ここは『キヴォトス』弱者に口なし   作:GAU-8

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弱者に口なし

 相手はカイザーPMC、ひいてはカイザーコーポレーション。コンビニから銀行までキヴォトスに深く根ざした巨大企業だ。個人の力では到底立ち向かうことなど不可能だろう。

 それだけの相手であればキヴォトスの行政府たる連邦生徒会に助けを求めるのが一番……といきたいところだが、私は連邦生徒会にその存在すら認知されていない。頼ったところで、連邦生徒会の許可なく生きてたで賞とかなんか適当な罪で取っ捕まってカイザーに引き渡されるのがオチだろう。

 だが私はあの時のような私ではない。今の私には頼れる仲間がいる!キヴォトスのアンダーグラウンドに蔓延るガン細胞、ヘルメット団が!連邦生徒会に比べればカs……ちょこっと頼りないかもしれないけど、私達にははぐれもの集団故の強い結束感がある!絆がある!そうでしょ、そうですよね!?助けてリーダー──!

 

『アジトには帰ってこないで』

 

「そ、そんなぁ……」

 

 開口一番これである。あんまりじゃない?

 そりゃあ、アビドスのスパイだなんだと散々言ってはきたけど生徒に銃を向けることへの罪悪感から来る言い訳にすぎないといいますか……それっぽいことなんて任務のサボタージュを唆したことくらいしかしてないじゃん!他はともかくホシノ相手には真面目にコロコロするつもりで戦ってきたじゃん!もう戦友じゃん!それをこんなあっさり見捨てるなんて……ひどいよ……

 

『──もしもし?聞いてるの?』

 

「はい……短い間でしたけどくそお世話になりました。このご怨は一生忘れません。せいぜい夜道には気をつけてください。さようなら……」

 

『なんにも聞いてないじゃない。恨むなら私じゃなくてカイザーにしてよ』

 

「だって帰ってくるなって……」

 

『じゃあなに?なにも伝えずにノコノコアジトに帰ってきたアンタを捕まえて、カイザーに売り飛ばしてあげた方がよかったっていうの?』

 

「なんでそんな悪辣なこと思いつくんですか!?オニ!悪魔!」

 

 バカアホドジマヌケオタンコナスカボチャハゲチビデブガリマナイタ、え〜と……冷酷!ユウカ!人の心とかないんか!?

 

『私じゃない!カイザーがそうしろって命令してきたの!これまでの任務失敗の責任はそれでチャラだって!ホントになにも聞いてないじゃない……』

 

 そうだったの!?じゃあワラワラヘルメット団が潰される危険を冒してまでそれを私に教えてくれたってこと!?リーダー好き!

 

『なにか手を考えるから、諦めないでなんとか頑張って……もう切るわよ、それじゃ』

 

「あ、ちょっと……」

 

 ……切れた。せめて今日の寝床だけでも確保したかった……どうするか。ブラックマーケットは、ダメだ。黒服に把握されてる……アビドスを頼るか……?どうせ借金のこともホシノのこともあるんだし、もう一つトラブルが増えたところで一緒……なんてムリムリ、面の皮が120mmくらいある人間ならできるだろうけど、私にはとてもとても……

 

「渡里レイだな。我々と来てもらおう」

 

 背後から響く無機質な機械音声。不用心に路地裏なんかに入った私が悪いとはいえ、即これとは……考える時間もくれないらしい。そうだ!追手をさっさと片付けて、死体を枕に朝までぐっすりというのはどうだろうか?うん、名案だな!それでいこう!

 

「かかってこい!相手になってやる!」

 

 

 

「ひぃいいぃぃぃん……」

 

 眠い……疲れた……もういや……

 

「ひいぃぃん……」

 

「なんの声なのさっきから。気味が悪い……」

 

「シッ!静かにしろ!ターゲットに気づかれたらどうする!?」

 

「す、すみません、隊長」

 

 夕日がわずかに差し込むだけの薄暗く狭いビルの間の通りをオートマタと生徒の混成部隊が周囲を警戒しながら進んでいく。数は10人。生徒の方が立場は下のようで、こぼした声の3倍くらいの声量で怒られたことに特に反発することもなく、身を竦めるだけだった。

 かわいそ、そんな怒んなくたっていいじゃんね〜?……だってここに入ってくる前からターゲットに気づかれてんだから。

 

「ひぃぃ、ひひひ……いひひひひ!」

 

「近い、けど……上?いや、まさかね」

 

 最後尾の生徒が上を見上げる。窓枠を掴んでビルの壁に張り付いていた私と目が合って、固まった。

 

「いたぞぉ!いたぞおおぉお!」

 

 生徒は化け物でもみたかのような悲鳴に近い叫び声をあげながらライフルを発砲する。ほぼ真上に向かって無茶な姿勢での射撃は私に命中することはなかった。

 私は身体を支えていた手を離して、その顔面に向けて自由落下を始める。

 

