ここは『キヴォトス』弱者に口なし   作:GAU-8

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予期せぬ交流

 自転車にまたがったまま困惑顔でこちらを見下ろすケモミミ美少女。首に巻いた特徴的な空色のマフラーも銀の髪も白い肌も澄み渡った青い空によく映える。

 少女の名は砂狼すなおおかみシロコという。ブルーアーカイブの登場人物にしてメインヒロイン。アプリのアイコンのキャラなんだから間違いない。誰がなんと言おうとメインヒロイン。ん、異論は認めない。

 

「……どうしたの?行き倒れ?」

 

 見惚れるようなご尊顔を網膜に焼き付けようと鑑賞していたら、それを不審に思ったかシロコがそう言う。

 

「すみません。なんともないです、ちょっと日陰で休んでただけで……」

 

 動けないわけではないことを示すために立ち上がってみせる。

 

「そっか、良かった。死体かと思った」

 

「……死体」

 

 見た目だけは正統派の、このお方をメインヒロインとアプリアイコンに据えることで、釣られてやってきた新規にブルーアーカイブとその舞台、キヴォトスの透き通るような世界観を一瞬で理解させる。よくできてるよね……うん。

 

「ごめんなさい。紛らしかったですかね」

 

「ううん、こっちが早とちりしただけ。ごめんね」

 

「いえ!お気遣いありがとうございます!じ、じゃあ、俺はこれで……」

 

「……」

 

 声をかけてくれたことへの感謝を伝え、後ろ髪を引かれる思いで早々にシロコとお別れする。彼女の所属はアビドス高校。仲良くなりたいな〜、なんてやってる場合ではない。俺“の”敵である……いや、俺“が”敵なのか。どうしてこうなった?

 まだ俺がヘルメット団だとバレてはいないはず。バレていればまず真っ先に声ではなく銃弾が飛んできたはずだから。なんたってシロコだし。俺にとっては至近距離で言葉まで交わしたホシノの次に危険人物だ。

 

「……」

 

「……」

 

 バレてない、よね。なんでついてくるの?なんで足音消してるの?でも確かに気配が……というか殺気が?

 

「……あ、あの」

 

「ん」

 

 意を決して振り返ればやっぱりそこにはシロコがいた。こっそりついてきたことを悪びれもせず、当然の権利の如くそこに立っている。会話をするには若干遠い。そう、飛びかかってきても焦らず迎撃できるし、急に走り出しても逃さず射殺できる、そんな微妙な距離感必殺の間合い

 

「そのリュック。随分たくさん入ってるね、何が入ってるの?」

 

 そんなん知らん。パンパンすぎて元に戻せなくなりそうで怖いから受け取ってからまだ一度も開けてないし。

 

「えっと……た、大したものは入ってないですよ」

 

「……そうなんだ」

 

 言葉とは裏腹に全く信じてなそうなシロコ……なんでそんなピリピリしてるの。それによく見たら最初会ったときは背負ってたはずのライフル、いつの間にか前に回してるじゃん。怖……

 

「中、見せてもらっていい?」

 

「えっ!?いや、それは……ど、どうかなぁ?急にそんなこと言われても、は、恥ずかしいかなって……へ、へへへ」

 

 リーダー!これなに入ってんの!?変なもの入ってないよね、大丈夫だよね!?

 

「……」

 

 愛想笑いにも全く表情を変えないシロコが俺とじっと目を合わせたまま右手をゆっくりと、本当にじわじわと動かしてライフルをこそっといじる。まるで手品師のような手口、俺でなきゃ見逃しちゃうね。

 で、何で今安全装置セーフティを解除する必要があるんですか、シロコさん?

