ここは『キヴォトス』弱者に口なし   作:GAU-8

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ヒフミの捜し物

「うぅ……こんな格好……これじゃ私、不良みたいです」

 

 私の目の前にいるのは誰がどう見てもおさげが飛び出ているだけのヘルメット団員Aだ。上だけ着替えてもらってヘルメット被せただけだが十分だろう。私の予備だからサイズがあってないし、チンピラらしからぬファンシーなペロロのバッグを持ってはいるけど、まさかこれがトリニティの生徒だとわかる人間などまず居るまい。

 

「大丈夫です、ヒフミさん」

 

「レイさん……」

 

「平日の真っ昼間からブラックマーケットこんなところにいるヒフミさんは不良みたい、なのではなく立派な不良です。よく似合ってますよ」

 

「あうぅ……そ、そんなぁ」

 

 ここでは挑発スキルが発動するトリニティの制服なんかよりよっぽどブラックマーケットのTPOを弁えた素晴らしい服装だと思うが、ヒフミはどうも不服らしい。変装を嫌がるヒフミとの押し問答の末、譲れない一線としてペロロバッグをそのままにすることでようやく説得に成功したのだった。

 

「……ナギサ様、ごめんなさい」

 

 ……今の録音してナギサ様に送りつけるからもう一回言ってくれない?ダメ?

 

「無用なトラブルを避けるためです。きっと神様もナギサ様とやらもお許しになられます」

 

「そ、そうですかね?そうだといいんですけど……ところでこの制服、どうしてこんな廃墟に置いてあるんですか?」

 

「あえっ!?やっ、こ、ここは、そう前哨基地、前哨基地なんです!着替えとかの物資を備蓄してあるんです!そんなことより!今日の目的地は?何をお探しで?」

 

「あっ、はい。実は決まった目的地があるわけじゃなくてですね、ペロロ様のぬいぐるみが売られている場所をなるべく多く回りたいんです」

 

「ブラックマーケットにあるのはわかっていてもどの店にあるかまではわからないと?」

 

「そうなんです!と、いうのもですね、これを見てください」

 

 ヒフミが見せてきた画像に映っているのはいたってスタンダードなペロロのぬいぐるみ。口にアイスを突っ込まれる拷問を受けていたり、ボコボコにされて包帯やアザだらけになっていたりといったイロモノペロロの類いではなさそうだ。

 

「……シンプルなぬいぐるみですね。ブラックマーケットじゃなくても手に入りそうに見えますけど?」

 

「はい。このペロロ様は限定品ではなく数多く流通している普通のペロロ様です。ただし、ABQ00791231、この製造番号のペロロ様には唯一無二の特徴があるんです!その特徴とは──」

 

 人差し指をピーン立てて胸を張るヒフミがそこで話を止める。バイザーの下から不気味な輝きを放つその瞳からは、こちらから続きを促さない限りはもったいぶって話してやらないという強い意思が感じられた。

 

「……その特徴とは?」

 

「気になりますか?聞きたいですか?なんとですね、そのペロロ様は……知らない内に舌が伸びるそうなんです!」

 

「キッ──」

 

「……き?」

 

 キッッショ!

 

「キモ……怖くないですか?」

 

「えっ!?怖くなんかないですよ!?だって夜中に寝ている間に舌が伸びてるんですよ!?」

 

「怖──」

 

「カワイイですよね!?」

 

「カワイイですね」

 

 蛇蝎の如きかわいさだと思う。

 

「よかった、レイさんもわかってくれるんですね。なのに心無い人達は“呪いのペロロ”なんて呼ぶんですよ!ひどいと思いませんか!?どうやら前の持ち主の元から離れてこのブラックマーケットに流れてきてしまったようなんです。だからこれ以上悪評が広まる前に“祝福のペロロ様”を私が保護するしかなくてですね……」

 

 しかないことなくない?そんな怪奇現象を引き起こすオブジェクトなんかどっかの財団に任しといたらいいのに……

 

「でもなかなか見つからなくて困ってたんです。行きつけのお店のペロロ様は全部調べたんですけど違いました」

 

 ブラックマーケットに行きつけのお店があるトリニティ生とはいったい……

 

「こうしている間にもペロロ様が舌を長くして助けを持っているかと思うといてもたってもいられなくなって、学校を抜け出して新しいお店を開拓していたんですけど結果はその……ちょっとしたトラブルに見舞われちゃいまして、あ、あはは」

 

 なるほどわからん。学校から脱走する程の使命感に駆られちゃうあたりとか特に。

 

「というわけで、今日はよろしくお願いしますね、レイさん!」

 

