ここは『キヴォトス』弱者に口なし   作:GAU-8

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副業

 ノンストップで12時間走り続けることでようやくクリアできるような馬鹿げた目標だが、立ち止まって休憩する時間が全くないわけではない。例えば給水のための休憩だ。シロコは最初走りながら飲めと、当たり前のように言ってきたが、2リットルのペットボトルはデカい上に、カバンにつけて運んでいる都合上走りながらは無理だとごねにごねてようやく認めさせることができた貴重な時間だ。

 

「ん。じゃあ、3分ね」

 

「……鬼」

 

「なにか言った?」

 

「いえ!」

 

 1日中走ってることを考えればもっと長いインターバルがあったってバチは当たらないと思う。昭和生まれのスパルタ人め!今は令和だぞ、そういうのもう流行ってないから!

 ……まあでもこの人様の背中に引き金を引くことに一切躊躇がないクレイジーサイコスパルタンに追いかけ回されているおかげで、自堕落にならずにトレーニングを続けられている面もある。その点は感謝しないとね。

 

「ふぅ……お水おいち」

 

 常温に冷えてやがる……!あ、ありがてくねえ……!

 

「……」

 

「シロコさん?」

 

「それ、またただの水?水分補給には水だけだと逆効果になるって前にも言ったよね。塩分も一緒にとらないとダメ。スポーツドリンクが理想的」

 

「でも水ならタダです!」

 

「……まあ脱水症状にならないなら大丈夫だけど──」

 

「大丈夫だ!問題ない!」

 

 毎日の水の消費量を全部スポーツドリンクに置き換えた時の出費はとても無視できない。水道水をアジトで補給すれば、私の財布からはお金が出ていかないので実質無料だ。

 

「だんだんペースを維持できるようになってきたね、レイ」

 

「そうですかね?確かに最近撃たれることが減ってきたような……気が?」

 

 しないでもないような可能性が若干なにきにしもあらずみたいな?とはいえ目標達成には未だ程遠い。

 

「ん。ペースが落ちる時は体力が残ってない時だから撃っても仕方ない」

 

「シロコさんの方は全然上達しませんね。人追物。相変わらずバンバン当ててきますし……」

 

「思ったより難しくて……それにレイがちゃんと走れるようになってきたら、私の練習にならない」

 

「そうですね。じゃあもう諦めて──」

 

「この前腕も鍛えたいって言ったよね。ちょっとその銃貸してくれる?」

 

 シロコが指差したのはAK-47。重量4kg。背中のリュックに比べれば断然軽いとはいえ、1日中首に継続ダメージを与えてくる地味にやっかいな代物だ。

 言われたとおりにシロコに渡すとその首から下げるためのスリングストラップを外して突き返してくる。

 

「すぐに銃を構えられるように保持したまま走れば訓練と筋トレになる。これからは腕が下がってきた時も撃つようにする。これでウィンウィン」

 

「ど、どこが……?」

 

「ウィンウィン」

 

「ただの撃つための口実──」

 

「そうだ思い出した。これ、あげる」

 

 遮るようにシロコがカバンから取り出して差し出してきたものを受け取る。なにかのスプレー缶、ラベルを調べてみれば制汗スプレーだった。

 

「あ、ありがとう、ございます?」

 

「ん、どういたしまして」

 

 封も切られていない新品だ。プレゼントするためにわざわざ買ってきてくれたのだろうか?制汗スプレーを渡したいと思うような相手ってのはつまり──?

 

「えっ!?私臭いですか!?」

 

「ううん。臭いってほどじゃないよ……雨に打たれたイヌと比べれば全然」

 

 仮にも見た目JKなのに比較対象が濡れた犬って……由々しき事態だ。

 

「やっぱ雨の日に屋上でショーシャンクの空にってるだけじゃダメかぁ……」

 

「……いま雨って言った?」

 

「あ、いや!ちゃんとシャンプーもボディソープも使ってますよ!晴れ続きなら銭湯にも行きますし!」

 

「……そういう問題じゃない」

 

「ごめんなさい!これからは気をつけます!ちゃんと毎日お風呂入ります、はい!あ、そ、そろそろ3分ですね、へ、へへっ。い、行きましょうか」

 

「普段どんな生活してるんだろう……?」

 

 ……恥ずかしながらまるでホームレスのような生活をしております、へい。

 

 

 

 お金が足りないんだから仕方なかろう。

 食費だけなら当面困らないくらいにはなったんだけどな。なにしろスタートが服とハンドガン一丁だけだったのだ、着替えに寝具に調理器具、エトセトラエトセトラ……足りないものや欲しいものは次から次へと沸いてくる。