 

「……ど、どうぞ」

 

 もう知らん。どうにでもなれ。粘ってると撃たれそうだ。

 リュックを足元に降ろして両手を上げて一歩さがる。

 

「ん、ありがと……」

 

 なんて言いながらしれっと銃口を向けてきて足元に置いたリュックを回収していくシロコ。傍から見たらやってることが完全に強盗なんだけど。お巡りさん助けて。

 そして、シロコは一分の隙もなく銃で俺の動きを牽制したままリュックの口に手をかけ……

 

「うわ!……っぷ」

 

 一気に解放されたリュックの中のタオルが炸裂した。

 

 

 

「だから開けたく無かったのに……」

 

「ごめんね、疑って……ん。これでよし」

 

 爆発したリュックはシロコが中身を検めると、その腕力をもってまた爆発寸前状態に戻してくれた……くれた?

 どうやら俺は空き家を荒らす賊かと疑われていたらしい。不自然な程中身が詰まったリュックの中から出てきたのはタオルがたくさん、あとは重り以外の価値のなさそうなゴミが大量に。用途不明の謎の鉄塊とかな!道理で肩に食い込むと思ったわ!覚えとけクソガキが!

 

「なんでこんなもの持って歩いてるの。もしかしてウェイト?トレーニングの最中?」

 

「はい……まぁ、そんなところで」

 

「ルートは?目標タイムは?」

 

 ずずいっと顔を近づけてくるシロコ。なんだか目の色が変わった気がする。さっきまでとは別の意味でなんだか危険な感じ。

 

「え、えぇっと、夕方までに、アビドス自治区の外周をぐるっと周って、アジ……いえ、外周を一周するつもりです。はい」

 

「……なるほど。行軍訓練みたいなものか。だいたい200kmくらいかな。本格的に鍛えてるんだね」

 

「にひゃっ……!?」

 

 それなりの距離になるとは覚悟していたが200kmは全くの想定外だ。ルートは嘘なので多少は前後するだろうが、それでも夕方までは……不可能でしょ。リーダー、目茶苦茶な設定にしやがって。

 

「……でもどうしてわざわざアビドスで?」

 

「それは……そう!人気がないからあまり見られずに好きなだけ汗を流せる場所があるって聞いて!」

 

「そっか。恥ずかしがることないと思うよ。キヴォトスじゃみんな銃に頼りすぎてる。でも最後の最後にモノをいうのは日頃から鍛えてるかどうかだよ。だから、ちゃんと身体を鍛えようとしてるのは立派。それに人気を避けてるとその分治安も良くない場所になっちゃうよ。変なのが勝手に住み着いてたりするから、外周を回るコースはあんまりおすすめしないかな。多少の人目はあるけど、まだ生きてる市街地とか私達の学校の周辺は比較的マシだからそっちの方が……ん」

 

 まくしたてるようにアドバイスをくれていたシロコが急になにか考え込むように口を噤んでしまう。

 

「ど、どうかしました?」

 

「……昨日三流以下のチンピラ集団に学校を襲われたんだ。だから安全とも言えなくなってきちゃったかも」

 

「三流以下……へ、へー。タイヘンデスネ」

 

 学校を襲うだなんて、酷いやつらがいたもんだ。

 

「ん。でも大丈夫。全員返り討ちにしてやった」

 

 ドヤ顔で戦果を誇るシロコ。

 酷いね。チンピラだって生きているのに。友達なのに。

 

「……アビドス高校の生徒さんだったんですね」

 

「ん?ああ、そっか。まだ自己紹介してなかったね。私は砂狼シロコ、アビドス高校の2年生。あなたは?見ない制服だね、どこから来たの?根性あるね。何歳?モモトークやってる?自転車に興味ない?」

 

 職質かましてきたかと思ったら今度はナンパ!?寒暖差アレルギーになりそう。

 

「俺は……江戸川コ……高校の、探偵……いや、普通科の……17……8?三年生の……渡里レイです。あっ」

 

「……?」

 

「い、いえ。はい。江戸川高校、三年生、渡里レイです。初めましてシロ、砂狼さん」

 

 プロフィールがなにもかもデタラメのくせに一番隠さなきゃいけない名前そのまま伝えてるし!なにやってんだバカか!

