ここは『キヴォトス』弱者に口なし   作:GAU-8

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トレーニングはバランスよく

 1日200kmのノルマで1週間の内に周回遅れが発生する原因、その100割は砂狼シロコ様にありがたくもトレーニングを手伝っていただいていることにある。

 以前のルートはアジトがある地区からアビドス地区に入るとそのままコの字を描くように外周をなぞったら、そのままアビドス地区を出てアジトへ真っ直ぐ帰還するというもので、距離はおおよそ200km足らず。

 だがシロコが一緒のときは話が変わる。最初に無駄な嘘をついたせいでアビドス地区の外周を丸々一周させられ、そこでシロコから解放された後にこっそりアジトに帰還するというコースになる。距離にして約230km。たかが30kmされど30km。3、4日と周回していればなかなかの差になる。

 あと、威嚇だから当てるつもりないとか言ってたのにすっごい当ててくる。足ならまだわかるけど頭に当たる。狙いが逸れそうになるとつい……じゃねえんだよ!なんだ、ついって!

 ……以上の事情によりシロコには悪いが一緒にトレーニングする日はなるべく少なくしたい。特に月曜日、初っ端からノルマ増量キャンペーンなんてテンションだだ下がりの事態は御免被る。そういうわけでシロコには嘘のトレーニング日程を伝え、今日の200kmさんぽは一人で追い立てられることもなく自分のペースで──

 

「ヒャッハー!久々の獲物だぁ!絶対逃さねぇぞ!」

 

「荷物置いてけ!荷物置いてけ!なあ!遭難者だ!遭難者だろう!?なあ、遭難者だろお前!」

 

 ──自分の、ペース、で……?

 

 

 

 

 白昼堂々、住宅街の往来のど真ん中で頭にライフルAKを突きつけられてホールドアップさせられる私。周りを包囲するように下卑た笑みを浮かべるヘルメット団が10人くらい。フルフェイスなのに表情がわかるのは全員がげっへっへぇ、とご丁寧に声でどんな表情をしているのか教えてくれるおかげだ。

 

「ずいぶんでっかい荷物背負ってんねぇ、アタシらが軽くしてあげよっかぁ?」

 

 またこのカバンのせいか。なんなのこれ。こいつを持ってるだけで強盗共が虫みたいに引き寄せられてきやがる。

 

「あの、私もヘルメット団なんですけど……」

 

「はぁ?んだよ、お仲間かよ……で、どこのヘルメット団だ?」

 

 どこの?そうか、前に襲撃してきたワ……ワルワル?ヘルメット団の例もあるから、ワラワラとの関係によっては状況が悪化することもあるのか。失敗したかも。

 

「おい、テメェ!なにヘルメット団だって聞いてんだ!」

 

 額にグイグイと押しつけられる銃口が答えを急かしてくる。

 

「ワラワラヘルメット団です」

 

「ああ?ワラワラァ……?」

 

 ふと目の前のヘルメットの腕から力が抜けて、ライフルの銃口がふらふらと足元へと向きを変えていく。構え直すこともせず、周りにいるヘルメットと互いに顔を見合わせると、最後に私へと視線を戻してくる。そして、吹き出した。

 

「ぶはっ!聞いたか?こいつ、わ、ワラワラだってよ!?」

 

「ワラワラァ……?そんなアビドスより弱そうなヘルメット団あったけかぁ?ヒャハハハ!」

 

「おいおい!お前、10人なんてとんでもない大軍に囲まれちまって大丈夫かぁ?チビってんじゃねえだろうなぁ?」

 

「「「ギャハハハハ!」」」

 

 ……別にワラワラヘルメット団にそこまで愛着があるわけではないので嘲りを受けたところで別に何も思わない。アビドスもナメてるようだが、こいつらだって戦えば簡単に蹴散らされるのは変わらないだろう。好きに言わせておけばいい。

 それはそれとしてあなた達……折るね☆

 

