ここは『キヴォトス』弱者に口なし   作:GAU-8

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正義実現、問答無用

「動かないで、両手を見えるように上げなさい!」

 

 正面から道を塞ぐように二人、背後からも同じように二人、かわいい。銃を構えながらトテトテジリジリと包囲を狭めてくる小さな女の子達、かわいい。黒のセーラー服に黒のベレー帽、目が隠れるくらいの長さで切り揃えられた前髪、全員が同一人物なのではないかと思うくらい見分けのつかない容姿、かわいい。

 

「正義実現委員会が……どうして……」

 

 そう、彼女達こそはトリニティの治安を守る正義実現委員会のメンバー、ゲームで言うところの正実モブちゃんである。こうも見た目が同じに見えるのはそういう規則でもあるのだろうか?だとするとバチクソスカートが短いあの子とか、脳内ピンクが制服にまで滲み出てきているあの子とかはいったい?

 

「とにかく、ここは言う通りに……だ、大丈夫です。なにもやましいことはしていませんから」

 

 やましいことがないのだからホールドアップされる理由もないのでは?根拠もなく善良な市民に銃を向ける悪い子はしまっちゃおうねぇ〜……なんて、わざわざ事を荒立てることもないか。

 

「……わかりました、ボス」

 

「ボ、ボボ、ボスゥ!?なんの話ですか!?」

 

 モブちゃんズは私達が両手を挙げたことにも気を緩めることはなく、ライフルの銃口を向けたままゆっくりと近づいてくる。

 近くで見ると当然と言うべきか、同じに見えた容姿も、髪の長さであったり身長であったりよくよく見れば一人一人に違いがある。特にさっきからこちらに命令してくる分隊長らしきモブちゃんは、前髪の間から気の強そうなツリ目が覗いていた。

 

「ボディチェック!」

 

 ツリ目モブちゃんが指示を出す。前から一人、後ろから一人ずつモブちゃんがそれぞれ私とヒフミのボディチェックを始めた。

 私の身体をまさぐる小さなおてての感触を堪能……する暇もなく、慣れた手つきであっという間に銃に予備弾倉、財布にポケットに突っ込んだレシートにいたるまで持ち物の全てを没収されてしまった。当然、ブツとカネも例外ではない……この手際、さすがにプロか。

 ツリ目モブちゃんは見張っていろと一言言うと、目の前で私達から召し上げた物品の物色を始めた。

 

「……聞いた?さっきボスって言ってたね」

 

「もしかして私達大手柄かも?先輩、褒めてくれるかな?」

 

 ……かわいい。残念だけど冤罪だし、待ってるのは大目玉だよ。残念だったね。

 それにしても……後ろの二人はお喋りに興じてるし、リーダーは持ち物検査に夢中。実質今私達を見張っているのは正面にいる発砲したらひっくり返りそうなへっぴり腰のモブちゃんだけ……

 態度ばかり立派なトーシロばかり、全くお笑いだ。シロコリックスがいたら、奴も笑うでしょう。

 

「阿慈谷ヒフミさん?」

 

「は、はい!」

 

 ツリ目モブちゃんは探し出したヒフミの学生証を手に声をかけてくる。

 

「……と、そっちは?」

 

「小鳥遊ホシノです」

 

「……?……!?」

 

「どうかした?」

 

「……い、いえ」

 

 二度見やめてね、ヒフミさん。こういう時は無駄に疑われるような行動は慎むのが基本でしょ?

 

「それで、二人はこんな時間にこんな場所でなにをしていたの?いえ、なんの売買をしていたのかしら?」

 

「えっと、そちらのジラペロくん様を……」

 

「……この……えっと、この、なに?」

 

「あうぅ……もう少し丁寧に扱ってください」

 

 背びれを鷲掴みにされたぬいぐるみは後ろに引っ張られて歪んでいる。ペロロの顔なんてストッキングでも被っているかのような崩壊ぶりで、元々キ……ユニークな顔がさらにユニークなことになっていた。

 

「あっ、ペロロさん……」

 

「ご存知ですか、ペロロ様!?」

 

「ぴっ!?」

 

 背後のモブちゃんが零した声にヒフミは首を180度回して……見間違えだった。グリンと身体ごと振り返った。勢いに気圧されたモブちゃんが尻もちをつく音が聞こえる。

 

