ここは『キヴォトス』弱者に口なし   作:GAU-8

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運命力

 今日も今日とてアビドス襲撃。とはいえワラワラヘルメット団はもはやアビドス高校占領を諦めたも同然だった。いや、チャンスがあればもちろんやるだろう。ただ、防御に徹するようになってきているアビドス高校がヘルメット団ごときにそんな隙を晒すわけもなく、そんな状況にはまずならないと言っていいだろう。団員達も、リーダーもそれを理解している。

 となるとどうなるか……アビドス攻防戦はもはや形骸化しつつあった。きっちり3日おき、同じ時間にやってきて、同じ量の弾を雑にバラ撒き、ノルマを達成したら勝手に満足して勝手に帰っていく。

 弾薬にあまり余裕のないアビドスがそんな連中を追撃してきたのは最初のうちだけだった。今では撤退中に被害がでることはほぼない。私の仕事は以前と比べて遥かに楽な仕事に──

 

「うわああぁあー!なんでー!」

 

 ──なるはずだった。被害はほぼ、ない。被害は大抵の場合若干一名。それが私よ、残念だったわね……どうしてこんなことに。

 団員達には目もくれず、シロコもしくは白いドローンに執拗に追いかけ回される。今日はドローンだ。私は軒下を通って民家を人質に攻撃を防いでいた。しかしそれが通用したのも少しの間だけで、シロコはこともあろうに市街地でミサイルを発射するという暴挙にでたのだった。

 蛇行して白煙の尾を引きながら迫りくるミサイル。なまじ速度が遅いため、一瞬でやられるよりも恐怖を煽る。

 

「ひ、ひえぇぇっ!?」

 

 すんでのところで横に全力ダイブして躱したミサイルがそのまま民家に突入して爆発した。長らく管理されていなかったのか民家はその一撃であえなく崩壊する。

 

「な、なんてことを……ひぎゃあぁああ!?」

 

 うるせえ!お前のせいだ!と言わんばかりに、ドローンがそれまで精度重視か一発ずつだったはずのミサイルを斉射。私の四方の民家を吹き飛ばして、瓦礫の山で通りを完全に封鎖した。

 逃げ場を失った私に、これ見よがしにランチャーを向けながらゆっくりと距離を詰めてくるドローン。投降しろと言うことだろうか?

 アビドスの街を破壊する狼藉者に投降なんてしない!成敗してくれる!

 肩にかけたM249をかまえて腰だめで撃ちまくる。ドローンはすぐに離れていく。射程から逃れる前に惑星で鍛えた私の対空砲火術がドローンを捕らえた。

 直撃こそしなかったようだが、明らかに制御を失いフラフラと回転しながら高度を落としていく。やがて民家の影に消えた。

 

「フッフッフ、スプラッシュワ〜ン」

 

 シロコの固有スキルを封じてしまった!自分の才能が恐ろしい……!シロコの報復も恐ろしい……あ、あれ?もしかしてやらかした?やっべ、逃げよ。

 

 

 

 翌日は素知らぬ顔でシロコとトレーニングである。まさか羽付きわたしにドローン撃墜されたからって渡里レイわたしに八つ当たりなんて、しないでしょそんなこと……し、しないよねェ……

 

「……」

 

 先に集合場所に来ていたシロコはあからさまにイライラしていた。腕を組み、足でトントンとせわしなく地面を踏みしめている。

 

「お、おはようございま〜す」

 

「……ん、おはよう」

 

「き、今日もいい天気ですね!早速出発しましょー!オー!」

 

「……」

 

 シロコが何か言いたげだが、無視だ無視。フキハラですよ!フキハラ!そんなことより早く行かないと日が暮れますよ!今日こそ日没前にゴールするんですからね!

