ここは『キヴォトス』弱者に口なし   作:GAU-8

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M4奪還作戦

「戦車を取り返しに行くわよ」

 

 アジトに招集された団員達の前でそう宣言するリーダー。

 M4中戦車。前回の戦いでは自らハッチを開け放つとかいう大ポカにより幸か不幸かほとんど無傷のまま撃破されてしまった。

 超スーパー天才有能美少女偵察兵の働きにより敵の本丸の真正面、アビドス高校正門前に放置されたままになっていることが確認されたが、超ウルトラポンコツ無能偵察兵では車内にバラ撒かれた散弾の影響までは確認できなかった。メカニックが直接乗り込んで見てみないことには稼働可能なのはわからない。

 ともあれ攻守のどちらでも要になる戦車は襲ったり襲われたりする我々には是が非でも確保しておきたいものだ。回収するべく2度目の出撃をすることになった。あとついでに校舎も落とせたら落とす。

 

「じゃ、全員こいつに乗って」

 

 簡単なブリーフィングの後、そう言ってリーダーが指したのはどこから調達してきたのかオリーブドラブで塗られたTheミリタリーな見た目の幌付き3tトラック。定員不明。でも、30人余りを運べる大きさではないのはひと目で分かる。

 

「全員は無理では?」

 

「詰めれば乗れるでしょ」

 

 ひもじい。前回は1分隊1台だったのに……オノレアビ。

 リーダーは一番スペースとらないくせに当たり前のように助手席に乗り込んでいった。

 

「じゃあ運転は俺が──」

 

「いやいや、そんな重要任務、新入りのお前には任せられん。ここは私が──」

 

「そんな雑用、アタシがやりますよ。どうぞ後ろで寛いでてください」

 

「「「……」」」

 

「「「じゃん、けん!」」」

 

 負けました。

 

 

 

「うぅ、まだ着かないの?」

 

「……せ、狭い。熱い。苦しい」

 

「……いい匂い。柔らかい。ここに住みたい」

 

「だ、誰だ今の!?気持ち悪いこと言うな!」

 

 おかしな格好してるから魅力値に著しいデバフがかかってたけど、こいつらも立派なJKだったんだ。すっかり忘れていたよ。うへへ……

 しかし、そんな天国地獄のようなすし詰め奴隷船状態も突如として終わりを告げる。

 

「ドローンに見つかった!全員降りて!散って!早く!」

 

 急ブレーキでトラックが止まったかと思えば、小窓からリーダーが焦ったような声でそんな指示を出す。団員達は前回やられたのがよほど堪えたのか、荷台から飛び出すなり蜘蛛の子を散らすようにアビドスの住宅街へ逃げ出していく。

 トラックもろとも全員まとめて爆殺なんて前回の二の舞は避けられたようだが……あれ、アヤネの方のドローンじゃん。殺意マシマシの白い方じゃないじゃん。

 とはいえ、見つかったのは間違いない。アビドス側が迎撃しに来るだろう。空から監視されながらの市街戦になりそうな気配に憂鬱とした気分でパイセン分隊と合流する。

 

『いい、みんな。なるべく敵を戦車から引き離すことを第一に考えて。無理に倒そうとしてすぐやられたりしたら承知しないから!』

 

 パイセンのスマホ、グループトークからリーダーの指示が出る。

 作戦は簡単、まず校舎を包囲して敵を分散、注意を引く。その間にメカニックが戦車にこっそり乗り込んで回収。その後は戦況次第。

 校舎に近づく前から見つかったのはかえって好都合ともいえる。メカニックが戦車にたどりつければの話だが。

 

「あたし達は裏門だ。行くぞ。それとレイ」

 

「はい?」

 

「アビドスの連中相手に突撃はするなよ」

 

「了解」

 

 トランザム。

 

「……まあ一度痛い目みりゃわかるか」

 

 そんな心配しなくたって約480kmを踏破し、しっかり休んで超回復を経た俺が今までとは全くの別……いや、若干、違う……かも?ってところを見せてやりますよ!