「……微力ながらお力添えになれれば幸いかと存じ上げます」

 

「な、なんか、すっごく頼りにならなそうな……い、いえ!大丈夫ですよね!?プロですもんね!?」

 

「……料金分くらいは頑張ります」

 

「レイさん!?」

 

「じゃ行きましょうか!泥船に乗ったつもりでドーンと任しといてください!」

 

「ど、泥船……大船と間違えちゃっただけですよね?あ、あの、なんで何も言わないんですか?本当に大丈夫なんですよね?レイさん、レイさん!?」

 

 うるさいですね。ワンコインでまともな傭兵が雇えるなんて本気で思ってるのだろうか?それはさすがに世の中を舐めている。この箱入りアウトロー娘に裏社会の恐ろしさを教えてやらねばならぬ。1日中歩き回って時間と500円を溝に捨てる結果になっても勉強料としてどうか受け入れていただきたい。

 そもそもファンシーショップなんかブラックマーケットにあるのかな?ま、いいや、探索がてら適当に歩き回ってればそのうち見つかるだろ。

 

 

 

「あっ!ここですね!?こんなところにもお店があるなんて知りませんでした!さすがです!」

 

「えっ、ああ、はい……」

 

 私も知りませんでした!さすが目ざといですねヒフミさん!

 ヒフミが指さす先にはブラックマーケットで肩身を狭くしているように地下へと続く細い階段。そしてその先にはピンクでポップなお店の看板。エッチなお店みたいな雰囲気だが、ヒフミはなにをもってファンシーショップと判断したのやら……もしかしてあれか?あの手書きの下手くそな成れ果てピカチュウみたいな化け物のイラストか?でもまあ確かにここなら呪いのペロロが売られていてもおかしくないかもしれない。

 よし、早速1軒見つかったな。発見したのはヒフミの方だけど、実に幸先がいい。これで料金分の仕事はしたと言えるだろう。なるべく多く回りたい、とヒフミは言った。可能な限り多く、というだけで最低でも何軒との指定は無かった。つまりは頑張って探したけど一軒しか見つかんなかったわ、ゴメンちゃい☆も可能だろうということ……!

 

「えへへぇ……!品揃えはかなりのものですね!これは期待できるかもしれません!」

 

 消防法に中指を突き立てるが如く天井近くまで積み上げられた商品可燃物。狭い店内を最大限活用するべく計算し尽くされた迷路のような陳列。オリジナルのキャラクターの隣に恥ずかしげもなく並べられた微妙に違うパチモンのキャラクター達。

 ヒフミはそんな一歩足を踏み入れた瞬間には回れ右で帰りたくなるような混沌とした異様に怯むこともなく、それどころかスキップでも始めそうな軽い足取りで奥へと消えていった。なんか慣れてないですか?トリニティ生さん?

 この中からペロロを探して、シリアルナンバーまで調べるの?めんどくさ……

 

「あの、店員さん」

 

「ソコニナケレバ=ナイデスネ」

 

「アッハイ」

 

 まだ何も聞いてない……聞いたところで答えは同じだろうけど。ブラックマーケットってこんなのばっかりかよ!

 

 

 

「レイさん、レイさん!ありましたよ、こっちです!来てください!」

 

 店内を物色している内にどこからかヒフミに呼ばれた。

 2秒に1回は急かしてくるその声を頼りにヒフミと合流する。ヒフミが大事そうに抱えているペロロは、棚に並んでいる他のペロロとの違いはないように見える。なにより舌が伸びているようには見えないのだが……?

 

「呪いのペロロを探していたんじゃないんですか?」

 

「はい!こちらが……はっ!?ち、違います!祝福のペロロ様です!」

 

「他のペロロと変わらないようですが?」

 

「シリアルナンバーを見てください。間違いありません」

 

 タグにはABQ00791231とある。呪いのペロロのシリアルナンバーはあれ?なんだっけ?UC00800101じゃなかった?覚えられん。ま、ヒフミがこれだと言うんだからそれでよかろ。

 

「舌が伸びてるようには見えませんね」

 

「ここを見てください。縫ったあとがありますよね?おそらく“お手入れ”の痕跡です」

 

「お手入れ?舌をちょん切って調整するのがですか?」

 

「はい……そうしておかないと、このペロロ様はお休み中の持ち主の首に舌を巻き付けてくるいたずらをするそうなんです」

 

 やっぱり呪いの人形じゃないか。

 

「もしかして前の持ち主って……」 

 

「あはは……もしかして、何ですか」

 

「ひっ!……い、いえ……怖──」

 

