ここは『キヴォトス』弱者に口なし 作:GAU-8
「初歩的なことだよ、ワトソン君」
「誰がワトソン君よ……」
アビドス高校はカイザーコーポレーションから莫大な借金をしている。ヘルメット団を雇って攻撃するなんて手段をとらずとも、その気になればメインストーリーの終盤でやったように到底払えない額の返済を迫るだけで簡単に潰せるのだ。
にも関わらずなぜわざわざそんな回りくどい手段を使っているのか?答えは簡単、カイザーの、否、黒服の真の目的が小鳥遊ホシノであるからに他ならない。
もし本当にアビドス高校が廃校になったとしよう。おそらくホシノは他の学校に転入することになるだろう。5人しか在籍していないアビドス高校と違い、生徒会がきちんと機能していて、自治区の治安維持のための組織もある。今以上に黒服がホシノにちょっかいをかけにくくなるのは間違いないだろう。
全ての黒幕、カイザーを背後で操る黒服にとってはホシノが身売りする前にアビドス高校が廃校になってしまっては困るのだ。廃校になるかもしれないというプレッシャーがかかっている状況であればそれで十分なのだ。
だったら、これ以上カイザーなんかのために真面目にアビドスを攻略してやる必要なんてどこにあるのか。身を挺して貴重な銃弾の無駄遣いを強いているワラワラヘルメット団はその役割を果たしていると言える。校舎を奪う必要はないのだから、テキトーに攻撃してるフリをして、支援金を巻き上げてやればいい。そもそも最初に不義理を働いたのはカイザーの方だ、文句を言う資格などない。
「……そう上手くいくかしら?」
「いきます!これでいきましょう!リーダー!」
逃げることに集中できるから痛い目に遭う機会も減る、アビドスの負担も減る、手取りは減らない。かんぺきー。
「……そうね。私もあの鉄屑にいいように使われるのもうんざりしてたし、カタカタの迎撃に集中できるものね……いいわ、あんたの話に乗ってあげる」
「ありがとうございます!」
「……ふふっ。人気者ね、小鳥遊ホシノは」
言いながらリーダーは嘲るように笑った。
「実はね、ヴァルキューレの目的も小鳥遊ホシノなのよ。正確には知り合いのお偉いさんだけど。あんな廃校寸前の学校で能力を無駄にしているのが許せないんですって、アビドスが潰れたらヴァルキューレに転入させる気でいるみたいよ」
「へ、へぇ……」
そのために捕まったヘルメット団を放逐して、何度もアビドスを襲撃する手助けを!?な、なんて悪い奴なんだ……ホントに警察のお偉いさんなのかソイツ?
「あんたにも好かれてるみたいだし」
「……は?」
まぁ、確かにこの形容し難い複雑な感情が好意だという解釈もできなくはないのかもしれない。
「あれだけの力があるのに結局自分の学校も守れない。敵が増えるだけ……同情するわ」
そう全部ホシノが悪い。アビドスが狙われるのも、砂漠化が進むのも、世界から貧困がなくならないのも、争いがなくならないのも、夏が暑いのも、空が青いのも、ユメ先……これはさすがにやめておこう。
「戦いでどれだけ強くたってそれだけじゃダメなのよ。人も、カネも、政治も、知略も、そいつが使える全てひっくるめての“力”なんだから。“力”がない弱いやつは“力”のある強いやつにいいようにされるだけ……あんたもよく覚えときなさい」
「でもなぐればだいたいかいけつしますよね?」
きゔぉとすそーゆーばしょ。おぼえた。
「……そういうところ言ってんでしょうが、このバカ」
どこまでも透き通るような青い空、白い雲、小鳥のさえずり、叫び声、硝煙の匂い、飛び交う銃弾。
うん、いつも通り!今日もアビドスは平和だな、ヨシ!
