ここは『キヴォトス』弱者に口なし   作:GAU-8

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マンハンターカフェ

「よっと!」

 

 高み屋根の上に登って愚かな人類が下界で繰り広げている争いの様子を俯瞰する。我らがワラワラヘルメット団は人数差を活かしてアビドス生をバラして囲んでボコそう作戦を遂行中。こちらの狙い通りアビドス側は微妙に連携がとれない距離で離れて戦ってはいるが……特にそれを気にする様子もなく、各々で勝手に目の前の害虫駆除に勤しんでいる。

 彼女達の間にはチームプレーなどという言葉は存在しないのかもしれない。あるとすればスタンドプレーから生じるチームワークだけってやつだろうか?

 ふとドローンの羽音が近づいてきて視線をそちらへ向ける。あれはアヤネのドローンだな。だが警戒は解かない。この間無視してたら脳天にダンベルぶつけてきやがったからな。あんなの二度と食らわんぞコノヤロー。

 今日は何も持ってないな、よし。そうして視線を上に向けていると校舎の屋上の人影に気づく。あれは……ノノミかな?下にいないと思ったらそんなとこにいたんだね。手を振ると振り返してくれたカワイイ。

 ノノミはあそこから火力支援をしているらしい。なるほど、あそこからならメンバー間で多少の距離が開いていても援護できるし、下からは攻撃しにくい屋根の上も遮蔽物が全く無いただのキルゾーンに早変わりと、なるほどなるほど……ん?

 

「ウ、ウワーッ!」

 

 慌てて屋根から飛び降りる。ほぼ同時に私が居た場所へと毎時1.8tの猛烈な銃弾の雨が降り注いだ。

 毎回思うんだけどそれちゃんと加減できるの!?いくら生徒といえど限界超えて撃たれたら死ぬんだよ、知ってた!?笑顔であんなもの振り回してるノノミが一番怖い説ある!?

 しかし、こうなるとこの前やった屋根の上からグレネードポイポイ作戦は使えないじゃないか……なんであんなところにいるんだノノミめ。仕方ない、味方が残ってるうちにホシノをしばきに──

 

「ん、羽付き発見。ありがとうアヤネ」

 

「ヒィッ」

 

 背後から首を狙って殺意すら感じる銃床フルスイングをかましてくるcv小倉唯の何者か。振り向きざまに軌道を遮るようにライフルを構えてかろうじてそれを防いだ。

 

「あいたっ!」

 

 だがシロコにそのまま力ずくで押し込まれ、自分のライフル諸共ヘルメットに直撃した。

 一度は防いだとは思えない勢いと威力に思考がとびかけるが、ひるんでいる暇はない。すぐに後ろへと飛び退く。

 顎の数cm先をライディングで鍛え上げられた脚が風切り音と共に通り過ぎていった。

 

「すぐ蹴る!」

 

 足癖が悪すぎますわ!隙あらばすーぐ蹴っ飛ばしてきやがりますわこの方!前にも指摘いたしましたのに直そうという気が微塵も感じられませんわ!お下着が見えてしまいますのよ!お下品ですわ!白いですわ!

 

「今日こそ私が相手をする」

 

「えー……」

 

 シロコが最近私を見つけるなりすごい勢いで襲いかかってくるし、ホシノと遊んでても横やりいれてくる。なぜだ……心当たりがありすぎてどれかわからない……

 

「いくよ」

 

「あっ、ちょっ、タ、タイム!」

 

 身を低くして突っ込んでくるシロコ。ライフルを向けて牽制するも、シロコさんなんとこれを無視。回避もせずにまっすぐ突っ込んできて、せっかく空けた距離も瞬く間に詰められてしまった。

 

「あぶぇっ!うっ!ひぇっ!?」

 

 銃口突き、ハイキック、右ストレートにボディブロー。とにかく後ろ退いてすんでのところで躱していく。

 

「ちょこまかと……!」

 

 仮にもメインヒロインでしょ貴女、そういうのはこちら側の人間が言う台詞ですのよ。お慎みあそばせ。

 射撃されそうになるのを今度はこちらから距離を詰め、私のライフルを叩きつけて銃口を下に逸らす。ほぼ同時にシロコは引き金を引き、放たれた弾丸が私のすぐ足元に着弾して身の竦むような不快な音をたてた。

 って、いってぇ!足の小指撃たれた!もうやだ!おうちかえる!

