勇者ヒンメルと恐るべき吸血鬼(笑)達 作:クソザコ吸血鬼
ノリと勢いで書いた。
勇者ヒンメル一行が街道を歩いていた時。
「あ、そういえば言ってなかったことがある」
「どうかしましたか」
唐突にフリーレンはそう言葉を漏らした。
エルフである彼女は私生活も含め、色々とズボラな事がある。
報告・連絡・相談をすっぽ抜かして行動する事なんてしょっちゅうだ。
その度ハイターは口酸っぱくして注意をするが、数日もすると説教を忘れ同じような事を繰り返してしまう。
またぞろ、生活用品の買い忘れか、とハイターが思いながら返事をすると。
「この街道で行方不明者が出ているらしいって」
「それを早く言いなさい!」
思ったより衝撃の発言が出てきた。
このご時世、魔族との戦争が激化の一途を辿る一方だ。
何処ぞの村・町を魔族に襲撃されたという話には事欠かない。その煽りを受け、食う物に困って盗賊なんてものも現れる始末。
警戒を怠っている訳では無いが、それでもその情報があるのと無いのとでは意識の持ちようが違う。
「でもそんな話あったかな?」
「先程立ち寄った村では耳にしませんでしたが……」
勿論、情報収集はしっかりと行っている。
補給に立ち寄った村で依頼をこなしながら、異変がないかを聞く。
ちょっとした事件でも、魔族の策謀が蠢いている可能性があるのだ。
そうして僅かな手がかりから魔族の魔の手から人を救い出せた経験が何度かある。
ヒンメルは大の寄り道好きなので、自然とそういった情報を集めてしまう、といった裏もあるが。
それはさておき。
はて、とハイターは思った。
先程立ち寄ったウォルレム村、という所では珍しく平和な村だった筈だ。
困り事はないですか、と尋ねても恰幅のいいオバサンが“ウチの子、夜泣きが酷くて……”等と言う始末。
ハイターが子守唄代わりに女神の経典を語り聞かせると更にギャン泣きされて追い出されたが。
異変なんて特にない。
朴訥で長閑なありふれた村だった筈。
そうなると、フリーレンは何処でその情報を入手したのかだが。
「話の出処はどこなんです?」
「野球拳大好きから聞いた」
うわ……、とフリーレン以外の男三人は同時に顔を顰めた。
今でもたまに寝ると出てくる悪夢。
辻野球拳を仕掛けてきた変態の憎たらしい笑顔が脳裏をよぎった。
最近、南の勇者の手により、屍姫プラナームが討伐されたのは記憶に新しい。
人類を苦しめて来た二大巨頭。
その片割れがとうとう陥落したのだ。
そのニュースを聞き、町中の人が歓声を上げ、お祭り騒ぎだった事がつい昨日の事のように思い出せる。
だが、その代償に、屍姫プラナームが抑え付けていた高等吸血鬼のコントロールは解かれ、各々縛られていた自我を取り戻した。
……取り戻してしまったのだ。
あのジャンケンに負けたら脱衣をするという野球拳を仕掛けるカスの極みのような変態が。
「あれから何度か辻野球拳を仕掛けて来てさ」
「……やっぱり殺しておくべきだったかな」
重く低い声でボソッと呟くヒンメル。
「魔法でぶっ飛ばしたあと、世間話を何度かしてね。この村に戻る道中の話を聞いたんだ」
「良く脱衣させようとしてきた変態と一人で対話出来ますね……」
「根は結構良い奴なんだよ。変態だけど」
話を続けるね、とフリーレンは咳払いをして言葉を紡ぐ。
「で、立ち寄った村で話を聞くと。私達が目指してる町、レードムル近辺で何人も消息を絶っているんだとか」
「ただ別の地域に移転したんじゃないのか?」
「……村の生活用品を買い足しに行った。家に妻も子供も残している人でなければ有り得たかもね」
家族を故郷に残した状態で夜逃げする事はあるかな、と暗に問われて。
アイゼンは静かに首を横に振った。
と、なればますます不可解だ。
聞くところによると、独身の人もいるらしいが、尽く姿を消すのは男性のみとの事。
何らかの事件性があるとみて間違いないだろう。
そうこうしていると、先頭を歩いていたヒンメルは足を止めた。
どうかしたのかとハイターは前を覗き込むと。そこには一つの立て看板があった。
【こちら先、ナイトプール湖】
【超絶魅惑! マイクロビキニ祭、毎日開催中!】
「……みんな、どう思う?」
「怪しい」
「怪しいですね」
「怪しいな」
満場一致であった。
見るからにデカデカと書かれた文字。
ギザギザの吹き出しでもって、マイクロビキニ祭りなるものを主張している。
こんなものに惹かれるのはよっぽどの馬鹿か。
あるいは。どうしようもなく淡い夢に焦がれてしまう男の二択だ。
「えーと、一応聞くけど……行くの?」
「もちろん」
ヒンメルは力強く断言した。
