ここは『キヴォトス』弱者に口なし 作:GAU-8
「……ん、んん?」
目を開けて最初に見えたのは薄汚れて、パネルがところどころ剥げた見るに堪えないボロボロの天井だった。喉まで出かかったあのセリフを飲み込みながら体を起こして周囲を確認する。
「うわぁ……」
夕日が射し込むだけの照明もない小さな部屋に、パイプの骨組みに布を張っただけの簡易ベッドがギリギリ人が通れるスペースだけを残して詰めれるだけ詰め込まれている。その上にズラリと、ヘルメットもつけたまま転がされている団員達。
何故こんな野戦病院みたいな場所に?ヴァルキューレに引き渡された、にしては扱いが雑だ。ならアビドス……でもないような?捕虜をこういう扱いするかしないかで言えばしそうではあるけど。
「……ああ、レイ。起きたのね、おはよう。この中にあんたの銃もあるはずだから持っていって」
建物の外は、すっかり通い慣れたワラワラヘルメット団のアジトだった。道路の真ん中にいたリーダーが、私に気づくとそう言って路上に直置きされた銃火器の山を指差した。
「おはようございます……私、なんでこんな所に?捕まったはずじゃ……ヴァルキューレは?」
「なにあんた、また反省文書きたかったの?」
「いや、そういうわけじゃないですけど……」
これまでの法則からいえば次は作文用紙3枚かな?人間にスラッグ弾を平気でぶち込む小鳥遊ホシノがいかに人類種にとっての脅威であるかを訴えるという内容で余裕で書き上げられただろうな、反省文。
あ、これだ、見つけた、私のAKちゃん。好き勝手にデコられてなんか別の物に!あんまりです!な銃達と一緒になってると、素材そのまま美しい実用向けの私の銃は逆に目立つ。
「ヴァルキューレとは話がついてるから、好きなだけとっ捕まって構わないわよ」
「へぇ〜え……!」
そうなの!?じゃあその辺の悪党でヘイロー耐久試験してもいいってこと!?
「……一応言っておくけどアビドス関連のことだけだし、限度もあるからね。むしろ別件で逮捕されないように今まで以上に大人しくしときなさいよ?」
「……は〜い」
なんだ。不慮の事故を起こさないためにもヘイローの限界を見極めておきたかったのに。
あれ?悪党とはいえ実験でヤっちまったら本末転倒なのでは……否、神秘の探究に犠牲はつきものデース。
「どう?これが権謀術数ってやつよ。あんたが得意な健忘術とは全然違うものなの、理解できたかしら」
リーダーがすごいのか、あるいは取締りの対象と取引してしまうヴァルキューレの腐敗がすごいのか……ともあれそのドヤ顔むかつく。
「すごいですね。負けてとっ捕まる前提で事前に根回ししておくなんてさすがです!」
「あ゛?」
「ぴぇ……!」
マグナム抜くのはズルじゃないですか、リーダー!?
「……あんたがチビピンクを超えるまでま〜だまだかかりそうだからね。鍛え始める前より簡単にやられてるんじゃないの?そんなことじゃボーナスなんかあげられないわよ?」
「ぐっ……!し、仕方ないじゃないですか!スラッグ弾なんか持ち出してきたんですよ、あんちくしょう!」
死んだらどうすんだ!もしそうなったら昼寝してる時の夢に化けて出てやるからな!
「アイツが撃つスラッグ弾……よく生きてるわねあんた。けど、そんなの50mも離れればまず当たらないわ、距離をとって戦えばいいだけの話よ」
「簡単に言ってくれますけどねえ……だいたい、仮にアホアホピンク一人どうにかしたところで、残りの三人相手でもボコボコじゃないですか!」
「……そうね、なんなのあいつ等。揃いも揃って荒事に慣れすぎよ。どっかの企業の特殊部隊の隠れ蓑なんじゃないの、アビドス高校って?」
バイトや賞金稼ぎで毎月700万円を5人で用意している連中だ。面構えが違う。
「とはいえ、さすがに弾薬なしでは私達と戦える程じゃないはずよ。借金のこともあるでしょうし、このまま反復攻撃で首を絞め上げてやるわ」
やっぱりアビドスを攻略しようと思ったら真正面から行くよりそこを突く戦略になるのか。仕留めるのに弾数を使わざるを得ない私が積極的に囮になりに行けば兵站攻めはより効果的に……はっ!?真面目に攻略してどうするんだ、私はアビドス側のスパイって体でやってるはずじゃ!?