 

「うわっ!?」

 

 引け腰になったのを見透かされたかのようなタイミングだった。シロコが顔がぶつかるんじゃないかと思う程大胆に踏み込んでくる。反射的に距離を離そうとしたところを、軸足を刈られ、背中から地面に墜落させられた。

 とっさにハンドガンを抜いて追撃を食い止めようとするも、シロコさんまたもやこれを無視。眉間に向けられたハンドガンを腕ごと捻り上げ、首の気道と動脈を脛で押し潰して締め上げてくる。

 

「なんで撃たないの?接近戦でそれは命取りだよ」

 

「ギ、ギブ……ギブ……」

 

「ん……わかった」

 

 ゑ?

 

「今楽にしてあげる」

 

「コケェッ!?」

 

 とどめと言わんばかりに体重をかけてもう一押し。珍しく言葉通りあっという間に息苦しさから解放してくれた……でもどうせ殺られるなら太ももがよかったです、まる

 

 

 

 モチョモチョヘルメット団。アビドス郊外、放棄された住宅街に根城を構え、夜になるとどこからともなく集まってきては群れで悪事を働く絵に描いたような悪党共だ。わざわざ砂をかき集めてきてカムフラージュされた連中のアジトは、砂漠の遠景に溶け込み発見を難しくしている。

 ま、上から見れば丸見えなんだよね〜。

 少し離れた場所にある貯水塔の屋根の上。そこから見下ろすと警備の配置から人の出入り、防衛設備にいたるまで全てを一望できる。こんなの襲ってくれと言ってるようなものだろう。

 

「どうしてすぐに高いところに登りたがるの?」

 

「そこに高いところがあるから?」

 

「……」

 

 リーダーの名前は……なんだっけ?50万円ちゃん?副官らしき娘は3万円ちゃん。その他下っ端にも賞金首数名。一網打尽にできれば相当な稼ぎに──誰だ今の。

 

「……」

 

 背後になにかいるような、いないような。わからん。でもこんな夜中にこんな場所に私以外、人がいるなんてこと……人じゃないなにかならいるかもしれない?

 油が切れたようにギチギチと軋む首をなんとか回して背後を確認する。

 

「こんばんは」

 

「ぬ偵∞」縲❥√す繝ュ繧★!!!」

 

 月明かりの中、暗闇に銀の髪と白い肌がぼうっと浮かんでいた。

 

「ん、大きな声ださないで」

 

「ご、ごめんなさい」

 

 びっくりした!昼間私のこと絞め殺そうとしたシロコさんじゃないか、驚かさないでほしい。てっきり、幽霊か、と──

 

「ぬ偵∞縺」❥縲√す繝ュ繧★!!!」

 

「……なにをそんなに慌ててるの?人に見られたくないことでもしてた?」

 

「そ、そそ、そんな、滅相もない!腹いせがてらお金稼ぎしようだなんて企んでないですよ!」

 

「そうなんだ……」

 

 見事な言いくるめによってなんとか窮地を脱することができた。シロコはそれ以上なにか言うでもなく、ただ隣へ立って下を眺めている。とりあえず気絶させられて頭から突き落とされたりはなさそうだ。

 

「そういうシロコさんはなんでこんなとこに?」

 

「ん……偶然」

 

「ぐう……ぜん?」

 

「偶然」

 

 偶然か〜。私も夜中に貯水塔に登りたくなるからわかるわ〜。で、今日はたまたま先客がいたと……そんなわけあるか、なんだそりゃ。

 

「シロ──」

 

「そっか、あんなところにチンピラの溜まり場があったんだ。気づかなかった、よくみつけたね」

 

「あ、え、はい、偶々見かけて後をつけてたらあそこに……」

 

「一人で攻撃する気だったの?前にも言ったけどレイは2人相手にするのが精々だよ。あれは数が多すぎる、やめておいたほうがいい」

 

 前は5人って言ってなかった?なんか減ってない?