「か、勝手に動かないで!」

 

「す、すみません……」

 

 ヒフミは銃口を向けられて動くなと厳命されていたことをツリ目モブちゃんに思い出させらたのか、すごすごと元の体勢に戻る。

 

「……これ知ってるの?」

 

「……は、はい。モモフレンズのキャラクター、です。でもそんなぬいぐるみ見たことも──」

 

「そうなんです!このジラペロくん様は──!」

 

「ぴぃっ!?」

 

「う、動くなって言ってんでしょうが!!」

 

「……す、すみません」

 

 ……今ので撃たれないならもう何しても撃たれないのでは?銃を向けてくる相手を前に、不用意に急な動きを繰り返すヒフミを見てそう思った。

 

「……こんなものに出すにはずいぶんな大金ね」

 

「それでもお買い得ですよ!」

 

 そうなの!?ちょっと待って。まだ取引が成立したとは言えないのでは?ジラペロくん様様はまだ私の所有物と言えるのでは?

 

「他にもなにかあるんでしょ?私達に見つけられるより自分から白状した方が罪は軽いわよ?」

 

「そ、そんな、何もないですよ。本当にそのジラペロくん様だけなんです……」

 

「ボディチェック!」

 

 ツリ目モブちゃんの一言でさっきよりも念入りなボディチェックが始まる。こんどは服の中にまで手を突っ込んできたが当然ないものはない。最初のボディチェックで出てきたもの以外はなにも出ることはなかった。

 

「だ、だから、なにもないって言ってるじゃないですかぁ……」

 

「……」

 

 それでもツリ目モブちゃんが満足することはなかった。さすがにしつこくないだろうか?実はジラペロさんくん様って禁制品だったりする?いや、ないか。知らなかったんだもんな?

 

「……わかった」

 

 そう呟いてツリ目モブちゃんが徐ろに取り出したのは、月明かりにギラリとキラめくサバイバルナイフ。まさかそれでお腹の中まで検めようって!?さすがに抵抗させてもらおう。

 そう身構えたが、切っ先がこちらに向くことはなく、ジラペロぬいぐるみへ向けられる。

 

「「あーっ!?」」

 

 これにはヒフミだけでなく、後ろ側のモブちゃんからも抗議の声があがった。

 

「な、なに?ぬいぐるみの中なんて定番の隠し場所でしょ?」

 

「な、なにも入っていません!やめてください!」

 

「そんなのダメです!もし本当にお宝ペロロさんだったら!」

 

「あ、あんたはどっちの味方よ!」

 

 ヒフミだけでは今頃躊躇なくペロジラぬいぐるみにナイフが刺さっていた気がする。しかし、味方にまで制止を受けたツリ目モブちゃんの手は止まっていた。

 

「じゃあ!」

 

 ツリ目モブちゃんがより強く握りしめたジラペロぬいぐるみをヒフミの眼前に突き出してこう言った。

 

「なにも入ってない、ただのぬいぐるみだって証明して」

 

「そ、そんな……めちゃくちゃです」

 

「……ちゃんと縫って返すから」

 

「や、やめてください!」

 

 ヒフミの制止も叶わずツリ目モブちゃんはぬいぐるみをナイフで裂こうと腕を振り上げた。

 ……正実ってみんなこんなに横暴なんだろうか?それともツリ目モブちゃんの性格?解釈違いも甚だしい……許しておけぬ……必ずやこの邪智暴虐のモブちゃんをわからせねばならぬ……

 

「なっ!?」

 

 振り下ろされたナイフがぬいぐるみに刺さることはなかった。割って入った私の手の平に阻まれ、ギチギチと金属が擦れるような音を立てる。

 

「抵抗する気!?」

 

「……正実モブちゃんはね──」

 

「は?」

 

「正実モブちゃんはね、刃物なんて持ってないし、漢字も喋らない。やること全部がアワアワしていないといけないの」

 

「わ、わけのわからないことを……!」

 

 なんかの手違いで切れたりしないかと内心怯えながらナイフの刃を掴み上げる。

 ツリ目モブちゃんは左手でハンドガンを引き抜くと、私の顔面に向けてマガジンが空になるまで引き金を引いた。

 しかし、悲しいかな狂うことなく全て正中線上に直撃した弾丸も私にダメージを与えるには至らな──痛ったぁ!鼻痛ったぁ!ち、ちくしょうやりやがったな!

