ハムッ ハフハフ、ハフッ!!
そんな謎の擬音が聞こえてきそうなほどの目の前の食事のペースに俺は圧倒されていた。
三歳児ってこんなに食べるの? いや子供持ったことないから知らないけどさ。
あとなんかこの子、お腹にも口あるよね? めっちゃ上下の口で食べてるし(エロい意味ではない)。
仮面の四つの目玉もギョロギョロ動いてるし。最近のコスプレってすごいなぁ……ははは。
「いやおかしいだろ。まだまだ酔ってるけど流石に酔いじゃ誤魔化されないわコレ。なんかすごいことに巻き込まれてるわ俺」
しかし料理を作る手は止まらない。
だって四本腕で目が四つあって腹に口があって、しかも口を開けば滅茶苦茶偉そうでも、一心不乱に食事をする姿はお腹が空いた子供の行動そのものなんだもの。
いや、今俺が使っているフライパンもどきを熱してる炎もこの子が出したんだけどね?
なんで手から炎が出るの? 意味わかんないよなぁ……手品、そう手品だな!!
手品もできるなんて最近の子供はすごいなぁ。いや絶対違うけど。でも仕方ないよな。説明できないもん俺。
「あーなんかもう頭痛くなってきた」
「ハムッ ハフハフ、ハフッ!!」
「はいはい、まだまだ出るからねー」
本当に色々と気になるし、こんなことやってる場合じゃないのかもしれない。
案内された食料庫もなんか薄暗いし、というかどう見ても廃屋だし。
こんなところで一人で生きていられるような子供が普通の子供な訳ないだろ!!
そもそも今追加で焼いてる肉も天井からぶら下がってた獣だったもの(3m超え)から削ぎ落としたものだし。俺が削ぎ過ぎてもう骨になっちゃったけど。
なに? この子、自分の倍以上の体格の野生の獣狩れるとかモンハン世界の住人なの? 高所からの落下耐性が異常なあのハンターなの?
俺、シラフだったら即帰ってたわ。
つーか今からでも逃げるべきだ。
そうやって逃げろ逃げろとアルコールに侵された脳みその本当に端っこの部分が警鐘を鳴らしている。ずーっと鳴っててもはや耳鳴りみたいで本当にうるさい。
それでも酔いは全く醒めないし、そもそも俺は三蝶リョウジ。料理人なんだ。
「ハムッ ハフハフ、ハフッ!!」
目の前にまだまだお腹を空かせた人がいるんだ。
ソイツが期待した目で俺の料理を待っているんだ。
しかも俺の料理を美味そうに食ってくれている。それがめっちゃ嬉しい。
それなら多少の……そう、多少の違和感があったとしても料理人として手を止める理由にはならないね。
「……ッゴクン。よい。リョウジ、お前の作る飯は美味い。全てが未知であり、全てが新鮮だ。欲しい。もっとだ。まだあるんだろう? お前の全てを見せてみろ。もっと作れ。俺の腹はまだ満たされん」
「だよね。全然ペース落ちないもん。よっしゃ任された!! と言いたいところだけど……実はもう食材が無いんだ。調味料も結構な種類使い切っちゃったし……」
「なに?」
ゴゴゴゴゴゴゴ……と子供から怒りのオーラのようなものが放たれる。
いや、なんで? お腹いっぱいになれなくて怒るのはわかるけどそれでオーラ出るってなに? ドラゴンボールの世界なの? 確かに悟空たちも天下一武道会の後はこんな感じの勢いで食べてたような……?
いかん。いつまで経っても酔いが醒めないから真面目に考えられないし、相変わらず話は長いし、そもそも目の前の子供のやることなすことがよくわからん過ぎるしで本格的に頭痛くなってきた。
「あ、これまじやばいやつかも……ごめん、ちょっと寝かせて……」
「おい。まだ俺の腹は満たされていないと……本当に寝るのか。俺の目の前で。なんと不遜な男だ」
藁が敷いてある床に倒れ込むように寝転がる。
会ってすぐの人の家でやるには失礼過ぎるのはわかるが、もう限界なんだ。
マジで眠い。そもそも人は酒を飲むと眠くなるのだ。料理始めてから飲んでないからなんでまだ酔ってるのか全然わからんけど。
いやなんで? 俺の肝臓、もしかして死んでる? やだよまだお酒飲みたいもん。
そして不思議子供よ。俺が何時間料理を作り続けてると思ってるんだ。
少しくらい寝かせてくれ。
「たの……む……」
「許さん。俺が作れと言えば作れ」
むり。おやすみ。
キン、と音が聞こえた気がして。
そのまま俺の意識は闇に落ちた。