「可愛らしいですよね!?」

 

「そ、そっすね……」

 

「根も葉もないただの噂です。するわけないでしょう、ペロロ様がそんなこと。それに、舌が伸びないなら伸びないでいいんです!呪われたペロロ様なんて最初から存在しなかった、ただの噂だったと証明できるので!というわけでお会計してきますね!レイさんは外で待っていてください!」

 

「わ、わかりました」

 

 

 

 店の外でヒフミを待っているとふと視線を感じた。目をやれば離れた場所から小学生サイズの黒ヘルメットがこちらを見ていた。目があったのに気がついたのか、開き直ってヅカヅカとこちらへ歩み寄ってきて一言。

 

「……邪魔」

 

「す、すみません!」

 

 店への入り口を塞ぐように立ってしまっていたのが気に食わなかったらしい。見た目に反する耳を疑うようなドスの効いた低い声に慌てて道を空ける。少女はただふんっと鼻を鳴らすと階段を下りていく。

 驚いた。見た目はともかくヘルメット団なんかやってるだけあって思わず平服したくなるような威圧感がある。まさかリーダー以外にもあんなのが……って、あれ?

 

「……リーダー?」

 

「……う」

 

 チビヘルメットがうめき声を上げながら階段を踏み外しそうになるも、なんとか体勢を立て直してまた階段を下りていく。

 

「リーダーですよね」

 

「…………あ、あら、レイじゃない。奇遇ね、こんなところで」

 

 最初から気づいてたくせに!ワンチャン気づかれないことを祈って素通りしようとしましたよね!?

 

「そういうリーダーも珍しい場所で会いますね。もしかしておねんねする時のお友達でも買いに来てたり──」

 

「……なんで知ってる?」

 

「はっ!?」

 

 リーダーは踵を返して凄まじい勢いで階段を駆け上がってくる。命の危険を感じて逃げなければと考えた瞬間にはリーダーはもう既に目の前まできていた。

 

「痛ぃ!?」

 

 脛を殴られて地面に崩れ落ちる。そのまま襟元をキャッチされてヘルメットがかち合う程の至近距離でリーダーに睨まれる体勢になった。

 

「……誰から聞いた?」

 

「な、なにが!?ちょっとした軽口じゃないですか!?そ、そんな怒ることないでしょう!?」

 

「は?……ええ、そうね。この私がぬいぐるみがないと寝られないなんてそんなことあるわけないじゃない」

 

「カワイ──」

 

「あ゛?」

 

「も、ももも、もちろんです!そんなこと微塵も思ってませんって!」

 

「……誰にも言うんじゃないわよ?わかった?」

 

 ただただ頷くしかない。もう最悪。こんなん自爆事故じゃん。本人以外大して気にもしなそうな弱みなんて握ったところで損しかないじゃん。

 

「誰にも言いません!けど、ほら、口を噤むという業務に対する報酬とかあったらいいかなって。へ、えへへぇ」

 

「口止め料ってわけ?いいわ、脳みそに直接埋め込んであげる。何発欲しいの?言ってごらんなさい?」

 

「じ、冗談!冗談ですよ!やだなぁ!」

 

 マグナムまで持ち出してきての交渉にさっきよりも激しく首肯してなんとかリーダーを宥め賺す。リーダーはやがて大きくため息をついて掴んでいた手を解放してくれた。

 

「……まったく」

 

「まったくはこっちのセリフだよ」

 

「……あん?」

 

「いえ!何も!」

 

 恥ずかしいからって殺してでも黙らせようなんてひどすぎると思いませんか!?チンピラ!悪党!

 

「レイさん!お待たせしました……って、あれ?お知り合いですか?」

 

 店の入り口からヒフミが出てくる。リーダーはちらりとその姿を確認すると再び私の胸ぐらを掴まえて問いかける。

 

「レイちゃ〜ん?お知り合いですかぁ?な〜んで、メンバーでもないやつがうちの制服着てるのかなぁ?」

 

「あばばばば!?ち、違!うちのメンバーの鯖山四五六ーシコローちゃんですよ!?わ、忘れちゃったんですかぁ〜?」

 

「し、し……!?そんな名前のやつうちにはいないし、あんな髪型のやつもいないわよバカ!偽名にしたって酷すぎよ!」

 

「いてっ!痛い!ご、ごめんなさい!ごめんなさい!」

 

 頭突き、頭突き、そしてまた頭突き。ヘルメット同士だからって考えなしに頭突きを連打。なんでそんなに動揺してんの!?シコロー、酷くないだろ、いい名前だろ!やめっ、やめろ変態ロリ幼女!