 人はパンのみに生きるにあらず。という有名な……えーと、お、お釈迦様?の言葉がある。人は食い物にのみ生きるのではない。知りたがり、欲しがり、やがてそれがなんのためだったかも忘れ、命を大事といいながら弄び殺し合う。何を知ったとて、何を手にしたとて変わらない。最高だな人は。ならば存分に殺し合うがいい。それが望みなら。という意味だ。

 であれば、だ。

 

「つ、ついてこないでくださいー!」

 

「んなこと言われて引き下がるバカがいるかよ!ヒャッハハハー!」

 

 朝っぱらから人のお家の周りで大騒ぎする五月蝿い悪党共をしばいて賞金首であることを祈る。命名ヘルメットガチャ。今日も元気に回していこうと思います。

 アビドスならともかくブラックマーケット家の周りのゴミ掃除なんてやってもキリがないし、無意味な気もするけど、まあいいか。せっかくの正義の御旗助けを求める声を無視するわけにもいくまい。

 

 

 

 追ってる方のヘルメットは見たところ3人。シロコの見立てによれば私が反撃されずに安全に倒せる人数に収まっている。楽勝だ、見逃す手はない。

 

「あわわ!ど、どいて……ひっ!」

 

 狭い路地裏を先回りし、出口を塞ぐように待ち伏せする。まず手始めに先頭を走ってきた弱そうなのをぶち殺……したらまずいな。先頭を走ってるのは大義名分追いかけられてる被害者だった。あぶねー、あぶねー。

 銃口を空に向け、敵ではないことを示しながら一歩横にずれて道を空ける。横目で追われていた生徒が駆けていくのを確認すると再び蓋をするように立ち塞がる。

 向かいから走ってくるのはヘルメット団が三人。今度こそ敵だな、ヨシ!

 

「邪魔だ!どけぇ!」

 

 今日はパイセン……じゃないよな。今の声は違う、はず。ま、パイセンでも後で謝っとけばいいか。

 

「へい!パース!」

 

 ピンを抜いた“パイナップル”を下手投げで先頭のヘルメットの胸元に投げる。こうやると8割くらいは投げられたそれがなにかも認識しないままにとりあえず受け取る。

 

「うおっ、とっとっ!?な、何だ……ひ、ぎゃあああ!」

 

 そして爆発。手の中で、グレネードが。

 今ので全員くたばってくれてればいいんだけど……無理かもな。あの配置じゃ一人しかやれてないかな。とりあえず土埃の中へAKを1マガジン分掃射。あとはリロードして銃を構えたまま視界が晴れるのを待つ。

 

「うっ……げほっ!げほっ!ち、ちくしょう!いきなりなんなんだ!イカれてんのか!?」

 

 土埃が晴れると立っているのは一人もいなかった。二人は完全に伸びていて、残る一人も四つん這いで咳き込んでいるだけ、反撃してくる気配はない。

 なんということでしょう。匠の巧みな技により3対1があっという間に1対1に早変わり。あとは死に損ないの最後の一人を射的の的にして試合終了です。

 

「ひぃぃ!ま、待て!わかった、わかった!もうあいつは諦める!助けてくれ!」

 

 狙いを定めているとそれに気づいたヘルメットが両手をあげて泣きそうな声でそう叫ぶ。

 

「えー、騒がれても面倒だから寝といてくれない?」

 

「か、勘弁してくれ!静かにしてればいいんだろ!頼むよ!」

 

「……仕方ないなあ」

 

 敵意を無くした相手を撃つだなんて、そんな残虐非道で慈悲の欠片もない地獄の鬼すら裸足で逃げ出す冷血冷酷人でなしろくでなし鬼畜な人道に背く畜生にも劣る下劣極まりない最低な行為など私にはできないのでホールドアップで勘弁してあげることにした。あたいってば聖人ね!

 

「オラッ!財布を出しな!」

 

「……そ、そんな」

 

「逆らう気か……よろしい、ならば──」

 

「わ、わかったよ!ほら!全部はやめてくれ!今月厳しいんだよぉ……」

 

 全部ってなに?財布と学生証と一緒になってることが多いから財布を要求しただけなんだけど……そうか。賞金首狩りなんて回りくどいことしなくても直接……い、いかん。これはあくまで治安維持活動だ。お金はついで……で、でもターゲットは悪党だけなんだし半分、いや、1割くらいなら頂いたって──

 

「……あ、あの」

 

「はっ!?ひゃい!ごめんなさい!」

 

 背後からおずおずと声をかけてきたのはさっきまで追い回されていた生徒だ。誰かなんて、さっきすれ違った時に気づかなかったのが不思議なくらい一目瞭然。ブラックマーケットをトリニティの制服でうろつく異常者、その名は──

 

「モハメドアブドゥル!」

 

「ち、違います!阿慈谷ヒフミです!あっ!」

 

「あじたに……?てめぇ、名前覚え……いぎゃぁ!?やめっ!ぎゃっ!わ、わかっ!聞かなかったことに!ぁぅ……」

 

 咄嗟にヘルメットにとどめを刺したものの、大丈夫かこれ?