 

「レ、レイさん!?」

 

 ツリ目モブちゃんのハンドガンを奪い取って即座にマガジンを抜き、スライドを外す──か、完璧!デザートイーグルちゃんを修理に出す羽目になってまで練習した甲斐があったというものよ!

 バラバラにしたハンドガンを正面側にいたモブちゃんの顔目掛けて投げつける。

 

「ひゃああっ!?」

 

 反射的にライフルを盾にしたモブちゃんは空に向かって弾をバラ撒きながら尻もちをついた。

 あとは後方の二人。手始めにツリ目モブちゃんを抱きかかえて位置を入れ替え、射撃を防ぐ。

 

「なっ、なっ、なっ!?」

 

「バカ!私ごと撃って!」

 

 その意気やよし。だが遅い!

 

「どっせぇぇい!」

 

「「「ぴゃああっ!?」」」

 

 ツリ目モブちゃんを思い切り投げつける。受け止めようとした二人もろとも絡まり合うように地面に倒れた。

 体勢を立て直される前にライフルを取り上げていく。

 

「ヒフミさん!」

 

「うわっ、と!」

 

 取り上げたライフルは全部ヒフミにパス。サイドアームは残ってるだろうが……まあハンドガンでやられるようなこともないだろう。戦意も喪失したようだし……ふふふ。その顔、かわいいね。

 残りの最初に転んだモブちゃんもリロードに手こずっている間に笑顔で説得したところ快く降伏してくれた。

 

「……や、やってしまいました」

 

「知ってますかヒフミさん?素手を相手に刃物、刃物を相手に銃を使ったのでは正当防衛にはなりません。ですが私は素手で銃を返り討ちにしました。つまり正当防衛です」

 

「あ、あはは……はぁ」

 

 

 

 

「どうしましょう……」

 

「私が責任もって家に連れて帰ります。ちょうど近くに入り口があるので」

 

「それってただの誘拐ですよね!?」

 

「大丈夫ですよ、私の家はちょっと複雑でして。一度連れ込んでしまえば一人じゃまず出られません。大人しく私と一緒に住むか、逃げようとして人知れず朽ち果てるかしかないですから」

 

「どんな所に住んでるんですか!?なにも大丈夫じゃないですよそれ!」

 

 ダメかぁ……

 モブちゃんズは私達の会話が断片的に聞こえているのか壁際に四人で一塊になって震えている。ツリ目モブちゃんが他の三人を庇うように腕を回しているのは最後の意地だろうか……かわいいね。やっぱりあの子だけでも連れて帰れない?ダメ?

 

「えっと……私に任せてもらっていいですか?」

 

「……はい」

 

 つい勢いでやっちまったけど正実に目をつけられるのはトリニティで活動するうえで非常によろしくない。隣のゲヘナ自治区へのアクセスはわりと簡単とはいえ……

 ヒフミが近寄っていくとモブちゃんはますます密集して小さくなったように見えた。

 

「わ、私はどうなってもいいからこの子たちは……」

 

 聞きましたかヒフミさん!?そのツリ目ちゃんは私が!

 

「え、えっと、そうではなくてですね……あの、絶対に傷をつけないと約束していただけるのであればジラペロくん様は一度お預けしようと思うんです。明日、学校の設備を使えば破らなくても中身の確認はできますよね?それでいかがでしょうか?」

 

「それは……」

 

 ツリ目モブちゃんはヒフミではなくこちらに目線を向ける。

 なんです?そもそも断るなんて選択肢ないでしょう?それとも、いちばーん、くらーいせまーいお部屋に死ぬまで住ませてやろうかぁ?

 

「うっ……わ、わかっ──」

 

 ──事態が解決しかかったその瞬間、地面が爆ぜた。頭上から建材が降り注ぐ、見れば背後の建物の屋上がえぐれていた。

 土煙の中に誰かがいるとおぼろげに認識するのと同時に、背筋が凍るようなその言葉を聞いた。

 

「い、委員長!助けてください!」

 

 いいん、ちょ……?