 

 

「ど、どうだ。思い知ったかこの……この……う、うえぇぇ……痛いよぉ」

 

「ぐっ……なんなんだお前。なんでまだ動けんだよ。ずりぃぞ」

 

 ヘルメット団10人を相手に耐久力に物を言わせてゴリ押ししたあげくに辛勝鮮やかな完勝を納めた。弾切れでとどめを刺せなかった1人はまだ意識があるようだが、もう動けないみたいだしいいだろう。敵に食らわせた弾丸の倍以上被弾した気がするけど最後に立ってるので私の勝ちです。6人倒すのにマガジン5つ使って2人を殴り倒して残りは逃げられたけど鮮やかな勝利です。

 ……とはいえ敵がそこらのチンピラだから良かったようなもので、今のような戦いぶりでは、ホシノが相手だったとしたら10回はぶち殺されているだろう。

 あまりトレーニングの効果は実感できない。やはり基礎体力と足腰ばかり鍛えていてもダメだ。上半身と銃の扱いもトレーニングして、実戦経験も積まないと……

 

「はぁぁ……まったく。好き勝手撃ってくれたよね」

 

「う、ぐぇ!」

 

 目眩がして立っているのも億劫になってちょうどいい椅子を見繕って腰を下ろす。ちょっと硬いけど地面よりはマシかな、うん。しかし、あまり楽にはならない。視界の端が色を失い、意識を集中しなければ目に映っているものがなんなのかも認識できない。撃たれた箇所の痛みが良くなったわけでもないのに薄れていくようなこの感覚……確か前にどこかで……

 

「降りろコノヤロー!ふざけやがって!」

 

「椅子が喋っている」

 

「椅子じゃねえ!」

 

「うるさいなぁ……気絶させられたいの?もう弾ないから気絶するまで殴るしかないけどそれでもいい?」

 

「ひっ!わ、わかった、黙る!黙るからやめてくれ!」

 

 そうだ、思い出した。ホシノに気絶させられる寸前もこんな感じだった。ってことはこういう状態になりそうだったら、もう引き際ということだな。

 

「い、いつまでそうしてるつもりだ、で、しょうか?」

 

「……歩けるようになるまで」

 

 瞑目してぐらぐらと頭を揺さぶられるような感覚が納まるのを待つ。本当に好き勝手に撃ってくれたよこいつら。前から後から頭ばっかり撃ちやがってよぉ。傷になったらどうしてくれる。私はそのへん考慮して服の上から殴って痣になっても目立たないようにしてあげたというのに。

 

 

 

 

「……て……き……起きて。これなに?どういうこと?」

 

「んはっ!?」

 

 知らない青空だ。いつの間にか道のど真ん中で人を枕に仰向けでお昼寝していたらしい。しかも周りには倒したヘルメット団が転がっている。通行人が驚いて声をかけてくるのも当然か。なんと説明しようと考えながら声のした方へ目線を移せばそこには。

 

「げぇっ、シロコ!……さん。な、なんでここに?」

 

「……アビドスは静かだから銃声はよく響くんだよ。レイ、今日は登校するからこっちには来ないって言ってなかった?」

 

 やっべ。

 

「えぇ?えへへぇ、そ、そんなこと言いましたっけ?」

 

「ん。確かに言ってた」

 

「言ってません」

 

「言ったよ」

 

「言ってません」

 

「……」

 

「言ってません」

 

「はぁ。わかったよ……もういい」

 

 はい論破。口で私に勝とうなんざ百年早い。敗北を知りたい。

 

「で、これはなに?」

 

 満身創痍の善良な一般市民と、周りに転がる気絶したヘルメット共。どちらが悪い奴かなんて火を見るより明らかだろうに、シロコは私を咎めるような声色でそう問いかける。

 

「これは──」

 

「襲うなら多くても5人、できれば3人くらいに留めておくべき」

 

「──強盗を返り討ちに……うん?」

 

 襲うならってなに?襲われんだが?シロコさんは私がヘルメット団にわざわざ襲いかかる人間だと思っておられる?