私ももの寂しいアビドス環境音に彩りを加えるべく、遥か彼方道の真ん中に陣取る黒い鉄板に向かってM249の引き金を引く。
「誰がやられたの?」
「あれは……パイセンっすね」
「……はぁ。普段はやる気ないくせに、ほどほどでいいって言ったらやる気だすんだから。不良の鑑よね、まったく」
パイセンは私の圧倒的制圧力の前に防御に徹するばかりで一歩も動けないでいるホシノに向かって珍しく挑みかかっていったと思ったら、2秒後には地面に転がっていた。
一見無謀な判断に至ったパイセンだが、気持ちはわからないでもない。
これまでの全戦全敗ハラスメントスパムアタックが効いてきたのか、今日はアビドスからの反撃が異様に少ないのだ。積極的に狩りに来ていた初期と比べれば非常に消極的に映る。
とはいえパイセンのように「今日は元気ないねぇ、どちたのかなぁ、ゲェッヘッヘへへェwwww」などと調子に乗ってこちらから攻め入れば、防衛ラインを踏み越えた瞬間に居合斬りの如き正確無比な集中砲火をくらう。そうしてパイセンと一緒にアビドスの砂に還ることになるのだ。
そんなザマを数回も見せつけられればワラワラ団員達はあきらかにやる気を失い、命中も望めないような射程の外から適当に弾をバラ撒くだけになっていった。
「……今日はこのくらいでいいでしょう。帰るわよ」
いつものリーダーならそんな味方のケツに44マグナムをぶちこんで士気を高めるくらいのことはしていそうなものだが、今日はただため息まじりに撤退を指示するだけだ。
「早くないですか?」
「あんた達景気よく撃ちまくるせいでしょうが!こっちだって弾を無限に使えるわけじゃないんだからね!」
「へ、へぇ……」
怒られたじゃん!あいつらがやってるアピールのためにさっきより気合い入れて撃ちまくってるせいだ!……あんた、達?私も?なんで?私は最初からちゃんと1000rpmを維持してバラ撒いてるでしょ?
「あんた最近、シロワンコにやたらと狙われてるみたいだけど──」
「撤退ですね!わかりました!じゃっ!」
粘っていつの間にか殿軍なんてなってしまったら目も当てられない。M249を背中に抱え、攻撃しようなどという意思は捨て去る。温存した全ての力をただ帰ることにのみに注ぐ。
「なっ!?待ちなさ……上司を置いて真っ先に逃げる気!?」
「違いますぅ!こっちに引きつけてあげるんですぅ!むしろ感謝しろください!」
なにもかもを置き去りにしていつもの逃走経路とは逆方向、砂漠側に向かって全力で走った。近くに人の気配がないのを確認すると、無数にある放棄された住宅の内の一軒に入る。あらかじめここに準備しておいた服に着替え、ヘルメットも脱ぎ、羽付きからただの渡里レイへとジョブチェンジ。あとはほとぼりが冷めた頃に何食わぬ顔でお家に帰るだけ……完璧な作戦だ!見つけられるものなら見つけ──
「そこにいるのはわかってる。無駄な抵抗はやめて出てきて」
なんでぇ……?あり得ない……尾行には細心の注意を払った。そもそも捕捉されていたのならその時点で攻撃されていたはず。ほぼ間違いなくこの家に入るところを見られてはいない……だと言うのに透き通るような素敵ボイスの何者か狼誰コさんが玄関の前に立っている……どういうことなの?
「10秒以内にでてこないなら家ごと吹き飛ばす。10……9……」
どどどどどーすんの!?どーすんの!?
い、いや、落ち着け、koolになれ渡里レイ。今の私をヘルメット団と結びつけるものはなにもない……はず。平然と応対すれば大丈夫……はず。
「ま、待ってください!私です!友だ……いや、トレーニング仲間……でもなく……えっと、あなたの顔見知りの渡里レイです!」
「……」
言いながら玄関を開けるとなんとそこには砂狼シロコがいたのです。両手を挙げて抵抗の意思がないことを示すも、眉間に銃口を向けられた。
「え、えっと、とりあえず銃は降ろして……」
「……もしかして喧嘩売ってるの?」
なんで、顔見知りでもダメなの!?そうですよね、わたくしめにそのようなものを名乗る価値もございませんよね!調子乗りました!ごめんなさい!
首をちぎれんばかりに振り回して挑発の意図などないと主張する。だというのにシロコは相変わらず眉をひそめて、引き金に指をかけたままにしている。
「じゃあ、本気の私と勝負したいの?それなら普通にそう言えばいい」
「ち、ちち、違います!」
なんでそんなに怒ってるの!?やっぱりバレてた!?
「……」
コンマ数秒か、あるいは数百時間にも感じられる長い時間を銃口を向けられたまま沙汰を待っていると、シロコがため息をつきながら銃を降ろした。
「……ここにヘルメット団が来なかっ──」
「いいえ!」
「……そっか」
やっぱりバレてはいなかったようだ。あぶねーあぶねー。
「レイみたいな羽が生えたヘル──」
「いいえ!そんなやつ知りません!」
「レイみたいな軽機関銃──」
「そうなんですか!偶然の一致ですね!でも知りません!」
羽が生えてる人間なんかキヴォトスじゃ珍しくもないでしょう!?それに、キヴォトスに何兆丁の軽機関銃が出回っているがご存知です!?その程度のことで疑われてはたまったものではございませんなぁ!……偶然だよ、偶然!
