ここは『キヴォトス』弱者に口なし   作:GAU-8

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人間力

「ちょっと乱暴だったかな」

 

「ちょっとどころじゃな──ヒィン!」

 

 ささやかな抗議の応えは足元への銃撃というすごくちょっと野蛮な行いであった。あえて体に当てないことで一切の口答えは許さないというメッセージがより強く伝わる。さすがです、賢い、天才、助けて。

 ここはアビドス高校校舎の敷地内。これまで何度なく襲撃を繰り返してきたワラワラヘルメット団が、一歩たりとも足を踏み入れることが叶っていない塀の内側だ。つまり私が一番乗りを果たしたということになる。今日の戦功一番は間違いなくこの私!これはボーナスも夢ではないかもしれない……生きて帰れたら、ね。

 アビドスの生徒が全員健在であるにも関わらず私がこんな敵陣深くまで来られた理由は単純明快、目の前のアビドス生徒砂狼シロコがそうなるように誘導したからに他ならない。

 ときに行く手を爆破し、ときに銃撃し、ときにぶん殴って向きを変えさせここまで誘導してきた。そうやってわけもわからず逃げ回っている内に、ついに駐輪場らしきこの場所で足を撃たれて捕まった……なんでこんなことするの?いみわかんないよ、こわいよ。

 

「下手に加減してたらこっちがやられる可能性だってあったから」

 

「そ、そうなんですか……?」

 

 猫に弄ばれてるネズミの気分だったけど。

 

「……そんなわけない、羽付きなんて指1本動かさなくたって100回ぶちのめせる。調子に乗らないで」

 

「は、はい。ごめんなさい」

 

 いやいや、いくら私でも指1本動かさないシロコ相手なら勝てる……勝てる?そもそも自分で言い出したんじゃ……いいや、なにがしたいのかさっぱりわからないけど黙って従っておこう。今日のシロコは下手に刺激しない方がいい気がする。

 

「えっと、名前……は、どうでもいいや」

 

「はい!帝丹高校の、乱歩ドイルと申します!」

 

「……」

 

 生き物に向けてはいけないレベルの冷めた目と銃口を向けられて金輪際余計な言葉は発するまいと固く誓った。

 

「ここ、廃墟に見えるけどアビドス高校なんだよ……私のたった一つの居場所」

 

「う、うぐ……」

 

 そう言いながらマフラーにそっと手をやるシロコ。

 今更確認なんかしなくたって、ここがアビドス高校で、あなた方にとって大事な場所なんてことは存じあげておりますとも!先生が来るまで耐えることもわかってるからいいの!なんですか、あてつけですか!?はいはい、ごめんなさい!私は皆様の大切な学校を襲撃してお金を稼ぐクソ野郎ですよーだ!どうせ私みたいな雑魚が一匹攻撃に加わったところでアビドスが潰れたりなんかしないんだからいーじゃん別に!

 

「……」

 

「……」

 

 よくないですね、はい、ごめんなさい。命で償えとおっしゃるのであればそういたします。けどせめて一思いにやってください。痛くしないでください。ついでに命ばかりはご勘弁いただけると幸いでごさいます。あと欲を言えば撃つのも控えていただきたく存じ上げます。それとどうか寛大な御心をもって殴るのも止め──

 

「震えてるね、寒そう」

 

 別に寒くはない。人って寒い時にだけ震えるんじゃないんだよ、知ってた?

 

「……このマフラーは私の大切なものだからあげられない」

 

「は、はあ……」

 

 欲しいと思ったこともないけれど、シロコ様がそうおっしゃられるのであれば……

 

「……どう?」

 

「ど、どうって?」

 

「やっぱりダメか。次はなにか用意しておくね」

 

「は!?いや!ちょちょちょ、ちょっと、待──」

 

 シロコがため息をついて私に背を向けると、代わりにいつの間に飛ばしていたのかドローンがぬるりと高度を下げて目の前に現れた。そしてそのまま間髪入れずにロケットを斉射、私の意識は真っ黒に塗りつぶされた。

