ここは『キヴォトス』弱者に口なし 作:GAU-8
「小鳥遊ホシノこんにちはぁ!」
「は、羽付きちゃん。キミって子はホントに……はぁ」
「アバーッ!?」
今日は気絶しなかったから実質勝ちです。対戦ありがとうございました。追伸 ez.
「というわけでボーナスください」
「……なにがどういうわけ?全く理解できないわ」
今まで聞いたこともないような低い声でリーダーが言う。
ホシノ相手に実質勝ったのだからボーナスくらい当然だろう。などという浅薄な考えで軽率にもリーダーの部屋まで直談判に来てみた次第でございます、大変申し訳ございませんでした……半分冗談じゃん!そんなに怒んなくたっていいでしょ!
「ご、ごめんなさい、言ってみただけです。失礼しました」
「……給料に不満でもあるの?」
諦めて立ち去ろうとすると、リーダーがそんなことを言う。これは交渉の余地があるかもしれないと期待をもって振り返れば、リーダーは口をへの字に曲げて眉をひそめていかにも不満げな顔でこちらを睨んでいた。
「ふ、不満だなんてそんな、あるわけないじゃないですか。やだなぁ」
が、そんなことに怯む私ではない。ヘルメット団の給料頼りに一人暮らしをしている身としては現状はいささか苦しいと交渉を……あれ?
「そう、よかったわ。月に10万なんてヘルメット団の1団員としては破格だもの」
「で、ですよねー……」
確かに交渉の余地はあるかもしれないが、下手をうてばクビになりかねないような圧を感じる。やっぱり今日は諦めよう!やるならせめてもうちょっと善戦した日にしよう!
「まあ、カイザーPMCにでも入ればもっと貰えるかも知れないわね」
「は、はあ。カイザーPMCがわたくし如き下賤な野良犬相手にしてくれますかね?そ、その点リーダーは大変懐が深──」
「関係ないわ。実力さえあれば本来矯正局送りになるような生徒でさえ雇ってるって噂よ。あんたにその気があるなら紹介してあげるけどどうする?」
無視か……というかなんでそんな話に?やめさせたいの?
「いえ、結構です!ヘルメット団でいさせてください!」
「どうして?お金に困ってるんじゃないの?」
「大企業に縛られるより、多少給料が悪くても好きにやらせてもらってるこっちの方がいいです!」
「月に100万くれるって言われても?」
「ひゃ……き、金額の問題じゃありません!何億積まれようと同じです!生き方の問題です、矜持の問題です!」
「ふふっ、相当揺らいでるじゃない……まあ、いいわ。じゃあスカウトの話は断っておくわね」
いままでの剣呑な雰囲気はどこへやら、リーダーは頬をゆるめて微笑んだ……ん?は?いまなんて?
「……スカウトってなんですか?」
「なにって、そのままの意味よ。カイザーPMCからあんたをスカウトしたいって話が来てたの」
「月に100万で!?」
「ええ。あんたの何をそんなに評価してるんだか知らないけど、間違いなくなにか裏があるわね。断って正解よ」
例え話じゃなかったんです!?い、いや、でもカイザーPMCなんかろくでなし企業、なにをさせられるかわかったもんじゃない。どのみち断って……断……ひゃくまんえん……いや、断、り、方を、考える、ためにも、事前にぃ教えていただきとうござりましたかなあ。いや!どのみち断るんだけどさあ!断るにしても礼儀ってものがさあ!
「それに、あんたは私に一生ついてきてくれるんだものね。まさか、もう忘れたりなんかしてないわよね?」
「も、もちろんでさぁ。へ、へへへ」
ライトとリュークみたいな一生涯に渡る良い関係を目指しましょうね、リーダー。
ひゃくまんえんくらい賞金首ひゃくにんぶっ殺せばいいだけじゃんね。楽勝じゃんね。断ったことなんて、全く全然これっぽっちも気にしてないじゃんね。
だいたいあんなとこ入ったらアビドスとの対立もいよいよ決定的に……今でも十分決定的なような気がしないでもないけど……
「ん。こんばんは、レイ。奇遇だね」
「な、なんか最近こういうの多くないですか?」
「そうかな?今日は本当にたまたま近くを通りかかっただけだよ」
いつもの如く夜のアビドスでパトロール兼ゴミ掃除兼賞金稼ぎをしていると目の前に現れた砂狼シロコ。部屋着のまま外に出てきたようなラフな格好で、足元もサンダル、武器もハンドガンだけ、いったいぜんたいなにをしていたのだろうか?