「……そっか」
はい……無理があるね……やっぱりバレてる……いや、バレてない……?殺さないで……
「この家──」
「私の!……?……あ、いや、えっと……」
今何を言おうとしたんだコイツ……私の家ですけど?それでシロコを誤魔化せると本気で思ってるのか?イカれとんのか?バカなんじゃないのか?
「……ふぅん。あがってもいい?」
「えっ……ど、どうぞ?」
「ん、お邪魔します」
脊髄トークの内容を脳が処理し、おや?と思ったときには既にシロコは私の脇をすり抜けて家の中へと入っていってしまっていた。制服やらヘルメットやらは隠してあるから家探しでもされない限りは見つからないはず。とはいえ、シロコを好きにさせておいてはどんなボロが出るかわかったものではない。慌てて後を追った。
「意外と綺麗にしてるんだ」
どうやら空いた時間にちまちまこそこそと整備を続けてきた空き家はシロコのお眼鏡にかなったらしい。それ以上我が家を物色し始めるようなことはせず、ただリビングを一通り見た後に一言そう言うのみだった……意外とってなに?
「レイはてっきり、ん…………どんな場所にでも住めちゃう……えっと、すごい才能の持ち主なのかと思ってた……」
当然の権利のように勝手にコップを出してきて勝手に一杯の水を飲みながら勝手に椅子に座って勝手なイメージを語るシロコ。
失礼な。ブラックマーケットの廃ビルだってちゃんとリフォームしようとしたよ?広すぎ荒れすぎ手応えなさすぎですぐに諦めたけど。
その点こっちの家は家財道具もほとんどそのまま、住んでた家をある日突然そのままポイ捨てしたかのように元から綺麗だった。おまけにガス水道電気が生きているときたもんだ。もう見つけたその日の内に私の別荘にしたね。捨ててあったんだから私のだ、異議は認めない。
ところでなんでシロコにそんな風に思われていたのだろうか?
「実際住、じゃなくて……そうだ。雨をシャワーの代わりにするような子だから」
「うっ……そ、それは、やむにやまれず……もうそんなことしてないんだからいいでしょう!?」
最低限雨風しのげて寝泊まりできればそれで十分だろう。誰も好き好んであんなところに住んでるわけじゃない。
「じゃああとは入学届を書いてもらって……」
「えっ!?い、いや、その話は……もうちょっと考えさせてください」
「前に聞いた時もそう言ってたよね?」
「前向きに!検討中ですので!お待ちを!」
ホシノはアビドス生になってからアゾるという選択肢もなくはないということに気づいたので!
「アビドスに入学する気になったから家を用意したんじゃないの?」
「あ、いや、ここは……別荘?的な?元から私の家、なんですけど?」
廃ビルはブラックマーケットにある立地上、いつ何時別のホームレスとシェアハウスになったり縄張り争いになったりで住めなくなるかもしれないという懸念がある。空き家が無数にあるアビドスは緊急時の仮拠点にを作るのに丁度よかった。1軒くらいくれたっていいでしょ!どうせ誰も住んでないんだから!
「アビドスに家があるなら言ってくれればよかったのに」
「そ、そうですよねぇ……へへへ」
「戸締まりには気をつけてね。空き家と間違えられてチンピラが勝手に使おうとするから」
「ははは……ソウデスネ」
手遅れだよ!鍵掛けてないのが悪いんだって!残念だったね家主サン!
「……アビドスでは空き家の不法占拠は重罪。9億7000万円の罰金または強制入学の刑。もしくはその両方」
「重すぎませんか!?」
借金全部負わせる気!?あと、入学を刑罰扱いしてるけどそれはいいのか、アビドス高生さんや。
「あ、空き家なら腐る程あるんですし、ちょっと使うくらいいいじゃないですか?そ、そんな怒らなくたって……ねぇ?」
「ん……そうかもね。でも勝手に使うのはダメ。最低でもアビドス高校……ホシノ先輩には一言入れるべき。それが筋。出て行けなんて言われたりしないよ」
シロコに真っすぐに目を見据えられて、思わず目を逸らす。もしかしなくてもバレてんねコレ……頑張って砂掃き出して使えるようにしたんだからこのお家頂戴……おねがい……
「ていうかシロコさん、さっきこの家爆破しようと──」
「話変わるけど、これ渡しておくね」
「……話変わりましたかね?」
「ん、変わった。だからこの話はここでおしまいだよレイ」
シロコが渡してきたのは名前以外は既に埋められている入学届。またの名を自首しろ通牒。保護者欄に砂狼シロコと書いてあったりするのはツッコミ待ちだろうか……こんな公文書提出したらなんらかの法律に引っかからない?大丈夫?