 

「い、いったぁっ!?」

 

 第一歩を勢いよく踏み出したのと同時、翼に初めて経験するような痛みを感じて前のめりに地面に崩れ落ちた。何事かと振り返ればシロコが黒い羽根を一本手に、興味深そうに眺めていた……それまさか私の!?今抜いたの、ねぇ!?

 

「痛いんだ」

 

「痛いに決まってるでしょう、髪の毛掴んでまとめて引っこ抜いたみたいなもんですよ!?」

 

「ん、ゴメン。私の知り合いに羽根の生えてる子がいなかったから一応、確認で」

 

「確認?」

 

「ん」

 

 シロコは引っこ抜いた羽根を手渡してくる……返されても困るんだけど……待てよ、集めたら羽毛布団に……いやいや、ないわ!ナシ!気持ち悪い!

 

「アビドス高校を攻撃してくるヘルメット団にレイみたいな羽がついてるのがいて……」

 

「ヘ、ヘー」

 

「今度捕まえたら羽根を全部毟ってやろうかと……」

 

「な、ななな、なんでそんな酷いことするんですか!?」

 

「どうしてそんな慌ててるの?レイの羽根を毟るわけじゃないんだよ?」

 

「そ、それは……そう!同じく羽を持つ同志として、そんな蛮行見過ごすわけにはいきません!」

 

「ん……そんなに嫌がるなら脅しとしては十分みたいだね。毟られたくなければ羽付きがアビドス高校に来なければ……じゃなくて、えっと、アビドス高校への襲撃に加わらなければいいだけ、簡単だね」

 

 もう一つ選択肢がある!捕まらなければいいだけ!ドローンもないし簡単だね!

 

「じゃあ出発しようか、レイ」

 

「は、はい。あのホントに毟ったりしません、よね?」

 

「どうかな……?」

 

「さ、ささ、触らないでください!」

 

 シロコはなにげなく手を伸ばして、私の翼から生えている羽根を1枚つまんだ。背中に悪寒が走って思わず払い除ける。

 

「レイはトレーニングをサボった時に……」

 

「え……」

 

「……じゃあ行こっか」

 

「シロコさん!?サボったら、なんなんですか!?ねえ、待って!」

 

 

 

「どうしたの?今にも死にそうな顔してるわよ?」

 

「2周目突入なんて聞いてない……」

 

 まだ余裕ありそうだね、もう1周行こうか……じゃないんだよ!殺す気か!

 さすがに400km走破などできるわけもなく、シロコからリタイアの許可が降りた。ホーホーのテーで家に帰るところを今度はリーダーからお呼び出しである。今日は帰りたいって何度も言ったのにいいから来いの一点張りである、殺す気か?

 

くだらないことだったらただじゃおかなんの御用でしょうか、リーダーないからな、豆粒ドチビ」

 

「殺されたいなら普通にそういいなさいよ。そこの窓から頭からつきおとしてやるわよ」

 

「な、なんですか急に!?」

 

「それはこっちのセリフよ……こんな状態で大丈夫かしら……フン。ま、向こうがそう望んだんだから知ったこっちゃないか……」

 

「りーだー?」

 

 ひとをよびつけておいてひとりでかってになっとくしないで。かえっていいの?かえるよ?

 

「天下のカイザーPMC様からお呼び出しよ。今から行ってきて」

 

「今からですか?明日じゃダメなんですか?」

 

 今からいったら向こうつくころには夜中だけど。

 

「私もそう言ったのよ……とにかくよろしく」

 

「……はぁ」

 

「スカウトの件、ちゃんとハッキリ断ってきたんでしょうね?」

 

「ハイ!……ハイ……もちろ、ん…………ん?」

 

「怪しいわね……」

 

「断りましたよ!スカウトの件は!」

 

 カイザー入りはもはや選択肢にない!黒服のモルモットくんになるのはナシよりの保留!嘘は言ってない!そう、黒服のカモフラージュにすぎないカイザーが今更なんの用だろう、黒服と直接話してるのに……

 

