ここは『キヴォトス』弱者に口なし 作:GAU-8
「もうやだ、帰りたい。帰っていいですか、いいですね、さようなら」
「お、お待ちください!ここまで来ていったいなぜ!?」
それはこっちのセリフだよ!スカウトはお断りするってわざわざカイザーPMCにまで出向いて伝えてあげたんだからもういいでしょ!?それがなんで社内に案内されるんですか!面接か!?面接だろ!隠していても面接は雰囲気でわかりまするぞ!百戦錬磨の面接マスターを無礼るなよ!
「ここで帰られては私が怒られてしまいます、お考え直しを!」
「私はもう一生面接なんてしないんです!しなくていいんです!御社のますますのご活躍をお祈りもうしあげます!さようなら!」
「そんな殺生な!一言挨拶するだけでも構いません!私のことを助けると思って、どうか!」
「知りません!キミは廃棄処分になるんだよ!」
金属の塊がすがりつくな!自分の材質を自覚しろ!重いんだよ!
「面接とはいいますが、あなた様が弊社を品定めする立場なのですよ!?話くらい聞いていってくださってもいいではありませんか!」
なんとか引きずってエレベーターまで帰ろうとしている内に、受付ロボットの悲鳴を聞きつけた戦闘タイプのオートマタがなんだなんだと廊下の様子を伺ってくる。
チンピラ生徒以外とはまだ戦ったことがないからこいつらの力がどの程度かわからな……じゃなくて!仮にもクライアントなんだし、ここで派手に揉めるのはさすがにまずいだろう。
「……ホントに聞くだけですよ」
5億円積まれても身売りなんかしないんだからね!
扉に向かってノックを3回、許可が降りてから扉を開ける。
電気もついていないその部屋に入った途端、脳内に鳴り響く例のBGM。
「ようこそ、渡里レイさん。お待ちしておりました」
部屋のど真ん中に陣取り、机の上で偉そうに腕を組んでいるフォーマルスーツの男。民間軍事会社でありながら現場の汚れ仕事は我々の仕事ではないという不遜で見下した態度がありありと滲み出ている。そう、彼こそは生きとし生ける人類の仇敵、人事部──じゃないだろ、黒服!カイザーの人間でもないくせにどの立場でそこにいるんだ黒服!
「どうぞ、おかけください」
「はい……失礼します……」
オジギシテチャクセキオジギシテチャクセキオジギシテチャクセキ……はっ!?私はいったいなにを!?面接じゃないって言ってるのに!お前のせいだ黒服!なんだこのレイアウト!完全に面接じゃねーか!
「初めまして、ではありませんね。先日百鬼夜行自治区でもお会いしましたが、覚えておいででしょうか?」
「さ、さあ?いちいちすれ違った人の顔なんて覚えていませんからねぇ」
「クックックッ、そうですか、それは残念です。では改めまして、私のことはそうですね、黒服とでもお呼びください。あなたは渡里レイさんでよろしいですか?」
「はい……」
帰りたい……どうも息苦しい。電気つけようよ、なんでつけてないの?蛍光灯もダメなタイプの吸血鬼なの?あと換気しよう?密閉してたらそのうちに、頭から漏れてるのが部屋に充満しちゃうんじゃないの?
「あの、スカウトをお断りする話ってちゃんと伝わってるんですかね?」
「ええ、たしかにそのように伺っております。ですが何故でしょう?あなたにとっては魅力的な提案だったはずです」
いけしゃあしゃあとコノヤロー。お前のツラみてようやくわかったけど、カイザーPMCにスカウトなんて真っ赤な嘘じゃん。お前私を実験体にするつもりだったな?お前の手口はメインストーリーで予習ずみだよ、残念だったな。
それにホシノに提示した額と比べたら100万なんてはした金もいいとこじゃねーか、舐めやがって。
「まあこっちにもいろいろあるんですよ。なにを言われても答えは変わりません」
「そうですか。では例えば、月給を2倍にしていいと言われても、でしょうか?」
にひゃくまん!?……じゃなくて!こんなヤツの話に乗ったら一ヶ月と保たずにバラバラにされてホルマリン漬けになるに決まってる!黒服からしたら月給100万円でも5000兆円でも一緒ってことじゃん、どうせ初月給渡す日まで人間の形保ってる保証なんてないんだから!