「ぴぎゅっ!?」

 

 3階からの垂直ライダーキックをもろに喰らった生徒はその一撃で気絶。素っ頓狂な悲鳴をあげて動かなくなった。

 間髪入れず、みんな揃ってすでに私がいなくなった後の壁を見上げて銃を構えた民間軍事会社員共に向かって軽機関銃を乱射。逃げ場のない通りに向けられた、10秒余りで約2万円分の弾丸を撃ち出すM249の威力は絶大。マガジンから弾がなくなる頃には、立っている敵は2人だけになった。

 オートマタが放つ神秘の全く籠もっていないライフル弾を身体で受けながら、一般的なハンドガンの3倍は値が張る弾丸を撃ち出すハンドキャノンで最後の敵を倒す。

 かくしてリロードなしで発揮できる火力を全て使い切って追手を一部隊撃退することに成功するのだった……もう何回目になるかはわからない。

 

「はあぁ……」

 

 生徒も、オートマタも倒しただけだ。意識を取り戻せばまた追ってくる。今度はやられた分の恨みも晴らす気で、敵意を滾らせてまた追ってくる……

 おまけに戦う度にお金が蒸発していく。メインのM249はともかくとしても、サイドアームにデザートイーグル?誰だこんな構成にしたバカは?きっと相当なお金持ちだ、まさか食うにも困るホームレスヘルメット団なんてことはあるまい……

 カイザーコーポレーションの規模もあるだろうが、一度倒した敵が何度でも襲ってくることもあって、ここ3日程まともに休む暇も与えられず攻撃を受け続けている。昼夜、人目のあるなしお構いなしだ。寝床すらまともに確保できない。

 こっちが万全なら負けることはないだろうが、確実に追い詰められている。この調子では一週間と保たないだろう……捕まったらどうなるんだろう……ダメダメ!弱気になるな、とにかく増援とか警察とか来る前にここから離れないと……

 

「くっ、いてて……」

 

 銃弾のダメージもだんだんと大きくなってきている。最初こそ薄皮一枚傷つく程度で済んでいたのが、今では痣になったり出血するような傷になってしまっている。

 ……ヘイローってHP制なのかな?下手したらそのうち貫通──

 

「い、ぎゃ!?」

 

 背後から響く銃声。右腕を耐え難い痛みが襲う。脂汗が吹き出し、足の震えが止まらなくなる。立っていられなくなってその場にへたり込んだ。右腕を無意識に抑えた左手の下から溢れ出す血で、肘から先が真っ赤に染まっていた。

 

「フン!とうとう限界が来たようだな!」

 

 倒したはずのオートマタが一人、起き上がってハンドガンの銃口を向けている。仕留め損ねたらしい。

 

「お前……!」

 

 生徒と違って加減がわかりにくいんだよ!殺すわけにもいかないからやりすぎないようにしてやったのに!

 

「殺しはしない。大人しくしていろ」

 

 こちらを見下すように額に銃口を突きつけながらそう告げるオートマタ。表情などないはずの顔が勝ち誇っているように見えた。負けたくせに。私の温情を仇で返しただけのくせに。

 

「……こーふくなどしないー。ころせー」

 

「生かしたまま捕らえろとの命令だ。両足を撃って動けなくしてやってもいいんだぞ?」

 

 だよねー。じゃあ額に銃口向けてる意味ないじゃんねー。撃てないじゃん。

 

「なっ、貴様!?」

 

 無事な左手でオートマタの腕を掴んで引き倒す。勢いよく近づいてくる顔面……メインカメラ?に頭突きをかました。効果はあったのかなかったのか、少なくとも私の頭は死ぬほど痛くて頭突きしたことを後悔しながら力の限り出鱈目に取っ組み合いをしている内に、身体の位置が入れ替わってオートマタに馬乗りの姿勢になった。

 

「ま、待て……!」

 

 寝ぼけたことを抜かすオートマタの頭を思い切りぶん殴る。とにかく殴る。喋らなくなるまで殴るし、喋らなくなっても念の為殴る。

 こいつら法的にはどうなんだ……?日本だとペットを死傷しても器物破損らしいし、こいつらもワンチャン器物扱いってことない?ダメ?

 

「……はぁ」

 

 ふと我に返って鉄の塊を素手で殴りつけているのがバカらしくなって手を止めた。オートマタが再び動きだす様子はない。むしろ私の左手の方がダメージが大きいように思える……もういいや。これでまだ倒せてないのなら私にはもう打つ手がない。煮るなり焼くなり好きにしてくれ。

 一時的に麻痺していた右腕の痛みが徐々に戻ってくる。立ち上がれなくなってそのままオートマタの上に寝転がる。

 ……もういい、ここで寝る。アハトアハトにやられた時はもっと酷かったはずだ、でも治った。あの時との違いは多分体を休めることができているかどうかだ。

 どのみちもう限界、詰み状態になる前に目が覚めることを祈って……おやすみ!