「……わかった。じゃあ悪いけど行ってきて」

 

「……はぁい」

 

 ……ねむ……だる……

 

 

 

「え、えぇと、ですね、御カイザー理事聖閣下殿下様殿?ですから私は──」

 

「成る程、ビジネスというものを心得ているようだな。いいだろう、ではここに好きな金額を書きたまえ」

 

「……」

 

 白紙の小切手、実在したのか……ごくり……じゃなくてぇ!カイザーPMCには入りませんって何度言ったら理解するんだこのポンコツ!その無駄に増やした肩幅使って考えてくれよ!

 カイザーPMCのオフィスに到着するなりスゴイタカイビルの二十何階とかいう部屋に案内された。そこで私を待っていたのが、目の前のトイレ案内係……おっとっと、まだ、カイザーの理事でしたねぇ。失礼、クックックッ。没落前の没落貴族ことカイザー理事だった。

 それからというものずっとこの調子である。もはや契約書にサインするまで帰してくれないような雰囲気にすら思える。疲れて一刻も早く家に帰りたいせいか、ものすごく時間が長く感じる。

 

「き、金額の問題では……」

 

「……キミの戦闘データを見せてもらったが、実に惜しい。きちんとした訓練を受けたことはないのではないかね?我がカイザーPMCで訓練すれば小鳥遊ホシノなど敵ではなかろう。どうだね?」

 

 しつけえ……めんどくさ……お前らの戦力分析なんてまるで当てにならんやんけ!なにをどう分析したらそこらのチンピラはおろか便利屋でも相手になるか怪しいようなバケモンの巣窟を、外注で潰せるなんて結論になるのさ!?

 

「……う、う〜ん。一旦持ち帰らせて──」

 

「何を迷うことがある?ヘルメット団なんぞ吹けば飛ぶような不安定な居場所にこだわる理由もあるまい」

 

 巨大企業の下っ端戦闘員なんて下手したらヘルメット団員の方がマシなレベルの使い捨て要員でしょう?不良はなんやかんや身内には優しい。なにより、アビドスとは成り行きで敵になってしまったものの、カイザーPMCとなればいずれキヴォトスにくるであろう“先生”の敵になるであろうことは目に見えている……あれ?そう考えると黒服の話もナシ?うん、ナシだな!ホシノは後でアゾればいいや!

 

「私も暇な身分ではなくてね。早めにサインしてくれると嬉しいのだが……」

 

「なんでサインする前提なんですか……」

 

「フム……?あのお山の大将の下でペットを続けるか、カイザーPMCとして自らの力でのし上がっていくか、少しでも考える頭があるのならどちらを選ぶかなど分かりきったことではないかね?」

 

 なんだァ?てめェ……

 

「お断りします!」

 

「そうかね。では……いまなんと?」

 

「だが断る。この渡里レ──」

 

「……ふざけるなよ。このカイザー理事が直々に説得してやったというのに、断るだと?」

 

 最後まで言わせて!

 

「いや、それはそっちが勝手に──」

 

「どいつもこいつもガキの分際で私の手を煩わせおって。私を誰だと思っているんだ、カイザーの理事だぞ。貴様らなんぞに……いつまでもいつまでも……ふざけるな……ふざけるな!」

 

 ワナワナと肩を震わせるカイザー理事はもはや私を見ていなかった。鉄の拳を突き立てられた机が軋むような悲鳴をあげている……なんだか、私だけじゃなくてどっかのピンクに対するイライラも噴出してんじゃないの?それ私関係ないよね?なんならそこに関してだけは味方だよね?

