プロトマーリンに褒められたい男……スパイダーマッ!! 作:妖精狩りの男……スパイダーマッ!!
「ブラヴァツキー夫人、貴方はロンドン内に存在する霊地をすべて把握していますか?」
「知っているわよ。それはスパイダーマンの助けになることかしら?」
「おそらく彼が最も必要とする情報につながる可能性がある。なにせ私たちには専門外のことなのでね。君の力を貸してほしい。ワトソン、地図を出してくれ」
用意していた地図を鞄から取り出し、火を消していたランプにマッチで火をつけた。
暖かな火が辺りを灯す。地面に敷かれた地図が昭然とする。
「こことここ、あとあっちも」
ブラヴァツキー夫人が地図に指をさした幾つかのポイントに目印を付けていく。
「ワトソン、切り裂きジャックの被害現場にも別の印をつけてくれ」
目印を付けているとホームズが地図を眺めながら考え始める。
この状態のホームズはどうあがいても動かない。これは推理が終わるまで待つ必要がありそうだ。
「そういえばブラヴァツキー夫人はどうしてスパイダーマンを知っているんだ?」
「ああ、その事ね。大体30年前ぐらいに助けられたことがあったのよ。彼にお礼をしようとしたのだけど気付いた時には幻のように何も残さず消えていたわ。
恩を返さないのは私のプライドが許さないわ」
───30年前だと?
彼の声はとても若々しい。声だけなら10代と言っても違和感がないほどだ。
ブラヴァツキー夫人を助けた時の年齢が10歳だとしても現在は40歳になる。
「彼も君と同じように年齢を変えているのかい?」
「いいえ、彼はおそらく不老よ。彼はアーサー王が統治していたブリテンが崩壊した直後、突然この世界に現れては人々を助けてはいつの間にか消えていく。そして地獄からの使者を名乗った彼に付けられた二つ名は『地獄の蜘蛛』」
私は彼と初めて出会った時のセリフを思い出す。
「地獄からの使者…スパイダーマン……彼は……」
「謎が解けた」
私はホームズのそのセリフを聞いて言おうと思っていた言葉を心の片隅に置いた。
「早速スパイダーマンに伝えに行こうか。切り裂きジャックが現れるポイントを」
その言葉に心底驚きながらもホームズならやってくれるという確信があったので顔には出さずにいた。
私たちは来た道を全力で戻り、スパイダーマンがいるであろう方向へ進む。今まで走ってきた影響で足が痛いと感じるが足を止めない。彼は私たちよりも傷ついている、痛みが走っているのだから。
ロンドンという私たちにすれば何度もクリアした迷路を進んでいると何かが地面に叩きつけられる音がした。
「もしかしてスパイダーマンが……」
「可能性はある。急ごうか」
私たちは音のした方に繋がる道を走り、ちょっとした広場のような場所に出る。
そこには修道服を着た女性とスパイダーマンが睨み合い、お互いの隙を窺っていた。
ホームズは危険を承知で飛び出し言った。
「ミスタ・スパイダーマン!今から3分後に切り裂きジャックが現れる!」
その言葉に両者は反応を示し、警戒を止めることはしないが少しこちらに意識を向けた。
「ここから東に20キロの地点だ」
「ありがとう…シャーロック・ホームズ。……すぐに終わらせて向かおう」
「おや?例の魔術を使う気になられましたか?」
「アレを使うつもりはない。だからこっちを使うことにした…」
『ヨグソトースのこぶし』
スパイダーマンが修道服の女を正面から見つめると突然何者かに殴られたように修道服の女は吹っ飛び、石の壁に激突した。
「……流石ですね……こんな隠し球を持っていた……と…は……」
修道服の女が簡単に気絶してしまう。見たところ血は出ておらず打ちどころは良かったようだ。
私が傷の確認をしているとスパイダーマンは消えており、ブラヴァツキー夫人はスパイダーマンを追いかけて行った。
「どうやら彼は行ってしまったようだ。せめて礼を伝えたかったのだが」
「どういうことだい?後で礼を言えばいいじゃないか」
「ブラヴァツキー夫人は言っていた。彼は人を助けては消えていく。なら今回の事件で切り裂きジャックを倒せば彼は消えるだろう」
「………そういえばホームズは何故切り裂きジャックの出現場所がわかったんだい?」
「そうだな……私たちの仕事は終わった。私の推理を話そう。