 

 

 

 目覚ましが銃声だったなんてのはキヴォトスでは話のネタにもならないようなありふれた日常の一幕にすぎない……我が家でならね。問題なのはここがワラワラヘルメット団のアジトで、この近辺で揉め事を起こすような輩はいないということ。

 ここから導きだされる答えは一つ、アジトが襲撃されていて、私以外が全員この救護所から飛び出していく間一人呑気にお昼寝していたということ。

 一番乗りの功績なんてこの失態で全部チャラだろう。なんてこった……一秒でも早く合流しなければと簡易ベッドから飛び起き、武器を回収してゲートへと急いだ。

 

「やっと起きたのね。こんな騒ぎの中で寝ていられるなんてさすがね」

 

「へ、へへへぇ。そ、それほどでも……」

 

 数に任せてゲートへ押し寄せるカタカタヘルメット団。我々ワラワラはゲートを守るべく横一列に展開して激しい銃撃戦を繰り広げていた。

 何食わぬ顔で戦列に加わってみたものの、リーダーに見つかって肝の太さをお褒めいただいた。

 

「戦車はどうしたんですか?なんで遊ばせてるんです?縛りプレイ?」

 

「違う!対戦車ミサイルをもってるヤツがいるのよ。先にそいつを片付けないと出せないわ」

 

「はあ。パンツァーファウストかなにかですか?」

 

「ミサイルって言ったでしょ……ジャベリンよ」

 

 現役の現代兵器じゃないですか、ヤダー。そりゃM4なんて出撃したところで即撃破されるのがオチだわ。ドローンもダメ、携帯式対戦車ミサイルもダメ、いつ役に立つのこの要介護兵器。コスパ悪くない?戦車買う金で対戦車ミサイルたくさん揃えたほうがよくない?

 

「ここを狙うならあそことあそこと、もしくはあそこね。とはいえあいつらには土地勘がないから全く違う場所に配置されてる可能性もある」

 

 リーダーは私と目線を合わせるように顔を寄せ、3箇所を矢継ぎ早に指さした。

 

「じゃあ、よろしくね」

 

「はい……はい!?」

 

 私に敵を突破してジャベリンを排除しろということだろうか。寝坊したとは言うが至近距離からロケットをぶち込まれて気絶していたんですが?今しがた意識を取り戻したばっかりなんですが?

 

「他の誰にできるって言うの?このまま戦車が使えなきゃジリ貧よ。ワラワラヘルメット団が無くなったらあんただって困るでしょ?野垂れ死にしたいの?」

 

「そうなったらカイザーさんちの子になります」

 

「……は」

 

 引っ叩かれるのを期待していたのにいつまでたっても手は飛んでこなかった。意図せず口から漏れたような弱々しい声に思わずリーダーの顔を見る。ヘルメットで表情は覗うことはできないが、視線を前に向けたまま固まっていた。

 なにその反応!私の忠誠を疑うのか!失礼ですよ!

 

「あ、あの!冗談ですよ!?え、えぇっと……よ、よーし!じゃあ早速対戦車兵器を黙らせてきますから戦車のスタンバイお願いしますね!」

 

「……ええ、よろしくね」

 

 おのれ!許さんぞカタカタヘルメット団!

 敵集団の中から一番偉そうなヤツを見繕う。最後方で銃も構えずになにやら叫び散らかしてる赤ヘルメットがいるな……まずお前から血祭りに上げてやる。

 

「ふぅ……よし、やるか」

 

 M249に神秘を込めて引き金を引く。こうすることで遮蔽物を貫通して敵に当たったり、敵の目の前で直角に曲がって壁に突っ込んだり、指数関数グラフを描くように空に打ち上がって爆発したりする!さらになんの影響もなく普通に飛んでく弾は体感8割!

 ……陽動としては完璧だね、うん。

 敵味方双方がクエスチョンマークを浮かべて静まり返っている間に助走をつけてビルの壁に向かって跳躍する。翼も最大限に活用し、高度を稼ぐ。

 今度はビルの壁を両足で蹴って目標の赤ヘルメットへ一直線に跳ぶ。着地直前にM249の銃身を持って、ボックスマガジンの角が当たるように頭を狙ってフルスイング──!

