ここは『キヴォトス』弱者に口なし   作:GAU-8

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ヘルメットvsヘルメット

「Vanitas vanitas vanitas vanitas vanitas vanitas」

 

 右足を出す。左足をす。右足を出す。左足を出す。足を出す。左足を出す。右足を出す。左足を出す。右足を出す。左足を出す。右足を出す。左足を出す。

 

「オイ!止まれ!」

 

 右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右。

 

「止まれ!聞こえないのか!」

 

「おあ゛あ゛あ゛あ゛ぉ?」

 

「ひぃいっ!?な、なんだこいつ!?」

 

「んはっ!?な、なんですかあなた!?」

 

「こ、こっちのセリフだ!なんなんだテメェは!」

 

 なんだかんだと聞かれても、答えられないどうしよう。

 メスガキに見送られてアジトを回れ右して出発して、砂と廃墟とあと砂しかないアビドスの景色にうんざりして、足も重いし、頭も重いし熱いし、ただ前に進むことだけ考えてて、それから……そこから?今に繋がるような記憶がすっかり抜け落ちている。

 周囲の風景からするにどうやらアジトのすぐ近くまで帰ってきていたらしい。となれば目の前の黒ヘルはアジトの見張りだろう。

 時間は……まだ日が沈んでいない!?2日目にして早くも目標を達成してしまったのか。自分の成長速度が恐ろしい……とはいえ家に帰るまでが遠足だ、あとほんの少し頑張ろう。日没も近い。

 

「すんません。俺っす、俺。新入りのレイです。お疲れ様で〜す」

 

 軽く手を上げて挨拶をして、脇を通り抜けようとする。

 

「はぁ!?待ちやがれ!新入りだと!?聞いてねえぞ!」

 

「なんですか、ちょっと……邪魔なんですけど」

 

 黒ヘルは腕を広げて進路を塞いできた。見張りやってるならメンバー全員覚えとかなきゃ仕事にならないじゃん、ボケがよぉ。

 

「夕方までに帰ってこいってリーダーに言われてるんです!遅れたらどう責任とってくれるんですか、えぇ!?」

 

「待て、帰るだと!?お前、ワラワラ……ぐはぁ!」

 

「うわっ!?」

 

 突然悲鳴をあげた黒ヘルが何かに弾かれるように体勢を崩し、そのまま脇腹を抑えてうずくまる。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「レイッ!このバカ!そいつは敵だ!」

 

「えっ、パイセン!?」

 

「く、クソッ……ぐふっ!」

 

 不意に現れたヘルメット団のパイセンがヘルメット団に至近距離から容赦なく銃弾を浴びせる。黒ヘルは完全に地面に倒れてそのまま動かなくなった。

 

「敵ってどういうことですかパイセン!?ヘルメット団同士なのに!?」

 

「関係あるか!あたしらはワラワラで、こいつらはワチャワチャだろうが!見りゃわかんだろ!」

 

「???」

 

 全部同じじゃないですか。

 

「お前……いや、いい。ヘルメット愛を叩き込んでやってる時間はねえ。アジトが攻撃されてんだ、気づかなかったのか」

 

「……はぁ」

 

 言われてみれば銃声やら爆発音がひっきりなしに響いている。キヴォトスじゃ生活音にすぎないから完全に聞き流していた。

 

「さすがにそこまでじゃ……ない、ないよな?ってやってる場合じゃねえ急ぐぞ!」

 

 

 

 パイセンと一緒にアジトへ走る。ワチャワチャヘルメット団とやらがアジトを攻略しようとゲートのすぐ外まで押し寄せていた。爆発物でも喰らったのか壁の一部は崩壊していてそこへ敵が殺到している。それを見張り台や重機関銃からの射撃で押し留めている、といった戦況のようだ。

 ビルの隙間に隠れて様子を伺う。背後はさっきの見張り一人しか警戒していなかったようで、パイセンと俺の存在に気づかれてはなさそうだ。

 

「マズイな、機関銃の弾がきれたら一気に押し込まれちまう」

 

「弾はどのくらいあるんですか?」

 

「そんなに多くはない……このままじゃジリ貧だ」

 

 敵は遮蔽物に身を隠しながらジリジリと、しかし確実に壁の中へと迫りつつある。こちらが数の上では不利。倍くらいの敵相手に防衛側の優位でなんとか持ちこたえている状態だ。車両は見えない、歩兵だけ。アビドスに消し飛ばされた兵器があればここまで詰められることもなく楽に殲滅できていただろうに。おのれアビ……ワチャヘル団め!

