ここは『キヴォトス』弱者に口なし   作:GAU-8

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主と主

「ここは?」

 

「え〜、ええっと〜……」

 

 答えに窮した私を見てシロコの眉が僅かに吊り上がる。なにか言わないとまずいと私が口を開きかけたところへシロコの言葉が重なった。

 

「また不法占拠?」

 

「またってなんですか……?」

 

「レイは前科二犯」

 

 私のことなんだと思ってるんだ。そんなことは……ある。ブラックマーケットにアビドス、現在進行系のカタコンベも入れたら3回目……う〜んこの常習犯。いや、私は悪くない!私のせいじゃないんだ!時代や環境のせいなんだよ!

 

「お邪魔します」

 

「あ、ちょっと!」

 

 シロコは玄関で応対していた私の脇をすり抜けて許可も待たずに部屋の中へ入っていってしまう。慌てて追いかけると、まるで自分の縄張りの見回りでもするかのように部屋の中を物色していた。

 私にできたのはただシロコがリーダーが収納されているクローゼットを開けないよう祈って見守ることだけ。しないよねそんなこと強盗じゃないんだから。

 

「お茶でも淹れましょうか?」

 

「ん……この匂い、紅茶?」

 

「そ、そうなんですよ!最近ハマってて!どうぞ、座ってください!」

 

「そうなの?……意外。お願いしようかな」

 

 シロコをちゃぶ台に招くと素直に従ってくれたのはいいが、その先にあったのはさっきまでリーダーが一人で紅茶をしばいてたティーカップが1セット……危なかった!リーダーが私の分まで用意してくれるような殊勝な人間だったら即死だった!

 

「今日はどうしたんですか?」

 

「この前教えてくれた賞金首のことで打ち合わせしたくて」

 

「だからって急に来なくたって……」

 

「まとまったお金が要りようで、今月中に片付けたかったんだ」

 

「へ、へえ〜」

 

 まとまったお金……いったい何億の何金の何息の支払いに必要なんだ?さっぱりわからない。

 

「弾の備蓄も心許ない。最近また変なのがアビドスを嗅ぎ回ってるから、補充しておかないと」

 

「へ、へえ〜」

 

 いったい何メット団のせいなんだ?皆目見当もつかない。

 

「……も、もしかして怒ってます?」

 

「……どう思う?」

 

 質問を質問で返すなぁーっ!私は怒っているかと聞いているんだッ!当然聞くまでもなく怒ってますよねー!ごめんなさいぃぃ!

 

「その節におかれましては大変なご迷惑をおかけしまして心よりお詫び申し上げたく存じますれば……」

 

「いいよ。その代わり、もう悪いことしちゃダメ。約束できる?」

 

「……は、はい」

 

 理由がなければ悪いことしません……たぶん。ところでキヴォトスだとどっから悪いこと判定になるんですか?銃で人を撃つのはセーフですよね?

 勝手知ったる自分家のふりをしながらなんも知らねー他人家の台所を漁り、テキトーな茶葉でテキトーに作ったテキトーな紅茶をシロコの元へ運ぶ。

 

「シ、シロコさん!?」

 

 シロコはおもむろに立ち上がるとグルリと部屋を見渡した。私はその仕草に心拍数が跳ね上がり……やだ、顔が冷たい、今の私きっと真っ青な顔してるわ、恥ずかしい、見ないで、きゃっ!

 

「やっぱりなんか、レイの部屋っぽくない……」

 

「そ、そうですかねぇ!?そんなことないんじゃないでしょうか!?」

 

「なんか、子供っぽい感じ……ん」

 

「……」

 

 とかなんとか思ってたらシロコは当然の権利のようにクローゼットを検めた。中にいたリーダーと目が合って無言でにらみ合う音がする。

 

「……誰?」

 

「それはこっちのセリフよ」

 

 リーダーは隠れていたところを発見された人間とは思えない堂々とした態度でクローゼットから歩み出ると、三人で囲むにはあまりにも心許ないちゃぶ台についた。

 シロコも小さく首を傾けながらそれに続く。

 

「その制服、アビドス高校の……」

 

「ん、砂狼シロコ。あなたは?」

 

「天城ユウよ、初めまして砂狼さん……レイちゃん?アビドス高校にお友達がいたのね、知らなかったわ」

 

 殺される……

 

「レイ、私以外に友達いたんだ。ふぅん」

 

 酷くない?