 

「な、なにが、きゃっ!?」

 

 宵闇の中でもなお黒い人影は両手でモブちゃんズのライフルを抱きかかえたヒフミを小突いて簡単に転ばせると、そのまま私へ向かってくる。

 とっさにデザートイーグルを拾い上げて全力で飛び退く。しかし、瞬く間に距離を詰められ、気がつくとみぞおちに銃口が突き立てられていた。

 間髪いれずに胃の中のものが全部押し出されるような衝撃に襲われる。

 

「う、ごぇ……!」

 

 星空とアスファルトがグルグルと交互に目に入る。縦に回転しながら吹き飛ばされている、という非現実的な状況を視覚情報から認識した脳が機能を停止したまま、それでも身体は勝手に手足と翼を使って体勢を立て直す。

 

「さ、散弾ではなぁ!」

 

「……あぁ?」

 

「ひ、ひぇぇ……」

 

 黙って死んだふりでもしとけばよかった!地獄の底から響いてくるようなその声に激しい後悔が襲う。

 剣先ツルギ。今しがた空から降ってきて、私にショットガンをぶっ放した相手。例によってキヴォトス最強議論に名前があがる人……なんで!?なんでこうなるの!?オラもっと弱い奴と戦いてぇ!

 

「キヒッ……ケヒャヒャ!」

 

 ユラユラと身体を揺らしながら今にも飛びかかってきそうなツルギ。

 どうする!?逃げる!?いや、さっきもあれだけ簡単に追いつかれたのに逃げ切れるわけがない!だったら……や、やってやる。キヴォトスに来てからホシノ相手に散々遊んできたんだ私だって……!

 

「……キシャアッ!」

 

 アスファルトが粉雪のように簡単に剥がれて破片が宙を舞う。ツルギが重力を無視するように地面スレスレを低空飛行で一直線に突っ込んでくるのが見えた。

 そう、見えた。見えるぞ、私にも敵が!

 ツルギが銃を構えたのを見てこちらから踏み込む。相対距離が一気に縮まり、私のすぐ横でツルギのショットガンから散弾が放たれた。

 一発目を避けたことを喜ぶ暇もなく、ツルギが持つ一丁のショットガンが私を捉える。放たれた散弾は今度は外れることなく私の全身をくまなく痛めつけた。

 泣きたくなるのを必死にこらえてさらにもう一歩踏み込んでツルギの懐に入る。

 ツルギのショットガンはレバーアクションのものだ。それを両手に持つというぶっ飛んだ戦闘スタイルをしている。そこにわずかな勝機がある!たぶん!ツルギがいくら強かろうが銃の構造が変わるわけじゃない!

 スピンコックの途中のショットガンの銃身を右手で掴み、もう一丁のショットガンにはレバーの隙間に翼を突っ込むんでコッキングを阻害する。空いた左手でツルギの顎にデザートイーグルをつきつけた。

 

「お前……」

 

「……ふ、ふふふ!」

 

 ツルギと目が合う。あまりにも上手くいった。思わず笑みが溢れる。ツルギも歯を剥きだしにして笑って、見せつけるように舌なめずりをした。涙が出そうな凶悪な笑顔だが、ツルギは半分、いや、3割……いや、5分?くらいは相手を威圧するために意図的にやっているのを知っている。中身は年相応な乙女なことも知っている。だからビビったりしない。

 

「ははっ!案外可愛い顔してんじゃん」

 

「……」

 

 やれる、やれるじゃないか、私!ホシノが相手だったら全然ダメダメだっただけなんだ!私の力はキヴォトスのほとんどの生徒を超えてしまったんです!これなら──いてっ……痛い?

 

「フ、フフへ……ゲヒャヒャア!」

 

 ツ、ツルギさん?いつの間に私の右手つかまえたんです?あの、もうちょっと優しくして?ミシミシいっちゃってるんですけど?

 

「ハハハハハハ!キャハハハハ!」

 

 わあ、足がつかないや。片手で持ち上げられちゃった。ツルギさんすごい力持ちなんだね。すごーい。

 

「あ、あの、ちょっと待って。はなし、話合いましょう。これはご、誤解──」

 

「クコケケカカカカァッ!」

 

 

 

 

 目が覚めたらどっかの保健室だった。気を失う直前に自分の翼の付け根を見た気がする……たぶん幻覚だろう。だってあの光景をみるためには……く、くび。首が……




反省文
私は1話で書こうと思った内容を2話に分割しました。
許してニャン。
敬具。
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