 

「じゃあ先輩だ。シロコでいいよ。よろしくねレイ」

 

 先輩をつけろよデコ……!ごめんなさい。なんでもないです。私のことはクズ野郎でも、蛆虫でも好きなように呼んでください、ごめんなさい。

 

「江戸川高校……ごめん、聞いたことないや。どこにあるの?」

 

「ひ、百鬼夜行、の方に……」

 

 日本っぽい名前だし、日本っぽい学校の近くってことで……ダメ?どうしようキヴォトスの地理全然わかんない。

 

「……ふーん。随分遠くから来たんだね」

 

 なんとも微妙な反応。やっぱりダメだ、話せば話すほどボロが出そう。さっさと会話を打ち切ってしまわなければ。

 

「あっ!そろそろ行かないと日暮れまでに帰れなくなるからこの辺で!じゃっ!」

 

「ん!ちょっと待って!」

 

「痛ぁっ!?」

 

 不意打ちで踵をかえして走り出そうとしたところを、腕を掴んで阻止された。自分の体重と重りと脚力とシロコの腕力が一気に肩に集中する。

 

「う、腕……腕もげちゃう」

 

「あ、ごめん。モモトーク交換してくれる?」

 

「うぇ……え、えっと」

 

「……道に迷ったりしたら大変。呼んでくれたら助けに行けるよ」

 

「や、大丈夫っす。道に迷ったことないので」

 

「そうなの?でもアビドスは特に迷いやすいよ?」

 

「へーきへーき。なんとかなります。お気遣いなく」

 

 地球は丸いから。歩き続ければなんとでもなる。最終的に目的地についてれば負けじゃないから。

 

「……嫌なの?」

 

 ぐっ。その上目遣いやめろください。外面だけは正統派ヒロインだからって卑怯ですよ。

 

「嫌とかじゃなく……スマホ持ってないんです。ごめんなさい」

 

「家に置いてきたってこと?」

 

「いや、契約してなくて」

 

「……そんな人いる?」

 

 いるさ!ここに一人な!いや、本当に。スマホが欲しいと何度思ったことか……

 

「その……お金がなくて」

 

 ついでに戸籍もなくて。

 

「あっ……ごめん、苦労してるんだね」

 

「……はい」

 

 9億の借金ある人達ほどじゃありませんけどね!そんな人達襲ってるおかげで最近はちゃんとご飯食べれてますけどね!ごめんなさい!死んでもいいですか!?

 

「わかった。トレーニング中なのにこれ以上引き止めてもわるいから……じゃあね。こっちにはしばらくいるの?」

 

「……特に決めてないですね」

 

「そう。良かったら今度学校に来て。歓迎する」

 

「……はい」

 

 そのうちに「お邪魔」することになるだろうし、盛大に「歓迎」されるんだろうな……はぁ。

 

「バイバイ、またね」

 

「……また」

 

 

 

 アジトに帰ったのは翌日の朝になってからだった。夜通し歩いてたのか、と問われればそんなわきゃーない。夕方までなんて高すぎる目標は早々に破棄して、適当な空き家に侵入して8時間きっちりお休みしてきましたとも。何か問題でも?

 

「ないわね」

 

「……え、いいんですか?」

 

「ええ」

 

 リーダーは怒るかと思ったがあっさりと許された、のか?

 

「じゃあ今日も頑張ってね、いってらっしゃい」

 

「……え?」

 

「え?じゃないわよ。あんたは当面毎日200km行軍するの。そう言ったでしょ」

 

「い、今帰ってきたばっかりなんですよ?いくら休んできたっていったって全然疲れが残ってて……」

 

「そうじゃなきゃトレーニングにならないじゃない。別に今日は休んでたっていいわよ、その分明日は400km行軍に、明日も休むなら明後日は600km行軍になるけどね」

 

「……し、死ぬ」

 

「ふふっ。いい顔、頑張ってね!」

 

 悪魔はいる。そう思った。

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