 

「この部屋はあなたの?どうして隠れてたの?」

 

「ちょっとした事情があってね。悪いけどレイと話があるから用事があるなら後にしてくれないかしら?」

 

 シロコはその場を動かない。それどころかリーダーと目を合わせたままそっと懐に手を忍ばせ……なにしてんのこの人!?リーダーもマグナムに手をかけるのやめてもらっていいですか!?

 

「あ、あの、二人とも……」

 

「……察しが悪いのね。帰ってって言ってるんだけど?」

 

 無視!?

 

「レイとはどこで知り合ったの?」

 

「そんなこと、あなたに関係ある?」

 

「……レイに知り合いがいるとしたら二種類しかいない。ブラックマーケットの住人か、ヘルメット団の一味」

 

「……」

 

 一瞬の沈黙の後、二人は同時に銃を抜いて互いの眼前に突きつける。

 

「ちょちょちょ!二人とも落ち着いて!」

 

 思わず割って入った私へと二人の殺気だった視線が集中する。

 大人しくしておけば良かったとすぐに後悔して私に構わずどうぞご自由にと身を引こうとする私へ投げかけられたのは全く同じセリフ。

 

「「なんなのこの女」」

 

 ……なにその人生で一度は言われてみたいセリフ第3位。

 

 

 

 ことここに至っては八つ裂き覚悟で洗いざらい全部話すしかなかったわけだが……始まったのはシロコとリーダーによる、この……なに?この、なに?

 

「あなたがレイをワルの道に引きずり込んだ」

 

「それが許せないと言うなら間違いね砂狼シロコ。こいつは元からこんなよ」

 

「そんなはずない。あなたが拾ったからこんなになった」

 

「私のせいにしないで。だいたい、私が拾わなきゃアンタがこの子と会うこともなかった。感謝して欲しいくらいよ」

 

 人のことこんなこんなって!こんなってどんな!?ねえ!?

 

「あなたといたらレイは更生できない。もうレイを解放して」

 

「冗談じゃない。アンタ達とのお遊びのためにこいつを養ってたわけじゃないのよ」

 

「今度は何をさせる気なの?もうレイに悪い事はさせない」

 

「それで、アンタが更生しようっての?その更生とやら、アビドスにいた頃からやってるみたいだけど会った時からちっとも変わってないわよ。なんなら悪化してるんじゃないの?」

 

「あの……私の意思は?」

 

 二人は一瞬横目でちらりと私を見たがすぐに相手に視線を戻した。無視ですかそうですか。とりあえず正座崩してもいい?……ダメ?

 

「健全な精神は健全な肉体に宿る。余計なことを考える体力が残ってるから余計なことをする。レイはまだ鍛え方が足りないだけ。徹底的に追い詰めて破壊して再生させる。筋肉と一緒」

 

「一緒なわけないでしょ!普通の人は頭の中にまで筋肉は詰まってないの!そもそもこいつがいつそんなこと望んだの?自分で変わろうとも思ってないヤツの性根がそんなことで無理矢理変えられるわけがないじゃない」

 

 誰が生まれついての悪だ。誰がゲロ以下だ。しばくぞ。

 

「あなたはレイをそういう人だと決めつけていいように利用してるだけ」

 

「そうかしら?少なくとも私には嫌々付き合ってくれてるようには見えないわね。むしろ生き生きしてる見えるわ。放っておいてあげた方が幸せなんじゃないの?三つ子の魂百までって言うでしょ。人はどう足掻いたって変われないのよ」

 

「筋肉の力はそんなものだって乗り越えられる」

 

「ならいますぐコイツを改心させて見せなさいよ!」

 

