ここは『キヴォトス』弱者に口なし 作:GAU-8
「なんでいるの?」
「シロコちゃんにばっかり働いてもらっててもなんだからね〜」
「来ちゃいました〜☆」
ささみ一切れで3日は働くカラスのおかげで例の元締めがトリニティ自治区に隣接する人気のない廃倉庫を根城にしていることがわかった。
あとはいつものようにシロコと一緒に中でたむろしているスケバン達を一網打尽にするだけ、のはずだった。
シロコと決めた待ち合わせ場所にはシロコに加えてさらに4人、アビドス生が総出で現れたのだった。
……なんでいるの?い、いや、落ち着け。今日は味方、味方だから。一緒に倉庫の中にいる連中を全員ぶちのめすだけ、簡単。
「……まさか人数分、分け前よこせなんて言うんじゃ?」
「……ん、大丈夫。いつもと一緒、半々でいい」
「ていうか、本当にアンタがあんな額だせるんでしょうね?嘘だったらただじゃおかないわよ!」
「大丈夫だよセリカ。レイもお金のことはちゃんとしてる」
……まあ、ナギサとは報酬の話してないわけだが。いや、あんな頼み方されたら事前に報酬の話をするわけにもいかないわけでして。
シロコに提示したのはだいたいいつもの感じならこのくらいは……というものでしかない。足りない分は自腹、余った分はポッケナイナイ……やめとこう。後が怖い。
「じ、じゃあちゃっちゃと始めてちゃっちゃと終わらせましょうか」
「その前におじさんに何か言う事あるんじゃない?ねえ“小鳥遊ホシノ”ちゃん?」
それ私に言ったの?小鳥遊ホシノなんて名前じゃないよ。というか小鳥遊ホシノは自分でしょ?ボケてるな〜、おじさん。
「え、えぇっと……貴公の首は柱に吊るされるのがお似合いだ?」
「ん〜?よく聞こえなかった。誰の首がなんだって」
ガチャコンとアイオブホルスに初弾が装填される。
「……ご、ごめんなさい」
「まったくもう……よしよし、素直に謝れて偉いね〜。これからはおいたするときにおじさんの名前使ったりしちゃダメだからね」
ちっ、けちくさい。いいじゃん別に、ちょっぴりこじれたとはいえ元々はただの職質だったんだし!
「い、いいから始めますよ!」
「……あの、作戦は?」
「ない!強いて言うならホシノを盾に……ゲフン!ホシノを先頭に正面から突撃!」
「ん、シンプルだね」
シロコがふんすと鼻を鳴らしながらアサルトライフルのセーフティを外した。
アヤネが何か言いたげに口をもごもごしていたが結局ため息だけ吐き出して倉庫の入り口で並んで突入態勢をとるアビドス生達に合流する。
「そんじゃ……いっくよー!」
ホシノがショットガンを構えながら、シールドを前面に押し出して廃倉庫の重い鉄扉を蹴り破った。
それを合図に、アビドスの面々が次々と倉庫の中へとなだれ込んでいく。
「な、なんだお前ら!? どこから……ひぎゃっ!?」
「ん、ワンダウン」
銃声、爆発音、そしてスケバン達の悲鳴が廃倉庫の中にこだまする。
……うん、知ってた。私いる?
「いいぞぉ!お前達のパワーでスケバン共をこの世から消し去ってしまえぇ!」
「なにをサボってんのよ!あんたもちゃんと働きなさい!」
「は〜い」
アビドスの圧倒的な暴力……もとい、鮮やかな連携の前に、廃倉庫にたむろしていたスケバン達はものの5分で物言わぬ肉塊と化した……死んではいない、たぶん。
私はというと、ホシノの盾の後ろから適当に弾をバラまいていただけである。
ついこの前まで私もあっち側だったんだよなあ、身の程知らずにも程がある……と、ターゲットの元締めと賞金首と無価値な巻き添えを一人ずつ識別しながらしみじみ思った。
「じゃあレイ、あとは任せていい?」
「またおいしい話があったら呼んでね〜」
後始末を任せて帰っていくアビドスの面々を見送った私はそのままヴァルキューレに後始末を丸投げするのだった。
「──ナギサ様!例のお散歩ですが……あ」
わずか3日でのスピード解決をアピールすべく、その足でナギサの執務室へと報告にやってきた私の足は意気揚々と扉を開けた途端にピタリと止まった。
執務室にはナギサだけでなく、先客がいたのだ。黒いセーラー服に身を包んだ、やたらと背が高くて……そして色々とデカい正義実現委員会の副委員長、羽川ハスミである。
……しまった、ノックはしたけど返事は聞いてなかったような?
