、孔子にもそう書いてある。

 

「えっと、とりあえず顔上げてくれる?」

 

「ははーっ!」

 

 お許しがでたので正座したまま顔だけを上げる。シロコは最初に会ったときのような困惑した表情を浮かべていた。

 

「そんなところに座って痛くないの?」

 

「ハイ!お構いなく!」

 

「そ、そっか」

 

 この見えそうで見えない絶妙な角度にこそ価値が……ゲフン!

 

「……変なの」

 

 なんという暴言。なんでそんな酷いこと言うの?よりにもよって砂狼シロコにそんなこと言われたらおしまいだよ。

 

「それよりさっきの歌だけど──」

 

「お気に召しませんでしたか!?もう二度と歌いません!お許しください!」

 

「そうじゃなくて、ボコボコにしたい相手がいるから鍛えてるの?」

 

「え?えぇっと、それは……」

 

 なんて答えれば?目標の一つではあるけど、別にホシ……相手がいなくてもキヴォトスで生き抜くために結局鍛えることにはなるだろうし、目的とは違う。実際ホシ……あのお方をどうこうできるレベルに至れずとも全然構わないわけだし。

 

「そうなんだね」

 

 ところがシロコにはそんな俺の考えは伝わらず、答えに詰まったのを肯定だと受け取ってしまったらしい。

 

「……あ、いや、ち、違!殺さないで!」

 

「うーん……」

 

 いつものように即否定してくれないシロコが、ライフルのセレクターをセーフティにしたりフルオートにしたりと手遊びしながら長い考えごとに入ってしまう。俺はただ正座したまま判決を待つしかない。原作キャラに銃を向けたで賞で死刑ですか?キヴォトスじゃ銃撃戦もじゃれ合いの一環だと思ってたのにあんまりです。

 

「まあ、いいや。協力するね」

 

 なんで、いいの!?アビドスへの裏切りにならない!?おじさんがん。って聞くたびにむせるようになってしまうのでは!?

 

「そ、そんなことしていいんですか?」

 

「うん、幼稚園児並の強さだと普通に生きてくだけでも大変そうだから。健全な精神は健全な肉体からって言うし、鍛えてる内に考え直してくれればいいかなって。余計なお世話かな?」

 

「あ、いや、そ、それはその大変ありがたいお申し出ではござりまするが……ま、まことによろしいので?」

 

「うん……気になったんだけど、なんで今日はそんなに腰が低いの?先輩なんだから気を使わなくてもいいのに」

 

 敵同士に先輩後輩もあるまい。あるのはどちらが強いかだけで、その点シロコ様に気を使わないなどおこがましいマネができようはずもなく……もしかして気づいてない?けどどうやって確認すれば?下手なこと聞いてそれが原因でバレるのは避けたい。

 

「あの、つかぬことをお聞きしますが、シロコさんとお会いしたのは何回目でございましょう?」

 

「ん?……2回目、だよね?」

 

 3回目なんだけどなぁ。ヘルメット被ってたからわかんなかったか。ふっ。ビビって損したぜ。

 

「他にどこかで──」

 

「ない!ないです!腰が低いのはそういう生物なんで気にしないでください!そんなことより協力してくれるってのは具体的にはどのように?」

 

「ん。これみて」

 

 そう言ってシロコがスマホの画面をこちらへ向けてくる。そこには地図アプリのようなものと、アビドス自治区をぐるりと一周するように青くルートが表示されていた。

 

「なるべく治安がマシな場所を選んで設定してある。それでも夜は危ないから日の出からスタートして、日の入までだいたい12時間、時速17kmくらいで走り続ければゴールできる計算だね」

 

 いかれてる。まず12時間ぶっ通しで走る前提の時点でいかれてる。誰がいかれてるってそんな目標タイムを設定したリーダーだが。

 

「えっと、無理──」

 

「ん。だからそれができるように頑張るんだよね?ペースキープは任せて」

 

 そう言って何故かライフルを掲げて見せてくるシロコ。いや、本当になんで?

 

「ペースが落ちてきたら足元に威嚇射撃する。当てるつもりはないけど、当っちゃうかも、ごめんね。でもそのくらいの緊張感があった方がいいよね?」

 

 よくないです!

 

「や、やっぱり1日中付き合わせるのは悪いかなって──」

 

「大丈夫。前から自転車に乗りながら銃を撃てないかなって考えてたんだ。その練習でもあるから、気にしないで。昔の人は馬に乗ってやってたらしい。確か……人追物?」

 

 聞いたことねえよそんな物騒な単語。鎌倉武士もドン引きだよ。

 

「じゃあ出発しようか」

 

「や、いや!あの!やっぱりシロコさんに悪いので、この話は無かったことに──!」

 

「気にしないで。自由登校日は毎日付き合うから」

 

「いや──!」

 

「気にしないで。帰ったら指一本動かせなくなるくらい体力使い果たしてもらう」

 

「やだ──!」

 

「気にしないで。早く行って。撃たれたいの?」

 

 やっぱりこれバレてて殺そうとしてんじゃないのかな……?




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