ここは『キヴォトス』弱者に口なし 作:GAU-8
反省文 渡里レイ
この度、私渡里レイはアビドス高等学校の生徒に対し、多大なるご迷惑をお掛けしたことをここに謝罪致します。アビドスサイドが襲撃だと主張する行為を働いたことは事実であります。全ては私の軽率さが招いたことであり、深く猛省し、今後は二度とこのようなことを起こさないと努力目標を掲げ頑張りたいかなと思う所存であります。しかしながら、武器を向けるという行為はこのキヴォトスではこんにちはとかこんばんはのような挨拶の一環に過ぎないというのは周知の事実です。にも関わらず今回このような事件に発展してしまった原因はアビドス側の先制攻撃によるところが大いにあるのではないでしょうか。加えて事件の最中、降伏した相手を背中から撃つというアビドス生徒による重大な戦時国際法違反があったことを記しておきます。これらのことを鑑みて今回は喧嘩両成敗ということで大目に見ていただけないでしょうか。本当に申し訳ございませんでした。
「……なんじゃあ、こりゃあ」
アビドス高校に完膚なきまでに叩きのめされた我々ワラワラヘルメット団はヴァルキューレ警察学校へと引き渡され、全員無事護送車にすし詰めにされてブタ箱へ出荷された。てっきり砂漠に頭から埋められて犬神家させられるのかと心配したが杞憂だったようだ。
ヴァルキューレ警察学校では全員で教室のような場所へ押し込められ、最初に命じられたのがこの原稿用紙1枚に反省文を書くことであった。
作文への苦手意識から無心で素直な謝罪の気持ちを書き殴っていたらとんでもないものが出来上がってしまった。こんなもの提出した日には増刑待ったなしだ。書き直さないと。
「すみません」
挙手をして監視役のヴァルキューレ生を呼ぶ。
「どうした?ほう、もう書けたのか。どれ、見せてみろ」
「あ、いや、それは!違くて!」
監視官殿が俺の作文を見た瞬間にうっとうめき声をあげた。非常にまずい、殺られる。
「なんだこれは。貴様、作文の書き方を小学校で習わなかったのか。字も汚いし……よ、読みづらい」
「それはその……下書きというか、たたき台というか。ちゃんと書き直すのに新しい用紙をいただきたいのですが」
しかめ面で作文と俺の顔を交互に見ながら口を開いたり閉じたりを繰り返していた監視官殿だが、やがてため息を一つついてこんなことを言う。
「いや、必要ない。これで受け取っておく。もう帰っていいぞ」
「えっ!?」
「えー!ズルい!あたしも帰りたい!」
「貴様はまだ一文字も書いていないじゃないか!言っておくが書き上げるまでは絶対に帰さんからな!」
「はー!?んだよそれ、めんどくさ……」
それに同調した団員達がギャーギャーと抗議の声をあげる。
「やかましい!文句を言うな!反省文一枚で済ましてやることに感謝しろクズどもが!こいつを見習ってさっさと書き上げて、私のことも解放してくれ!書類仕事が溜まってるんだよ!」
さてはちゃんと読んでないなこやつ。まあ、帰ってよいとおっしゃったのは監視官殿だし。名状しがたい反省文のようなものがきちんと解読されてしまう前にさっさとずらかろう。
「レイ」
「はい?」
部屋を出る直前、リーダーに声をかけられた。
「悪いけどみんなが帰るまでアジトの見張りをお願い」
リーダー、心なしか元気がない。小鳥遊おじさんにわからされちゃったのかな。かわいそ。
なにはともあれこうして学校襲撃犯としては軽すぎる気がしないでもないおつとめを終え、アジトへ帰還することができた。
てんでんばらばらにアジトに帰ってくる団員達。全員が集まる頃には夕方になっていた……いや、時間食いすぎでしょ。本当にすまないという気持ちがあるのなら、あんなもの5分で書き上がるはずだ。俺を見習え、俺を。
「みんなごめん……アビドス高校を侮った。私のミスよ」
出発前より人数が減った団員達の前でリーダーが頭を下げる。
なんでも別件で指名手配されていた2人がそのまま矯正局送り、さらに11人がそれぞれ所属している学校の風紀委員に連れていかれたらしい。頭数だけでも戦力は3割減、さらに車両は全滅。勉強料としてはあまりにも手痛い被害である。
しかし、あれだけ簡単に蹴散らされて団員達は未だに士気旺盛。銃を掲げたり、空に向かってぶっ放したりしながら口々にアビドスへの恨み言を叫んでいる。
「明日から本腰を入れてかかりましょう。私達をコケにしたことを後悔させてやるんだから!」
「「オォーー!!」」
意気込んではいるが、純度100パーセント、まごうことなき逆恨みである。勝手に襲ってきて、返り討ちにしたら、そのことに怒ってまた殺る気を増して襲ってくる。こわいなー。まったく、自分の行動を省みれない連中ってのはこれだから。
その日は解散ということで、俺もブラックマーケットの不法占拠中の空きビルに帰ろうとしたところでリーダーに呼び止められた。なんですか、クビですか?