「あなたをやってからそうさせてもらう」

 

「上等よ、野蛮人!」

 

 売り言葉に買い言葉、キヴォトスでは銃撃戦は話し合いの延長線にある。互いに一度は降ろしていた銃口が、まるで鏡合わせのように再び跳ね上がる。ガチリと撃鉄が引き起こされ引き金に指がかかる。

 

「ちょちょちょ!ちょっと待ってください二人とも落ち着いて!」

 

 私が割って入る耳とが痛くなるような静寂が訪れた。どちらも一歩も引く気配がない。このままではトリガーが引かれるのは時間の問題だろう。

 わずかな望みにかけて、私は震える声でおどけてみせた。

 

「わ、私のために争わないで……な、なんつって」

 

 その瞬間、世界がスローモーションに見えた。互いに向けられていたはずの銃口が、示し合わせたかのようにクルリと90度回転していく。気づけば至近距離から二つの銃口が寸分の狂いなく私の眉間を捉えていた……どちて?

 

「お待ちください……お、お助けください……」

 

 なにが癪に障ったのか知らないが脊髄反射で繰り出す完璧な土下座。誠心誠意が心に響いたのか、リーダーは深い深いため息をつくと銃をホルスターに仕舞った。

 

「……はぁ。トリニティで活動するならもう少しお行儀よくしてもらった方がいいと思ってたのよ。アンタにコイツを更生できるとは思えないけど、邪魔する理由もないわ」

 

 その言葉を聞いたシロコもゆっくりと銃口をリーダーに向けた──ん?違う。そう、その言葉を聞いたシロコもゆっくりと銃口をリーダーに向けた……あれ?

 

「ちょっと!銃を降ろして!なんのつもりよ!?」

 

「まだ、あなたの企みにレイを関わらせないって約束して」

 

「……それは無理。ただアンタが考えてるような悪い事じゃない。正義のための行いよ」

 

「正義……?」

 

「そう。信じる信じないはアンタの勝手だけど」

 

「……嘘だったらただじゃおかない」

 

「アンタ、そんなんでよくコイツを更生しようだなんて……まあいいわ。好きにして」

 

 勝手に好きにさせないでもろて……私を私のままにしておいてくれる場所は何処にありや?全世界は知らんと欲す。

 シロコは私を羽交い締めにしてそのまま引きずるように指名手配犯確保へと向かって……リーダー助けて!部下が今まさに狼に連れ去られそうなってるってのになぜ見てるんですか!?

 

「そっちが片付く頃には大奥トオルも見つかってると思うわ、また連絡して」

 

「ん」

 

「アンタに言ったんじゃない!」

 

 ああああぁあぁあぁぁぁ……

 

 

 

 シロコと最初に取り掛かったトリニティの賞金首は11人の狡い自販機荒らしグループ、コソドロイレブン。たかが自販機荒らしとヴァルキューレの対処の優先度はかなり低くされているようだがやつらが狙うのはトリニティの自販機、被害額はATM並みだ。

 身の丈に合わない稼ぎで一丁前にスラムの一角を要塞化している連中相手に全員まとめて一網打尽にするなら相応の覚悟しなければならない。その苦労に見合うだけの賞金はかかっている。

 

「……随分爆薬を溜め込んでるね、銀行強盗でも企んでるのかも。丁度いい」

 

「……あの、シロコさん?なにが丁度いいんですか?まさか──」

 

「ん、あれを吹っ飛ばす。それだけで半分は始末できる」

 

 ……知ってた。サムズアップやめて。

 

「始めるよ」

 

「あっ、ちょっと!?」

 

 ドローンが颯爽と防壁を越えて飛んでいく。間もなく壁の向こうで爆炎があがり、悲鳴が木霊する。

 あとはシロコと2人、恐慌状態で巣から飛び出してくる奴らをモグラ叩きのように撃ち倒すだけの楽な仕事である……いいのか、これ?容赦なさすぎない?悪い事判定にはならんの?……ま、いいか、相手は悪党だし。

 

 

 

