ここは『キヴォトス』弱者に口なし   作:GAU-8

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誠心誠意

 頭にある最後の記憶では夜だったはずだが、今はすっかり日が昇り窓から陽の光が差し込んでいた。この学校の保健室みたいな雰囲気、床から照明、サイドテーブルに花瓶、花の一輪に至るまでありとあらゆるものから漂うカネの匂い高級感と気品は……トリニティかな?まあ、あの状況から搬送されるとしたらトリニティ以外にないだろう。

 昨晩?私はツル……ツル、ギ、に……つるぎ?ってだれ?わたしなにもおぼえてない。ここはどこ?わたしはだれ?

 ……そう!ヒフミとの取り引きをモブちゃんに邪魔されたけど平和的に話し合って解決したんだったな!その後空からなんか災害が……隕石でも降ってきて気絶したんだろう、うん!

 何故か、首と右腕にサポーターが巻かれてはいるけど手錠のような拘束もされてない。部屋を見渡しても監視の1人もいない。他のベッドも空いていて、この部屋には私だけだ。少なくとも未だに何かの容疑者扱いされているようなことはないだろう。

 

「お〜い、誰かいないんですか?出してくださいよ……なんつって──」

 

「お目覚めですか?」

 

「ぴぃっ!?」

 

 誰もいないはずの保健室での独り言に返事があった。声のした方を慌てて確認すれば、ベッドのすぐ脇にナースを思わせるような白いセーラー服をきた少女が佇んでいた。

 彼女こそは低レアでありながら初心者から上級者まで御用達の白衣の天使、セリカ!違う……セナ……セリナ!鷲見セリナ!

 どっから入ってきたの?どうやって入ってきたの?入り口のドアじゃないのは確かだけど……窓?最初からそこにいた?

 

「驚かせてしまってごめんなさい。トリニティ総合学園、救護騎士団の鷲見セリナと申します。ここであなたの治療をさせていただいておりました。あなたは昨晩ケガをされて気を失った状態でここへ搬送されてきたのですが……まだどこか痛みますか?記憶の混乱などはありませんか?」

 

「いえ!大丈夫です!」

 

 見ず知らずの不審──一般市民にもこの慈愛あふれる対応、素敵です。救護の精神が形になったようだ……ようか?違うかも。救護の精神ってもっとこう、破壊的だもんな。

 

「それはなによりです!すこし血圧を確認させてもらいますね」

 

 そう言ってセリナはテキパキと手際よく血圧、脈拍、体温と確認していく。

 脇に挟まれた体温計を回収したセリナは小さく頷くと、今度は痛かったらいってくださいと前置きしてサポーターの上から右腕を念入りに触診し、最後に首に手を伸ばす。

 

「あの、その、首は……」

 

「あっ、ごめんなさい!まだ痛いですか?」

 

「いえ、その、首のケガは──」

 

「捻挫です」 

 

「捻挫……」

 

「はい。捻挫の範疇です」

 

 ほな捻挫かぁ……お医者様が言うんだから間違いない。少なくとも可動域が270度くらいまで拡張されてた気がするんだけどそのくらいキヴォトスじゃ捻挫として診断されるんだろう。

 

「……ヒフミさんはどうしたんですか?」

 

「ヒフミさんでしたら、正義実現委員会の捜査に協力したあと解放されたそうです。といっても参考人程度のもので、お二人への嫌疑はもう晴れていますよ」

 

「ケガは?」

 

「転んだ時にすこしお尻に擦り傷ができちゃったみたいですけど、そのくらいですね。ご心配にはおよびません」

 

 転んで擦り傷?転んだだけで擦り傷になるのに銃弾は通らない、ナイフも通らない、肌の触感は普通の人間とかわらない、注射の概念はある、車のシートは引っ剥がす、ところ構わず撃ち合いを始めて大勢死人は出す、お次はターザンときたわ、ヘイローっていったいなんなの!?