「あんたにはいきなり情けないところをみせちゃったわね」
「いえ、別に……」
ヘルメット団なんてブルアカじゃ雑魚のやられ役ですし。最初っからあんまり……ね。ましてや相手はアビドスだ。先生が来るまでどう足掻いたって勝つことはない。そういう運命だ。たぶん。
「あんたも知ってるとおり、ワラワラヘルメット団は大損害を被ったわ。今はとにかく一人でも戦力が欲しいの」
「……はぁ」
「だからあんたには明日からも引き続き頑張ってもらいたいのよ。あんだけこっぴどくやられた連中を相手にするのは嫌でしょうけど」
「……はぁ」
別に派手に敗けたことはあまり気にしていない。なんなら一方的過ぎて却って復讐心が……ゲフン!できることなら原作キャラと敵対したくないのだ。ホシノから銃を向けられたという事実だけでも俺のガラスのハートは傷ついてしまうのである。
「月に10万でど──」
「やります!よろしくお願いします!必ずやアビドスを更地にしてやりましょう!」
「え、えぇ。よろしく」
目の前に安定収入をぶら下げられて抗えるホームレスなどいようかは。いや、いまい。
それにこれなら訓練という名の無駄撃ちを繰り返すことでカイザーPMCへ損害を与えつつ、キヴォトスでの必須技能たる射撃の練習もできる。つまりアビドス生と俺の共通の利益になる。
さらにまともに銃を撃てるそんじょそこらのチンピラ以下の俺がいることで戦力はダウン、給与分は丸損。
さらにさらに、黒服をしてキヴォトス最高の神秘と言わしめるホシノの胸を借りて実戦経験が積める。借りるほどねえか、HAHAHA!人のこと言えないけど……
とにかく、この契約はアビドスに百利あって一害なし。あわよくばホシノにやられた分の倍の弾丸をぶち込んでやりたいとか欠片も思ってない。そんな馬鹿で無謀な逆恨みはイッサイナイ……イイネ。
次の日は朝から早速弾薬の浪費、もとい射撃訓練である。アジトの中にそのための場所はあるし、パイセンから弾も好きなだけ使っていいと言われたので遠慮なく使う。
「あんたそれ1日中やってるつもり?うるさいんだけど……学校は?」
いつの間にか不機嫌そうなリーダーが背後で腕組みをして訓練の様子を見ていた。真面目に訓練してれば褒められるかと思ってたのにどうにも雲行きが怪しい。
「ガッコーなんて通ってません。他の人達だってそうじゃないんですか?」
「……そんなわけないでしょ。サボりは何人かいるけど、今の時間はだいたいみんな学校行ってるわよ」
はー!?そんなんで一流のチンピラになれるか!俺みたいに人生全部捧げるくらいミジメ……真面目にやってくれよ!
「そういうリーダーは?」
「私は……休学中よ」
偉い!それでこそチンピラ集団を統べる者!そこまでいったならいっそ退学しやしょう!
