ここは『キヴォトス』弱者に口なし 作:GAU-8
人様の額に真っ赤なたんこぶを作って満足したのか、サイコヘルメットが追撃に来ることはなかった。
……覚えとけ、コノヤロー。
銃弾に倒れたはずの女子高生達は、やがてのそのそと起き上がる。よくよく見れば全員の頭上にヘイロー、異常な耐久性の源が確認できた。
いてーいてーと喚きながら退散していくのを見届けると手始めにこのビルを探索することにした。
曰くキヴォトスを丸腰でうろつくのは裸で徘徊するよりもレアな行いらしいからな。
武器の一つもあればいいけど……
翼がいらない。すごく邪魔くさい。部屋の出入口を通る度に引っ掛ける。広げたままだと身体の幅が何倍にもなる。
もし飛べないのであればただただ無駄な飾りでしかない。
慣れない感覚に四苦八苦しているうちに肩の後ろへ畳んで置くのが一番収まりがいいことに気づく。よし、これでいこう。
と思ったら今度は肘に相当する部位が上に引っかかる。やっぱり邪魔だ。もぎたい。
さて、そんなこんなで一階から四階まで一通り見て回ったわけだが……
まず、自分の所持品と思われるものは何一つなかった。
サイフ、スマホ、身分証、武器、etc……裸で目覚めなかったことを感謝するくらいなんにもない。憑依だとか、前世の記憶が戻っただとか、これまでの経歴を示すものが一切存在しない。
俺は突然ここに湧いてでてきたのかもしれない。
自分の物がないのであれば拾うしかないだろう。
ビルの中には夜逃げでもしたかのような状態で放棄された事務所があり、机の引出しを漁ってみたところ、ハンドガンが入っていた。さらにそのマガジンが一つ。
ライフルやら機関銃やらが跋扈するこの都市で、触ったこともないハンドガンが一丁ではあんまりにも心もとない。
まあ、無いよりマシか……ありがたく貰うね。
他に目ぼしいものは見つけられなかった。
つまりこのハンドガン、M1911ガバメントと45口径弾が7発、これが今の俺の全財産となるわけだ。
……どうしよう。野垂れ死ぬ未来しか見えない。
働こうにも住所も身分もない。犯罪……ダメだ。なにをするにしてもこんな得物じゃどこにいっても返り討ちだろう。
じゃなくてそれはダメだろ、倫理的に……
そうだ!シャーレの先生!
シャーレのビルには居住区があったはず。落ち着くまで置いてもらえないか頼んでみよう。全ての生徒の味方だって言ってたもんね。
俺だってここに来る前は卒業式も終わって春休み、就職秒読みの身分だったわけだけどまだ子供……子供か?恥ずかしくないのか。18歳。
ええい、知らん!心は死ぬまで子供でいたいんです!助けろください!先生!
方針は決まったので早速行動開始だ。
一歩外に出ればどうもここはブラックマーケットの端っこだったようだ。キヴォトスの中でも殊更治安が終わっている地域だ、さっさと離れるのが一番だろう。
無一文では電車もタクシーも使えない。サンクトゥムタワーとその天辺から空へと伸びる一条の光の柱、どこにいても見失うことないその目印だけを頼りにひたすら歩いて歩いて数時間。当然人通りの多い道を選ぶことも忘れない。
そのおかげか、目的地につくまでに遭遇した事件は、銃撃戦が5件、カーチェイスが1件、強盗が1件とたったのこれだけである。
ヴァルキューレの対応も早く、巻き込まれずにはすんだけど…なんというか、キヴォトスだなあ。という感想しか浮かんでこない。
「シャーレ、ですか?そのような場所はございません」
やっとこたどり着いた、連邦生徒会。総合案内の受付嬢がそんなことを言う。
「無い、とは?なくなったとか、そういうことですか?」
「いえ、私の知る限り連邦生徒会にはシャーレと名のついた組織は過去にも存在していません。どこかの学園の自治組織のものと勘違いされているのでは?」
「先生は?」
「先生、ですか?その、どなたのことでしょう?」
ブルアカでは先生と言えば、まずシャーレの先生のことで伝わるはずだが…
「では連邦生徒会長はご顕在で?」
「はい!?え、ええ、勿論です。申し訳ございませんが生徒会長とはアポイントがなければお会いになれません」
これは、俗にいう原作開始前ってやつ?なんてことだ、あてが外れた。
「どうしよう……」
「なにかお困りですか?」
「あの、お金も住む場所もなくて……」
「そうでしたか。では社会福祉部で相談なされてはいかがでしょうか?」
そんなことまで学生がやってるのか?というかセーフティネットの概念あったんだね、キヴォトス。ビックリだ。
「では番号札を取って、あちらの窓口でお待ち下さい」
「うげぇ……」
示された先には、生徒はもちろん犬やら猫やらロボットの長蛇の列。
定時までにちゃんと順番くるのか、これ。
「いらたいまてー、本日はどういったご要件でしょうか?」
日もオレンジ色に染まり始めた頃、ようやく窓口の前に座ると小学生みたいな背の小さな生徒がデスクにダラリと上体を投げ出したまま出迎えてくれた。
実に模範的な応接態度だ、舐めとんのか?