 

「はい!もうサポーターは外して大丈夫ですね!ただし、くれぐれもまだ無茶はしてはいけませんよ?」

 

「は〜い」

 

 疑いが晴れて怪我も治ったならとりあえずの心配ごとは……あ……

 

「い、いい、今何時ですか!?」

 

「えっ、時間ですか?今はちょうど10時で──」

 

 10時!?まずいまずいまずい……い、いや、落ち着け。昨日の今日で次はさっきなんだからまだ間に合う、大丈夫。

 

「スマホ、スマホ返してください!」

 

「スマホですか?えっと、今は正義実現委員会が預かって……なにか大事なご予定でも?」

 

「そうです!とにかく早く返してください!戦争になりますよ!」

 

「え、えぇっ!?わ、わかりましたすぐに!」

 

 セリナは小走りで保健室を出ていった。使い走りのようにして申し訳ないとは思うけど今は一刻を争う。

 

「お待たせしました!」

 

「ぴぃぃっ!?」

 

 出入口の扉見ながら帰ってくるの待ってたのに何でもう部屋の中に入ってるの!?何でいつも死角から現れるの!?ビックリするから認識できない手段で移動しないで!い、いや、今はセリナの俊敏を通り越した対応力に感謝すべきか……

 3桁まで通知があることを覚悟していたモモトークアプリの未読件数は……2件!?……逆に怖い……

 

20:06『レイ?』

20:12『ん』

 

 怖い怖い怖い!なんに対しての、ん、なの!?まだ1時間も経ってないのに、なにを判断したの!?判断が早い!

 

10:03『ごめん、ちょっと時間かかるかも』

10:04『すむますん寝落ちせてましあ!無事でし!』

10:04『ん』

10:04『ホントに!ご心配なく!』

10:05『ん』

 

 これは……どうなんだ?反応が薄すぎないか、もしかして私に怒ってるの?

 

「連絡できましたか?」

 

「はい……まあ、なんとか」

 

 後で直接電話した方がよさそう……今後もこういうことが無いとは言い切れないし、朝晩2回じゃなくてどっちか1回にしてもらえないか交渉してみよう。

 

「ヒフミさんも心配していましたから、まずは元気な姿を見せてあげてくださいね……あら?噂をすれば、でしょうか」

 

 保健室の扉がノックされ、それに反応したセリナが外へ出て対応しているようだ。ただ、すぐに入ってこないところを見るにヒフミではなさそうだ。

 保健室の外でのやりとりに聞き耳を立てているうちに扉が少しだけ開かれて隙間からセリナが顔を覗かせる。

 

「正義実現委員会の方が昨日の──」

 

「せっ……!?な、なんで……疑いは晴れたんじゃ!?」

 

「いえ、そうではなく、やり過ぎたことを謝罪したいと……」

 

「ど、どちら様が?まさかツル……当の本人じゃ?」

 

「ハスミさん、いえ他の方もご一緒ですけど。どうしましょう?難しそうでしたらこちらでお気持ちだけ、ということも」

 

 ハスミか……ツルギの代理できたのかな?謝罪しにきたというのであれば汝はゲヘナ罪ありきなんてことにもならんだろう。

 

「いえ、大丈夫です。通してあげてください」

 

「よろしいのですか?」

 

「はい」

 

 セリナは後ろの人物にいるであろう人物にどうぞと一声かけて最初に保健室の中へと入ってくる。

 

「失礼します」

 

 次に入ってきた人物の第一印象はデカい。とにかくデカい。身をかがめなければドア枠に頭がぶつかるほどの高身長、ブルアカ全生徒たちの中でもトップクラスに大きな黒い翼、そしてなにより目を引くのはブルアカでもトップクラスに豊満な……あの、あれ……つ、翼。

 

「正義実現委員会、副委員長、羽川ハスミと申します。この度は私どもの強硬な捜査、そして委員長剣先ツルギによる度を越した暴力により大変なご迷惑をおかけいたしました。申し訳ございません」