 どうやって宥めたものかと思案しているうちに入り口の扉が乱暴に開け放たれた。武装したオートマタが続々と部屋に突入してくる。

 

「コイツを捕まえろ!撃て!」

 

「う、ウソでしょ……?」

 

「はっ!?し、しかし……」

 

「なにをしている!早く撃て!」

 

 カイザー理事の号令で一斉に銃を構え、躊躇なく発砲。私は隠れる場所も無く、床に伏せた。

 

「う、ぐ……」

 

「ぐあぁ……!き、貴様ら……!」

 

 大量のアサルトライフルから一斉射撃。被弾は避けられなかったが、そのまま喰らうよりはマシだろう。私の背後から放たれた弾丸は、私に当たらなかった分は当然そのまま私の前にいた人物に当たった……まあ、そうなるな。相当頭に血が……オイルが登っていたらしい。

 射撃が止まった隙をついて理事の背後に回る。振り向きざまに電柱並の太い鋼の腕で殴られそうになるのをなんとか躱して、理事の背中に貼りついた。

 

「は、離れろ、コノッ!」

 

「り、理事、どうします!?撃ちますか!?」

 

「撃つな、バカモノ!私に当たる!」

 

 私を振りほどこうと暴れ回る理事になんとかしがみつく。そのうちに息切れして机に手をついている間にデザートイーグルを抜いて理事の頭に突きつけた。

 

「う、動くなぁ!お前らもだ!理事の頭ぶち抜くぞコラァ!」

 

「なっ!?き、貴様ぁ!こんなことをして、ただですむと思っているのか!?」

 

 私だってこんなことになるなんて思ってなかったよぉ!一応クライアントなんだからトラブル起こさないようにしてたのに!短気起こしてこんな状況にしたのはそっちでしょうがよぉ!

 

「もうこの状況がただですんでねぇんだよ……どうしよ……どうする、詰んでませんかこれ?ねぇ理事、どうします?そこまで出世するの大変でしたよねぇ……最後は路地裏のドブネズミと一緒にそこの窓からダイブします?ねぇ?」

 

「ま、待て!早まるな……!お、お前!動くんじゃない!」

 

 回り込もうとする兵士を見つけて銃口を理事の首元に押し付ける力を強める。メッセージが伝わったのか、理事が指示を出してその動きを制した。

 誰も動くことができないまま、自分の心臓がとんでもないペースで脈打つのを聞いていた。

 やがて理事が恐る恐る言葉を発する。

 

「す、素晴らしい。これはキミの判断力を確かめるためのテストだったのだよ。試験は合格だ、さあ、降りたまえ」

 

「……ははっ、なんですかそれ」

 

「……今放すならそういうことだった、ということにしよう。キミの覚悟は十分伝わった、我々はもうキミには干渉しない。それで手打ちとしようじゃないか?それとも一生このままでいるかね?」

 

「……」

 

 “大人”というだけで警戒心を剥き出しにする一部の生徒達のことがいまいち理解できなかった。この瞬間までは……

 力が緩んだその瞬間、カイザー理事に腕を掴まれる。しまった、と思った時にはカイザー理事の姿は……割れたガラスの向こう側にあった。

 内臓が全部浮き上がるような気持ちの悪い感覚。カイザー理事のいた部屋が、ビルが丸ごと上へと流れていく。私の方が落ちているのだと気づくより前に身体は勝手に動いていた。

 翼を目一杯羽ばたかせて、隣のビルの側面や、看板に身体をぶつけながらどうにかして生き延びようと、そうして──

 

 

 

「──い……お……おい!アンタ、大丈夫か?」

 

「……うっ、いてて」

 

「おお、よかった!大丈夫かい?」

 

 イヌが二足歩行してる!?……あ、そうか。キヴォトスか……羽は、あるね。足も動く。手も折れてない。

 

「くっ!」

 

「お、おい!無茶するな、すぐに救急車が──」

 

 逃げなきゃ……




 30話でアビドス編を終わらせるとどこかで宣言したな……あれは嘘だ。
 1月3日でこの小説は1周年となります。1周年に物語が節目を迎えたらエモエモじゃんね……え?魂?切腹?わしは痛まない……!
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