ここは『キヴォトス』弱者に口なし 作:GAU-8
話をしよう。
あれは今から36万、いや、1万4千年前だったか。まあいい。私にとっては物語の中での出来事だが……彼女達にとってはたぶん、去年の出来事だ。
トリニティ総合学園には生徒会長と呼べる人物が3人いる。桐藤ナギサ、聖園ミカ、百合園セイア。なんでもその昔、いくつもの学園が統合されトリニティ総合学園となった際に中心となった3つの学園の名残なんだとか。今に至ってもそれぞれが派閥を形成し、その代表として選ばれた3人が生徒会であるティーパーティーを率いて学園を運営している。
それが崩れたのがそう、去年のこと。三頭体制の一角、セイアが何者かによって襲撃された。その夜、警備をしていた生徒は誰一人として気づくことはなく、ティーパーティーは全てが終わった後になってようやく事態を知った。重傷を負ったセイアは秘密裏に保護され入院し、以来表舞台に姿を見せていない。
勿論ティーパーティー、特にセイアが代表を務め、当時1年生だった天城ユウが属していたサンクトゥス分派はその誇りと威信にかけて血眼になって犯人を探しているが、未だ犯人に至る糸口さえも掴めていないのが現状である。
「当然よね。だって捜査を主導する側に犯人がいるんですもの」
確信めいたリーダーの物言いに心臓がドキリとする。ブルアカの原作では首謀者が発覚したのは本人による自白、それ以前に真相にたどり着いた人間はいなかったはずだ。
「……それが聖園ミカですか」
「そうよ!」
そう、セイアを襲撃した犯人、正確にはセイアを襲撃するよう依頼した襲撃事件の首謀者はリーダーが倒してほしいと言っていた聖園ミカなのだ。
「証拠はあるんですか?」
「今探してる」
……???証拠があるからミカが犯人ではなく、ミカが犯人だから証拠を探す?どういうことなの?リーダーも転生者なの?
「じゃあ、なにを根拠に」
「セイア様とミカは普段からしょっちゅう意見を違えていたのよ!だからあいつはセイア様が邪魔だったの!ミカが犯人に違いないわ!」
「……それだけですか?」
「ティーパーティーが総力を上げて犯人を探しているのに未だに捕まらないなんて絶対にありえない!セイア様を襲撃した時だって……ティーパーティーの協力者がいるとしか考えられないわ!」
「……それが聖園ミカだと断定する理由は?」
「セイア様と仲が悪かった!」
……やれやれ、大した推理だな。キミは小説家にでもなったほうがいい。だいたい、権謀術数渦巻くトリニティでそんななんの捻りもない私怨でティーパーティーのホストの襲撃なんて大それたこと企てようなんて奴がいるわけが……いたわ。
なんでこんな陰謀論めいた滅茶苦茶な決めつけで動機も犯人も言い当てちゃうかな……何をしてくれとんじゃミカ。
「そんな理由で聖園ミカを倒せと言われましても……」
「まあ、あんたはあくまで保険よ。証拠をそろえて法の裁きを受けさせるとなった場面で暴力でねじ伏せられないためのね」
断罪するの?意外と穏便……穏便か?まあ、倒すのは最後の手段と言うことか。よかった。
リーダーは紅茶を一気に飲み干すと、ティーカップを砕かんばかりの勢いで音を立てて机にたたきつける。
「……セイア様のようにね。いくら正しくたって力がなければ口を封じられてしまう」
「……そんなに強いんですか?」
ミカってティーパーティーの中でもそんなゴリr──ゴリゴリの武闘派扱いだったっけ?先生達の間ではお姫様だのタイラントだの酷い言われようだったけど……残念だが、私がキヴォトスに来る前に見た範囲ではミカの活躍(物理)シーンはなかった。
私の問いかけにリーダーはため息をつき、机に頬杖をつすいて語り始めた。
「セイア様が襲撃される以前のことよ。ティーパーティーの中でVIPを攻撃するチームと護衛するチームに分かれての演習があってね」
……なんで攻撃する側も演習する必要があるんですか?
「私は攻撃チームにいたわ。策が上手くハマって護衛チームを突破した私達はVIPの元までたどり着いたの、勝ったと思ったわ……けど負けた。部屋に突入した攻撃チームはそこで全滅したの。当のVIP聖園ミカたった1人の手によってね」
虚ろな目で机に視線を落としたリーダーはただ虚空を見つめて腕を抱きながらわずかに震えていた。
「なんなのよ……おかしいでしょ……パテル派ってバトルロワイヤルで代表決めてるんじゃないの……いや、そもそもあの演習はあそこまで入られた時点であいつらの負け……そうよ、あんなのズルだわ」
かと思えば顔を伏せたまま何事かを呪詛のようにブツブツと呟き始めるリーダー。なんかミカ犯人説には大いに私情が挟まってそうだなあ。
「それにしても、なんで休学してヘルメット団なんかやってたんですか?証拠を集めたいなら絶対トリニティの内部から活動してた方がやりやすかったですよね?」
「ん、ぐっ……!」
図星をついたのかリーダーは小さなうめき声をあげたきり呪詛も動きもピタリと止まった。その内に耳が真っ赤に色づいていく。やがて絞り出すような小さな声でこんなことを言う。
「仕方ないじゃない……ああでもしないと食べていけなかったのよ」
え?リーダーも食いっぱぐれてたの?トリニティの生徒なのに?