 

「でも50万ですよ!?」

 

「……50万?」

 

 首を傾げるシロコに、スマホでヴァルキューレの手配犯が掲載されたページを表示して見せた。

 

「やっぱり……」

 

「やっぱり?」

 

「レイ、私になにか言うことがあるんじゃない?」

 

「……?あ、協力してください!お願いします!リーダー以外にも賞金かかってるんです!全員とっ捕まえて賞金は山分けにしましょう!」

 

「そっちじゃない……そっちもだけど。はぁ、まあいいや。そういうことなら協力する、作戦はあるの?」

 

 無論である。前回は凶暴な原生生物をけしかけることで一度は倒したことのある相手とはいえ、10万円越えの大物だ。念入りに偵察を重ねてきた。

 

「秘匿性を重視したのか出入り口は一箇所、つまりそこさえ抑えてしまえば奴らに逃げ場はありません」

 

「ん」

 

「手始めに正面から突っ込んでそこを守るMG42を奪います」

 

「ん……ん?」

 

「あとは内側に残った敵を機関銃で一掃するだけです!楽勝ですね!」

 

「レイ……私がこなかったら危なかったかもね」

 

「……一方的に勝ちすぎて私の方が逮捕されるってことですか?」

 

「う、うん……そうかも」

 

 体力おばけのシロコが疲れた顔を見せるなんてよっぽどだね。どこぞのヘルメット団にしつこく攻撃でもされているのかな?かーわいそ。

 

「最初にドローンで爆撃して、正面から気をそらす。なにか良い目標はない?」

 

「それならあのテントがいいですよ。たぶん弾薬庫です」

 

「ん、いいね。そのあとはレイの……さくせん?うん、作戦通りに正面ゲートを制圧しよう」

 

「了解!」

 

 

 

 シロコと二人で曲がり角に身を隠して攻撃開始を待つ。遮蔽物のない直線道路の先にヘルメット団のアジトの入口があり、かの悪名を高いMG42機関銃が敵を挽き肉にせんと待ち構えている。

 

「始めるよ」

 

「はい」

 

 そう言ってシロコが手元でリモコンを操作すると、アジトの中から大きな火柱が上がる。

 蜂の巣をつついたような騒ぎの中でも持ち場を離れないが、しっかり目線はそちらに釣られている優秀なんだかそうじゃないんだかなんとも言えない微妙な見張り役が音も立てずにシロコに制圧される。

 

「レイはここから援護」

 

「ラジャラジャ」

 

 簡易に据え付けられただけのMG42をアジトの内側へ向けて付け替える。視界は良好、燃え盛るテントを前に右往左往するヘルメット達がほとんど全員射線に入っている。まだこちらは気づいたやつはいない、目には入ってるやつもいるだろうがそれどころじゃないのだろう。

 僅かな死角も、シロコがカバーに入って潰してしまう。蟻の子一匹外には出さないという無慈悲な意思が感じられるようだった。

 

「攻撃開始」

 

 シロコの合図でほんの一瞬引き金を引いた。たったそれだけで3人がちょび髭印の電動ノコギリの犠牲になった。

 試射は終わった。何人かが反撃を試みているようだが手遅れだ。引き金を引いたまま、銃口を振り回す。

 

「ヒャッホー!最高だぜぇ!」

 

 曳光弾の列が右に左に鞭のように振るわれ、ヘルメット団を薙ぎ倒していく。弾薬ベルトの弾が全て撃ち尽くされた後には立っている者は一人もいなかった。

 

「うへへ……」

 

 手がジンジンします。それにこの威力……私機関銃好きかも!

 

「お疲れ様、あっけなかったね」

 

「したらば御首みしるし頂戴……」

 

「オンリーアライブ……あっちにトラックがあったからそこに全員載せていこう。私は鍵を探してくる」

 

 

 

「ふふふ〜ん」

 

 ヘルメット団を一人一人拾ってトラックの荷台に投げ込んでいく。なかなかの重労働だが、それに見合う対価が約束されているのだから体は軽い。

 

「動くな」

 

「ひゃぁぁっ……!?」

 

 背中に太くて硬くて冷たい棒状のナニカを押しつけられる。この感触は……ショットガンだ!ベレッタ1301だ!稀によく突きつけられるから覚えちゃったじゃん!どうしてくれんだ小鳥遊ホシノ!

 

「羽付きちゃ〜ん?今日はまた随分と派手にやったね?ちょおっとおいたがすぎるんじゃない?」

 

 ホシノ!?ホシノナンデ!?争いを感知したら首を突っ込まずにはいられない習性でもあるのか!?