 

 

 

 夢か現か、静かな通りに響く耳障りな拍手の音。おそらく一人。どういうつもりか知らないが人が寝ようとしているところで鳴らさなくていい余計な音を鳴らす奴だ、間違いなく性格が悪い。足音もうるさい。こっち来んな、死んでくれ……

 

「素晴らしい。何故それだけの力があって暁のホルスには手も足も出ないのでしょうね?あなたの神性と関係が?やはりあなたは実に興味深いですね、渡里レイさん」

 

「死ね」

 

「クックックッ、ご挨拶ですね」

 

 目を開けて体を起こす。暗くなってはいるが、日が沈みきってもいない、ほとんど時間は経っていないようだ。そんな中、目の前にはやたら目立つ顔が光る奴。黒幕……じゃなかった、黒服。

 

「なにしにきたのさ黒服。実験室に届けてもらえるまで待てなかった?」

 

「いいえ。このようなやり方は私の本意ではありません。まずそのことについて謝罪させてください。心よりお詫びいたします」

 

「……はぁ?」

 

 今更取り繕う必要ある?本当に申し訳ないと思ってるなら焼けた鉄板用意してから出直してきてもらっていいですか?

 

「私はあなたとは協力関係でありたいと考えているのですよ、渡里レイさん。理事のやり方はその道を閉ざしてしまうものです。彼は同時進行中の別の案件を抱えておりまして、そちらに注力するためにあなたの件を短絡的で乱暴な方法で片付けようとしているようなのです……困ったものですね、クックックッ」

 

「じゃあ今すぐやめさせて」

 

「申し訳ありません。私は彼に命令できる立場にはありません……ですが、私と契約していただければ、あなたを彼が手出しできない立場に置くことができます」

 

 ん、んん?捕まえて実験しようが契約して実験しようが同じことじゃない?なんで契約なんて形式にこだわるんだ?なんか意味ある、それ?

 

「渡里レイさん、あなたの本質はそのほとんどが機能していません。見た目テクスチャ中身神秘が全く噛み合っていないのです。通常あり得ないことです、他の生徒には見られない現象です。なにかこころ当たりは?」

 

「……い、いえ?」

 

「クックックッ、そうですか。言うなればあなたは他の生徒に対して非常に大きなハンディキャップを抱えた状態にある、ということです。我々の技術があればそれを取り払うことができるかもしれません……あなたの自発的な協力があれば、工程を大幅に短縮できるでしょう。いかがでしょう、私と契約していただけますか?」

 

「……」

 

 そもそもそんじょそこらの一般人に神秘なんて欠片も存在するわけもないのだから、ブルアカの世界の住人にあり得ない奴なんて言われるのも納得である。今の状態がハンディキャップを抱えているのであれば、それがなくなれば遥かに強くなれるのかな?

 

「暁のホルスに一矢報いたくはありませんか?カイザーに追われ続ける生活など嫌でしょう?あなた自身が何者なのか、知りたくはありませんか?……そうですね。これは、あなたが決して断ることのできない提案でしょう?」

 

 ──私は……

 

「断る!」

 

「……何故でしょう?何故、何故?」

 

 だったら最初っからそう言えばいいだけじゃんね。それをわざわざ追い込んで、カイザーから助けるなんて付加価値をつけてから提案してくるなんて怪しさ満点じゃんね。水を売りつけるために砂漠で遭難させるにも等しい行為、いくら私でもそんなあからさまな罠には引っかかるわけがない!舐めんな!バーカ!

 

「フム、では致し方ありません」

 

 ……あれ?それでカイザーのことはどうやって対処すんだ?

 

「あ、ちょっ、ちょっとタイム。やっぱ保留ってことに……」

 

「渡里レイさん、あなたは何者なのでしょう?私どもの情報網をもってしてもあなたの過去は全くわかりませんでした。そう、まるで数週間前にキヴォトスに現れたかのような──」

 

「そ、それは、実は……!」

 

「あなたの口から直接聞きたいことは多くありました……残念です。ですが、手がないわけではありません。クックックッ」 

 

「な、何する気……」

 

「あなたはこの提案を断るべきではありませんでした。いえ、断る選択肢など無かったのです。学校の庇護もなければ、組織の力もない。独りで道を切り開くような圧倒的な力も持たないあなたには……」

 

「ま、待て!待って!助けて……!」

 

「申し訳ございません。私どもも慈善事業というわけではありませんので……あとはお任せします」

 

 黒服が指を鳴らす。静まり返った通りに足音が響き現れたのは──

 

「ホシノ……?な、なんで……」

 

 小鳥遊ホシノだった。




 31話ってなんかきり悪いですよね!?もう1話だけ続くんじゃ……

次回予告!

ホシノ「お前さあ、ひどいよ。どうしてシロコちゃんに嘘ついちゃうの?もうおじさん羽付きちゃんのこと見逃してやれないよ……もう殺すしかなくなっちゃったよ」


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