 

「あ、ま、待ってください!ヘルメット団に変装すればブラックマーケットでトラブルを避けられるって私がレイさんに頼んだんです!だ、だから、やめてあげてください!」

 

「あんたは……?」

 

 ヒフミの訴えにリーダーが動きを止め、ヒフミの方を見る。その間にリーダーの腕を振りほどこうと四苦八苦していたら頭をひっぱたかれた、痛い。

 

「あ、あれ、あなた……ひゃあ!?と、撮らないでください!」

 

「……」

 

 カシャリとカメラのシャッター音。何を思ったかリーダーがヒフミを撮影したかと思うと、私の胸ぐらから手が離れる。最後におまけと言わんばかりに拳骨を一発くれていった、痛い。

 

「はぁ。いいレイ、次は承知しないわよ。それから、し、シコ……お前!お互いここでは会わなかったことにしましょう!いいわね!それじゃ!」

 

 リーダーはそう言い残してこちらの反応を待つこともなく足早に階段を駆け下りて店の中へと入っていった。

 

「……あっ、レイさん。大丈夫ですか?今の方はいったい……?」

 

「うちの……じゃなくて雇い主です。ワラワラヘルメット団のリーダーのユウちゃんです」

 

「えっ!?あっ、あの方がリーダーさんなんですか!?」

 

「そうなんです。小さいけど凶暴なポメラニアンみたいなやつでして……ごめんなさい。私のせいで写真なんかとられちゃって」

 

「あ、いえ。ヘルメット被ってますし、なんとかなります、たぶん。あ、あはは……」

 

 苦笑いをするヒフミの声は少し暗いように思う。心配しないでヒフミ。あの写真は私が責任もってリーダーのスマホと刺し違えてでも消しておくからね。

 

「それよりペロロ様です!こんなに早く手に入るなんて思いませんでした!次に行きましょう、レイさん!次はどんなペロロ様に出会えるか楽しみです!」

 

「いや、目的のものが手に入ったなら学校行きましょうよ……」

 

「はっ!?そ、そうでした!帰りましょう!午後の授業は間に合うかもしれません!」

 

 

 

 廃墟こと我が家に帰ってヒフミは自分の制服に着替える。ゲヘゲヘ言いながら見物しようとしていたら追い出されてしまった。どうせ一番上しか替えてないんだし、同性なんだからなにも恥ずかしがることないのに何故だ、ふざけやがって。

 

「約束の500円ですけど、ホントにこれだけでいいんですか?」

 

 いいわけあるかぁ!ガキのお使いじゃねぇんだぞ!1分500円だ!足りねえ?なら有り金全部出しなぁ!

 と言ってやりたいのは山々だが、確実に次の機会が消え失せることになるのでグッとこらえる。

 

「その500円も結構です。代わりにトリニティで傭兵の宣伝してください。使い勝手のいい使いパシリの私を何卒」

 

「わ、わかりました。でも依頼がある時はどうすればいいのでしょう?私もまた何かお願いするかもしれませんし……スマホは無いんですよね?」

 

「あえっ!?」

 

 何も考えてなかった。どうしよう……。

 

「えっ、と。ここ!このビルの4階に事務所があるので訪ねてください!不定休不定時でいたりいなかったりします!というかほぼほぼいません!」

 

「それでどうやって依頼するんですか!?周りに似たようなビルも多いし、看板とかないと場所がわからないですよ!?そもそもレイさん、ここは前哨基地だって──」

 

「に、似たようなもんでしょう。細かいこと気にしないでください!」

 

「全然違うと思いますけど……ええと、それで傭兵のレイさんって宣伝すればいいのでしょうか?会社名とか、コードネームみたいなものってあるんでしょうか?」

 

「え、ええ……ええっと」

 

 そんな急に聞かれても、そういうのはじっくりしっかり考えて決めたいんだけど、でも前からやってるって設定だし、う、うぅーん。

 

「便……よ、万事屋!の……えぇ……シックスナ……シックス、ティ!ナインです!ティを強調するのがポイントです!」

 

「万事屋69ですね、わかりました!」

 

「やっぱりナシです!私の名前はエージェント0047ダブルオーフォーティーセブンです!」

 

「え、ええっ!?なんで最初嘘ついたんですか!?」

 

「やっぱり独立傭兵レイヴンです!」

 

「ど、どれが本当なのかもうわかりません……」

 

「ごめんなさい!次会う時までに考えておきます!」

 

 最初のやつなんかハルカに知られたらぶち殺されるもん……ナギサ様にもぶち殺されるもん。

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