ここは『キヴォトス』弱者に口なし   作:GAU-8

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郷に入っては郷に従え

 キヴォトスで目覚めてから今日で4日目。断食生活も今日で4日目。

 

 連邦横暴畜生腐敗生徒会からにべもなく追い払われて帰るその途中、雨にうたれたのが良くなかったか運悪く風邪をひいてしまった。それから今までほとんど外にでていない。

 水だけは近くの公園で飲めるし、2週間は生きられるはず。無理して動き回って風邪が悪化するよりは、自然に治るよう祈って大人しくしていたほうがいい。

 と思ったのだが、結果からみたらこの選択は失敗だった。熱は下がったっぽい。それはいいが、ろくに動くこともできなくなってしまった。

 

 頭がぐらんぐらんするうえに、足元の感覚もふわふわしていて地に足がついているのかすら定かでない。視界が黒くなったり白くなったり、端的に言えばヤバい。

 親切な人に見つけてもらえないかと、人通りのある道を目指して歩いていたはずが、いつの間にか地面に突っ伏していた。転んだのか頭が痛む。

 起き上がろうにも力が入らずそのまま目を閉じて休んでいると、やがて数人分の足音が聞こえてきて、すぐ近くで止まった。

 

「んだコイツ。行き倒れか?」

 

「おいおい、ヤバくね?どうしますパイセン」

 

 黒ヘルメットが2人に赤ヘルメットが1人。ブルアカでよく見た典型的なヘルメット団ってやつだ。そのうちのパイセンと呼ばれた赤ヘルメットがしゃがみこんで、俺の顔を覗き込む。

 

「おねーさん」

 

「……?」

 

「お金持ってない?」

 

 気のせいかな。道端で倒れている相手に投げかけるものとは思えない言葉だったような。

 

「お金?……なに?カツアゲ?」

 

「人聞き悪いなあ。あたしら金に困ってて恵んでもらえないか頼んでるだけだって」

 

「うわ、マジっすかパイセン」

 

「血も涙もねえ!カッケー!」

 

 こんな状態の相手にやることがカツアゲって……

 

「……ふ、ふふふ」

 

「あん?なに笑ってんだコノヤロー」

 

「……別に。もう好きにして。何ももってないけど」

 

 じゃ、遠慮なく。と、パイセンは俺の体を乱暴にひっくり返すと念入りにボディチェックをし始めた。

 あの、自分で好きにしろと言っておいてなんですが、もう少しこう何というか、手心というか……あ、いた、痛い!もげる!

 

「心配すんな、金目のもんとったら助け呼んでやっから……お!ガバか。しぶいねえ」

 

 しぶいんだ。JKだが、JCだが知らんけど、銃を見つけた女学生の反応としてはどうなのそれ?

 パイセンはしげしげと眺めた後、価値なしと判断したか俺の胸の上にその銃を放り捨てた。

 

「……こんだけ?財布は?スマホも学生証もないなんてありえないだろ」

 

「ない」

 

「家に帰ったらある?」

 

「家がない」

 

「……冗談だろ?」

 

「冗談だったら良かったのにね……ふふふ」

 

「……この銃は?」

 

「拾った」

 

 久しぶりに人間とおしゃべりしてるうちになんだか元気がでてきた気がする。体の感覚も少しずつ戻ってきた。

 さっきまでなにもかも終わりぐらいに絶望しかかってたけど、まだ俺には銃があるじゃないか。すっかり失念していた。

 

「ご覧の通り俺から取るもんなんてなにもないよ。わかったら放っといて」

 

「それはいいけど、あんたこれからどうすんだ?」

 

「……関係ないでしょそんなこと」

 

「てめえ!パイセンがせっかく……!」

 

 後ろで様子を伺っていた黒ヘルメットが足を振りかぶったのをパイセンが手で制す。おかげで踏みつられることはなかった。

 

「そうだなぁ。何か食べないことにはどうにもならないし、コイツで鳩でも撃って──」

 

「ハ、ハトォ!?お前、正気かよ!?」

 

 黒ヘルメットが大げさに恐れ慄く。もう片方の黒ヘル2号も何も言わずにさっと距離をとった。そりゃ確かに平時じゃ絶対やらない暴挙だけど、背に腹は代えられないだろう。そこまでビビるようなことだろうか。