 

「今ならはさみ撃ちになりますね」

 

「つってもお前とあたしだけじゃなぁ……」

 

「ここで見ててもしょうがないでしょ、さっさと仕掛けましょう」

 

「な、なんだ、やけに強気じゃねえか。どうした?」

 

 早く帰りたい。死ぬほど眠い。せっかく早く帰ってこれたんだからすぐに寝て、明日は夜明けから出発するつもりだったのに邪魔が入ってすごく頭にきている。おまけに勤務先を潰そうだなんて、生かしてはおけぬ。

 

「こんな格言を知ってる?サンドイッチは中のきゅうりが一番美味しいの」

 

「は?」

 

「挟まれた方がいい味だすのよ」

 

「……お、おう?挟んでる方があたしらだよな?」

 

「……?」

 

「……お前、今日はいつにもましてイカれてるな、大丈夫か?」

 

 人が普段からイカれてるみたいな言い方はやめろ。事実無根の誹謗中傷だ、訴えるぞ。

 

「いいから早く、おっ始めましょうよ!ハリー!ハリー!」

 

「……わかった。お前の言う通り、見てたって状況は悪くなるだけだしな」

 

「ところでパイセン、ゲートの外側にいるのが全部敵ってことでいいんですよね?」

 

「ああ、だから見りゃわかるだろって」

 

 だから全部一緒だって。アジトの中から撃ってるヘルメットも、外から撃ってるヘルメットも。なんなの、ヘルメットに敵味方識別装置でもついてんの?

 

「ここからゲートの間にいるやつは全員殺れ、始めるぞ」

 

 ビルの壁を盾に、身体を出す面積はなるべく少なくなるよう、見様見真似でAK-47を構える。距離は100mもない。銃で戦うには超至近距離といってもいいくらいだ。まして、あんだけいっぱいいるんだ、バラ撒けば誰か誰かには当るよね?

 

「撃てっ!」

 

 引き金を引いてすぐに銃口が暴れまわる。サイトの真ん中に捉えていたはずの敵はあっという間にどこかへ消え失せ、せめて地面や空を撃たないようと制御を試みているうちにマガジンが空になった。

 手元で響いていた爆音が鳴り止み、戦場全体が静まり返ったような錯覚を覚える。

 

「……へ、へたくそ」

 

 おかげでパイセンがこぼした嘆きもはっきり聞こえた。

 

「後ろだ!後ろにも敵がいるぞ!」

 

「撃ち返せ!撃て撃て!」

 

 パイセンと二人で撃ち込んだ何倍もの弾丸が飛んできて、壁を削る。リロードのため一度身を隠したあともお構いなしに撃たれ続ける間断のない弾幕は、もはや顔を出すことすら困難にしていた。

 

「……クソッ!どうすんだ、そんなんじゃ牽制にもならねえじゃねえか!」

 

「いやぁ、敵が遠くて」

 

「どこまで近づけば当てられんだよ!目の前か!?銃口押し付けて撃てばさすがのお前も外しようがねえもんなぁ!」

 

「…………確かに」

 

 当たらないなら当たる距離まで近づけばいいじゃない!

 

「……は?お、おい、待て!」

 

 突撃じゃ!敵勢の中へあい駆けよ!多少の被弾はやむなし。キヴォトス最高神秘、暁のホルスさんにショットガンで撃たれまくっても全然気絶できなかったんだ!チンピラ風情がなにするものぞ!

 背中の荷物は捨てる。こころなしか体が軽くなった気がする。数値にして40kgくらいは。銃も手が届く距離まで構えなくていい。やることはただ一つ敵に向かって全力で走るのみ。

 一つ深呼吸をして意識を集中する。

 

「よし……ちえぇぇすとおおおおお!!」

 

 知恵捨てよちぇすと。いい言葉だな。それに大声で叫ぶと自分への鼓舞と敵への威嚇が同時にできる。

 

「う、うわぁっ!な、なんだぁ!?」

 

「ひ、怯むな!撃て!」

 

 銃に向かって突撃とかいう常軌を逸した行いでアドレナリン漬けになった400km行軍明けの脳みそに被弾の痛みを認識する機能など残っていない。

 

「きぃえぇェぇえぇええぇェエ!!」

 

「ひ、ぎゃあああ!」

 

 勢いそのままに一番手近にいた第一犠牲者の鳩尾に頭突きをかます。もんどり打って地面に倒れたそいつの体にライフルを杖のようにして押しつける。

 

「や、やめ……!」

 

 その混乱と恐怖が入り混じった声……下品なんですが、その……フフ。

 それはそれとして撃つね!おやすみ!

 

「…………」

 

 1マガジン30発、全弾命中!新記録!成長盛り!

 銃声が止むと再び静寂が訪れたかのような錯覚、というか、実際俺の周りの敵は呆然と棒立ちしているだけで静かになっている。一体どうしたのだろう?

 ま、いいや。今のうちにリロードを……しまった、ライフルの弾を荷物と一緒に置いてきてしまった。一度とりに戻るとして、その前にハンドガンでもう一人くらい倒しておきたい。

 

「……」

 

「ひっ!」

 

 目が合っちゃったね!哀れなそこのキミ!君に決めた!

 

「こ、来ないで!」

 

 後退しようとして足をもつれさせ尻もちをついている隙に距離を詰める。俺に向けようとしたライフルを足で踏みつけて阻止、そのままヘルメットに銃口を押しつけ全弾発射。まだうめき声を上げていたので銃床で鳩尾をどつきまくってやった。ヘイローの消失確認、ヨシ!