 

 

 

『こ、こちらアルファ分隊!至急増援を!増援……ぎゃあああああ!!』

 

 ずどどどん、ちゅどーん、ドンガラガッシャーン。ぐちゃ。

 無線代わりのスマホから飛び交う阿鼻叫喚の交信からは、ドリフかこち亀のbgmが似合いそうなくらい味方が軽快に蹴散らされていく様子が見えるようだった。

 

『断末魔を垂れ流すのはやめて、士気が下がる。戦車の方はどう?すぐ動かせそう?』

 

 そう言うリーダーの声は、自身の士気が底をついていそうなくらいげんなりしている。

 

『修理が必要です。あと10分……いや、5分で直します!』

 

 メカニックは無事戦車に潜り込めたようだ。それもそのはず、アビドス側はかなり積極的に前に出て迎撃しにきている。校舎を遠く離れて狩りにきている。なんというか、完全にナメられてる気がする。

 

『終わり次第全速で離脱して。今日はそいつを取りにきただけ……そうよ。囮がどれだけやられても今日は負けじゃないんだから』

 

 自分に言い聞かせるような独り言が通話に乗ったおかげでますます士気は下がるだろう。いや、もう正門側がほとんど壊滅してるおかげでこれ以上下がりようがないか!良かったね、ははっ!

 

『全員撤退!一度校舎から離れて!追撃にくるか様子を見るわ!』

 

 我々ミユキパイセン分隊は迂回して裏門側を目指していたためついぞ敵と遭遇することはなかった。愛しのホシノちゃんに会えなくて残念だけど早く撤退しよう。すぐに撤退しよう。リーダーの命令だから仕方ない。とりあえず100万光年くらい後退しよう。

 

「ちぇー。まだあたしら一発も撃ってないし」

 

「い、いやぁ、ほんとに!ざ、残念だなぁ!」

 

 リベンジの機会に恵まれず不満げなのは前回わけもわからないまま気絶したであろう1号。上擦った声でみえみえな虚勢をはってるのは2号。こちらは前回に引き続き仲間がやられてビビりまくっている。

 

「お前等まだ気を抜くなよ。こっちはドローンで位置を見られてんだ。いつ敵がこっちに来たって、おかしく、な、いぃい!」

 

 パイセンのおかしな言葉尻にみんなで釣られて見た視線の先には、立ち並ぶ一軒家の間の狭い路地を猛然とこちらへ突っ込んでくる小さなピンクの影。

 

「う、撃て!あいつを止めろ!」

 

「な、なに……あべし!」

 

「ひっ……ひでぶ!」

 

「うわらば!」

 

 1号2号が瞬殺されるのを横目に、首から下げたAKに手をかけた瞬間、膝を蹴っ飛ばれたような衝撃を受けて、不意に右足が弾かれて浮き上がる。そんな状態で立っていられる訳もなく、受け身もとれないまま前のめりに地面に這いつくばる。

 

「痛たた……おぎゃあ!」

 

 手をついて起き上がろうとすれば脳天への無慈悲な追撃。少しだけ持ち上げた頭がまた地面に叩きつけられて、そのまま意識を手放してしまいたくなる。

 いくら敵だからって躊躇なさすぎない?もしかして人間だと認識されていない?

 俺がヘルメット団なんてやってるからか……前回の一件だってそう。100パー俺が悪い。ホシノを恨むなんてお門違い。うんうん、ちゃんと自覚してますとも。だから、ここは、れ、冷静に、ね。逆情に身を任せて反撃なんて……感情を制御できないゴミのやることですわ。そう、まずは挨拶、ご挨拶ですわ……キヴォトス流に。

  

「Die!USOB!」ホシノちゃん!こんにちは!

 

「おっと」

 

 寝返りをうってそのまま碌に狙いもつけずにAKを乱射。渾身の奇襲挨拶は難なく盾で防がれてしまった。お返事と言わんばかりにヘルメットに散弾を叩き込まれる。もういや、心も首も折れそう。

 反撃は諦めてそのまま地面を転がって射線を切る……間にもさらにもう一撃。やめてください、しんでしまいます。

 

「レ、レイ?大丈夫か?」

 

「あ、頭が……パイセン、俺の頭ちゃんとついてますか?」

 

「お、おう。ちゃんとついてるよ」

 

 しれっと家の影に身を隠して無事だったパイセンがホシノへ制圧射撃を加える。ホシノといえどさすがに避けるスペースもない路地裏を突っ込んでくるようなマネはできないようで、盾を構えて慎重に距離をつめてきている。

 

「レイ、あの二人こっちに引っ張り込め」

 

「え、やだ」

 

 せっかく隠れたのにまたホシノから撃たれる位置に出ろって!?わざわざ死体を回収するために!?いやですわ!