 

「だって銃一つでやれることなんてコンビニ強盗か狩りくらいしかなくない?」

 

「だったらコンビニから弁当でも取りゃいいだろ!?」

 

「それはそれでどうなの?」

 

「迷うまでもなくね!?……こいつ、ヤベェよ。放っといて逃げましょうよパイセン」

 

 黒ヘル2匹が肩を抱き合ってますます離れていく。

 さっきからなんなの?そんなにおかしなこと言ってる?行き倒れからカツアゲしといて野鳥を狩るのはドン引き、強盗の方がマシって、キヴォトスの倫理観はよくわからんな。

 

「……ふっ」

 

「パイセン?」

 

「アッハハハハ!いいね、気に入った!あんた、あたしらの仲間になれ」

 

「……はい?」

 

「近々デカい仕事があるってのにあたしのチームから一人抜けちまってよ。このままじゃリーダーにどやされちまう。その仕事の間だけでも穴埋めしてくれねえか?手伝ってくれるんなら3、いや、5万やる」

 

「や、やめましょうよ、パイセン。そのうちあたしらも食われちまいますよ……」

 

 食わないが!?なんでそんな話になるの!?

 

「その後は抜けるなり残るなり好きにすりゃあいい。どうだ?」

 

「どうだと言われても……ヘルメット団のいう仕事なんて碌なもんじゃないでしょ」

 

「確かにな。でも考えてみろよ。ここで断ったとして、どうやって碌な仕事なんてもんにありつくんだ?住所も学生証もないんだろ?」

 

「ぐっ……」

 

「このブラックマーケットにならそういう奴が受けられる仕事もあるかもな。けどそれはあたしらが普段やってるようなことと変わらない、なんならそれ以下だ。だろ?」

 

「うっ……」

 

「金さえあればとりあえずは飯には困らねえ。ハトなんざ殺らなくたってすむ」

 

「……でも」

 

「あたしらの仕事は殺しじゃねえ。ちょっとドンパチやりあって、おねんねしてもらうだけだ。そこらのハトをぶっ殺して食っちまうよりよっぽど良いと思わねえか?」

 

 撃った撃たれたなんてキヴォトスじゃ日常の範疇だ。絆ストーリーで目茶苦茶するキャラも結構な割合でいる。

 いるが……いいのか?誘拐とかカツアゲとかやってる連中の仲間になんかなってしまって。

 

「ほら、ラーメンでも食いに行こうぜ。そんなんじゃ弾避けにもならなそうだし奢ってやるよ」

 

「……」

 

 差し出されたその手を掴んでしまえばもう引き返すことはできない。そんな気がした。

 かと言ってこのキヴォトスで、平和な日本に生きてきた人間としての倫理観を保ったまま生き続ける道など果たして存在するのだろうか。

 

「丼一杯の麺、温かいスープ、味の染み込んだ山盛りの野菜──」

 

「行きまぁす!ごちになりまぁす!これからよろしくお願いしますパイセン!」

 

 ……実に苦渋の決断であったが、俺はその手を掴むことにした。

 倫理観?死にました。一杯のラーメンを食うために。

 

「ようこそ、ワラワラヘルメット団へ。これであんたも仲間だ」

 

「大丈夫っすか、そんなサイコ野郎仲間にして?」

 

 

 

「うっ。オェッ。ご馳走様でした」

 

「少しは遠慮しろよ、なんだよトッピング全部盛りって……」

 

 空腹の時ならいくらでも食べられる気分になるだろ?あれだよ。

 結局この体の胃袋の容量を見誤って、えずきながらなんとか押し込む結果になってしまった。まあ、次いつ食べられるかわからないからこのくらいでいいのかもしれない。

 

「おい、あそこ」

 

「……?」

 

 パイセンが顎で指したその先に、ハトがいた。スーツに身を包み、嘴で器用にラーメンをすすっている。ハトがチャーシュー食ってる。

 え?なにあれ?

 犬モブとか猫モブとかそういう類のアレ?となるとさっきまで俺が宣っていた、オデ、ハト、クウ発言は≒カニバリズム宣言では?

 

「もう腹一杯だろ?襲うなよ。食うなよ」

 

「食わねえよ!!」

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