 

 頭を下げるのに合わせて揺れる……翼。その翼は、豊満であった。ありていにいうなれば、おおほんとにでけえな、おおほんとにでけえな!ってやつだ。

 それにしても、ご迷惑だあ?こちとら合法な商売に難癖つけられて殺されかけてんねんぞ?ことの重大さを認識しとらんのとちゃいます?許してほしけりゃ誠意をみせろや、誠意を!まずはそのでけぇ──

 

「この通り、ツルギ委員長も反省しておりますので。今回の件は許していただければ」

 

 ……つるぎってだれ?

 

「あー……あはぁ?」

 

「ひぇぇ……」

 

 ハスミの影からぬるりと現れたツルギさん。ハスミの隣に立ち、しばらく手を力なく下げてユラユラと揺れていたかと思えば突然両手両足を揃え、背筋を伸ばして綺麗に気をつけの姿勢をとる。そのまま数秒静止した後、勢いよく90度に頭を下げて静止、そうしてまた髪を振り乱しながら元の直立姿勢にもどる。顔はずっとこっちに向けられていた、ずっと、頭を下げている間も見開いた目と三日月のように開いた口が私へ向いていた……

 

「……悪かった」

 

「そ、そんな滅相もない。こちらこそ、公務執行妨害ととられかねないような行為を見逃していただいたばかりか、こうして治療までしていただき……えぇ、謝られるようなことはなにもごさいませんでございますわ!むしろ感謝したいくらいですわ!お気になさらず!」

 

 だから早く帰って……

 

「……そうですか。そう言っていただけるのであれば幸いです。ツルギ委員長?お渡しするものがあるのでは?」

 

「あぁ……」

 

 ツルギさんはこっちが認識できないような速度で距離を詰めたのか瞬きする合間にツルギさんの顔が目の前まで迫っていた。近くでみるとやっぱりなんかこわくてかわいいお顔していらっしゃいますわ!こわかわですわ!

 ていうかセリにゃん!黙って見てないで助けて!

 

「……ん」

 

「……ゑ?」

 

「ん」

 

 ……シロコ?

 反応に困っていると、ツルギさんの拳が目の前まで突き出される。ど、どう、どうしろと?言う通りにしますから殺さないで。

 

「ん!」

 

 ……カンタ?

 よく見れば拳の両端から紐が垂れている。そしてその先には紙袋。なるほど、これを受け取れと。承知いたしましたわ。間違ってても殴らないでくださいまし!

 恐る恐る紙袋を両手で支えると、ツルギさんはまたしても瞬きする間に姿を消した。一瞬見失ったがハスミの翼を暖簾のようにして未だこちらの様子をうかがっている。

 

「わ、わあ……なんですのこれ、傘?」

 

「傘?……いえ、菓子折りです。ツルギ、委員長が謝罪の品として用意したものです。どうぞ、お受け取りください」

 

「あ、ありがとうございますぅ」

 

「へ……きへっ」

 

「よかったですねツルギ……委員長」

 

「げぇっへっへっへ!」

 

 ……コワクナイカワイイ、コワクナイカワイイ、コワクナイカワイイ、コワクナイカワイイ。

 

「……ツルギ委員長、ハスミ副委員長。これはいったいなにをなさっているのですか、ご説明いただけますか?」

 

 た、助かった?




アンケート、長くなるのでこちらに詳細文を書きます。
羽付きちゃんが原作開始前という時間軸にも関わらず考えなしに好き勝手羽ばたいた結果は──
1.未来は大きく変わってしまいます。原作の続きが見たい?アハハ、無理無理☆喜べ少女、君の願いは欠片も叶わない。
2.羽付きちゃんの影響は個人の運命に関わる程度のものです。自分で頑張らないとキヴォトスは滅びに向かったりするけど大筋の流れは変わらないでしょう。続きが見れるよ!やったね、羽付きちゃん!

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