「お金と住む場所がなくて……」
「それは大変っすね〜。退学にでもなったんすか?」
微塵も同情など感じられない半笑いで投げかけられた質問に俺は答えられずにいるが、少女は気にもとめずに話を続ける。
「学生証ありません?期限切れの古いやつでもいいっすよ〜。免許とかでも、とにかく身分証だしてください」
「えぇっと、何も無いです。すみません」
「ではお名前は?」
「名前……」
俺の名前……当然あるが、女の子につける名前ではない。今の姿で名乗るにはあまりにも偽名臭すぎる。
流石にこれに即答できず答に窮している様子が怪しすぎたのか、少女の顔が一気に怪訝なものになる。
「……もしかして記憶喪失っすか〜?」
それだ!そういうことにしておこう。
「そ、そうなんです!すごく困ってて」
「じゃあ、せめて名前くらい思い出してからまた来てください。次の方〜」
「なっ!?ちょっと、待ってくださ──!」
思わず身を乗り出した俺を制するように、ガコンと顔の下から鈍い音がする。福祉部の受付嬢が机の下で銃を構えていた。
またショットガンだ。認識すると同時に冷や汗が吹き出して額が疼くような感覚がした。
「まだなにか?」
「……いいえ」
「つ・ぎ・の・か・た。邪魔なんで早くそこ空けてくださいね」
「はぃぃ……」
すごすごと引き下がるしかなかった。
足が痛くなるくらい歩いて、日が暮れるまで順番待ちして結果がこれ?腹立つ。腹減った。
刑務所の中なら衣食住全部解決では?キヴォトスなら銃乱射事件起こしたって死人の一人もでないよね……?
なんの気なしに懐に突っ込んだガバメントに手が伸びる。
「それはおすすめしませんね」
「ひっ!?」
背後からガッチリと肩をホールドされた。振り返ればいつの間にやら忍び寄よっていたヴァルキューレの生徒がにこやかにこちらを見ていた。
「さっきの恨みもはらせる上に、矯正局ならご飯も食べられる、そんなとこですか」
「な、なにを言ってるのやらさっぱり」
天井撃とうとしただけですが!?さっきの受付嬢撃ってやろうなんて考えもしなかったわ!発想が警官とは思えないよコイツ!
「まあ気持ちはわかります。あいつらムカつきますよね。でもここでそいつをぶっ放したくらいじゃ捕まんないですよ?」
「どういうことですか!?」
「あんまりにも同じような事案が続くんで、いちいち捕まえてたらすぐに牢屋が満員になってしまうんですよ。そういうわけで今はそういった方たちは百叩きにして外に放り出すことになってます」
「えぇ……」
……キヴォトスだなあ。
「で?いかがします?事件の方は省略して本官が百叩きにしてさしあげましょうか?おすすめはしません。やる方も結構疲れるんですよ。ですが、どうしてもと言うのであれば──」
「結構ですぅ……」
「ご協力に感謝します。なに、生きてりゃいいことありますよ。自暴自棄にならずに頑張ってください。では、良い一日を」
外に出れば空模様が怪しくなっていた。雨になるかもしれない。
……最初に目覚めたビルに帰ろう。あそこなら雨風はしのげる。
そのあとのことは、明日考えよう。