私は霊地と事件現場の距離を考えた。どの事件現場も大きな霊地から最高でも5キロしか離れておらず次も同じような場所に現れると予想した。そして聞き込みや新聞で得た情報によると切り裂きジャックの犯行時刻、事件現場ではどこも霧が出ていたという。
なら霧が出現の条件として風向きを読めばどこに霧が集まるかがわかる。霧が集まる可能性のある場所と霊地を考えれば一つしかあり得なかった。
それに魔術師達が多かった理由も今日が切り裂きジャックの出る日だと考えれば辻褄が合う」
「………どうして時間までわかったんだい?」
ホームズは懐から1枚の紙を取り出し見せつけてくる。そこには私たちの殺害や切り裂きジャックの現れる時間などの作戦が書かれていた。
「逃げている時に倒した魔術師から盗んでおいた。
私でも魔術関係の時間を正確に判断することはできない。ならわかっている人から教えて貰えばいいだけの話だ」
「ははっ……」
つい乾いた笑いが溢れてしまう。
ずっと一緒にいたのに気づかなかった。
「さて、ブラヴァツキー夫人が後処理をやってくれるそうなので私たちは帰ろうか。魔術に絡む事件はもう2度と相手にしたくはないな」
「そりゃそうだ。……そういえば今回の事件は報酬が出なかったね」
「いいや、実はそうでもない。スパイダーマンから金の延べ棒を預かっている」
「なんだって!?」
「おそらく口止め代も入っているのだろう。今回の事件は記録に残さず、私たちの記憶だけに残しておこう」
「………誰に言ったところで信じてもらえないだろうしね」
真っ暗でお化けが出てきそうな夜のロンドンを私とホームズは愚痴を溢しながら帰っていった。
スパイダーマンはロンドンの空を駆ける。屋根の上を走り、腕輪から出した糸で加速して、まるで空を縦横無尽に飛び回る鳥のように走った。
月の見えない霧の町でスパイダーマンは走り続ける。
肺に穴が空いていて呼吸がまともにできないとしても切り裂きジャックを止めるために走り続けた。
すると未来が見えたわけではないが冷や汗が止まらなくなるほどの嫌な予感がスパイダーマンを襲う。
グチャリと聞きなれた液体の音と鼻にくる粘りつくような鉄の匂いがその予感が当たっていることを証明していた。
現場に到着すると腹から血を出しながら倒れている女性と男なのか女のなのかはわからない、しかし幼子であることだけはわかる子供がいた。
その子供の手には真っ赤な血に染まり元の色が判別できなくなった医療用ナイフがあった。
スパイダーマンは女性に駆け寄り傷口を確認する。するとお腹が開かれたように切られており、このままでは死んでしまうことが容易に想像することができてしまった。
腕輪から出した糸を包帯のように使い傷口を塞ぐ。真っ白な糸が赤に変わり、血が止まらないのを察する。
「少し痛いが我慢してくれ」
長い糸の先端を魔力によって針のように硬く鋭く変化させ傷口を縫っていく。
なんとか血の流出を抑え込み死から遠ざけることに成功した。
スパイダーマンは振り返り黒いモヤの子供を睨みつける。その隠れた瞳に何を持っているのかはわからない。しかしスパイダーマンの行動は怒りによるものではないことは確かだった。
子供に向かってゆっくりと步を進める。その足取りは戦いのものではない。まるで子供と接するように柔らかに警戒しないように。
切り裂きジャックは困惑する。今まで感じたことのない感情をぶつけられているからだ。
今まで恐怖と怒りの二つの感情しか見たことのない切り裂きジャックはスパイダーマンの感情が理解できなかった。その感情が切り裂きジャックにとってはとても怖いものであった。
切り裂きジャックは人間を遥かに超えた速度で接近してスパイダーマンの腹部をナイフで突き刺した。
そのナイフは確かに腹部へと突き刺さった。ドス黒い血が流れてナイフや手は赤黒く汚れた。肉を切り裂く感触もしっかりとあった。ナイフから伝わる筋肉の痙攣も感じ取れた。
スパイダーマンはナイフを突き刺した子供を優しく抱きしめた。
「ごめん………辛かったね」
痛みが無いわけではない。内臓に穴が開き、その治療もしないまま彼らを抱きしめた。
「…………どうして……あなたは
「……母親を求める子供が悪とされるのなら……その悪は間違っている」
彼ら彼女らをより強く抱きしめてナイフが突き刺さったまま話を続ける。