彼は別にビキニなんて気にしていない。
気にしているのは無辜の民、人々の安否である。
実に、馬鹿馬鹿しい罠だが民間人に被害が及ぶなら勇者として悪を成敗しにいかねばならない。
予想通りの返答に他の面々は“いつもの”が始まったか。と苦笑して歩き出した。
「お祭りというにはお酒があるんですかね?」
「多分あっても十中八九、クスリが盛られてるよ」
そうして談笑しながらナイトプール湖へ向けて進んでいくと。
遠目からでも湖周辺に、柵があり、家々があり、村
として発展途中のような土地が見えて来た。
「お祭りだと言うのに祭囃子が聞こえてきませんね」
「それは地域によると思うけど」
軽口を叩きながらも、警戒しつつ進む。
魔族は人を家畜か何かくらいの情しか持ち合わせていない。
いや、そもそも“情”すらあるかも不明だ。
彼らの口にする言葉は上辺だけをなぞる記号でしかなく。メトロノームを耳にしているようにすら錯覚する程、無機質。
鳥の鳴き声の方がよっぽど情熱的だ。
そんな彼らが誘い込んだ獲物を放置する筈がない。
通常の魔族ならこの地に辿り着いた時点で餌としている。
だが。そんな警戒とは裏腹に、ガヤガヤと人の声が飛び交う音が聞こえて来る。
懸念していたような、恐怖で怯え戸惑うでもなく、楽しいという感情が込められた声だ。
念の為、警戒を解かず進んでいくと、人達の姿が見えた。
看板によると、マイクロビキニ祭が開催されているというのに至って普通の格好である。
「もし、そこのお方」
「なんですか?」
勇者ヒンメル一行は道端を歩いていた一人の男性を捕まえ、事情を聞くことにした。
「マイクロビキニ祭ってなんです……?」
「え?」
キョトン、とした顔で返される言葉に唖然とした。
まるで初めて耳にしたかのように反応する男は、そそくさと去って行った。
「誰かの悪戯書きだったのでしょうか」
「……いいや違うよ。周りをよく見て」
ヒンメルの言葉通りに、ハイターは周囲を良く観察する事にした。
とはいえ特に目立ったものは無い。
マイクロビキニ祭といっても、そんなに期待している訳ではなかった。
ほぼ間違いなく巧妙に……、巧妙と言うには些か疑問が残るが、まあ仕掛けられた罠だと思っていた。
ボインボインでバインバインな魅力的な女性がマイクロビキニ姿でうろついている。
そんなあられもない姿を期待したのはほんのチョッピリくらいしかない。
現実はむさ苦しい男達が地上を闊歩しているだけ。
湖でたわむれるムフフなお姉さん等一人もいやしない。
「あれ……男、だけ……?」
ざっと数えただけでも数十人は男性が居るだろう。それに対し、女性が一人も存在しない。
これは明らかにおかしい。
野球拳大好きからの提供された情報が脳内で合致する。
人知れず消息を絶った男達が、恐らくここに居る全員だ。
「直ぐこの場を離れるぞ」
遅れて異変に気付いたフリーレンとアイゼンも同意し、一先ず離脱しようとした瞬間。
ファサッ、と男達はおもむろに服を脱ぎ捨てた。
「お前ら随分厚着してるなァーッ!」
「マイクロビキニになれェーーッ!」
「身も心も浮き立ちてホリディ」
「ウワーーッ!」
ハイターは絹を裂いたような悲鳴を上げた。
なるほど、マイクロビキニ祭。
たしかに、マイクロビキニ祭。
看板に書いていた文字に嘘偽りはなく、全員が脱ぎ捨てた着衣の下にマイクロビキニを装着していた。
胸毛がボウボウと生えた男性も。
貧相な身体付きをした男性も。
筋肉がムキムキな男性も。
誰も彼もがマイクロビキニを着用し、むさ苦しい絵面を演出している。
先程、キョトン、と自分は何も知りませんよと言っていた男もしれっと混じっている。
「気分わるい……」
「激しく同感です。目が腐ります」
オエッと、今更のように、治まってきた二日酔いがぶり返した様な吐き気がハイターを襲っていた。
「またトンチキ吸血鬼の仕業か?」
「そうでしょうね……オエッ」
その一瞬の隙を付かれ、ハイターの腕がガブリと噛みつかれる。
しかし、ハイターの対応も慣れたもの。
吸血鬼の噛み付きには、大まかに二種類ある。
噛み付いた相手を吸血鬼化するか、毒を流し込むか、だ。
一般人程度の実力だと、吸血鬼化するに値する魔力が足りず、大抵は毒を流し込む程度だ。
即座にハイターは解毒しようとして。
バシュウンと服が弾け飛びマイクロビキニ姿になった。
「ハ、ハイター!?」
「えっ、なな、なにこれ……!」
僧侶らしい服装はどこへやら。
スネ毛がボーボー生えた無惨なマイクロビキニ姿を晒し、わなわなと両手を震わせた。
「フン、勇者一行も他愛ないものだ」
頭上から声が聞こえる。