「学費は月に700万円」
利息分ほとんど私一人に払わせる気!?
「3日以内の入学で99%オフ」
安い!入ります!
……とはならんでしょ。シロコはそもそもなんで私をアビドス高校に入学させようとしているのか。一人でも稼ぎ手が欲しいだけ?渡里レイのことを勧誘しておきながら、舌の根も乾かぬうちに羽付きのことまで勧誘しようだなんて──はっ!?これって浮気じゃないかな……う゛わ゛き゛た゛!
「……もし仮に、仮にですよ……仮に!」
「ん、わかった。仮に、なに?」
「仮に私がこの家を不法占拠してるとして、そんな悪い奴アビドスに勧誘していいんですか?」
「うん。私も以前は悪い奴だったから。お腹が空いて人を襲ったの」
「そ、それって……まさか……」
「ん」
「食べ──」
「食べ物を盗もうとした」
……なんだ。この前ユウカの足がもやしに見える程ジューシーセクシーな御足をお持ちのニワトリモブとすれ違ってさあ。ほんの一瞬、かじりつきてえなとか思っちゃったよね……キヴォトスってネコモブとかスズメモブとか共存してるけどビースターズなことにはならんのだろうか……不思議……
「それがアビドス高校だったの」
「そうなんですか!?」
「ん……それで動けなくなるまでホシノ先輩に銃で撃たれた」
暁のホルスさん!?なにして……なにしてんの!?
「その時にこのマフラーを巻いてもらって……アビドスの生徒になった」
シロコのマフラー、ホシノのお下がりだったんだ。暴力振るったあとに優しくするってやり口が完全にアレだよね……
「ホシノ先輩とは何度も勝負して、何度もぶちのされて、いろんなことを約束したの……」
暴力暴力暴力!砂!それしかないのかアビドスってとこはよぉ!
「でも今ならわかる、全部私のための約束だったって。負けたらなんでも言うことを聞くってルールだったのに、ホシノ先輩は勝者の権利を私のために使ってくれた」
……全部お前のためなんだよ!ってアレな人の常套句だよね。マジかよホシノ……そこまでアレな人だったなんて……
「家が無くて、食べる物も無くて……もし、あの時の私と同じ境遇にいる人がいるなら助けてあげたい。だからレイ──」
「わ、わわ、私!そんなんじゃありません!間に合ってます!お気遣いありがとうございます!入学につきましては今しばらく慎重に検討させていただきたく!」
シロコの肩を掴んで玄関へ誘導する。
「ん……ちょっと待って、思ってた反応と違う。なんだか勘違いさせてる気が──」
「さようなら!」
シロコは本気で抵抗することもなく、また明日話そうと言い残してすんなり去ってくれた。
薄々思ってはいたけどアビドスってその想像の数段バイオレンスな校風だった……
ブラックマーケットの我が家に帰ると、いつの間にどうやって届いたのかヒビのような模様が入った黒い封筒でとあるビルの一室に呼びつけられる。名前はないがあんな自己主張の激しい封筒では差出人は一発でわかる。
オフィスビルの一室、相も変わらず暗い部屋に居るそいつと対面する。
「今度はなんの用なのさ、黒服」
「お待ちしておりました、渡里レイさん。以前させていただいたの提案について──」
「ふざけるな!その件なら保留にしたはずだ!」
「ええ、ですのでご返答を──」
「ふざけるな!答えはいつでもいいと言ったはずだ!」
「……いつでもいいとまでは申し上げておりません。確かにあの場で答えていただけずとも結構とは──」
「ふざけるな!だったらもうちょっと考えさせろください!」
「クックックッ……まあいいでしょう。ですが状況とは常に変化していくものです。そうして態度を保留していることがあなたの不利益に繋がる可能性もどうかお忘れなく」
「ふ、ふざけるな!脅しかコノヤロー!」
「いいえ、まさか。ただのアドバイスですよ……クックックッ」
この小説のお気に入り登録が3000件を突破したということは、この小説を3000人以上の方がお気に入り登録をしてくださったということです。大変ありがたいかぎりでございます。
年内にアビドス編終わらせます!絶対です!花京院の魂と冨岡義勇と鱗滝左近次の切腹を賭けます!