 

「敵が多ければそれだけ注意が分散して、一人一人の動きを見逃しやすくなる。現にその枕、仕留めそこねてるよ」

 

「あ、いや、こいつは弾が切れて気絶までさせられなかっただけです」

 

「そうなんだ。多人数相手はそういうリスクもあるね。わかった。私に任せて」

 

 そう言ってシロコはおもむろに銃を構える。今まで死んだふりで静観していた枕が慌てて抵抗を試みるも、もぞもぞと身動ぎするのみでまだ動けないようだ。

 

「ちょっ、待っ──ぬわーーーっ!」

 

「ん。これでよし」

 

 そんなことはお構いなしにヘイローを確認しながら気絶するまでセミオートで一発ずつ。極めて無慈悲な処刑であった。コワイ。

 

「で、どれが賞金首?」

 

「……賞金首?なんの話ですか?」

 

「……賞金首でもないのに襲ったの?なんで?答えによってはおしおきしないといけない」

 

 シロコはそう言って手をわきわきとしながら近づいてくる。

 

「な、なんで!?そもそも、なんで私から襲った前提なんですか!?やめて、触らないで!エッチ!」

 

 私の両脇に両手を突っ込んできて、その姿勢のままシロコはこてんと小首を傾げる。

 

「違うの?」

 

「違います!強盗に遭って返り討ちにしたんです!どっかの誰かさんみたいにこのカバンが金目のモノだと勘違いしたみたいで……」

 

 どこかのアビドススナオオカミさんみたいに。

 

「そっか。大変だったね」

 

 が、砂狼さん、気づいてないのか無視したのかこれを華麗にスルー。転がっているヘルメット団の一人に近づいていき慣れた手つきでその懐を漁り始める。

 

「な、何をしてるんでしょう?」

 

「賞金がかかってないか調べる。顔を見るより学生証を見て名前で調べた方が簡単」

 

「なるほど……」

 

 なるほど?シロコは服まで脱がしかねない勢いで手際よく学生証を探し出しては、スマホの画面と見比べ、用が済んだら元に戻すのでもなくその辺に投げ捨てていく。うーん、蛮族。

 

「ん。賞金が掛かってたのはこいつだけ。安いけど……」

 

「いくらですか?」

 

「最低額。1万」

 

 そう言ってシロコは赤ヘルメットを一人、片手で引きずってこちらへ持ってきた。シロコは不満そうだが、たまたま絡んできたチンピラを返り討ちにしただけで1万はかなりデカい。

 

「最低額で1万なんですね」

 

「そう。こういうやつは大抵隠れるのが上手いから賞金をかけられてるタイプ。慎重だから自分より弱そうな相手にしか手を出さない。きっとレイが……ん、なんでもない」

 

 もう全部言ってるも同然なんだよなぁ。それで返り討ちにされてこれから換金されるってんだから、ざまぁないぜ。

 

「賞金首ってだいたいどのくらいの額になるんですか?」

 

「大半が1万、残りも10万に届かないくらいがほとんどだよ。2桁以上の賞金が掛かってるのはそれ相応に強いか、それなりの規模の組織のリーダーとか。レイは手を出さない方がいい」

 

「……さいで」

 

 隠れてるタイプを探すのならいい副業になるかもしれない。

 

「じゃあヴァルキューレに……」

 

 シロコはそう言いかけてスマホをポケットにしまった。

 

「安い奴一人じゃ取りに来てくれないかも。近くの交番まで直接持っていこう。トレーニングの途中だったんだよね?」

 

「えぇと、はい」

 

「そっちのカバンは私が持つからレイはこいつを背負っていって」

 

「え〜……」

 

「同じトレーニングばかりしていると筋力のバランスが悪くなる。負荷は増えるけど、その分距離は短いから。行こう」

 

 こういう時に食い下がってこっちの望みを聞き入れられた試しがない。大人しく従った方が早い。

 

「近くって何キロくらいあるんですか?」

 

「40km。ジョギングくらいのペースでいこうか」

 

 だと思ったよ!この自転車少女、距離感がぶっ壊れている!