「クックックッ、わかりやすいお方ですね。交渉の余地はありそうだ」
「ない!そんなもんないです!何億積まれようがお断りです!」
「なるほど、待遇面ではあなたの翻意は望めないと……ではアプローチを変えましょうか。渡里レイさん、あなたは暁のホルスに執着していますね。なぜでしょう?」
なんだってホシノの話になるんだ。
「なぜって……ただの、くだらない復讐心ですよ。やられたらやりかえしたいってだけの」
「いいえ、そんなものは後付けです。もっと根源的な理由があるのではないですか?」
黒服がわずかに身を乗り出したように感じたが、気の所為だろうか。おまけにヒビから漏れ出す光も煙も増えているような……キモ。
根源的な理由ねぇ……そんなこと言われてもゲームのブルアカの生徒の中でならホシノは好きに分類される生徒なんだけどな。カラスと猛禽の関係になったからか?本能的なやつ?
「なにか思いあたるものはありませんか?どんな些細なことでも構いません」
「まあ、なんとなく顔が気に入らない、とか?」
「顔ですか。目、ではなく」
「目……そう!あの目!なにあの目……腹立つ……傲慢」
昼と夜が一緒くたに自分のものだとでも言いたげなあの目。あれを傲慢と言わずしてなんと言おう。どっちか片方にしとけ?
「クックックッ、そうかもしれませんね。傲慢なうえに意地が悪い。全力を出してあなたに力の差を見せつけることはせず、あえてあなたの成長に合わせた程度の力に抑えている。一生かけてもこの差は埋まりません」
「なにかの手違いで埋まっちゃう日もあるかも……」
「いいえ、残念ですがその可能性は万に一つもありません。たとえどのような状況にあってもです」
そんなの……最初からわかって……
「単純な力の差ではありません、相性の問題です。あなたがどのように感じていようと関係ありません。太陽神としての性質を内包する彼女にあなたが勝てる道理はない。もっとも、あなたが彼女に対して歯向かうこと自体が荒唐無稽な話ではありますが、クックックッ」
「……あっそう、ご忠告どうも。だからなにって話ですけど。ホントに私をスカウトする気あるんですか?」
「そう怖い顔をしないでください。ここからが本題です。あなたは暁のホルスには絶対に勝てない、それがこの世界における抗いようのないルールです。ですが裏を返せばあなたには、暁のホルスが絶対に勝てない存在になりうる可能性があるのです、我々にはその技術がある」
「私をその技術の実験体にしたいだけでしょ?」
「クックックッ、確かに。言葉を選ばず申し上げるのであればまったくその通りです。ですがそれを加味したとしてもこの提案はあなたにとっては検討する価値が十分にある、でしょう?」
「……」
「この場で答えをだせとは言いません。いつでも構いません、良い返事をお待ちしていますよ」
「……はぁ〜」
な〜にが、検討に値する〜だ!黒服の提案って時点で検討に値しないの!ホシノに勝つのは努力目標であってゲマトリアなんかに身体を預けてまで達成しなきゃいけないようなことじゃないから!勘違いも甚だしいわバーカ、バーカ……バーカ!
雰囲気に流されてすぐに返事しなかったせいでまた断りに行く用事ができてしまった。黒服のやつ連絡先よこさなかったし、またカイザーPMCでいいのかな?
「羽付きちゃ〜ん、こんばんはぁ!」
「なっ、ホシ──ぐっ!?」
両足が一度に宙に浮いてなすすべもなく地面に倒れる。起き上がろうとする前に後頭部に銃口を突きつけられた。
「どうする、降参する?その状態からじゃもうなんにもできないよね?降参しよ?」
「誰が……!いてぇっ!」
銃口で小突かれた。
「おじさんパトロールで忙しいから早く降参して、おねが〜い。それともスラッグ弾でお願いしないとだめかな〜?」
「こ、降参……」
推定ホシノが満足げに一息つくと、後頭部に当たっていた銃口はすんなりと離れていった。
「毎回羽付きちゃんに襲撃されてばっかりなのも癪だったから今日はおじさんから仕掛けちゃった。これでいきなり攻撃される怖さはわかったでしょ?これに懲りたらもう夜道でおじさんを襲ったりしたらダメだよ、いい?」
「ふ、ふふ……ふふふ……」
「あれ、羽付きちゃん?どした?どこかぶつけちゃった?立てる?」
…………決めた。
力シリーズのサブタイトルは無理矢理感があるので後で変えるかもしれません!