「とにかく、パンパンパンパンうるさいのよ」
「パンパンってなんだかエッ──」
「あ゛?」
「へ、へへっ。なんでもねーです」
「……寝られないから他のことしてて。いいわね」
「……と言われましても」
いかに今の俺に射撃訓練が必要かリーダーに見てもらうべく一発撃ってみせる。見事に命中……隣の的に。
「ふっ……ざっとこんなもんですよ」
「……センスとかそれ以前の問題ね、これは。あんたはまず体を鍛えなさい」
そう言ってリーダーはどこかへ行ってしまう。戻ってきたリーダーはどこからか大きなリュックとAK-47を携えていた。
「はい。こいつはあんたにあげる」
ハンドガンすらまともに扱えてないのをご覧になられていなかった?さっき撃つとこみてたはずでしょ、あなた。
「え、えぇっと、ありがたいんですけど、もう少し扱いやすい銃の方がいいかなって」
「扱いやすい銃?例えば?」
「5.56mm弾使うやつとか……?」
「はっ!いいレイ?7mm以下のものは銃弾とは呼ばないの。あれはただの豆。豆を撃ち出してるのよ」
ユウちゃん、その見てくれで脳筋なの?マグナム使いなのもその信条のせい?身体がちっこいからでっかい銃に魅かれちゃうの?
「反動に負けないように鍛えれば済む話でしょ。ほら!」
「は、はぁ……うっ」
無理矢理突き出されるAKを渋々受け取る。次いでリュック。異様なまでに重量がある。限界までなんか詰まってるせいで膨れ上がってるし、何が入ってるんだろう。
「偵察がてらそいつら持ってアビドス自治区の外周をぐるっと一周してきなさい。期限はそうね……夕方まででいいわ」
「まででいいって、車で移動する距離ですよね!?」
「速度は戦車に合わせてたんだから、言うほどじゃないんじゃない?」
夕方までならほぼ丸一日あるし、キヴォトス人パワーならいけるか?だが、他にも問題が……
「もしアビドスの生徒と会ったりしたら?昨日の今日ですよ?」
「あの時はヘルメットにユニフォームだったでしょ?そっちの制服なら気付かれないわ。その羽は目立つかもしれないけど……まあ、それこそ昨日の今日でシャバをうろついてるなんて思われないでしょ。大丈夫よ」
「けどもしバレたら!?」
「その時は実戦訓練よ。死ぬ気で抵抗して。ああ……でもヴァルキューレにつきだしても無駄だって知られたら本当に殺されちゃうかもね、ははっ!」
ははっ!じゃないが!アビドス生を殺すのは言うまでもないが、殺されるのも絶対ご法度なんだよ、わかってる!?
待てよ、一生の傷にしてもらえるならちょっとあり……いかん。ダメだぞ、許されないよそんなこと。
「冗談に決まってるでしょ。ほら、さっさといきなさい。偵察任務が当面のあんたの仕事、今決めた。給料分はしっかり働きなさい」
「うぅ。分かりました。行ってきます」
「あっ、ちょっと待った。水も持って行きなさい」
そう言ってリーダーが持ってきたのは2Lのペットボトル。デカい上に重い。
「やっぱり飲み物は途中で買って──」
「ふむ、1本じゃ足りないかも。もう1、いや、2本持って行きなさい」
ブツブツと呟きながらリュックに2kgのペットボトルをくくりつけていくリーダー。さすがに負荷が危険領域な気がするんだけど。
「いや、あの、聞いて──」
「なんか文句ある?」
「……いいえ」
「そっ。じゃあ、今度こそいってらっしゃい。気をつけてね!」
就職先間違えたかなぁ……?
「暑い、ダルい、もういや……」
照りつける太陽とどれだけ歩いてもほとんど見栄えの変わらないゴーストタウンに体力と気力をゴリゴリと削られていく。
まっすぐ歩いているはずなのにさっきも通った場所なんじゃないかという感覚に襲われる、それによるこの徒労感。なるほど、これは街中で遭難するなんて言われるわけだ。スマホもなしに帰れるのかこれ?
考えるだけで足が重くなってくる……駄目だ。そこの日陰でちょっと休憩。
道端で座って休んでいたって人っ子一人通りかからない。眠くなってきたし、ちょっとだけ寝ていこうかな。
「……ん?」
この広大な自治区で5人しかいないアビドス生に遭遇する心配なんてしなくてよかったかな。ああ、でも自転車で走り回ってるのが一人いたな。
「……あの」
シロコのこと考えてたらシロコズボイスの幻聴が、熱中症の初期症状か?
「……大丈夫?」
「んん?……げぇっ、シロッ!?」
目の前にどっかで見た光景が再現されていた。
お気に入り、評価、感想ありがとうございます。すごくやる気が上がります。弾道も上がります。