「……レイさん。許可を待たずに入ってきてはノックもしていないのと同じですよ」
ナギサが眉間を押さえながらごもっともな指摘をする。
「し、失礼しました!出直します!」
「……いえ、そのままで結構です。あなたにも関係ない話ではありませんので」
振り返ったハスミとふと目が合った。
「あなたはたしか……」
「えっと、その節はどうも?」
ハスミは苦虫を噛み潰したような顔をする。
……あれ?負い目がある相手にその節はどうもはなかなかの嫌味では?やばい、トリニティに染まりつつあるかも。
「こほん。ハスミさん、報告の続きをお願いします」
どことなく気まずい空気を打ち消すようにナギサがわざとらしく咳払いをして話を本筋にもどした。
ハスミは私に軽く会釈をするとナギサに向き直る。
「例のダイエット薬ですが……正義実現委員会による見回りと取り締まりを強化した結果、流通ルートがより巧妙化しています。ぬいぐるみへの偽装、SNSでの隠語を使っての取引、末端の売人を補導する手間は増す一方で一向に事態が収束する気配がありません。より抜本的な対策が必要かと」
「……モグラ叩き状態、ということですか」
「はい!はい!それなら私からご報告が!」
「……レイさん。どうぞ」
私は控えていた壁際から一歩歩み出る。
「売人共の元締めですが廃倉庫で爆発騒ぎを起こしてヴァルキューレに捕まったそうです!」
「……それは本当ですか?そんな報告は受けていませんが」
「つい先ほどの出来事ですので!」
「なるほど、それがあなたのお散歩の成果ですか。ご苦労さまでしたレイさん。報酬は後ほどイリアさんから受け取ってください」
「はい!」
「さて……これで事態が収束するとよいのですが」
ナギサが優雅に紅茶を啜りながらそう締めくくろうとしたが、ハスミの険しい表情は微塵も晴れることはなかった。
「……いえ、ナギサ様。恐らくそう簡単にはいかないかと」
「と、言いますと?」
「今回の件、私達が頭を悩ませている最大の要因は、その異常な流通量にあります。たかが他学区の不良グループが元締めだとしても、トリニティ内にこれだけ大量の薬を継続して持ち込めるものでしょうか?」
ハスミは手元のタブレットを操作し、押収したというダイエット薬の画像を空中にホログラムで投影した。カプセル状の、いかにも怪しげな……いや、怪しげというよりは、随分としっかりしたパッケージに入っている。
「加えて押収した薬の成分分析を行いました。結果……これらは路地裏で密造された粗悪品などではありません。正真正銘、重度の肥満治療などに用いられる、処方箋が必要な正規の医療用医薬品です。報告されている健康被害は副作用によるものでしょう。また、依存性があり長期の服用は想定されていません」
「……製造元は?」
「製造元はカイザー製薬。カイザーグループ傘下の製薬会社です」
カイザー!?製薬会社まで持ってるのかよ。どれだけ手広くやっているんだあのタコ野郎ども!
「そのようなものが、いったいどこから……」
「そんなのそのカイザー製薬?とやらに決ってます。直接裏市場で売り捌いてるんです!」
私の断言に、執務室に冷たい沈黙が落ちた。
ナギサとハスミが、揃って「なに言ってんだコイツ」と言わんばかりの目を私に向ける。
「……レイさん」
ナギサが静かに口を開いた。
「カイザーグループはキヴォトスでも有数の巨大企業です。彼らが自社の正規医薬品を、わざわざ裏ルートで横流ししてトリニティの生徒に売り捌いている……と、そうおっしゃるのですか?」
「はい! あいつらなら絶対にやりかねません!なにかの陰謀です!はっ!そう!トリニティ生を薬漬けにして学園を乗っ取るつもりなんですよ!」
「確かに黒い噂の絶えない企業ではありますが……その、確たる証拠があるのですね?」
ナギサの鋭い視線が私を射抜く。
「しょ、証拠、ですか?」
「ええ。そこまで断言されるからには、カイザー内部からからの告発データや、直接彼らが取引を行っている決定的な物証などがあるのでしょうね?」
ないよそんなもん。シロコが薬の在庫ごとミサイルで全部吹っ飛ばしちゃったし。
「ええっと……それは、その……原作……いや……長年の直感……みたいな?」
「……」
「……」
目線が痛い。やめて!二人してフラットアーサーを見るような目線を突きさしてくるのをやめて!
「……はぁ」
沈黙を破ったのは、ナギサの深いため息だった。
「レイさん。あなたが以前、カイザーPMCと何か個人的なトラブルを抱えていたことは存じています」
「げっ」
「カイザー製薬はキヴォトス全土に薬を卸している正規の企業です。商品のロット管理や横流しへの監査は非常に厳重に行われています。彼らが自社の看板を汚してまで、末端の不良グループに直接小売りをするメリットがどこにあるというのですか?」
「いや、ですからそれは……」
ハイリスクノーリターンだろうがあいつらはそれが悪事ならやるの!悪だくみがあいつらの存在証明なの!
「……私怨ですか」
「私怨ですね」
「んぐっ」
二人に冷ややかな視線で挟み撃ちにされた私は、これ以上の弁明は自分の知能指数を下げるだけだと判断し、すごすごと壁際へ引っ込む。
「ハスミさん、正義実現委員会には引き続き、学内での流通阻止と末端の摘発をお願いします。カイザーグループへの公式な調査や抗議は、確固たる証拠がない現状では不可能です。下手に動けば、トリニティ全体の品位と信用に関わります」
「……承知いたしました」
「そして、レイさん」
「は、はい」
「ティーパーティーは、不確かな情報で公式に動くことはありません」
「うっ……」
「ですが……そうですね。あなたは今、職務時間外の単なる「お散歩」中でしたね。あなたが「個人の自由」として、誰にも迷惑をかけずに、反論の余地もない客観的な証拠を勝手に集めてくる分には、私が止める権利はありません」
……出た。要するに「公式には認めないし支援もしないけど、勝手に証拠を集めて持ってくるなら見てやらないこともないぞ」ということだ。
「……わかりましたよ。誰も文句のつけようがない動かぬ証拠、きっちり拾い集めてきてやりますからね!」
「あまり期待せずに待っていますよ……ああ、それから通常業務の方もお願いしますね。シュレッダー仕事がまだ半分ほど残っていますから」
「えぇ……」
「期待せずに待っていますよ」が本当に期待されてないなんてことある……?マジでただの陰謀論者に思われてる?
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