 

「どぉっせぇーい!」

 

「ぎぃやぁぁあぁぁ!」

 

 重力と筋力を乗せた一撃。哀れ赤ヘルメットは回転しながら2回バウンドし、さらに10m程地面を滑ってピクリとも動かなくなった。

 

「し、小隊長……?」

 

 小隊長だったの?小隊長殿が戦死なされたというのに貴様らなぜまだ生きているのか。早く後を追わんか、手伝ってあげるからさ。

 この距離なら狙うまでもない。手近な数人が全員倒れるまで引き金を引いたままM249を振り回した。ついでにマガジンが空になるまでこちらに背を向けている前線の敵兵に弾丸をプレゼントしてやる。

 

「うっ……痛たた……くそっ!なんだってんだ!」

 

 小隊長殿、生きておられたのですか!?供回りが全滅したというのになぜ生きておられるのです!早く後を追ってあげてください!某が介錯つかまつる!

 

「ひっ!……こ、この!」

 

 デザートイーグルを小隊長殿に向ける。相手の方が一歩速く、ライフル弾をきっちり1マガジン撃ち込まれてしまった……が──

 

「なんなんだ、今のはぁ」

 

「ひぃい!バ、バケモノ!」

 

 ホシノに1発撃たれる方がよっぽど痛かったぞ。ホントに撃たれたの?この距離で全弾外しちゃったんじゃないの?

 私はそんなヘマはしない。しっかり狙って1マガジン7発きっちり体に撃ち込んでやった。

 

「……う、うぐぅ」

 

 なんでまだ意識あるの?あれ、うそ、外した?いや、そんなはずない……

 ま、いいか。もう虫の息のようだから、リロードしてとどめを……いや、待てよ。

 

「小隊長殿、ジャベリンはどこに配置なされたので?」

 

「だ、誰が言うか……お、お前ら!こいつをやれぇ!」

 

「このぉ!小隊長を放せ!」

 

「あたっ……イタタタ!」

 

 バリケードに詰めていた敵が数人こちらに駆けつけてきている。たまらず路地裏へ退避した……小隊長殿を引きずりながら、一緒に。

 

「や、やめてよぉ……お尻、お尻がすり剥けちゃう」

 

「小隊長殿、ジャベリンはどこですか?時間がないんです、さっさと答えてください」

 

「バ、バカが!もうすぐ仲間が来てくれるのに誰が言うか!」

 

「……前から疑問だったんですけどキヴォトス人って目ん玉もちゃんと硬いんですかねぇ?硬くないと危ないからやっぱり硬いんですよねぇ?ちょっと試して──」

 

「こ、ここ、ここから、3つ目の交差点!北東側のビルの影に隠れてる!」

 

「一基だけですか?」

 

「そ、そうだよ!あんなもん何基ももってるわけないだろ!」

 

 仲間を売るクズめ、しぬがよい。

 とはいえ正直に答えてくれた小隊長殿の目ん玉に12.7mmアクションエクスプレス弾を撃つのは忍びないのでお腹にしてあげた。小隊長殿はその1発でヘイローが消えて動かなくなった。

 

「て、てめえ!よくも小隊長を!」

 

 背後から響く怒声。私はとっさに手近にあった“遮蔽物”を拾って迎撃態勢をとった。

 敵は銃を構えたまま金縛りにあったかのように動きを止める。

 

「お、おまえ……卑怯だぞ!というか、人の心はないのか!」

 

「そんなもん、ナニと一緒に向こうに置いてきちまったよ、へへへ。おら、小隊長殿を傷つけたくなかったら道を空けな」

 

 “遮蔽物”。パーソナルネーム、小隊長殿。恐らくは戦車砲を食らってもそうそう貫通しない、小銃程度なら1時間くらいは保つ。たしかアズサがそう言ってた。そして同程度の大きさと耐久性のものと比較しても遥かに軽い、理想的な盾だと思わない?