 

「こ、この野郎!よくも!」

 

「痛って!痛って!ご、ごめんて……!」

 

「ごめんで済むか!死ね!」

 

「ひぃん!」

 

 我に返った敵が反撃してくる。囲まれる前に抜け出して背中を撃たれながら距離を離していく。

 

「レイ!こっちだ!」

 

 パイセンの援護射撃で路地裏へ逃げこむことができた。

 

「ははっ!お前なんで戻ってきたんだ、意味わかんねえ!」

 

「ライフルの弾ここに置いてっちゃいやして、すいやせん。へへへ」

 

「まあいいさ。見ろよ、あいつらも大分動揺してがる!はははっ!」

 

 パイセンに言われて顔だけだして見れば、敵はゲートに完全に背を向けてこちらを警戒する一団と、引き続きゲートを突破しようとする一団とに分断されている。そいつらの真ん中で戦国武将みたいな派手な装飾のヘルメットがなにやらか叫んでいた。

 

「アイツ、敵の大将では?」

 

「ん?ああ、かもな」

 

「あんな状態で大将になにかあって指揮ができなくなったら、残りはもう烏合の衆ですね」

 

「ははっ!いいねぇ!敵のど真ん中に突っ込んでやっちまうか!やっぱお前今日はヤクでもきめてるだろ!」

 

 失礼だな。シラフだよ。

 

「あたしが援護する。お前は敵の大将を仕留めることだけ考えろ」

 

「……うい」

 

「よし、行け!」

 

 パイセンと一緒に路地裏を飛び出して一直線に大将首へ……

 

「来たぞ!撃て!」

 

「ヒャッハアァァぁぁ……あ、痛い!痛ったい!無理無理!死んじゃう!」

 

 さすがに警戒されてるところへ正面突撃は無謀がすぎた。向きを急転換して、銃弾の雨から逃れるべく廃車の影に転がりこんだ。

 

「ははは!お前めちゃめちゃ警戒されてんな!」

 

「笑ってる場合ですかパイセン!このままじゃ俺達あいつらに八つ裂きにされちまいますよ!」

 

「心配すんな、あんな人数でこっちばっか警戒してると……」

 

「あんたたち!正面に回す戦力が足りないんじゃないの!」

 

「ほらな」

 

 戦場に響き渡る、場に似つかわしくないロリボイス。ゲート前がにわかに騒がしくなる。リーダーが籠城していた団員達を引き連れて突撃を敢行したようだ。

 突如攻守が入れ替わった正面戦線は乱戦の模様を呈していた。その中を活き活きピョンピョンと跳ね回る黄色いネズミ バッタ ヨーダ リーダーが自慢のマグナムで雑兵をなぎ倒していく。

 

「く、クソッ!お前ら、向こうを……」

 

「あはぁ?」

 

「ダ、ダメだ!あいつをこっちにこさせるな!」

 

 俺はと言えばときどきこうして敵に微笑みかけてやるだけで敵の戦力を釘付けにできる。実に楽な仕事だ。勝ったな。風呂食ってくる。

 

 

 

 結局乱戦は全体にまで波及していった。俺もすきを見て乱入し、目の前のヘルメット共を気の向くままに手当たり次第にぶん殴っているうちに、ワラワラヘルメット団の勝利で戦闘は終結した。

 

「ワチャワチャごときが、いったいなんのつもり?勝てるとでも思ったの?」

 

 リーダーの命で一人だけ残されたワチャワチャ団員が尋問を受けていた。

 

「はん!偉そうに、たった5人に負けたワラワラの大将が言うじゃねえか!」

 

「……ずいぶん耳が早いのね。そう、そういうこと」

 

 よっぽど気分を害したのか、リーダーはなにも聞かないうちに捕虜の頭をマグナムで撃ってしまった。せっかく生け捕りにしたのに。拷問は?なし?そっか……そっかぁ。

 

「レイ!」

 

「はい?」

 

「今日はお疲れさま。またすぐ出発するの?」

 

 ???

 

「な、なに言ってるんですか?今日のノルマは終わったばっかり──」

 

「あんたこそなに言ってるの?昨日の分のノルマが今終わったところで、今日の分のノルマはこれからでしょ?」

 

「あ、あれ?行軍訓練初めてから今日が2日目で──」

 

「違うわ。今日は3日目、あんたあれから丸一日帰ってこなかったじゃない」

 

 ???

 

「む、無理です!もう無理!これ以上歩いたら死にます!あっ、そ、そう!今日は実戦があったんだからそれで──」

 

「ダメ」

 

 お慈悲!

 

「まあ確かに今日は頑張ったものね……わかった。今日はアビドス高校に直行して、Uターンして戻ってくるだけでいいわよ。それと明日は休みにしてあげる。あんたに見てきてほしいものがあって──」

 

「り、リーダーぁ……」

 

「な、なによ。いつもの半分以下でしょ。泣いたってこれ以上は──」

 

「ありがとうございます!たったの80kmでいいなんて!俺、頑張ります!行ってきます!」

 

「え、えぇ。今から行くの?別にあんたの好きでいいけど。行ってらっしゃい」




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