ここは『キヴォトス』弱者に口なし 作:GAU-8
軽く日本縦断するくらいの距離を行軍した。シロコに散々しごかれて足腰以外の筋力トレーニングもぬかりない。アビドスにスライム並みに生息しているチンピラを襲ったり襲われたりして銃の扱いもマシになってきている。
できることならこのままお賃金をもらいながら自己研鑽に励み、満足したところで蒸発バックレ円満退職といきたいところだがそう上手くはいかないのが世の中というもの。
「そろそろ攻撃再開といきましょうか」
「待ってくださいリーダー。アイツに勝つためにあともう少しトレーニングさせてください」
あと5億年くらい頑張ればホシノにも勝てると思うんだ。
「ダメ。足りない分は実戦の中でなんとかしなさい」
「は〜い」
……すごくすごい頑張ってリーダーを説得してみたけど、アビドス襲撃を思い留めさせるには至らなかったよ、ざんねん。そこいらのチンピラ共じゃ張り合いがなくなってきたから丁度いいとか思ってないよ、ホントだよ!
なにより私自身、未だちょっと硬いだけのそこらのチンピラに毛が生えた程度の存在でしかない。世紀末都市で生き抜いてきた経験豊富なキヴォトス人に学ぶことはまだまだある。
というわけでここは当初の目的通り、リーダーの言う通り、ホシノの胸を借りて実戦訓練といこうか。
「うへぇ……しばらく来ないから諦めてくれたのかと思ってたのに。でも何度来たって同じだよ。怪我しないうちにお家にお帰り、おチビちゃん」
「オチッ……冗談言わないで。あんた達がどれだけ抵抗してもムダなの。その校舎が私達のモノになるのはもう決まってるんだから、さっさと諦めて出ていきなさい。お互いその方が楽でしょ?クソチビピンクちゃん」
「キミよりはおじさんの方が大きいと思うな〜」
「でもアンタは一生そのままじゃない。私が成長期になったらこの程度の差、すぐに逆転するわよ。御生憎様」
「いつからおじさんの成長期が終わったと錯覚していた?」
「高校三年生で成長期がまだなわけないでしょ。現実みなさいよ小鳥遊ホシノ」
アビドス高校正門前で対峙するアビドス生達とワラワラヘルメット団。一触即発の空気の中、両勢力の真ん中でとっくに育ち終わったおめでたいチビ共が醜い争いを繰り広げている。
「「…………」」
な、なんで二人してこっち見てるの?口に出てたか?いや、そんなはずは……
それもほんの少しの間だけで二人はすぐに目の前の相手に向き直った。だというのに、相変わらず背筋の凍るような視線を感じる。あの二人じゃないなら一体どこから?
「…………」
「ひ、ひぇ……」
なんかシロコもすっごいこっち見てるんですけど!?違うんだよぉ、私はそちら側のスパイみたいなものだから。内部からアビドスに味方してるだけなんだよぉ。許して、殺さないで……
パイセンを壁にして隠れると、シロコはリーダー達の方へと視線を移した。
「こんなのはどう?私達全員でアビドス高校に転校してあげるの。生徒数が一度に倍以上になるのよ、嬉しいでしょ?」
「その心は?」
「民主的かつ平和的にあんた達全員を退学に……ん?」
冗談めかしてそんなことを言うリーダーの足元に、シロコがおもむろにポケットからとりだして放り投げたおにぎり大のなにかが転がる。
「んなぁっ!?」
リーダーがそれを確認するやいなや、顔を真っ青にして後ろへ逃れるように全力で飛び退く。とにかく飛距離を稼ぐことだけを考えていたのか、腹から地面に落ちた。と、ほぼ同時、シロコが投げた手榴弾が爆発する。
誰もが、アビドス生でさえ呆気に取られて動かない中、砂煙を裂いて飛来する白いドローン。
「い、いやあぁぁぁ!」
間髪いれずドローンから放たれるリーダーを狙ったロケット。リーダーが火柱に囲まれながら必死に逃げ惑う光景は、さながらアクション映画のワンシーンのようだった。
リーダーは辛くも爆撃から逃れて一番手近な民家の影へ転がり込む。
「……惜しい。ダメか」
「ま、まま、まだ話してる途中でしょうが!?あんた後輩にいったいどういう教育してんのよ!?」
「話す意味ある?不毛。時間の無駄」
「な、なんかゴメンね。でもまあ、結局最後はこうなるんだから、ちゃっちゃと始めて、ちゃっちゃと終わらせよっか」
「上等よ、この野蛮人ども!全員まとめて砂漠の肥やしにしてやる!」
と威勢よく始まったはいいが、そもそも、私一人で多少強くなったところでアビドスとの戦力差は埋まるわけもなく……おかしいな。兵力では倍以上の差があるのになんでこっちが戦力差を埋める側なんだ?普通逆では?