 

「え、えっと……どうしましょう?と、とりあえず持ってる弾全部頭にぶち込んどきます?それともバラしちゃいます?」

 

「い、いい!?そんなことしなくていいですよ!?な、名前聞かれたくらいなら、その、特に問題ないと思いますから……」

 

「まぁ、あなたがそれでいいなら……」

 

 これ私のせいなの?違うよね?

 

「あ、えっと、また助けてもらっちゃいましたね。ありがとうございます」

 

「……ナ、ナンノハナシデショウ?ハジメマシテデスヨネ?」

 

「え!?」

 

「初・め・ま・し・て!」

 

「あっ……えっ………うっ……は、初めましてぇ」

 

 いやぁ、まさか助けた相手がエデン条約編のキーマンだなんて、情けは人の為ならずってね。

 

わたくしは渡里レイと申します。ブラックマーケットで傭兵をしております。お見知りおきくださいませ阿慈谷ヒフミさん」

 

「よ、傭兵ですか?えっと、ヘ、ヘルメット──」

 

「い・ま・は!ヘルメット団に雇われておりますが、ヘルメット団員ではございませんので!」

 

「あ、そ、そうなんですねぇ……」

 

 初対面なのに何故私がヘルメット団と関わりあること知ってるんだろ〜。ふしぎ〜。

 

「はいぃぃ!ちなみにヘルメット団に雇われたのもとある土着の強盗団を懲らしめるためで、私決して!決して!チンピラなどではございませんので!勘違いなされませぬ様、ヨロシクオネガイシマス!」

 

「アッハイ……」

 

「料金さえ頂ければなんでもいたします!仕事を完遂するまで絶対に裏切ったりなどいたしません!言わばお金で買える信用、使い捨てにできる便利な道具、それが私なのです!是非是非、トリニティのお嬢様方に宣伝してくださいね!お金はあるけど信用していい相手がわからない、疑心暗鬼に囚われているような方とかには特に需要があると思うんです!」

 

「アッハイ……」

 

「……失礼。つい熱が入ってしまいましたわ」

 

「い、いえ……と、ところでそのお財布は……?」

 

 チンピラではないと熱弁する私の手にはついさっきカツアゲしたように見える他人の財布がしかと握りしめられている。

 

「あっ!?こ、これぇ!?これはそ、その……」

 

 違うんだよ。確かに魔が差したけどまだ何もしてないから、今回もそれ以前にも。まあ、正直に話せばいいか。

 

「いえ、ヴァルキューレの賞金首じゃないか調べるために学生証で名前を確認してるんです。用があるのは財布じゃなくて学生証の方で……ヒフミさんちょっとコイツラの名前をスマホで検索してもらえませんか?」

 

「え?い、いいですけど……レイさんのスマホは?」

 

「ス、スマホ持ってなくて……」

 

「そうなんですか!?な、なるほど……わかりました。あれ?でもじゃあどうやって傭兵の仕事を──」

 

「はい!これ、コイツラの学生証です!早く調べろください!早く!」

 

「うぇっ!?は、はい!」

 

 

 

 結局三人とも賞金首ではなかった。何度か同じように助けた人に協力してもらって調べてはいるが今の所賞金首を捕まえたことはない。おまけに私自身を狙ってきて協力者がいない時は討ち捨てにせざるを得ない。このやり方、効率が悪い気がする。

 

「……残念。ありがとうございましたヒフミさん。じゃあ、さようなら。お気をつけて。御縁があったらまたお会いしましょう」

 

「……待ってください、レイさん」

 

「はい?」

 

「あの!レイさんはブラックマーケットの地理に詳しいですよね?お願いしたいことがあって」

 

 いや、全然。アジトに行くときも迂回していくし、こんな怖いとこ出歩かないって、フツーの神経してたら。

 

「え、いや、あ、と、や、安くないですよ、ブラックマーケットの傭兵は……フフ……クックック」

 

「覚悟の上です……おいくらでしょう?」

 

 こやつ、目がキマっている。さてはペロロ絡みだな。いや、ヒフミがブラックマーケットに来る理由なんてそれ以外ないか。

 

「ご、ごひゃっ、ごひゃく……えん?くらい?」

 

「安い!是非お願いします!護衛と道案内を!」

 

 無理無理!チャンスではあるけどさすがに断──

 

「ありがとうございます!さっそく行きましょう!」

 

「ま、まだ返事してな──力強っ!?」




お気に入り登録1000件ありがとうございます!
次回は対策委員会編3章読んだあとに書き始めるか、その前にもう1話投稿するかくらいになります。
待て!しかして一切の希望を捨てよ!
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