「コンビニでも行くんですか?」
「ん?違うよ、レイを迎えに来たの。私の家、近くだからよかったら来ないかなって」
「……?さっき近くを通りかかったって?」
「うん。だからレイがたまたま私の家の近くまで来たから」
おかしいな。それではまるでシロコが私の居場所を把握しているような言い草じゃないか?
「ん……えっと、夜風に当たってたらたまたまレイが歩いてるのが見えて……」
珍しく歯切れの悪いシロコ。嘘をついているのは明らか……じゃないな!嘘をついているかの確証が得られない!ここは汗の味をたしかめてみなければならないかもしれない!
「まあ、その、こんなところで立ち話もなんだから、私の家で話そう。私もこんな格好であんまりうろつきたくないし」
「あ、私えっと、用事があるので!CQCの稽古があるので!」
ホシノを襲……遊ばないと!個人的に遊びに来なさいって言われたけど昼間は忙しいから最近は夜に見つけ出して遊んであげてる。2倍戦えば2倍早く強くなれる、私の計算は完璧です。
「ん。それなら私がしてあげる」
「いだだだだ!ち、ちょっと!いくらなんでも強引すぎ!や、やめ、やめろぉ!」
「……」
「……」
案内されたシロコの部屋はアパートの一室だった。女の子の部屋としてはやや物が少なくて殺風景な気がしないでもない。まあ廃墟に住んでる私が言えたことではないか。ただエセ女の子の私の部屋と決定的に違うのは匂い!なんかすごくいい匂いがする!外の空気とほとんどかわらない私の部屋とは比べるべくもない!
「匂いが気になるの?」
「い、いえ、別に!?」
「それならあんまり嗅いだりしないで。その、ちょっと恥ずかしい」
「す、すす、すみません!」
バレてた。顔が火照って熱くなる。丸テーブルを挟んで向かいに座っているシロコの顔を見ていられなくなって足元に視線を落とした。
「どうしてそんなに緊張してるの?」
「へぇっ!?緊張!?し、してませんけど?よ、よゆーなんですけど!?」
「全然そんなふうに見えないよ。取って食べたりしないからリラックスして」
キヴォトスにきてそれなりになる。多少は耐性がついてきたとはいえこの状況はこの間まで男児だった身には、部屋に二人きりというのは刺激が強すぎるといいますかなんといいますか……
「……」
シロコが何も言わずに見つめてくるのも余計に緊張する原因なんですけど。
「わ、私の顔になにかついてますか?」
……我ながらクソみたいな言い草だ。完全に因縁つける時のそれじゃん。もうやだ恥ずかしい、帰りたい。
「……レイの髪、最初に会った時から比べて随分傷んでる。どんなシャンプー使ってるの?」
「ええと、ど、どうだったかなぁ?ちょっとど忘れしちゃってぇ……」
一番安いやつ適当に買いました!メーカー?知らん知らん。
「じゃあトリートメントは?まさか、してない?」
「トリ……?ああ、いえ。えっとリンスインシャンプーを使ってまして」
「……ありえない」
なんで!別にいいでしょ、便利でしょリンスインシャンプー!リンスインシャンプー農家さんに謝れ!その代わりに見様見真似だけどちゃんと時間かけて撫でるみたいな洗い方してるからいいの!
「そんなにお金ないの?でもおかしい、この前一緒に賞金首捕まえたばっかり……ん?」
顎に手を当ててしきりに首を捻っていたシロコが、不意にピタリと動きを止めた。その視線が注がれている先には……当たり前のように部屋にあるガンスタンド。より正確には立てかけてある私の新しい愛銃M249ちゃん、お値段シャンプー100個分くらい。
「レイ」
「い、いやぁ。あへへぇ。さ、最近なにかと物騒でしょ?何事も命があってこそといいますか、ね?ね?」
「……やっぱり無理矢理にでも捕まえて保護するべきかな?」
「い、いまなんて?」
「ううん。こっちの話。焼け石に水かもしれないけど家でシャワー浴びていく?私のシャンプーを使っていい」
「い、いえ。そこまでしていただかないても──」
「遠慮しなくていい」
「でも──」
「遠慮しなくていい」
これ、はいを選ぶまで永遠に続くタイプのイベントだな?