「て、撤退!撤退!」
逆転の秘策でもないかぎりは当然こうなるよね、知ってた。
まあ、万が一にも勝っちゃうなんてことはあってはならないわけだから、これでいいんだけどね。そう、私はそのためにヘルメット団に潜入しているいわばスパイみたいなもんだから、アビドスの勝ちは実質私の勝ちみたいなとこあるから、ね。
多少はトレーニングの成果も感じられた。ホシノの盾で的当てに興じて、それなりに命中もした……盾からはみ出た顔とか手足とか狙ったりしてないよ!ホントだよ!まだ習熟したとは言えないからそっちに照準いっちゃったり、弾が飛んでったりしたけどわざとじゃないよ!
撤退の号令も出たし今日はこれで帰るよ、またね!バイバイ!
我々ミユキパイセン分隊は1号が討ち死に。残りの3人で帰路につくその矢先のことだった。
「ピギャッ!?」
隣を走っていた2号が、空から降ってきた白い影に潰されて素っ頓狂な悲鳴をあげる。
何事かと確認する間もなく、気づけば塀にもたれかかって座り込んでいた。
顎を蹴っ飛ばされて、壁にぶつかって、尻もちをついたのだとわかったのは、シロコがパイセンにのしかかって足で首を絞めあげながらライフルをこちらへ向けているのを軽い脳震盪を起こした頭で認識した後だった。
「ま、待──いだだだだだ!」
静止のかいもなく1マガジン分のライフル弾をきっちりぶち込まれた。
「……ぐ、ぐふぅ」
「確かに硬いね。普通の人なら今ので1時間は気絶してる」
シロコが空になった弾倉を交換し、絞め落としたパイセンを解放してライフルを構え直す。
「ま、まま、待って!もう帰る、帰るからやめてください!これ以上戦う理由なんてないでしょう?ねっ、ねっ?」
「ノーサイドって?」
「そう、それ!」
「レフェリーはここにはいないよ」
チ、チンピラが!
「いぎゃぎゃぎゃぎゃ!?」
説得もむなしく無慈悲にも引き金が引かれて、追加で1マガジンのライフル弾をプレゼントされる。
「……ぐ、ぐふぅ」
「まだ足りないんだ。ごめんね、すぐ楽にしてあげるからね」
……前にそれ言ったやつ全然楽にしてくれなかったよ!くそっ、冗談じゃない!大人しく撃たれてなんかやるものか!
無警戒に目の前でリロードを始めたシロコの隙をついて走り出す。
「逃さない!」
「見逃してぇ!」
背中に射撃を受けながら、あと一歩で道を曲がって射線を切れるというタイミングで、目の前に壁が現れた。憎きIRON HORUSの文字が刻まれたそれは壁ではなくホシノの盾だ。
背後からはシロコが追ってくる。引き返すという選択肢はない。突破するべくその壁にタックルをかます。
「よいしょぉ!」
「うわぁ!?げ、げふぅ……」
衝突の瞬間に斜めに盾を構えたホシノは、私の勢いを受け流し利用し、そのまま盾に乗せてぶん投げる。私の体はいとも簡単に宙を舞い、一回転して背中から地面に叩きつけられた。
「ん。ありがとうホシノ先輩。助かった。なかなか倒せなくて……」
「ああ、この子ね。他の連中と比べて硬いよね。おじさんに任せてシロコちゃん。秘密兵器を用意しておいたんだぁ」
「た、たた、助けて……」
「そんなに怖がらないで〜、だ〜い丈夫」
二人がかりで滅多撃ちなんてビジョンに恐怖する私を見てそう言うと、ホシノは盾の裏から一発の弾を取る。指ではさんでこちらへ見せつけるように掲げたそれは、ショットガンの脇に取り付けらている赤色の実包とは区別するような緑色の実包だ。特に見た目に他の違いはない……が、なんだろう、すごく嫌な予感がする。
「テッテテー、スラッグだ〜ん」
「ヒッ!?そ、それ、クマとかイノシシに使うやつ……!」
「そ〜」
「ワ、ワタシニンゲン」
「似たようなものじゃない?」
全然違いますが!?
ショットガンに使われる弾といえば、小さな弾丸を複数打ち出すのが通常の散弾。代わりに一発の大きな弾丸を打ち出すのがスラッグ弾。口径約18mmにもなるその弾丸の威力たるや、人間相手にはオーバーキルもいいとこだ。
「ま、待って!降参、降参!こうさんさ〜ん!」
「ん〜。負けたら降参すればいいや、なんて心持ちでこられると困るんだよね〜。だから、ちょぉっとだけイタい目みてもらおうかなって。イタい目に合いたくないならアビドスには来なきゃいい、簡単でしょ?」
「わ、わかった!もう来ない!だから助け──」
「そお?じゃあ一発だけにしてあげるね〜」
「やめ──ピギュェッ!」
投稿遅れてすみません。言い訳はしません。花粉症が辛かったり、対策委員会編の続きが気になりすぎるのが全部悪(青封筒で撲殺される音)