 

「く、クソ野郎。覚えとけ……ほら、行けよ」

 

「こっちからは攻撃しないなんて一言も言ってないけど?」

 

「は!?う、嘘だろ……ギャアアア!?」

 

 小隊長殿を有効活用し、反撃を受けることなく追っ手を全員排除した後、ジャベリンを鹵獲することに成功したのだった。その後は語るまでもない、初戦の焼き直しだ。戦車を先頭に、それまで劣勢だった分、ついでにアビドスにやられっぱなしで溜まった鬱憤を晴らすかのような蹂躙劇となった。

 

 

 

「これで何度目ですか!いい加減にしてください!」

 

「ひぃぃ!ご、ごめんなさ……い?」

 

 カタカタヘルメット団を撃退するとすぐ、足早に自分の部屋に帰ってしまったリーダーを追いかけて最上階へ。突然廊下に響いた怒号に反射的に謝ってしまった。しかし、見渡しても周囲にリーダーの姿はなく、その声が私に向けられたものではないことに気づく。

 とはいえ、リーダーの機嫌は最悪なのは間違いなく、戦果をアピールするのは避けた方がいいのは明白だ。帰ろうかな……

 リーダーは誰と話しているのだろうか?敬語で、怒鳴りつけるような相手……なんだその矛盾、気になる。

 リーダーの部屋の扉にくっついて聞き耳を立ててみる。

 

「依頼を取り下げるのでしたらこんな周りくどい手ではなく……とぼけないでください……はぁ。わかりました……はい……はい……そうです、その話は前にお伝えした通り……は!?そんなことしていません!なんで……ちょっと!もしもし!もしもし……クソッ!」

 

「ひぎゃっ!?」

 

 扉が突如として、漏れてくる声とは段違いに大きな衝撃音を放つ。狙われたのかと疑いたくなるほどのピンポイントアタックに私の鼓膜は限界寸前まで揺さぶられる。

 これはマズイと四つん這いでリーダーの部屋から少しでも離れようとしているうちに背後で扉が開く音がした。

 

「聞いてたの?」

 

「あ、いや?あ、へへへ……な、なにをでしょう?」

 

「……丁度いいわ、入りなさい」

 

「や、なにも聞いてな──」

 

「は、い、り、な、さ、い」

 

「はぁい……」

 

 地べたに寝そべって聴覚が回復するのを待って、リーダーの部屋に入った。

 

「……」

 

「……」

 

 なにぃ……こわい……

 

「だ、誰と話してたんですか?」

 

「カイザーPMC。私達の雇い主」

 

「へ、へぇ……」

 

 ……ん、アレ!?ジャベリンの出どころってカイザーPMCか!?どうりでヘルメット団のくせにあんな高価なもん持ってるわけだ。リーダーの言葉から察するに今まで襲撃してきた連中も全部……うわぁ。

 

「あんたをスカウトする話が来てたのは覚えてる?」

 

「はい。もちろん」

 

 年収1000万円を半ば騙し討ちみたいに断ったあれ。いや、どのみち断るんだけどさぁ。

 

「向こうは私があんたに話を通さず勝手に断ったんじゃないかって言ってきてるのよ」

 

 そうなんだ。半分は見当違いだね。

 

「そういうわけだから、あんたが直接出向いて、断ってきて。そうしないと向こうは納得してくれないみたいだから」

 

「わかりましたぁ!行ってきます!」

 

「えっ、ちょ、ちょっと!」

 

 そういうことなら早く解決しないとね、回れ右!退出!

 歩き出そうとしたところで、後ろから袖をつままれた。容易に振り払えてしまえる程に弱々しく、控えめな小さな手。

 

「ちゃんと帰ってくるわよね……?」

 

 なに……その……なに!?なんでそんなしおらしいの!?誘ってんですか、合意とみてよろしいですか!?ぶちおか──

 

「も、もちろんです。約束します」

 

「絶対、よ……」

 

 繧勵i縺帙mェ「繝ォ!

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