「わかり──」
「遠慮……ん?わかったって言おうとしたの?」
「は、はい」
「じゃあ、バスルームはそっちだから。タオル持ってくるね」
よし、帰ろう。お邪魔しました。シロコが指さした扉は素通りしてそのまま玄関へ。
「どこへ行くの?」
「シ、シャワーを浴びる準備だぁ!」
「軽機関銃を持って?」
「あ、あははは。こ、ここ、これがないと安心できなくてぇ」
「そっか、じゃあ脱衣所まで持っていっていいよ」
両肩を掴まれたまま脱衣所まで誘導されて、そのまま中へ放り込まれて扉を閉められてしまった。もう一度逃げようとすればさすがに怒るだろう。仕方ない、パッと浴びてパッと出よう。
ふとここで違和感。換気扇が回ったままだし、なんだか空気が湿っぽいというか?
「し、シロコさん?つかぬことをお伺いしますが、今日はもうシャワー浴びられておられます?」
「うん。少し前に、なんで?」
「いやいやいや!それはさすがに……あ!そう!私潔癖症で!」
「嘘。潔癖症があんなところに住んでいられるわけがない。いいから早く入って。ちゃんと髪を洗うまで帰さないから」
お、横暴だ!断固として抗議する!やだ!無理!こんなとこ入れない!冷水浴びてものぼせる!頭がフットーしちゃうよぉっ!
「レイ、もう服脱いだ?」
進むも地獄、退くも地獄と頭を抱えて脱衣所の中をぐるぐると回っているとシロコが扉をノックしてそう尋ねてきた。
「あ、えっと、は、はい!タオルならそこに──」
「ん」
スパァンといい音を立てて扉が開け放たれた。人が服を着ていないことをわざわざ確認した上で突入してくる横暴家主と、十分時間はあったのに脱衣所でボタンの一つも外していないフル装備の嘘吐きとで視線が交錯し、時が止まる。
「な、なな、なんで入ってくるんですか!エッチ!」
「もう脱いだって言ってたのに……」
「そ、そんな細かいことどうでもいいでしょう!?早く出てってください!ヘンタイ!」
「女同士なのになんでそこまで……私はこの隙に洗濯しようと思っただけ、やましいことはなにもない」
隙にってなに?洗濯って隙を見て勝手にやることだったっけ?
「いや、ここで洗濯しちゃったら私帰れないじゃないですか」
「大丈夫、私の制服の予備があるから。レイなら着れるはず」
どこみて言った?前はよくても後ろはダメでしょ。このでっけぇ翼が目に入らぬか!背中にどでかい穴開けたろかいクラァ!
「そもそも、それってアビドス高校の制服ですよね?いいんですか?」
「良くない。だからアビドス高校の生徒になるしかないね」
「はいぃ!?なんでそうなるんですか、全く意味がわかりません!?」
どういう理屈!?
「それがアビドスの伝統だから」
選択肢奪って無理矢理生徒にするのが!?いや、そうか、最年長のホシノがバスジャック企てるような学校だったね、アビドス高校。
「どう?」
「ど、どうと言われても……」
どうなの?願ったり叶ったりではあるけど、今更平気な顔でアビドスに入学しますだなんてアビドスの生徒にも、ヘルメット団に対しても不義理も甚だしいというか……いやぁ、キツいでしょ。
「か、考えさせてください」
「……ん。わかった」
こうでも言っておかないと帰して貰えなさそうだし……
「じ、じゃあ今日はこれでおいとましますね」
「シャワーは?いいの?」
「や、隙を見て帰る服奪われても困りますし」
「ん……そっか。残念」
どういう意味で!?やっぱり狙ってたの!?
「じゃあね、レイ。気をつけて帰って」
「アッハイ。お邪魔いたしました」
「いい返事を待ってるから……じゃないと、ホシノ先輩に教わったやり方に頼るしかなくなっちゃうよ」
なんのことかわからないけど、すごい寒気がする!
筆力というものには鮮度があります。創作活動から離れていればいるほどに文章とは死んでいくものなのです。如何でしたか?久々すぎてなんとか書き上げたお話の味は。