 

「あ、あの、これは、違うんですぅ……」

 

「なにが?誘拐にしかみえないよ。詳しくお話聞かせてもらおうかな?」

 

 そんな暇あるか!シロコに見つかったらややこしいことに──

 

「レイ?さっきから誰と話して……ホシノ先輩?」

 

「へぇっ?シロコちゃん?」

 

 タブンシンダー

 

 

 

「やぁ~、おじさんの早とちりだったか〜、ごめんごめん」

 

「最初からそう言ってんだろ、ぶっ殺すぞ……」

 

「ん〜?」

 

「ご、ごめんなさい」

 

 誘拐疑惑は晴れて、これにて一件落着……しとらんわ……!なにひとつ……!核地雷が臨界状態で埋まったままなんですわ!

 

「二人共もう顔見知りだったんだね」

 

「まぁね〜。でもおじさんと会ったときは渡里レイちゃんじゃなかった気がする〜。なんだっけ、デーモンコアちゃん?」

 

「そ、そそ、そんなわけあるか!ちゃんと自己紹介したよ!呆けてんじゃないの!?」

 

「ん〜?」

 

「ご、ごめんなさい」

 

 シロコはともかくとして、ホシノはなに!?なんなのその顔!?怖い!笑顔が怖い!

 

「あ、あー!疲れちゃったなぁ!早く休みたいなぁ!」

 

「えへ、なぁに?おじさんもしかしてお誘いうけてる?」

 

「ち、ちち、違うわ!」

 

「ん……そうだね、もうこんな時間。ヴァルキューレに引き渡しに行こう。あ、このトラック、前は2人乗り……」

 

「おじさんは荷台でも……うへぇ、満員だ。にしても酷いねこれ、もうちょっと積み方考えてあげてよ」

 

 眠いし早く帰りたかったのは本当なんだもん、仕方ないじゃん。銃で撃っても壊れない荷物なんだしへーきへーき。

 

「じ、じゃあ私歩いて帰ります!」

 

「え〜、いいよ別に、遠慮しなくて」

 

「ん、ならレイとホシノ先輩が2人で……」

 

「そ、そそ、それだけは!何卒!何卒!」

 

「うへぇ……そこまで嫌がらなくたっていいじゃん」

 

「ホシノ先輩のこと嫌いなの?」

 

「はっきり聞くね、シロコちゃん!?」

 

「き、嫌いということは……」

 

 そんなことない、好きな方だと思う。昼行灯キャラで切れたナイフを隠してるところ、ストーリーを読んでも底が見えない闇を抱えてそうなところ、ずっと息を止めて青春を送ってるところ。

 でも強いて言うならアンタの存在そのものが鬱陶しい。

 

「と、とにかく!私が歩いて帰ります!決定です!異論は認めません!さようなら!」

 

「レイ、ちょっと待って。賞金を分けるのに連絡とれないと不便」

 

「え?そんなのトレーニングの時にでも──」

 

「連絡がとれないと不便」

 

「……?あ!そう!スマホ!カッタ!レンラク!コウカン!」

 

「ん」

 

 ありがとうモモフレンズコラボキャンペーン。たしか名義貸しは日本では犯罪だった気がするけど、キヴォトスの法律でもそうとは限らないから。法律を観測しない限りは犯罪かどうかは決定されないから。

 

「じゃあ、気をつけて帰って」

 

「はぁい。今日はありがとうございました」

 

 トラックが発車するのをまっていると、助手席側からホシノが降りてこちらへ歩みよってくる。

 

「ひっ!?な、なに!?やんのかコラァ!」

 

「んにゃ、一つ言い忘れてね〜……おじさんと遊びたいだけなら一人で訪ねてきなよ。あんな連中と一緒じゃなくてさ、それならいくらでも相手してあげられるよ?」

 

「ほ、ほぉー、その言葉忘れりゅなよ?」

 

「そんな震えた声で威嚇されてもね〜。ま、そういうことだからよろしく。そんじゃね〜、バイバ〜イ」




 1天井で撤退するのが最善だったって、本当に最初からそう言えた?どうして?なんで周年限定生徒が一人もすり抜けででないの?ねぇ、どうして?どうしてホシノピックアップを引くとクロコが来てクロコピックアップだとホシノが来るの?どうしてアリ夏に残しておいた石が溶けてるの?私はまた4周年まで水着ハナコなしで生きていくの……?
 ああそうか──アロナが。アロナが。アロナが。アロナが。
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