「……君たちは……方法を間違えただけだよ。……子供の間違えは大人が正してやる……べき…だろ…」
「えっ……?」
切り裂きジャック……いいや、産まれてくることができなかった子供達は人間であり人間の未完成品とも言える自分たちを子供と言ってくれたことが一瞬理解できなかった。
「俺が……父や母になること……は…できない。……それでも…君たちにこの言葉を…送ろう………生まれてきてくれて……ありがとう」
子供達の心が砂糖に浸された果実のように輝きを取り戻す。
ドロドロとしている液体は血のように悲しいものではなくホットチョコレートのように幸せなものだった。
『生まれてきてくれてありがとう』
その言葉は人として産まれることができず、ジャック・ザ・リッパーとして生まれてきた子供達にとって救いであった。
ジャック・ザ・リッパーは堕ろされた胎児達の魂の集合体として産まれた悪霊のような存在。怨霊の集合体となってロンドンの闇をさまよう亡霊。
誰かから産まれたい。そう願ったはずの子供達の頬には流れるはずのない涙が溢れた。
「わ…わたしたち……ありがとうって言われちゃいけな…」
抱きしめる腕に力が入り、少し痛いと思えるほどだった。しかし子供達はそれでいいと思った。
その痛みは何故か幸福に思えた。傷つけられる痛みではなく優しさが溢れ出した痛みだと理解できたからだ。
「ありがとう……ありがとう…俺は……君たちが生まれたことが……とても…嬉しい」
暗い夜のロンドン。酸の霧が彼らを包み込み誰もその光景を見てはいないとしても、そこには1人のヒーローと子供達がいた。
例えヒーローが偽物だとしても子供が倒すべき悪だとしても関係は無い。偽物のヒーローなら助けたい人を選んでもいい。それが何人も殺した殺人鬼だとしてもだ。
「……あ……ありが……とう……」
子供達は感謝の言葉を告げると笑顔で霧のように霧散した。同時に腹部に刺さったナイフも消えて体の中から血が失われていく。
スパイダーマンにはもう動けるほどの体力が無い。治療を行う手段も持っていない。このまま死を待ち続けることしかできなくなった。
「ジャック・ザ・リッパーの正体を知っていたのね」
「……よく……知らないさ……全部推測と勘だよ……それで君は?」
「30年前に助けてもらったことがあるのだけど……覚えていないかしら?」
「……すまない」
「……傷を治すからじっとしていて」
得意じゃないけど少しくらいならという言葉を付け加えてスパイダーマンの腹部に手を近づける。
温泉に浸かった時のような暖かさが腹部へと伝わる。ナイフで斬られた傷が治っていく。しかし内臓にできた傷が治ることはなく、苦痛は続いていた。
「とりあえずの恩返しはできたかしら?」
「……ありがとう…」
「そういえばさっき代行者に使った魔術って……」
「使わない方がいい……理解したらダメな物だ…」
「そう、やっぱり」
スパイダーマンは見ず知らずの少女と少し会話をするとキラキラと粒子のように消えていった。
死んだわけではない。いつものように別の世界か別の時代に行ってしまっただけだ。
少女は霧が消えて月明かりが見えたロンドンの真ん中で1人呟いた。
「彼はとっても
「やっぱり彼は面白いな!切り裂きジャックの正体を知った時の顔は最高だ。彼で1500年ぐらい遊んでいるのに飽きないや。人の姿になってシャーロック・ホームズを巻き込みに行った私グッジョブ!!
あの精神性がいい、人を助けるのに躊躇がないくせに正義の味方を志すわけでもない。英雄になりたいのに人類から認められたいわけでもない。
あの夢魔に褒められたいだけであそこまで頑張れる人間って他にいるのかな?
わざわざアトラク=ナクアの子供を借りてきて(勝手に)良かった。
次はどうしようかな〜肉体的にも精神的にもボロボロだし一度回復を入れてあげよう。
だとすると聖杯戦争にでも参加させるか!サーヴァントとマスターは運命の出会いだからね。サーヴァント選びは介入しないでおこうか。」
「君の英雄譚はまだまだ終わらせないよ。ピーター君」
文字化けはコピー&ペーストしたら読めるよ。
わかる人にはわかるあの人です。
もっとヒントを言うならホームズに依頼に来た少女の名前である
『レジーナ・レッド』イタリア語と英語で書かれているから日本語に直すとわかります。