切り立った崖の上に、人影が見えた。
エルフの様に尖った耳があることから察するに、間違いなく、高等吸血鬼である。
耳心地の良いダンディーボイス。
鍛え抜かれた肉体。
かっこいい前口上。
それらを全て台無しにするかのようなマイクロビキニ姿。
「私は吸血鬼マイクロビキニ。貴様ら人間の支配者となるもの」
「「また変なの出た!」」
想像していた通り、妙ちきりんな吸血鬼が出てきて叫ぶ。
この吸血鬼の魔法は名乗り通り、噛み付いた相手をマイクロビキニにしてしまう魔法だろう。
「なんて下らない魔法なんだ……」
「果たしてそうかな?」
ニヤリ、と笑う吸血鬼マイクロビキニ。
「ま、マイクロビキニ……最高……!」
「ハイター!?」
唐突にマイクロビキニを賛美しだした仲間に驚愕するヒンメル。
この場の情報から推測するに、吸血鬼マイクロビキニに噛まれた人間はマイクロビキニになる。
そしてマイクロビキニにされた人間は吸血鬼マイクロビキニの支配下に置かれる。
噂に聞く七崩賢、“天秤”のアウラのような支配下魔法と同系統の魔法だろう。
野球拳大好きしかり、目の前の吸血鬼しかり、一見下らない魔法に見えて凶悪な力を秘めている。
屍姫プラナームは配下の自我を封印させなければ、もっと人類を恐怖のドン底に陥れていたのでは無いだろうか。
「君は……一体何が目的なんだい?」
ヒンメルは仲間が既に襲われているが、一応対話を試みる事にした。
この間の野球拳大好きのように、話せば(?)分かってくれるかもしれない。
その為には相手がこちらを襲った理由を聞くのが一番だ。
「見ての通り、マイクロビキニで世界を覆い尽くす事だ」
「…………それで?」
「マイクロビキニを着用したものは皆幸福になる」
ヒンメルは理解した。
此奴はただの馬鹿だ。
野球拳大好きと同じように、性癖で物事を考えている。対話はボコしてから考えよう。
スチャ、と剣を構えて、フリーレンに目で合図を送る。
フリーレンは杖を構えて溜息を吐いた。
「野球拳大好きといい、吸血鬼って本当はこんなのばかりなのかな」
「む、貴様……アイツを知っているのか」
どうやら野球拳大好きと知人であるらしい。
類は友を呼ぶとはこの事だろうか。
「……知り合いなの?」
「ああ。恥ずべき事にな。……全くもって愚兄は我が家系の汚点だ」
まさかの知人どころか、家族の様だ。
野球拳大好きとマイクロビキニ。
どっちも真っ当な常人からすれば恥ずべき汚点も良いところだ。先祖はきっと草葉の陰で泣いている。
「隙だらけだ」
ヒンメルは一息で地面を蹴り、空中にジャンプすると、崖の上に降り立ち、対話に夢中になっていた吸血鬼マイクロビキニを剣で身体を切りつける。
それと同時に紐が切れ、はらりと舞うマイクロビキニ(上)。
「イヤーーッ! 私の力の源が……!!」
ヘナヘナと崩れ落ちる吸血鬼マイクロビキニ。
地獄の業火を出す魔法を放出しようとしていたフリーレンは追い討ちで容赦なく解き放った。
「ギャーーーッ!」
ボウボウと燃え盛り、転がって火を消そうとするもら中々消えず。湖へとダイブして行った。
こうして。戦士アイゼンに牙が通らずとも群がっていた村人達とハイターは支配下の魔法が解け、正気を取り戻した。
「やべぇ、嫁に怒られる……」
「なんでこんなとこに来ちまったんだ……」
催眠が解けたはいいものの、日がどっぷりと暮れていたので、催眠中に建築された家で休息して。
次の日にはそれぞれが肩を落として自分の住むべき場所へと戻って行く。
「無事、事件は解決しましたね」
「う、うん……」
「そうだね……」
「うむ……」
ハイターがそう言うも、他の勇者パーティのメンバーは目を逸らす。
確かに吸血鬼マイクロビキニは討伐した。
あの後しっかりと話し合い、元いた故郷でも受け入れられるのならば、と。
野球拳大好きが居る村へと旅立って行った。
しかし、それでも失ったものは戻らない。
ハイターはぶるり、と身体を震わせる。
人々も無事に解放できた。
湖を不法占拠していた吸血鬼も討伐出来た。
当初の予定通り、目的自体は達成した。
では、何を失ったかと言うと。
「へっくしょい!」
そう。例えば着用していた服とか。
ハイターが身につけていた神父服は何処かに消え去っており、今はマイクロビキニのみを装備している。
着替え等も魔法で清潔にしていたから、替えの服なんてもっていない。
「……その、僕のマント使う?」
そっと差し出されたヒンメル愛用の純白マント。
ハイターは感謝の意を述べて。そっと身を隠すように包み込んだ。
次の目的地の町、レードムルで変態マイクロビキニ神父の噂が広まったのは言うまでもない。