 意識のない人間は重いと聞くが実際持ってみると全くその通りだと思う。1万円のためとはいえこれで40kmはちょっと……

 

「重い。首だけ持ってったらだめなんですか……?」

 

「……オンリーアライブ。お金にならないどころか、殺人犯としてこっちが追われることになるよ」

 

 ダメかぁ……そっかぁ……

 

 

 

「では学生証をお願いします」

 

「は!?」

 

 順調に進んでいた賞金首の引き渡し。住所もでっちあげ、あと一歩で終了というところで壁にぶち当たる。学生証いるなら最初に言ってよ。なんだろう、長々と質問に答えて最後の最後で結果を送信するためにメールアドレスを要求してくるサイト並に腹が立つ。そういえば、あのアンケートは絶対に許さんからな、アロナ。

 

「持ってないの?」

 

「あ、いや、あるんですけど家に忘れました!」

 

「それ家にも無い人のセリフ……」

 

 何故バレた!?読心術の使い手か!?

 

「学生証は常に携帯してください。トラブルの元ですよ」

 

「す、すみません……」

 

「じゃあ、私が変わりに手続きする」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 賞金稼ぎで生計を立てる計画は露と消えた。

 

「では口座番号を……」

 

「これはレイの口座に」

 

「こうざばんごう……イエニワスレマシタ」

 

「電子決済も可」

 

「スマホハ……イエニワスレマシタ」

 

「無いんだっけ……どうやって賞金もらうつもりだったの?」

 

「現金でポンっと」

 

「あ、あはは……それはちょっと難しいですね」

 

「一旦私が受け取る。レイ、それでいい?」

 

「ハイ、カサネガサネモウシワケゴザイマセン」

 

 面目次第もございません。

 

 

 

 賞金はシロコがコンビニで現金にして渡してくれた。

 

「ありがとうございます!うへへぇ……金だぁ」

 

「うん……」

 

 シロコが何か言いたげだ。

 

「レイって……本当にキヴォトスで育ってきたの?」

 

 血の気が引くとはまさにこのこと。確証があるわけではなさそうだが、よもや口に出して聞いてみるレベルで疑われているとは。

 

「な、ななな、なにを!当たり前じゃないですか!」

 

「……余りにも常識が欠けてるというか、その歳までどうやって生きてきたのか不思議」

 

 日本の常識がキヴォトスで通らなすぎるだけじゃい!だいたい常識に関してシロコに言われたくない!なんならキヴォトス育ちで常識外れのアウトローなシロコの方が重症では!?

 

「ほ、ほら、学区ごとでも常識って変わってくるじゃないですか!?私すっごい平和な場所で育ったんで」

 

「そうなのかな?」

 

「そうです!あ!私お腹空きました!お昼にしましょう!今日はいろいろお世話になったんで私が奢ります!さあ!さあ!」

 

「なんとなく気になっただけなのにそこまで慌てられると──」

 

「慌ててませんが!?シロコさんがあんまりにもバカなこと聞いてくるんで驚いただけです!」

 

「今私にバカって言った?」

 

「言ってません!」

 

「言ったよね?」

 

「言ってません!」

 

 

 

 賞金首はアジトに持って帰ってリーダー辺りにでも換金してもらえばいいだろう。シロコよりは事情も話しやすい。なりより銃の練習、実戦経験、お金稼ぎが同時にできる。

 たとえ賞金首でなくてもアビドス自治区がキレイになるのはいいことだ。いろいろと迷惑かけてることもあるし、お詫びもかねて積極的にやっていこうか。

 ゴミ掃除悪党退治

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