「……トレーニング行ってきます」
何か別の作戦に変更させる方法を考えないと……
「……ああ、そうだ、ノルマのことならもうなしでいいわよ。攻撃頻度を増やすから体力は温存してそっちに集中して頂戴」
「そうですか?でも個人的にトレーニング続ける分にはいいですよね?」
「……ええ、まあ、別に止めはしないけど、なんのつもり?」
「弾薬切れを狙うというのはわかるが、別にアレを倒してしまっても構わんのだろう?」
「あんた、毎回ボコボコにされてるくせによくそんなこと言えるわね……嫌にならないの?」
「なりません!」
最初っから負けて当然の戦いだもの。なんなら本気で襲いかかっても傷つけないという信頼があるから襲ってるまである。
「あの、クソチビピンク、小鳥遊ホシノだけど、思った以上にとんでもないやつだったわ。一年の時は暁のホルスなんて異名で呼ばれて、うち……マンモス校の諜報部にもマークされるような危険人物よ。どう、それでも同じことが言える?」
知ってた。リーダーの方はどこでそんなこと知ったんだろう?ゲヘナか?ゲヘナだな。ゲヘナっぽいもんな、すぐ暴力に訴えるところとか、立ちふるまいとか、ありとあらゆることがゲヘナだ。ゲヘナに違いない。
「もちろんです。給料分はきっちり働きます」
「ふふっ、そう。いい心がけね。じゃあ期待してるわ、頑張ってね」
「はい!」
強くなれば気絶する前に退くという選択肢もとれる。それすらできない今のままではダメだ。もっとトレーニングが必要だ。今日の出撃でそれがはっきりした。あと──
だれでもいいから八つ当たりしたいぞ。
夜のアビドス自治区の治安は最悪と言っていい。砂漠に飲まれた廃墟に勝手に住み着いている夜行性のチンピラが活動を始める時間であり、学校終わりに他の学区からわざわざアビドスへ遠征してきて悪事を働く連中までいる始末。
つまりなんの気兼ねもなくお暴力を振るっていいお生物とのおエンカ率が非常にお高い、ということですわ。
「に、逃げろぉ!」
「ヒャッハー!汚物は消毒だー!」
終電でくたびれて帰ってくるサラリーマンをわざわざ待ち伏せしていた悪党共を待ち伏せしてがカツアゲをする現場にたまたま居合わせたため、直ちに現行犯粛清してやった。
そんな奴らが相手だから、逃げる背中に向かって銃を撃ちまくっても心は痛まない。むしろ楽しい!
力なき正義は無力であり、正義なき力は暴力である。つまり正義の暴力こそが崇高!この世の真理に到達しちまったなぁ〜、ノーベルゲマトリア賞は俺んもんだぜ〜!
「あ、あの、もうそのへんに……」
「まだはやいよ、おじさん。あんな奴らはもっと苦しめてやらなきゃ……」
「は、はぁ……しかし……」
背後から聞こえるなんともおどおどした静止の声。助けてあげたはずのブルドッグおじさんにドン引きされてるし、少しは気分も晴れたし、このへんにしておこうかな。
最後にもう一発だけ。よく狙って──
「バーン!」
「いったぁ!お、おぼえてろー!」
命中!今のは200mはあったんじゃなかろうか。
うん、アビドス生には全く歯が立たなかったから不安になったけど、チンピラ数人程度ならもはや相手にもならない。やっぱりちゃんと成長してるじゃないか、私。
「ダァーハハハ!正義実現は気持ちいいゾイ!」
「や〜、おじさんそういうの感心しないかなあ」
「硬いこと言わない。おじさんは助かったんだからそれでいいじゃんね」
ちっ!根性なしどもめ、速攻逃げだしやがって。おかげで一人しか仕留められなかった。
……望み薄だけど一応賞金首かどうか調べておこうかな。でも、私に怯えさせてしまったこの犬おじは協力してくれるだろうか?失敗したかな、見られてない所でやるべきだったか。でも待てよ、それならちょっと脅かせば協力してくれるかも。
「おじさーん、悪いんだけどさぁ?」
「ん〜?」
断るという選択がないと示すように、できうる限りの低い声で背後にいるおじさんに声をかけた。が、予想に反してそんなことはまるで効いていないような間延びした返事に違和感を覚えつつ振り返る。
「……お、おじさん?」
「そ〜、おじさ〜ん」
目の前にはおじさんはおじさんだけど、あんまり会いたくない方のおじさんがいた。弾をぶち込まれた痛みがまだ鮮明に記憶に残っているうちは特に。
「……あ、えっとぉ、おじさんさんじゃなくて、さっきのブルドッグのおじさんはぁ?」
「そっちのおじさんなら帰したよ。頼み事があるならこっちのおじさんでよければ聞くけど?」
な、なんでホシノがこんなとこに……そうだ。こいつ夜行性で夜は自治区をパトロールしてるんだった。ウカツ!
「悪いけど、なに?ほらほら、遠慮しないでいってみそ?」
ま、まずい。頼み自体は真っ当でも、頼み方が全然真っ当じゃない!
「……こっちのおじさんには言えないようなまずいことだったのかなぁ?」
思考が読めるのか……?まずい……
「……どうしてまずいの、言ってみなよ?」
コワイ!な、なんで、良いことしたのになんでこんな目に!?
「謝礼でも要求するつもりだった?」
「ち、違うわい!誰がそんなこと!」
「ほんとかなぁ?じゃあ何をお願いしようとしたの?」
そうだ、今は何も悪い事してない、むしろパトロール手伝ってやってるようなもんなんだからなにもビビることなんてないはずだ。なんだその態度は!ふざけるな!やんのかてめー、このやろー!やっちまうぞくらぁ!
「……その件なら自己解決いたしました!お手数おかけしました!さようなら!」
「え、ちょっ!?」
踵を返して全力ダッシュ!トレーニングで培ってきた全てを費やしてとにかく走る!200km行軍の途中だったことを急に思い出しちゃったんだから仕方ない!ついてこれるならついてきてもいいぞ、おっさん!
それから20kmは走っただろうか?まず間違いなく撒いたはず。あの中年jkおじさんについてこられるわけが──
「……気は済んだ?」
「ぴぎゃああああぁあ!?」
「逃げなくたっていいのに、お話するだけだからさ。ちょっと時間もらうよ〜」
……短い人生だった。