 賞金首は全部そんな調子でサクッと片付けたら次は本命、大奥トオルの確保である。

 

「……来たわよ」

 

 私がシロコと遊んでる間にリーダーが大奥トオルの生活パターンを調べあげてくれた。普通に学校に行き、放課後にはバイトに行き、そして真っ暗になった頃に無警戒に人通りがほとんどないこの道を一人帰宅……チョロすぎる。

 

「さて、やりますか」

 

「待ちなさい!何する気よ!?」

 

 M249をコッキングして7.62mmのシャワーを浴びせようと足を浮かせたところをリーダーに引きずり戻される。

 

「なにって……ぶちのめしてヴァルキューレに突き出そうとしただけだが?私なんかやっちゃいました?」

 

「あのねぇ、大奥トオルはいたずらの度が過ぎただけで犯罪者じゃないのよ!?そんなことしたらこっちが捕まるわよ!」

 

「じゃあどうするんですか?」

 

「頭を使って考えなさい。くれぐれもお行儀よくね。言っておくけれど、トリニティで今までみたいなやり方してたらあっという間に矯正局送りなんだからね」

 

 ……めんどくさ。

 

 

 

 大奥トオルは背後を気にする様子もなく鼻歌交じりの軽い足取りで家路を行く。クリスマスソングのメロディだが歌詞が付くのならさぞかし冒涜的な替え歌が付くのだろう。

 背後から一気に走り寄って口を塞ぎ、背中にデザートイーグルの銃口を突きつける。

 

「んんん!?」

 

「ドーモ、大奥トオル=サン。トリニティの方から来ました、シスターです」

 

「ア、アイエエエ………」

 

 大奥トオルは抵抗しようとしたのもほんの一瞬のことで、すぐに力が抜けてガタガタと震えだした。

 

「要件はお分かりですね?」

 

「な、なんのことだか……」

 

 なんとわかりやすい虚勢だろうか。よろしい、ではファックしま……間違えた。お行儀よく。

 

「大奥トオルさん。先日あなたが大聖堂で披露した大変ユニークな替え歌にサクラコ様は大変お怒りです。ですが、もしあなたが自分の過ちを悔い改めて謝罪するというのであれば、慈悲深いサクラコ様はお許しになるでしょう」

 

「い、嫌だといったら……?」

 

「……ご存知ですか?キヴォトスの外では悪魔を崇拝する魔女は火炙りにするそうです。ヘイローを持った魔女は燃え尽きるのにいったい何時間かかるのでしょう、うふふ」

 

「い、いく!いきます!懺悔させてください、お願いします!」

 

「大変、結構。では明日お待ちしております」

 

「あ、明日?でも明日は学校が……」

 

 早く解決しないとナギサ様への有能アピールにならないでしょうが!いつか行きますなんて待ってられるか!さっさといけ!

 

「うるせえですわ、つべこべ言わずに明日行けですわ。テメェさまのおケツのお穴を50口径にアクションエクスプレスしてやっても──」

 

「──い、いいい、いきます!明日!絶対!」

 

 悲鳴のようにそう誓った大奥トオルを解放してやると電柱にぶつかり、ゴミ箱に衝突し、ゴミに躓いて転げながら夜の闇の向こうへ消えていった。

 

「どうですか、リーダー!?完璧なトリニティ流でしょう!」

 

「……あれの、どこが……私達あんなだと思われてるの?」

 

 ……まあ、ちょっと誇張したし取り繕うのが上手くなかったのは認めるけどだいたいあんな感じじゃない?

 

「それに、銃弾は一発も使ってません!」

 

「……まあ、今日はそれで及第点ってことにしとくわ」

 

 ため息交じりに頭を抱え、前途多難だわなんて呟くリーダーは本当は不合格にしたいという本音がありありと出ていた。

 ……あれ?シロコとリーダーとどっちが私を更生しようとしてるんだっけ……ま、いいか。これで早くもナギサの依頼は全部片付ちまったわけだ。次は何を頼まれちゃうのかなぁ、へへへ。





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