「ティーパーティー内部の調査は当然したのよ。サンクトゥス分派の調査はサンクトゥスが、パテル分派の調査はパテルが、と言った具合にね。でもそれじゃあなんの意味もないのよ、ミカはパテル分派の代表だもの。それをナギサ様に何度も直談判したのに……聞き入れて貰えなかった。そればかりかあの人は私……何をしたと思う?」
ナギサにとってミカはなにがなんでも襲撃犯から守るべき相手であって間違っても疑いの目を向けることはない。ましてや迷探偵ユウの名推理を真に受ける人間などいるまい。きっと相手にもされず──
「愛と紅茶とロールケーキの講義をたっぷり半日……あれは……あれは、なんなの?新手の拷問?」
たぶんそう、えげつない精神攻撃の一種。もしくはなんの気なしの善意。
「私は退学届を突きつけてトリニティを飛び出したわ……今となってはバカなことをしたと思ってる。自分1人の力で生きてきたつもりだったのよ。外に出て初めてそれが間違いだったとわかった……ナギサ様は休学扱いにしてくれたわ……けど、しばらくして私の口座を凍結したの」
「……なんでまた?」
「……さあ?資金を絶っておけばそのうちお腹が空いて帰ってくるとでも思ったんじゃないかしら」
ナギサの兵糧攻め作戦は出戻りに傾きかけていたリーダーの反抗心に却って火をつけた。トリニティでティーパーティーでセイアのサンクトゥス分派に所属しながら腕っぷしが自慢だったリーダーは暴力でのし上がり、そして私を拾った。
「もうこうなったらミカを断罪するまでトリニティには帰れないわ!協力してもらうわよ!」
「……はい」
どうしよう……説得しようにも証拠もなく真相だけをバッチリ言い当ててるのがすごくめんどくさい!まあいいか、単身トリニティに乗り込んで首を持ってきてセイアの墓前に捧げろとか言われたわけでなし、エデン条約編が終わるまで適当に付き合っておけばセイアも帰ってくるし、事件の真相も自ずと明るみになるだろう。
「大奥トオルね。ふうん……報酬の自分探しってなに?」
「……さあ?」
ナギサには私が思春期真っ盛りで人生に迷ってるようにでも見えたんだろうか?失礼な。
「……あんた金で動く敏腕傭兵として売り込むんじゃないの?」
「はい!」
「それでなんで真っ先に手をつけるのが賞金首じゃなくてナギサ様の個人的な依頼なのよ」
「……あ」
「……はあ。こいつは私が探しておくからまず賞金首から片付けなさいよ。そっちのアテはあるんでしょうね?」
「はい!」
マンハンターなカフェに情報提供したら2秒で乗ってきた。額が額だから取り分は3割……いや、2割でも十分な収入になる。であれば、たとえ8割を捧げてでも協力してもらって迅速に片付けて使える奴アピールをするべきだろう。
「……まあ、あんたに証拠集めはあんまり期待してないから気楽にやんなさい」
「え〜……じゃあ何を協力しろと?」
「言ったでしょ、万が一の時のために腕を磨いておいて」
期待されてなければ見返してやりたくなるし、期待されてるとやる気がなくなる。それが人情というもの……いいでしょう!セイア襲撃事件の真相を何もかもをつまびらかに!……い、いかん。
なんて考えてたらドアのチャイムが鳴った。リーダーはサッと険しい顔つきになりホルスターからマグナムを引き抜いた。
「つけられたの!?」
「えっ!?いや、そんなはずは……たぶん」
「たぶん!?」
「お、お客さんじゃないですか?それかセールスとか」
「誰も来るはずないのよ!」
リーダーと2人で部屋の中で息を殺していると玄関のドアが直接ノックされ、向こう側から聞き覚えのある声がした。
「レイ、私、開けて」
……ひぇ。
「リーダー、隠れてください」
「やっぱりあんたのお客さんじゃない!……ったく、後で説明してもらうからね」
家主のリーダーをクローゼットに収納すると声の主がドアを爆破するなんて言い出さない内に鍵を開けて対面する。
「……なんでここにいるんですかシロコさん?」
「ん、来ちゃった」
来ちゃったじゃねんだわ……なんだろう、胸がドキドキして息が苦しい、吐きそう……これが、恋!?