 

「置いてくわけにいかないだろ!あいつら回収してとっととずらかるぞ!」

 

「了解!」

 

 逃げるためなんですわね!それならそうおっしゃってくださいまし!お安い御用でござい!

 

「3つ数えたら飛び出せ。いくぞ、3、2、1」

 

「ゴーッ……痛ってぇ!いぎゃあ!く、クソわよ!」

 

 パイセンの射撃も盾でいなしつつ正確に俺を狙い撃ちにしてくるホシノ。ゼロ距離マグナムで顔面セーフとかやってるくせに盾まであるのずるくない?俺にもくれよ。

 1秒でも早くキルゾーンから脱出したくてかなり乱暴に引きずったせいかスカートがとんでもないことになったが、1号2号は無事?物影に移動できた。

 

「パ、パイセン!話が違うじゃないですか!ちゃんと抑えといてくださいよ!」

 

「わ、悪い。やっぱりあいつはダメだ。全員で囲んで袋にしないと勝てる相手じゃねえ。逃げんぞ!レイ、走れるか?」

 

「は、はい!」

 

 パイセンは両脇に二人を抱えてさっさと駆け出していく。俺はと言えば右足を踏み出すたびに膝が痛んで足を止めたくなる。さっきまでパイセンのように走れたんだが、膝に弾を受けてしまってな。

 パイセンも二人も抱えていてホシノより速いなんてことはないだろう……仕方ない。

 

「パ、パイセン!俺はこれ以上走れません!ここは俺に任せて先に行ってください!」

 

 死ぬまでに一度は言ってみたいセリフ第4位。当社調べ。

 

「レイ……悪い!任せた!じゃあな!」

 

 パイセンはほんの一瞬振り返ったが、すぐに前に向き直る。

 

「パ、パイセン!?あっさり過ぎませんか!?なんか、こう、あるでしょ、もっと何か!」

 

「死んでも通すなよ!」

 

「違うだろ!は、薄情者!ホントに行っちまうんですか!?ねえ!」

 

 パイセンはそのままなんの躊躇いもなく速度の落ちた俺との距離をぐんぐん引き離していってしまう。ちくしょう。なんかバカらしくなってきた。パイセンの方に行くように祈って別方向に逃げようかな……

 などと魔が差してちらりと後ろを確認すればもうホシノがすぐそばまで迫っている。

 

「こ、この!」

 

 AKを発砲するも、ホシノは盾を突き出しただけで勢いそのまま突進、そして体当たり。体格差などおかまいなしになすすべなく跳ね飛ばされて背中から地面に落ちる。

 

「う、うぐぇ……」

 

「うへぇ、ホントにしぶといねキミ。もう寝ちゃいなよ、痛いだけでしょ?」

 

 隙だらけの俺に追撃もせず、武器も構えないホシノが見下ろしてくる。これまでの俺なら迷わず降伏していただろう、だが、2度の実戦を経た俺は今までとは違うのだ!

 ホシノに再度銃口を向ける。

 

「それもう弾入ってないよ」

 

「あらほんとー」

 

 引き金はいやに軽く、何度引いても弾丸が発射される気配はない。

 

「こなくそ!」

 

「うひゃ!?」

 

 ならばとライフルを丸ごと投げつける。避けられはしたが隙ができた。懐からハンドガンを抜き、即座に発砲!……するつもりがすっぽ抜けてハンドガンも丸ごとホシノへ飛んでいく。

 

「いて」

 

 ぺちんと音を立ててハンドガンがホシノの顔に命中する。なんてことだ。たったの2戦目にして、最初は手も足もでなかった暁のホルスさんにダメージを与えてしまった。この調子ならみしるしを頂戴する日もそう遠くないかもしれない。

 

「……それで?丸腰になっちゃったけどそこからどうするの?」

 

 あ……こ、殺される。

 

「こ、こうさん……?」

 

「……はぁ〜〜〜」

 

 なんすか、そのこれみよがしなクソデカため息。なんか文句でもあんすか?おん?

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